私は木漏(こも)れ日のなか、公園(こうえん)のベンチでうたた寝(ね)をしていた。ふと気がつくと、近くのベンチに若(わか)い女性が座(すわ)っている。いつからそこにいたのだろう。誰(だれ)かを待(ま)っているのか…、彼女は動こうとはしなかった。
――それからどのくらいたっただろう。そろそろ行こうかと起(お)き上がると、まだそこに彼女はいた。待ち人は、まだ来てないのか? 辺(あた)りを見回してみたが、それらしい人影(ひとかげ)はまったくなかった。私は気になって、しばらく様子(ようす)をうかがうことにした。
そろそろ日も傾(かたむ)きかけた頃(ころ)、彼女は大きなため息(いき)をついた。彼女の表情(ひょうじょう)から、寂(さび)しいのを我慢(がまん)しているのが分かった。そして、彼女の目からすーっと涙(なみだ)がこぼれ出た。
まったく、誰なんだ。こんな可愛(かわい)い子を泣かせる奴(やつ)は。私は、放(ほ)っておけなくなって、彼女に駆(か)け寄(よ)った。そしてベンチへ飛(と)び乗(の)ると、彼女の身体(からだ)にすり寄った。
彼女は突然(とつぜん)のことで驚(おどろ)いた様子だったが、私と目が合うとかすかに笑(え)みを浮(う)かべた。私は、飛びっきりの甘(あま)~い声でささやいた。ゴロニャ~ン。彼女は、間違(まちが)いなく微笑(ほほえ)んで、私の頭を優(やさ)しくなでてくれた。この日から、私は彼女と暮(く)らすことにした。
二人の生活(せいかつ)は、瞬(またた)く間に過ぎていった。どうやら、彼女も新しい恋を見つけたようだ。そろそろ、私の役目(やくめ)も終(お)わりだな。私は、ふわふわのタオルの上でゆっくり目を閉じた。
<つぶやき>そっと寄りそってくれる、そんな誰かがいてくれる。幸せって何でしょう。
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