goo blog サービス終了のお知らせ 

みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0096「寿命の木」

2017-11-04 18:32:04 | ブログ短編

 深い森の中。一人の男が、もう幾日(いくにち)もさまよい歩いていた。男には、どうしても見つけなければならないものがあった。それは、寿命(じゅみょう)の木。その実(み)を食べると、どんな病(やまい)でもたちどころに治(なお)してしまうと言い伝えられていた。持って来た食料(しょくりょう)も尽(つ)き、男は疲労(ひろう)と空腹(くうふく)でもうろうとしていた。薄(うす)れる意識(いしき)の中、どこからか声が聞こえた。
「何しに来たの? ここは人間が来る場所(ばしょ)じゃないわ」
 男には、その声がどこから聞こえてくるのか分からなかった。また、声がした。
「早く戻(もど)りなさい。いまなら、まだ間(ま)にあうわ」
「誰(だれ)だ?」男はかすむ目をこすり、「この森に住む精霊(せいれい)なのか? だったら、教(おし)えて下さい。寿命の木はどこにありますか? 俺(おれ)は、その実を持って帰らないといけないんだ」
「その木なら、あなたの前にあるわ」
 男の目の前に、たしかにその木はあった。枝(えだ)には、実がひとつ生(な)っている。男は、その実を取ろうと手を伸(の)ばした。また声がした。
「その実を取ると、あなたの寿命が尽きてしまいますよ。それでもいいの?」
「かまいません」男はきっぱりと言った。「だいじな人の命が助かるなら、かまわない」
「なら、持ってお行きなさい。寿命が尽きるまで、その人とともに生きるがいい」
<つぶやき>もし男の決意(けつい)が揺(ゆ)らいだら、精霊は男の命を抜(ぬ)き取ったかもしれませんね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする