しずくは17歳(さい)の高校生。誰(だれ)からも好かれている人気者(にんきもの)だ。でも、心の中では冷(つめ)めたものがあり、どこかで自分(じぶん)は他の人とは違(ちが)うと感じていた。
彼女は子供の頃(ころ)に不思議(ふしぎ)な体験(たいけん)がある。それは夢(ゆめ)だったのかもしれないが、眩(まぶ)しいくらいの火の玉(たま)に包まれた記憶(きおく)が残(のこ)っていた。でも恐(こわ)かったとかそんなのは全然(ぜんぜん)なく、暖(あたた)かくて、母親に抱(だ)きしめられているような感覚(かんかく)。何の不安(ふあん)もなく、自然(しぜん)に身体(からだ)の力が抜(ぬ)けていった。
なぜこんな記憶があるのか、彼女にはまったく分からない。でも、ときどき頭の中に浮(う)かんできて、そのたびに身体中が火照(ほて)ってしまうのだ。
学校からの帰り道、友達と別れてから彼女は自宅(じたく)までヘッドホンで音楽を聴(き)きながら歩いていた。その時、小さな子供が車道(しゃどう)へちょこちょこと出て行くのが見えた。そばでは、数人の主婦(しゅふ)が立ち話をしている。彼女は何気(なにげ)なく後を振(ふ)り返った。すると、大きなトラックがこっちに向かって来るのが見えた。彼女は、とっさに車道へ飛(と)び出した。そして、子供を抱きかかえる。だが、目の前にはトラックが迫(せま)っていた。もう間に合わない。しずくは子供をかばうように抱きしめて、その場にうずくまった。
それは、一瞬(いっしゅん)の出来事(できごと)だった。トラックのタイヤが軋(きし)む大きな音が響(ひび)いた。主婦たちが驚(おどろ)いて振り向く。だが、そこにはしずくと子供の姿(すがた)はなかった。
<つぶやき>二人はどうなったの? 小さな子供は目を離(はな)さないように気をつけようね。
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