林氏は冒頭、川井氏のことを「アマチュアの研究家である」と紹介した。
確かに川井氏は稚内水産試験場の職員という肩書きをもっているから、仕事の傍らニホンザリガニを研究しているという意味においてはアマチュアといえる。
ところがこの方が、ニホンザリガニに関してはとんでもない人のようなのである。
※ 今回のゲスト「ニホンザリガニの人」川井唯史氏です。
まずニホンザリガニを研究対象としてからの期間が長い!
興味を抱いたのが小学校の時ということだから、かれこれ40年近くザリガニを追っていることになる。
そして本気度が桁違いである!
シーボルトが日本で採取したニホンザリガニの標本を見るためにオランダの博物館まで出かけたり、天皇がザリガニのスープを食していたらしいと知ると、つてを頼って皇居を訪れてみたりと…。
話によると今やその世界ではトップランナーの一人らしい。
※ 川井氏が会場に持ち込んでくれた生きているニホンザリガニです。
そう考えると、川井氏がこれまで「アマチュア」であったことは、けっしてマイナス要因ではなく、純粋に一つのことを追い求めるためには幸いしたのではないかとさえ思えてくる。アマチュアであるがために、他の雑事に惑わされず一途にザリガニを追い求めることができたのではないかと…。
※ 真ん中が「ニホンザリガニ」、右が「アメリカザリガニ」、
左が「ウチダザリガニ」です。個体差が歴然としています。
一つだけ気懸かりなことがあった。
日本、特に北海度ではニホンザリガニと、アメリカザリガニ、ウチダザリガニが混在しているという。ウチダザリガニなどはニホンザリガニに比べると体長が3倍も大きくて、ニホンザリガニを駆逐していると時々ニュースで耳にする。
ところが川井氏はアメリカザリガニも、ウチダザリガニもその昔食用とするために日本に導入された経過もあり、その駆除には積極的になれないという。
川井氏によるとニホンザリガニは、アメリカザリガニの祖先にも相当し、ザリガニとしては最古の種でもあるらしい。
その貴重なニホンザリガニが駆逐されていくのを、なすがままにしておきたいと川井氏は言う。川井氏の葛藤のもっと深いところを聴きたいと思った。しかし、満座の中で質問する勇気が私にはなかった…。
※ 毎回ナビゲートしてくれた林心平氏です。
この対談シリーズ、私は1回だけスケジュールの都合で参加できなかったが、他は全て参加したが大変興味深かった。
それは単に研究者から話を聴くという形ではなく、研究者と私たちの間にナビゲーターとしての林氏の存在が大きかったと思っている。
ナビゲーター…。文字通り道先案内人として林氏は研究者から話を引き出し、聴いている私たちに専門的なことは噛み砕いて伝えてくれる。そのことで専門的なことも興味深く聴くことができた。
面白い講座の形だと思った。
講座を主催した環境プラザと林氏の中では、次なる展開を考えているという。
期待して次を待ちたいと思う。