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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0107「紙もの収集家」

2017-11-24 18:47:49 | ブログ短編

 男がドアを開けると、そこには女が立っていた。手には地図(ちず)を握(にぎ)りしめている。
「来ちゃった」女はちょっと恥(は)ずかしそうにうつむいて言った。
「えっ? あっ…、言ってくれれば迎(むか)えに行ったのに…」
 男は、女の突然(とつぜん)の訪問(ほうもん)に動揺(どうよう)を隠(かく)せなかった。男は散(ち)らかった部屋を手早(てばや)く片付(かたづ)けると、女を迎え入れた。テーブルをはさんで向かい合う二人。しばしの沈黙(ちんもく)の後、
「あの、お願いがあるんだけど…」女が口火(くちび)を切った。「これを、書いてほしいの」
 女がバッグから出したのは、婚姻届(こんいんとどけ)だった。男は一瞬(いっしゅん)かたまった。
「えっ? あの……。僕(ぼく)たち、付き合い始めて、まだ三カ月だよ」
「もう三カ月よ。そろそろ、いいんじゃないかな」女は平然(へいぜん)と言う。
「だって、だって…。僕、まだ、君のこと両親(りょうしん)に話してないし。君の家族(かぞく)にだって…」
「別に、いいわよ。そんなの後でも」
「それに、僕たちまだ…。何もしてないっていうか……」
「あたし、紙(かみ)を集めてるの。卒業証書(そつぎょうしょうしょ)や、いろんな賞状(しょうじょう)。あと、資格(しかく)の認定書(にんていしょ)とかね。だから、婚姻届もコレクションに加(くわ)えたくて」
「だからって……。でも、婚姻届は役所(やくしょ)に出すから、手元(てもと)には残(のこ)らないんじゃ」
「そっか。でも、コピーをとってもいいし…。もう一枚(まい)書いておくっていうのはどう?」
<つぶやき>彼女が次に欲しがるもの。それは、離婚届(りこんとどけ)かもしれません。気をつけて…。
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