
山形にはまだ知らなかった絶景がたくさんある。戸沢村にある浄の滝。人が足を踏み入れるのをためらうような山深いところで見る滝の景色に、思わず息を呑む。
山中にある道は、路肩が切れ落ちて、雪や大雨で土砂の崩落が起き、通行止めになることが多い。浄の滝へ行く道も例外ではない。ところどころで崩落した箇所の補修工事が行われている。だが、この道は集落が終わり、今は営業していない今神温泉への林道は、山菜採りにいく軽トラックにたまに行き会うくらいで、ほとんど車の走行もない。例え工事が完了したとしても、どれだけの人がその恩恵をうけるのであろうか。そんなことが心配になる。
だが人跡のまれな地には、手付かずの自然が残されている。耳に痛いほどの春蝉の鳴き声や郭公ののどかな鳴き声を聞きながら、山中の登山道を歩く。ここは、かつて月山への登山道でもあったらしい。

登山道の途中に、ぽつんと置かれたような大石がある。朝方雨が残ったようだが、雨に降られることもなく、空は次第に晴れ上がり、夏を思わせる日差しが木々の間にさし込んでくる。数日来の雨に濡れた新緑は、かがやくように美しい。
その先に、別ルートの林道の終点があり、トイレが建っている。ここから浄の滝へ30分との表示があり、散策路の表示もあるので一同はほっとする。大きなダムサイトを過ぎたあたりから、歩道に雪が残っている。斜面をトラバースするように作られた細道はとても散策路とは思えない道だ。濡れた土で足を滑らせると2、30メートル下へ滑落するするような道である。3点支持でどうにか難所を過ぎると、目的の浄の滝が見えてきた。屏風のような切立った山肌から飛び出してくるように滝の姿は、神秘的である。悪路を難儀して辿りついた滝見の場所からカメラのシャッターを押した。歩行8キロ、歩行時間4時間30分。山形の自然の奥行きの深さにあらためて気付かされた一日であった。
