世(よ)の中には奇跡(きせき)といえるようなことが稀(まれ)に起きるものだ。彼の場合(ばあい)も、今まさにそれが起きようとしていた。彼の目の前には、彼の憧(あこが)れの…、初めて会ったときから好きになってしまった彼女がいた。その手には、手紙(てがみ)らしきものが握(にぎ)られている。
これは、まさか…。あのラブレターっていうやつか? この歳(とし)になるまで、といっても彼はまだ高校生(こうこうせい)なのだが…。その存在(そんざい)は知っていても、それを目(ま)の当たりにするなど夢(ゆめ)のまた夢。それも、めちゃ好きな娘(こ)から受け取ることができるなんて――。
彼女は、うつむきながらその手紙を彼に差(さ)し出した。彼は、頭の中が真っ白になって身体(からだ)が動かない。彼女は、ちょっと困(こま)った顔をして小声で言った。「これ、受け取って…」
彼はやっと我(われ)に返って、震(ふる)える手でその手紙を手に取った。だが、そこに書かれている文字を見て愕然(がくぜん)とした。〈挑戦状(ちょうせんじょう)〉??? なんじゃこりゃ!!
彼女はため息(いき)まじりに言った。
「頼(たの)まれたのよ、高梨(たかなし)君に。この間のゲームの決着(けっちゃく)をつけたいって」
高梨…。確(たし)かにこの間、完膚(かんぷ)なきまでに叩(たた)きのめしてやった相手(あいて)だ。だが、何で彼女が…。これはどういうことだ? 彼女と高梨は付き合っているのか? そんなバカな…。僕(ぼく)なんか、ちゃんと話しをしたこともないのに――。
彼はその真相(しんそう)を知りたかった。だが、その前に彼女は走り去(さ)ってしまった。
<つぶやき>これは、高梨君から聞くしかないでしょ。その勇気(ゆうき)があればの話しですが…。
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