THE VIEW FROM CASTLE ROCK
2006年 アリス・マンロー
作家本人の言葉を借りれば、この一冊に収められている作品は
祖先が残した記録をもとに創作した短篇小説ということになります。
物語を書く事を生業としている人の先祖が揃いも揃って記録を残す事が義務であると
感じていたとは、そして想像力をかき立てる内容の記録が残されているとは…
なんて幸せなことかしらね。
おかげで読者は素敵な一冊に巡り会うことができました。
この短篇集は三部構成になっています。
一部には17世紀まで遡る先祖のスコットランドでの逸話をはじめ
カナダに渡って来た先祖、ほとんど開拓者のいなかった土地を耕した先祖、
そして両親の物語が5篇描かれています。
二部では作者自身の子供時代、思春期、結婚前、離婚後、再婚後の六つのエピソードを
思い出深い人々を交えながら紹介しています。
三部には先祖の墓石を前にして、甦る懐かしい人の面影や幼い頃に暮らした家に
思いを寄せる『メッセンジャー(Messenger)』という作品が紹介されています。
いくつかのテーマから一篇の物語が書かれているのであらすじを紹介するのは難しいのですが
好きだったエピソードをざっと紹介します。
一部では『キャッスル・ロックからの眺め(The View From Castle Rock)』と
『モリス郡の原野(The Wilds of Morris Township)』の二篇が好きでした。
『キャッスル~』は、ずっとアメリカのことを唱え続けていた老いた父が
息子二人、娘一人、息子の嫁と孫息子を率いてアメリカ大陸を目指す船旅の間の記録です。
『モリス郡~』はカナダに渡ってから二代後の息子たちが家を出て
開拓地で生活を営むようになるまでの記録です。
どちらもフロンティア精神モリモリの熱血な話しではありませんが
アメリカ(カナダ)を目指し、根付いて、国を作って行く淡々とした日々が印象的でした。
二部からは『チケット(The Ticket)』と『家(Home)』の二篇です。
『チケット』は祖母と大叔母チャーリーおばさんの恋愛と結婚生活が描かれています。
広大な大地に、ぽつんぽつんと町や村があった時代の事情によるものか
祖母の結婚相手はもと恋人の従兄弟でした…というところから後日談に繋がってったり
チャーリーおばさん夫妻の “ 伝説の愛 ” が描かれていてロマンチックな一章です。
『家』は離婚後しばしば実家に帰るようになってからの、父親と新しい母イルマの逸話です。
長引く重苦しい病の末亡くなった母親の後にやってきたイルマの、屈託がなさそうに見えて
端々が意地悪な言葉に、読んでいる方がドキドキしてきてしまいます。
父親が倒れてしまった後の継母と継子の行動もなんだか裏腹な気がする一作です。
作家が前書きでわざわざ短篇小説だと力説しているあたり
もしかして壮大な創作なのかもしれないと考えましたが
やはり自分のルーツと過去を描いているようです。
ただ、その描き方はとてもフェアであるように思えます。
自分に降り掛かった不幸や理不尽な思いを表現する時も、他人の不埒な行いを記す時も
登場人物の一人が見つめる視線をキープしつつ書いているみたい。
自分の祖先を誇りたい気持ち、自分の主張を書きたい欲求などを満たすために
自伝や私小説などのジャンルが存在するものだと思っていましたが
そのような印象はまったく無くて、上出来な物語を読んだという感想しかありません。
本当に素敵な本だと思います。
名も無き人たちの歴史を訪ね歩く楽しみをどうぞ
読んでみたいな!という方は下の画像をクリックしてね
2006年 アリス・マンロー
作家本人の言葉を借りれば、この一冊に収められている作品は
祖先が残した記録をもとに創作した短篇小説ということになります。
物語を書く事を生業としている人の先祖が揃いも揃って記録を残す事が義務であると
感じていたとは、そして想像力をかき立てる内容の記録が残されているとは…
なんて幸せなことかしらね。
おかげで読者は素敵な一冊に巡り会うことができました。
この短篇集は三部構成になっています。
一部には17世紀まで遡る先祖のスコットランドでの逸話をはじめ
カナダに渡って来た先祖、ほとんど開拓者のいなかった土地を耕した先祖、
そして両親の物語が5篇描かれています。
二部では作者自身の子供時代、思春期、結婚前、離婚後、再婚後の六つのエピソードを
思い出深い人々を交えながら紹介しています。
三部には先祖の墓石を前にして、甦る懐かしい人の面影や幼い頃に暮らした家に
思いを寄せる『メッセンジャー(Messenger)』という作品が紹介されています。
いくつかのテーマから一篇の物語が書かれているのであらすじを紹介するのは難しいのですが
好きだったエピソードをざっと紹介します。
一部では『キャッスル・ロックからの眺め(The View From Castle Rock)』と
『モリス郡の原野(The Wilds of Morris Township)』の二篇が好きでした。
『キャッスル~』は、ずっとアメリカのことを唱え続けていた老いた父が
息子二人、娘一人、息子の嫁と孫息子を率いてアメリカ大陸を目指す船旅の間の記録です。
『モリス郡~』はカナダに渡ってから二代後の息子たちが家を出て
開拓地で生活を営むようになるまでの記録です。
どちらもフロンティア精神モリモリの熱血な話しではありませんが
アメリカ(カナダ)を目指し、根付いて、国を作って行く淡々とした日々が印象的でした。
二部からは『チケット(The Ticket)』と『家(Home)』の二篇です。
『チケット』は祖母と大叔母チャーリーおばさんの恋愛と結婚生活が描かれています。
広大な大地に、ぽつんぽつんと町や村があった時代の事情によるものか
祖母の結婚相手はもと恋人の従兄弟でした…というところから後日談に繋がってったり
チャーリーおばさん夫妻の “ 伝説の愛 ” が描かれていてロマンチックな一章です。
『家』は離婚後しばしば実家に帰るようになってからの、父親と新しい母イルマの逸話です。
長引く重苦しい病の末亡くなった母親の後にやってきたイルマの、屈託がなさそうに見えて
端々が意地悪な言葉に、読んでいる方がドキドキしてきてしまいます。
父親が倒れてしまった後の継母と継子の行動もなんだか裏腹な気がする一作です。
作家が前書きでわざわざ短篇小説だと力説しているあたり
もしかして壮大な創作なのかもしれないと考えましたが
やはり自分のルーツと過去を描いているようです。
ただ、その描き方はとてもフェアであるように思えます。
自分に降り掛かった不幸や理不尽な思いを表現する時も、他人の不埒な行いを記す時も
登場人物の一人が見つめる視線をキープしつつ書いているみたい。
自分の祖先を誇りたい気持ち、自分の主張を書きたい欲求などを満たすために
自伝や私小説などのジャンルが存在するものだと思っていましたが
そのような印象はまったく無くて、上出来な物語を読んだという感想しかありません。
本当に素敵な本だと思います。
名も無き人たちの歴史を訪ね歩く楽しみをどうぞ
読んでみたいな!という方は下の画像をクリックしてね