とあるお見合(みあ)いパーティーに誘(さそ)われた好恵(よしえ)。会場(かいじょう)に入って驚(おどろ)いた。こんなに大勢(おおぜい)の人が参加(さんか)しているとは思ってもいなかった。好恵は圧倒(あっとう)されるばかりだ。ふと気づくと、好恵を誘った貴子(たかこ)がいつの間にか消えていた。好恵は心細(こころぼそ)くなって貴子を探(さが)し回った。
しばらくして、好恵は妙(みょう)な行動(こうどう)をしている貴子を見つけた。彼女は男性に近づいては、鼻(はな)を近づけてクンクンと臭(にお)いを嗅(か)いでいるようだ。好恵は貴子の腕(うで)をつかむと、会場の隅(すみ)の方へ引っぱってきて言った。
「何やってるのよ。そんな恥(は)ずかしいことしないで。みんな変な目で見てるじゃない」
「何よ、邪魔(じゃま)しないで。あたしは科学的(かがくてき)な見地(けんち)で最良(さいりょう)の男を見つけようとしてるだけよ」
「何が最良よ。どう見たって、おかしな女にしか見えないわ」
「あなた、本当(ほんと)に分かってないわね。異性(いせい)の臭いってとっても大切(たいせつ)なのよ。遺伝的(いでんてき)に見ても証明(しょうめい)されてるわ。あたしは人間の奥底(おくそこ)に潜(ひそ)む本能(ほんのう)をとぎすましてるの」
貴子は理系(りけい)女子の典型(てんけい)である。妙(みょう)に理屈(りくつ)っぽいところはちっとも変わらない。
「あなたも試(ため)してみたら」貴子は好恵の耳元(みみもと)でささやいた。「うっとりするような体臭(たいしゅう)の男を見つけたら、それが遺伝的に最も遠(とお)い人よ。元気(げんき)な子供を授(さず)かることができるはず」
「あのね、遺伝的に遠くても幸せになれるとは限(かぎ)らないでしょ。ちゃんと人を見なさいよ」
<つぶやき>幸せって何でしょう。どうしたら幸せになれるのか…。これは難問(なんもん)かもね。
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