「しかし、奇麗(きれい)な顔してますよねぇ。まるで、モデルのような…」
「オイ、惚(ほ)れるなよ」
「惚れるわけないじゃないですか。死体(したい)ですよ。そんな…」
二人の刑事(けいじ)は、ソファーの上に横たわっている女性に手を合わせた。現場(げんば)には侵入(しんにゅう)した跡(あと)も、あらそったような形跡(けいせき)もなかった。
「自殺(じさつ)ですかね?」若(わか)い刑事が言った。「美人(びじん)なのになぁ」
「何で自殺したんだよ。外傷(がいしょう)もないし、毒(どく)を飲(の)んだら何か残(のこ)ってるはずだろ」
先輩(せんぱい)の刑事は、部屋の中を見渡(みわた)した。鑑識(かんしき)が部屋の隅々(すみずみ)まで調(しら)べている。だが、これといって死亡(しぼう)につながる手掛(てが)かりはなさそうだ。
「あの、せ、先輩……」若い刑事が震(ふる)える声で叫(さけ)んだ。
「どうした? 何か見つけたのか」
「いえ、あの…。これ…、さっきと変わってませんか?」若い刑事は死体を指(ゆび)さした。
「なに言ってるんだ?」
「だから、彼女、さっきと違(ちが)うんです。この…、手の位置(いち)が、こう……」
「あのな」先輩はあきれた顔で、「死体が動いたなんて、聞いたことないぞ」
「そ、そうですよね」
若い刑事は、もう一度彼女を見た。その顔は、かすかに微笑(ほほえ)んでいるように見えた。
<つぶやき>死んでも、奇麗とか美人とか言われると嬉(うれ)しくなるのかも。女心(おんなごころ)なんです。
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