
歳時記を開くと、桜桃が柄に数個実がついているのは、うまいというよりまず美しい、と書いてある。その赤く艶やかな色は確かに美しい。食べても少し酸味があって甘い実は、うまいし、日本人の好みに合うようだ。この実は、宝石とも呼ばれ、山形県の特産になっている。サクランボは気温が高いところでは栽培されないが、戦後は東北、北海道で広く栽培されていた。
なぜ、山形が生産の中心になったのか。山形にきたばかりのころ、山形県人に聞いたことがある。「県民性なんだよ。」という答えが返ってきた。戦後経済が成長期に入ると、手間ばかりかかり、足の速い生食のサクランボは次第に生産を中止する農家が増えていった。そんななか、がまんづよい県民性が、サクランボの生産を続けた。摘果することで実を大きくし、葉を摘むことでどの実にも陽があたるようする。市場に並ぶまでには、想像を絶する手数がかけられている。
均整に桜桃ならぶ心安からず 石田 波郷
ことしも、サクランボの木の実が赤く熟れはじめた。実がおいしくなるには、雨と太陽の秒妙なバランスが必要である。長雨では甘みが乏しくなるし、日照りが続けば実が大きくならないという不安もある。天気の神様はよくしたもので、毎年、この地方に美味しい恵みを作り続けている。今年もそうなるに違いない。

日記・雑談 ブログランキングへ