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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0441「食欲に勝るもの」

2019-01-20 19:04:52 | ブログ短編

 いつものレストランで、女友だち三人が食事(しょくじ)をしていた。いつもなら和気(わき)あいあいと女子会で盛(も)り上がっているはずなのに、どうも今日は様子(ようす)が違(ちが)うようだ。
「ねえ、どうしたの?」睦美(むつみ)は好子(よしこ)に訊(き)いた。「あなたの大好物(だいこうぶつ)じゃない」
 朋香(ともか)も心配(しんぱい)して、「そうよ。いつもみたいに、これ美味(おい)しいって…」
 好子は浮(う)かない顔で、「何かね、食欲(しょくよく)がなくて。ちっとも美味しいって思えないの」
 睦美と朋香は顔を見合わせた。好子の口から食欲が無いなんて言葉が飛び出すなんて。
 朋香は好子の額(ひたい)に手を置いて、「どこか身体(からだ)の具合(ぐあい)でも悪(わる)いの? 病院(びょういん)行った方が…」
「どこも悪くないわ」好子はため息(いき)をついて、「何かね、胸(むね)のあたりがキュンとして」
 睦美はハッとして朋香に囁(ささや)いた。「まさか、恋(こい)をしちゃったとか」
 朋香は目を丸(まる)くして、「うそ。食べ物しか興味(きょうみ)がない好子が? あり得(え)ないよ」
 好子は口をとがらせて、「あたしだって、男性に興味ぐらいあるわよ」
 二人は好子にやつぎばや質問(しつもん)を浴(あ)びせた。「どこの誰(だれ)よ? あたしたちの知ってる人?」
「誰だか知らないわよ。仕事(しごと)の帰りに、たまたま駅(えき)の所で…。ちょっと話して…」
 睦美はちょっと怒(おこ)った顔で、「もう、何やってんのよ。明日、仕事終わりに駅に集合(しゅうごう)ね」
 朋香が驚(おどろ)いた声で訊(き)き返した。「えっ、何で? あたし、ちょっと明日は…」
「好子がどんな男に惚(ほ)れたのか確(たし)かめなきゃ。明日から、駅で張(は)り込みするわよ!」
<つぶやき>食欲に勝(まさ)る男がいるなんて。これは確かめる価値(かち)があるのかもしれませんね。
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0440「しずく3~浮遊感」

2019-01-19 18:51:11 | ブログ連載~しずく

 しずくは四人家族(かぞく)。サラリーマンの父と専業(せんぎょう)主婦の母、それと生意気(なまいき)な中学生の弟(おとうと)がいる。全員(ぜんいん)そろっての夕食が、いつの間にか家族のルールになっていた。しずくは夕食の後片(あとかた)づけを手伝(てつだ)ってから、お風呂場(ふろば)を覗(のぞ)いてみた。ちょうど弟が出て来たところで、弟は慌(あわ)ててタオルで隠(かく)して、
「勝手(かって)にのぞくなよ! まだ入ってるだろ」
 しずくは平気(へいき)な顔で、「あんたの裸(はだか)なんか見飽(みあ)きてるわ。早く出て。私が入るんだから」
 弟が居間(いま)に戻(もど)ったとき、仕返(しかえ)しのようにしずくの背中(せなか)を思いっきり叩(たた)いて言った。
「バトンタッチ! ゆっくり入って来れば」
 しずくは思わずのけぞった。背中がずきずきと痛(いた)んだ。しずくは顔をしかめて、
「もう、なにすんのよ。覚(おぼ)えてなさい」
 しずくはゆっくりと湯船(ゆぶね)につかった。背中がひりひりする。きっと、擦(す)り傷になっているんだわ。――しずくは今日の出来事(できごと)を思い返(かえ)してみた。あの時、どうして塀(へい)の所にいたんだろう。だって、私はうずくまってて動けなかったはずなのに。
 その時、一瞬(いっしゅん)、意識(いしき)が遠(とお)のいた。すると、あの時の感覚(かんかく)が甦(よみが)ってきた。
「そうだわ。あの時、何だか身体(からだ)が軽(かる)くなったような…。宙(ちゅう)に浮(う)いてるような感じだった。それに、周(まわ)りがすごくゆっくり動いていたような……。何なの、これ――」
<つぶやき>いくら気持ちよくても、お風呂場では寝(ね)ないで下さい。とっても危険(きけん)です。
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0439「せつなの恋」

2019-01-18 18:35:51 | ブログ短編

 郁美(いくみ)は友達に誘(さそ)われて、喫茶店(きっさてん)でおしゃべりをしていた。せっかくの休みなのに、彼女には一緒(いっしょ)にいてくれる人がいないのだ。いつもなら部屋に閉(と)じこもってしまうのだが…。
 友達のたわいないおしゃべりに相(あい)づちを打っていた郁美だが、ふと、少し離(はな)れたところに座(すわ)っている男性が、こっちを見つめているのに気がついた。彼女はキュンとなった。まだ若くてかなりのイケメン。郁美は一瞬(いっしゅん)で恋に落ちた。
 郁美はチラチラと彼を盗(ぬす)み見ていたが、彼はずっと彼女の方を見つめている。しばらくすると、彼が突然(とつぜん)立ち上がった。そして、一歩、また一歩と郁美の座っているテーブルの方へ歩いてくる。郁美は胸(むね)の鼓動(こどう)が高まるのを感じた。まさか、これは、ひょっとして…。
 男性は彼女たちのテーブルの前で足を止めると、「先輩(せんぱい)、お久しぶりです」
 すると郁美の友達が彼の方を見て、「やだ、こんなとこで会えるなんて。元気(げんき)だった?」
 どうやら二人は知り合いのようで、これはラッキーかもしれない。郁美はそう思いながら、彼の顔をうっとりとした目で見つめていた。彼は言った。
「実(じつ)は、彼女と待ち合わせをしてて。どこかで見た顔だと思ったら…」
 ――彼はしばらく話をして、自分の席(せき)へ戻って行った。郁美はガッカリした顔で彼の後ろ姿(すがた)を目で追いかけた。それを見ていた友達が最後(さいご)のとどめを刺(さ)す。「残念(ざんねん)だったね。秒殺(びょうさつ)で振られちゃうなんて」
 郁美は動揺(どうよう)を隠(かく)しきれずに、「そんなんじゃないわよ。あたしは、別にそういうんじゃ…」
<つぶやき>良いなって思う人は、たいてい売約済(ばいやくず)みなのです。でも、あきらめないで…。
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0438「愛人の愛し方」

2019-01-17 19:06:08 | ブログ短編

 彼女は既婚(きこん)の男性と恋に落ちた。それは偶然(ぐうぜん)から始まったことだが、彼女は後悔(こうかい)などしていない。完全(かんぜん)に割(わ)り切った関係(かんけい)だった。だから、その彼から好きだと言われても、ずっと一緒(いっしょ)にいたいとささやかれても、彼女は本気(ほんき)にはならなかった。
 別に、彼と結婚(けっこん)したいと思ったこともないし、そうなるとも思えなかった。たまに会って、楽しい時間を過(す)ごせればそれでいい。彼の家庭(かてい)を壊(こわ)すつもりなんて…。
 でも、彼女も普通(ふつう)の女である。心のどこかで、彼を自分だけのものにしたいと願ってしまう。それで彼の服(ふく)に香水(こうすい)の匂(にお)いを移(うつ)してみたり、奥(おく)さんに女の存在(そんざい)をにおわせたこともある。だが、鈍感(どんかん)なのか自意識過剰(じいしきかじょう)なのか、奥さんはまったく気づいた素振(そぶ)りも見せない。きっと妻(つま)とうい立場(たちば)に安心(あんしん)しきっているのだ。
 彼女は腹立(はらだ)たしかった。少しだけ自分より先に彼に出会っただけなのに…。妻という座(ざ)にあぐらをかいている。彼女は、見たこともない奥さんに嫉妬(しっと)の感情(かんじょう)がわいてきた。それで、彼女はいけないと思いながらも、愛の泥沼(どろぬま)へ足を踏(ふ)み入れようと――。
 そんな時だ。彼女に転機(てんき)が訪(おとず)れた。彼の奥さんが離婚(りこん)を決断(けつだん)したのだ。彼からその話を聞いたとき、彼女の熱(ねつ)も一気(いっき)に冷(さ)めてしまった。
「あたし、何でこの人を好きになったんだろう? どう見ても、良い男じゃないわ」
<つぶやき>男と女の関係は、いろんな糸が絡(から)みあってしまうものなのかもしれません。
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0437「不老長寿」

2019-01-16 18:31:47 | ブログ短編

 彼と一緒(いっしょ)に海釣(うみづ)りに出かけた。私はまだ初心者(しょしんしゃ)なのだが、彼の影響(えいきょう)で釣(つ)りが楽しくなりはじめていた。でも彼のこだわりがすごくて、うっとうしいくらい。私はいちいち指図(さしず)されるのが嫌(いや)で別の場所で釣りをすることにした。さすがに彼も心配(しんぱい)したみたいで、怒(おこ)って離(はな)れていく私に叫(さけ)んだ。
「岩場(いわば)は危(あぶ)ないから、あんまり遠(とお)くまで行くなよ! おい、聞いてんのか!」
 私に彼の忠告(ちゅうこく)を聞く余裕(よゆう)などなかった。どのくらい歩いただろう、とても景色(けしき)のいい場所に出た。ここなら、きっと大物(おおもの)が釣れるかも。私は何だか嬉(うれ)しくなった。近づいて行くと、岩場の陰(かげ)に人の姿(すがた)を見つけた。いかにも名人(めいじん)という感じのおじいさんで、真剣(しんけん)な表情(ひょうじょう)で釣り糸(いと)の先を見つめていた。私は恐(おそ)る恐る近づいて声をかけた。でも、おじいさんは気さくに答えてくれて、隣(となり)で釣りをしてもいいと言ってくれた。私はさっそく釣りを始めた。
 しばらくして、おじいさんの竿(さお)が大きく揺(ゆ)れた。そして、いとも簡単(かんたん)に大物を釣り上げてしまった。でも、おじいさんは魚から釣り針を外(はず)すと、そのまま海へ魚を投げ入れた。
 私は驚(おどろ)いて、「どうして逃(に)がしちゃうんですか? もったいないですよ」
 おじいさんはまた釣り糸を海に垂(た)らすと、「わしが狙(ねら)ってるのは人魚(にんぎょ)なんじゃよ」
「人魚?」私は自分の耳を疑(うたが)った。だって、人魚なんておとぎ話の――。
 おじいさんはにっこり微笑(ほほえ)むと、「人魚の肉(にく)を食うとな、不老長寿(ふろうちょうじゅ)になると言われてるんじゃ。わしは、もうここで百年ほど、こうして毎日釣りをしとるんじゃ」
<つぶやき>このおじいさんは人魚を食べたのでしょうか? それとも、海の妖怪(ようかい)なの!
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