しずくは四人家族(かぞく)。サラリーマンの父と専業(せんぎょう)主婦の母、それと生意気(なまいき)な中学生の弟(おとうと)がいる。全員(ぜんいん)そろっての夕食が、いつの間にか家族のルールになっていた。しずくは夕食の後片(あとかた)づけを手伝(てつだ)ってから、お風呂場(ふろば)を覗(のぞ)いてみた。ちょうど弟が出て来たところで、弟は慌(あわ)ててタオルで隠(かく)して、
「勝手(かって)にのぞくなよ! まだ入ってるだろ」
しずくは平気(へいき)な顔で、「あんたの裸(はだか)なんか見飽(みあ)きてるわ。早く出て。私が入るんだから」
弟が居間(いま)に戻(もど)ったとき、仕返(しかえ)しのようにしずくの背中(せなか)を思いっきり叩(たた)いて言った。
「バトンタッチ! ゆっくり入って来れば」
しずくは思わずのけぞった。背中がずきずきと痛(いた)んだ。しずくは顔をしかめて、
「もう、なにすんのよ。覚(おぼ)えてなさい」
しずくはゆっくりと湯船(ゆぶね)につかった。背中がひりひりする。きっと、擦(す)り傷になっているんだわ。――しずくは今日の出来事(できごと)を思い返(かえ)してみた。あの時、どうして塀(へい)の所にいたんだろう。だって、私はうずくまってて動けなかったはずなのに。
その時、一瞬(いっしゅん)、意識(いしき)が遠(とお)のいた。すると、あの時の感覚(かんかく)が甦(よみが)ってきた。
「そうだわ。あの時、何だか身体(からだ)が軽(かる)くなったような…。宙(ちゅう)に浮(う)いてるような感じだった。それに、周(まわ)りがすごくゆっくり動いていたような……。何なの、これ――」
<つぶやき>いくら気持ちよくても、お風呂場では寝(ね)ないで下さい。とっても危険(きけん)です。
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