郁美(いくみ)は友達に誘(さそ)われて、喫茶店(きっさてん)でおしゃべりをしていた。せっかくの休みなのに、彼女には一緒(いっしょ)にいてくれる人がいないのだ。いつもなら部屋に閉(と)じこもってしまうのだが…。
友達のたわいないおしゃべりに相(あい)づちを打っていた郁美だが、ふと、少し離(はな)れたところに座(すわ)っている男性が、こっちを見つめているのに気がついた。彼女はキュンとなった。まだ若くてかなりのイケメン。郁美は一瞬(いっしゅん)で恋に落ちた。
郁美はチラチラと彼を盗(ぬす)み見ていたが、彼はずっと彼女の方を見つめている。しばらくすると、彼が突然(とつぜん)立ち上がった。そして、一歩、また一歩と郁美の座っているテーブルの方へ歩いてくる。郁美は胸(むね)の鼓動(こどう)が高まるのを感じた。まさか、これは、ひょっとして…。
男性は彼女たちのテーブルの前で足を止めると、「先輩(せんぱい)、お久しぶりです」
すると郁美の友達が彼の方を見て、「やだ、こんなとこで会えるなんて。元気(げんき)だった?」
どうやら二人は知り合いのようで、これはラッキーかもしれない。郁美はそう思いながら、彼の顔をうっとりとした目で見つめていた。彼は言った。
「実(じつ)は、彼女と待ち合わせをしてて。どこかで見た顔だと思ったら…」
――彼はしばらく話をして、自分の席(せき)へ戻って行った。郁美はガッカリした顔で彼の後ろ姿(すがた)を目で追いかけた。それを見ていた友達が最後(さいご)のとどめを刺(さ)す。「残念(ざんねん)だったね。秒殺(びょうさつ)で振られちゃうなんて」
郁美は動揺(どうよう)を隠(かく)しきれずに、「そんなんじゃないわよ。あたしは、別にそういうんじゃ…」
<つぶやき>良いなって思う人は、たいてい売約済(ばいやくず)みなのです。でも、あきらめないで…。
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