まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
ゆる~い気持ちでお読み下さい。

『どん底の人びと』ロンドンが見たロンドン

2008-07-13 20:02:50 | アメリカの作家
THE PEOPLE OF ABYSS 
1903年 ジャック・ロンドン

紛らわしいけどジャック・ロンドンはアメリカ人です。
その J・ロンドンが、貧民街をレポートするために潜り込んだのが
天下の大英帝国の首都、ロンドンのイーストエンドです。

この本が書かれた当時は、イギリスが主役だった産業革命はすでに過去の話で
アメリカやドイツが台頭した第二次産業革命の直後でした。

彼は貧民街で、一部屋に数人で暮らすひもじい人びとを目にします。
何十年も休みを取ったことがない汚い女、公園でパンのために体を売る女
公園の開門を待って雨の街を夜中じゅうさまよう老婆を目にします。

ホップ農場、息の詰まる作業場、波止場、酒場で
その日の賃金を貧しい食事に費やす人びとの話を聞きます。

救世軍の給食所、浮浪者収容所で小羊のように卑屈な態度の浮浪者を見て
横柄な世話人の対応と不衛生な環境や、浮浪者を陥れる不毛なシステムを体験します。

英国の労働条件・賃金・保障・自殺・一家心中・子供の死亡率などのデータを挙げ
英国の労働政策・貧民対策・金持ちの矛盾した慈善を鋭く批判し
貧しさが代々受け継がれて行く社会構造の危険を説きます。

イギリスはこの本の出版時、かなりナーバスになったとみえて
(そりゃあ、成り上がりのアメリカ人にこんなこと書かれちゃね、あくまでも当時ね)
アメリカでの好評ぶりに対して「大げさに書いている」と反論した模様です。
しかし、少しは懲りて改善されたんでしょうね?と思いたいところ。

ただ、この本の30年後に書かれたジョージ・オーウェルの
『パリ・ロンドン放浪記』によるとあんまり変わってないようなのですが…

日本も格差社会と言われて久しいですけど、いつかは解決するのでしょうか?
それとも拡大するとこういう社会がやってくるのかしら?

どん底の人びと―ロンドン1902 岩波書店


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『嵐が丘』メロドラマの王道はここに…

2008-07-13 16:44:03 | イギリス・アイルランドの作家
WUTHERING HEIGHTS 
1847年 エミリー・ブロンテ

D・H・ロレンスが自分の恋人に読むことを禁じていたという『嵐が丘』
当時としてはセンセーショナルだったんでしょうが
読んでいるうちにぐいぐい引き込まれてしまう気持ちは今も昔も変わらぬはず
その頃の皆さんも夢中で読んだことと思います。

ヨークシャーの荒野に建つ、“嵐が丘”と“スラッシュクロス”という
二つの家によってのみで起こる出来事がこんなにドラマティックでよいのでしょうか?

昔ブレイクした赤いシリーズ、愛の劇場、そして韓流、と
現代にも通じるメロドラマの王道がここにありました。
生い立ちの秘密と人間関係の複雑さ、激しい愛、家柄による結婚、復讐、と
ドラマ的要素てんこ盛りです。

ヒースクリフは幼い頃ミスター・アーンショーに拾われ娘のキャサリンと愛し合います。
しかしキャサリンが家柄の良いエドガー・リントンに嫁いだため家を飛び出しました。

ここからヒースクリフは復讐の鬼になります。
金持ちになって戻って来てエドガーの妹イザベラをまんまと手に入れ
自分の息子(ヒースクリフ)とキャサリンの娘(キャサリン)を結婚させて
若き日の恨みをはらそうとします。

しかし自分が描いた復讐を終えても、ヒースクリフの気持ちはおさまることはありません。
そればかりかさらに苦しみを増していきます。

この物語、都会からやってきたロックウッドがスラッシュクロスを借りて
復讐を成し遂げたヒースクリフと嵐が丘で出会ったところから始まります。

なにか異様な雰囲気を感じ取ったロックウッドに過去の話しを聞かせてくれるのが
ずっとキャサリンの娘に仕えてきた忠実な女性エレン・ディーンです。

エレンのキャサリンを思う気持ちと正直さが
この激しい物語の中で小さな救いになっています。

さすがによくできたドラマだけあって、数多くの舞台公演があり
映画は海外、日本含め山のように製作されているので
内容は知っている人も多いかと思いますが、本ならではの怖さがありますよね。
じーっと見つめる目の表情とか、ヒースクリフの顔色とか。
もちろん映像には映像の魅力があるでしょうが…

で、ドラマはどうかな?とWikipediaで調べたところ
『愛の嵐』『新・愛の嵐』で昼ドラに登場したそうです。
どうでしょう? 昼ドラでこの物語の背景をカバーしきれるんでしょうか?
しかも石原良純がネグリジェ着たってどういうことですか?
お笑いじゃないかっ

大金を投じたザ・ドラマ! みたいな感じで制作していただけると嬉しいですね。

しかしこの本の恐ろしさは、エミリー・ブロンテその人にある感じ。
牧師館で静かに暮らす未婚女性が書いたというのが想像つかない…
ものすごい想像力と観察眼を持っていたとしか思えません。
30歳にして亡くなってしまうとは、本当に惜しいことです。

嵐が丘 新潮社


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こちらは1冊になってますね
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『白痴』大音響小説

2008-07-13 15:14:14 | ロシアの作家
ИДИОТ 
1868年 フョードル・ドストエフスキー

世の中に、しーんと心にしみ入る小説があるとしたら
『白痴』はなんと騒々しい小説でしょうか?
もう、アナーキーでデストロイでレボリューションってなくらいの大音響

ざっくり言えば、2組の男女の恋がどうなるかしら?っていうお話ですが
そこは社会にもの申すドストエフスキー、たくさんの社会的問題をとりあげていて
話しが複雑になりすぎちゃったんじゃないかと…

誰が主人公?ってくらいたくさんの人物が登場するんですけど
どいつもこいつも喋るったらありゃしないわけです。
「それ、必要ですかね?」ってことまでページを裂いて喋りまくり
私はロシアの方々って“寡黙”で“冷静沈着”っていうイメージがあったんですけど
考えが少し変わりました。

それはさておき
主人公は、スイスの精神病院を退院してロシアに帰って来たムイシュキン侯爵という
汚れを知らぬ子供のような心の青年で合ってるんでしょうね?
彼が、ナスターシャとアグラーヤという二人の女性を好きになってしまい
ナスターシャを愛するラゴーシン、アグラーヤを愛するガヴリーラなどが入り乱れて
不幸な結末をむかえる、というお話です。(すごくはしょってます)

とにかく、愛し合う男女がくっついたり離れたりを激しく繰り返す物語で
次第に「もう、どうでもいい…」という気分になってきてしまいました。
愛しているなら素直になればいいじゃない?
なにもわざわざ奇抜な行動に走らなくたっていいと思うんですけど。

もしかして、それが名作を書くコツなの?

主役・準主役級の人たちでさえ、かなり軌道を逸しているというのに
その他にも、どこか興奮気味なたくさんの人々が登場して
主義だの主張だの、自分の不幸な境遇、死んでやる!という
聞いてて楽しくも嬉しくもないことを、延々と喋り続けるわけです、いやでしょう?
これだけの登場人物の中で、私がまともな人に思えるのは3人くらいでしょうか。

最後の最後にムイシュキン侯爵は、再起不能に陥り
再びスイスの病院に戻るわけですが、その気持ち分かります。
毎日いろいろな人がやってきては、あんなにイライラさせられちゃあねぇ。
早く余所に行ってしまえばよかったのに…

たぶん、ムイシュキン侯爵の美しい人柄を描くためだったのでしょうが
なんか、腹立たしいエピソードが盛り込まれすぎてると思います。
物語の面白さ云々より、台詞ひとつひとつに腹をたててしまうようになって
読み通すのが大変でした。

人間の奥底や深層なんか垣間見えなくていい、深遠な思想も理解できなくていい
バカと言われてもいい… もう少し気軽に読める物語が好きです。
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