放課後(ほうかご)のクラブ活動(かつどう)の時間。生徒(せいと)たちは、それぞれの練習(れんしゅう)に励(はげ)んでいる。剣道場(けんどうじょう)では先輩(せんぱい)たちの指導(しどう)で、後輩(こうはい)の生徒が素振(すぶ)りの稽古(けいこ)に汗(あせ)を流していた。そこへ、水木涼(みずきりょう)が面倒(めんど)くさそうに顔を出した。みんなは、涼が来たのに気づいて一瞬(いっしゅん)にして緊張(きんちょう)に包(つつ)まれた。
涼は道場を何気(なにげ)なく見回していたが、一人の人物に目を止めた。道場の隅(すみ)で、防具(ぼうぐ)と面(めん)をつけて竹刀(しない)を構(かま)えている。その立ち姿(すがた)で、涼はその人物の力量(りきりょう)を感じ取った。
涼はそばに来た後輩をつかまえて訊(き)いてみた。
「ねえ。あれって、だれ?」
後輩は直立(ちょくりつ)して答えた。「はい。たぶん、OG(オージー)の方だと思います。私たちが来たときには、もうああして練習されていました」
「へぇ、そうなんだ…。あんな先輩がいたなんて、知らなかったわ」
涼はすぐに防具を着けると、その先輩の前に進み出て礼(れい)をすると道場に響(ひび)く声で言った。
「私と、立ち合っていただけませんか? お願いします!」
みんなの目は釘付(くぎづ)けになった。涼から試合(しあい)を申し込むなんて初めてだったのだ。その先輩は礼を返して、道場の中央へ歩き出した。練習していた生徒たちは、ざわざわと隅の方へ行って場所を開ける。涼は身体が震(ふる)えるのを感じた。こんな手応(てごた)えのありそうな相手(あいて)とやれるなんて――。涼は逸(はや)る気持ちを抑(おさ)えて、ゆっくりと面をかぶった。
<つぶやき>何ごとにも上には上があるんですねぇ。目標(もくひょう)は高く持って…、がんばろうよ。
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