彼女は何事(なにごと)もあらすじを考えてしまう女だった。プレゼンや交渉(こうしょう)ごとの前に、これからどういう展開(てんかい)になっていくのか頭の中で思い描(えが)くのだ。そして、どういうわけか、彼女が思った通りに事(こと)が運(はこ)び、仕事(しごと)では彼女は有能(ゆうのう)な社員(しゃいん)として認(みと)められていた。
しかし、恋(こい)に関しては、どうやら思い通りにならないようで――。
「ねえ、どうして? どうして、そうなるのかなぁ……」
テーブルを挟(はさ)んで、彼女は彼を問い詰(つ)めた。「こういう素敵(すてき)なレストランで食事(しょくじ)をして…。普通(ふつう)、考えるよね。私たち、今まで…、付き合って何年だっけ? そんなことどうでもいいんだけど、今までこんなとこで食事なんてしたことなかったじゃない。だから…、何かあるんじゃないかなって、考えちゃうわけよ。それって、私だけかな?」
彼は、何で怒(おこ)られているのか理解(りかい)できないようで、「ごめん、僕(ぼく)、変なこと――」
「へん? 変でしょ。ちゃんと考えてよ。普通(ふつう)、こういうシチュエーションだったら、やることはあれしかないでしょ。それなのに、何で違(ちが)う話にしちゃうわけ?」
彼は、ただただ首(くび)をかしげるだけだった。彼女は急に恥(は)ずかしくなったのか声を落として、「別に、私は、あせってるとか、そういうことじゃないからね。ただ、私は…」
彼は何を思ったのか肯(うなづ)くと、「分かったよ。また来よう。今度は、招待券(しょうたいけん)じゃなくて…」
「はぁ? 私、そういうこと言ってるんじゃないの。もう、知らない」
<つぶやき>自腹(じばら)じゃなかったんですね。次は、次こそは、あれをしてあげて下さいね。
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