白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(287)シネマ歌舞伎「熊谷陣屋」

2018-01-05 14:16:14 | 映画
シネマ歌舞伎「熊谷陣屋」

今年の歌舞伎座の初芝居は高麗屋三代同時襲名披露公演だ
NHKの中継で「勧進帳」と「口上」を見た
勧進帳の弁慶は新幸四郎 ちょっと力強さが足りないがまあまあの出来
義経は新染五郎だ まだ12歳の凛々しさは新鮮だ
富樫には叔父さんの吉右衛門 さすがに貫禄だ


9代目幸四郎 現白鸚がアイドルだった染五郎時代に作詞作曲して出した「野バラ咲く道」はちょっとヒットした

 野ばら咲いてる 山道を 二人で歩いてた
 夏の太陽輝いて 二つの影うつしてた
 今はない君の面影 もとめ一人僕は行く
 野ばら咲いてる山道を ただ一人行く


時代ものの名人と言われた先代吉右衛門には跡継ぎがいなかった
一人娘の正子は男の子として育てられたが初潮を迎えた時「そんなことがあってたまるか」と怒りまくったという 
正子は8代目幸四郎に嫁ぐ際父に「男の子を二人産んで そのうちの一人に吉右衛門を継がせます」と約束したところ 果たしてその通り男子を二人授かった 長男が父方幸四郎を継いで9代目幸四郎に 次男が2代目吉右衛門を継いだ

今年の僕の初映画はシネマ歌舞伎「熊谷陣屋」だ
中継本編に入る前に吉右衛門の初代吉右衛門の演技についての「思い出」が流れる


  一の谷の軍(いくさ)破れ 討たれし平家の 公達あわれ
暁寒き 須磨の嵐に 聞こえしはこれか 青葉の笛
(文部省唱歌 「青葉の笛」大和田健樹作詞)

鵯(ひよどり)超えで有名な一の谷の合戦で海上に逃げようとした平敦盛は源氏の武士熊谷直実に呼び戻された 
敦盛を組み敷き首を刎ねようとした直実は自分の子供と同じような14歳の敦盛を逃そうとしたが敦盛は拒否し そのまま討たれた
その時腰に結わえていた笛「名笛小枝」を歌った歌詞だ

「平家物語」を題材にした「一谷嫩軍記(ふたばぐんき)」は並木宗輔の作で1751年人形浄瑠璃として初演され翌年歌舞伎になりました
全五段の物語で「熊谷陣屋」は三段目にあたります



1184年源平合戦のさ中 源氏の武将熊谷直実は平敦盛を討ち生田の森の陣屋に戻って来る 直実は息子を心配して武蔵国からやって来た妻相模と敦盛の母藤の方に敦盛討ち死にの様子を語り首の検分に備える やがて主君源義経が現れ 直実は首を差し出すが その首はなんと息子小太郎の首・・・直実は義経の命により敦盛を救うため同じ年恰好の息子小太郎を身替りにしたのである 直実は悲しみをこらえ驚き取り乱す相模と藤の方を制する 敦盛を救う務めを果たした直実は義経に暇を願い「16年はひと昔 夢だ夢だ」と涙ながらに我が子の短い人生を歎き 世の無常を悟って出家する

配役 熊谷次郎直実 中村吉右衛門
   相模     坂田藤十郎
   藤の方    中村魁春
   弥陀六    中村富十郎
   源義経    中村梅玉
   堤軍次    中村又十郎

(2010 4月歌舞伎座さよなら公演)

(2018年 1月4日 なんばパークスシネマにて)