初めて参加(さんか)した企画検討会(きかくけんとうかい)。ここで認(みと)められれば、企画会議(きかくかいぎ)に持ち込まれることになる。何人もの若手(わかて)社員が企画を発表(はっぴょう)したが、先輩(せんぱい)からきつい駄目出(だめだ)しを受けて撃沈(げきちん)してしまった。そして、とうとう私に順番(じゅんばん)が回ってきた。私は震(ふる)える足で前に出た。
私が資料(しりょう)を見て発言(はつげん)しようとしたとき、先輩が声を上げた。
「悪(わる)いんだけど、もう時間がないから、その説明(せつめい)、早送(はやおく)りでしてくれない」
「は、早送りですか…?」私はあせってしまった。早送りって……。
私は、自分でも何を言っているのか分からないくらい、めちゃくちゃなことになってしまった。当然(とうぜん)のことだが、先輩からきついお言葉(ことば)が飛(と)んで来た。
その夜、私は検討会に参加した同僚(どうりょう)たちと、駅(えき)の近くの居酒屋(いざかや)にいた。反省会(はんせいかい)ならぬ発散会(はっさんかい)である。何日もかけて考えた企画なのに、先輩に瞬殺(しゅんさつ)されたのだ。アルコールの力を借(か)りて、胸(むね)の中にたまったものを吐(は)き出さないと――。
店の奥(おく)で誰(だれ)かが叫(さけ)んだ。何だか聞き覚えのある声…。ちらっと奥を見ると、そこにいたのはあの先輩だった。カウンターで一人で飲んでいる。店長(てんちょう)が料理(りょうり)を運んで来て言った。
「ごめんね、常連(じょうれん)さんなんだけど、今日は会社(かいしゃ)で何かあったのかなぁ。彼女もいろいろ大変みたいだから、かんべんしてやってよ」
私たちは顔を見合わせた。そして、誰から言うともなく「どうする?」ってことになった。先輩に声をかけるべきか…、それとも、このまま知らんぷりした方がいいのか――。
<つぶやき>ここは声をかけちゃいましょう。先輩とのコミュニケーションも大切(たいせつ)だよ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。