
約半年ぶりに鳥海山の麓にある鶴間池を訪れた。きのう、ここに写真を撮りにきた男性が、帰る道を見失い、遭難騒ぎとなり、ヘリコプターの救助を受けたことが報道された。その遭難の跡は全く分からない状態であったが、登山道に目印の赤いテープがこれでもかとばかりにつけられてあるので、池まで迷いなく着いた。駐車スペースから、一時間ほどで池に着く。昨年は秋で、あたりは紅葉が始まっていたが、今は初夏の緑が眩しいほど美しい。エゾハルセミの鳴き声が耳に痛いほどであるが、我々のグループ以外に山中に人はいない。

池の向こうに目をやると、鳥海山の残雪から流れ出す滝が緑の山肌を切り裂くように落ちているのが見えた。「飛流直下三千尺」と滝を詠んだのは、唐の詩人李白であるが、滝が空から落ちてくるのはこんな光景であろう。その先の鳥海山は雲の中に隠れているが、その積雪は滝となり、沢を流れる川となり、この鶴間池へと流れ込む。

鶴間池の標高は800mほどである。ブナの美林が池を囲んでいる。この季節のブナの緑はことのほか美しい。葉の木漏れ日を写真に撮ってみる。沢を流れる水の音とエゾハルゼミの鳴き声、そしてブナの葉の緑。どの現象も、この場に足を踏み入れた者にしか体感できないものばかりである。登山道の近くの駐車スペースに車を停めて椅子を持ち出してあたりを観察している人がいた。聞けばイヌワシの生態を観察している人である。自然の営みを、そのなかに身を置いて見続ける頼もしい人だ。週末にだけ訪れる街の住民にとっては、ただその活動をやり遂げることを祈るばかりである。

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