みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0424「すみれの恋2」

2019-01-03 18:39:51 | ブログ短編

 それは突然(とつぜん)の出来事(できごと)だった。僕(ぼく)が配達(はいたつ)から帰ってくると、店(みせ)の電話が鳴(な)り出した。僕は受話器(じゅわき)を取って、「毎度(まいど)ありがとうございます。山中(やまなか)酒店です」
 電話の向こうで誰(だれ)かのすすり泣(な)く声が聞こえた。そして、男性の声で、
「あの、そちらに健太(けんた)さんという方が…」
「僕ですけど…。あの、どちら様でしょうか?」
 ――それは、すみれのおじいさんからの電話だった。彼女が、ついさっき息(いき)を引き取ったと。僕は、何のことかまったく理解(りかい)できなかった。だって、昨夜(ゆうべ)、会って、おしゃべりして、元気(げんき)だったじゃないか。僕は店を飛(と)び出すと、病院(びょういん)まで車を走らせた。
 すみれは、病院のベッドで静(しず)かに横たわっていた。僕は、そこで彼女の病気(びょうき)のことを聞かされた。余命(よめい)半年――。彼女は、残(のこ)りの時間をベッドの中ではなく、なつかしい故郷(ふるさと)で過(す)ごすことを選(えら)んだ。たとえ、寿命(じゅみょう)が短くなっても…。
 何で話してくれなかったんだ。僕は叫(さけ)びたくなる気持ちをグッとこらえた。
「これを…」おばあさんが僕に手紙(てがみ)を差(さ)し出して、「すみれが、あなたに渡(わた)してと。あの娘(こ)、あなたのことばかり話してました。よほど楽(たの)しかったんでしょうね」
 僕は震(ふる)える手で手紙を受け取った。手紙には、たくさんの〈ごめん〉が書かれていた。そして最後(さいご)に、〈ありがとう。あなたに会えてよかった〉と…。僕は、涙(なみだ)があふれてきた。
<つぶやき>例(たと)え短い時間でも、彼女は最後の最後まで精一杯(せいいっぱい)生きたんじゃないのかな。
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