ある日のこと、天上(てんじょう)の高天原(たかまがはら)からひとりの神様(かみさま)が地上へ降(お)り立たれた。その神様は人間の世界をつぶさに見てまわられ、悲しげに呟(つぶや)かれた。
「この世界には、貴(とおと)いものは何ひとつない。身勝手(みがって)な人間たちであふれ、地上は汚(けが)れたものになった。世界の秩序(ちつじょ)は乱(みだ)れ、もはや愛は消え失(う)せた」
神様は手にした杖(つえ)を天上に振り上げて言われた。
「この地上を混沌(こんとん)に戻(もど)し、もう一度、世界を作り直そう」
神様の足元(あしもと)から一陣(いちじん)の風が吹(ふ)き上がった。その風は天空(てんくう)の雲(くも)を集め、大きな渦(うず)となり空を黒く覆(おお)いつくした。風はますます強くなり、回りのものを吹き飛ばしていく。地面(じめん)も大きく揺(ゆ)れ、地割(じわ)れが四方八方(しほうはっぽう)に広がっていった。
人間たちは叫(さけ)び声を上げて逃(に)げ回った。ある者は風に巻(ま)き上げられて空(そら)に飛ばされ、またある者は地上の割(わ)れ目の中へ呑(の)み込まれていく。まさに終末(しゅうまつ)の始まりである。
その時、どこからともなく一人の女の子がやって来た。女の子は神様の足元(あしもと)を指差(ゆびさ)して言った。「やめて。お花さんがかわいそうだよ」
神様は、足元に小さな花が咲(さ)いているのに気づかれた。花は風に揺(ゆ)れ、今にも花びらを散(ち)らそうとしている。女の子はしゃがみ込み、小さな手で花をおおった。それを見た神様は、手を下ろされた。女の子の目の奥(おく)に、小さな愛を見つけられたのだ。風は止(や)み、雲の間から神々(こうごう)しい光りが地上へ降(ふ)りそそいだ。
<つぶやき>もし神様が現れたら、この世界を見てどう思われるのでしょう。心配(しんぱい)です。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。