「遅(おそ)かったじゃない」ありさは友達の良枝(よしえ)を迎(むか)え入れた。
「だって…」良枝は大きな荷物(にもつ)を運(はこ)び込み、「いろいろ準備(じゅんび)があって」
「準備って…。何を持って来たの?」
「大掃除(おおそうじ)に必要(ひつよう)なものよ。ほら、あなたのところ、何もないでしょ」
「あるわよ、それくらい」
良枝は部屋(へや)の中を見渡(みわた)して、「やっぱり思った通りね。どうしたらこんなに散(ち)らかるわけ」
「これは…。今、片付(かたづ)けてる途中(とちゅう)なの。これから、いろいろと…」
「ちゃんと順番(じゅんばん)を考(かんが)えてやらないから、こんなことになっちゃうのよ」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。もう、だいたい終(お)わってるから」ありさは部屋の中を指(ゆび)さして、「この辺(あた)りにあるのがいらないので、こっちにあるのがとっておくやつ。で、あとは…」
「ねえ、これ捨(す)てちゃうの? お気に入りだって言ってたじゃない」
良枝は段ボール箱に無造作(むぞうさ)に入れられていたカバンを取り出して言った。
「それは、彼からもらったのだからいいの。この間(あいだ)、別れたから…」
「えっ、別れちゃったの? 良(い)い人だったのに。そうか、それで大掃除ね…。でもね、ありさ。このカバン、まだ充分(じゅうぶん)使えるわ。捨てたりしたら、この子が可哀想(かわいそう)よ。これはとっておきましょ。それに、これなんかもまだまだ使えるわよ――」
良枝は、次々と再仕分(さいしわけ)けを始めた。その手際(てぎわ)のよさに、ありさは何も言えなくなった。
<つぶやき>残しておきたいものって、何を基準(きじゅん)に決めていますか。難(むずか)しい問題(もんだい)かもね。
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