関東から瀬戸内へ
車で遊びに行った彼は
山陰には行ったことがなかったので
寄ってみようと思い
帰郷していた20年前の友人に
電話をしてみた。
するとタイミング良くつながり
その後も連絡がうまくいって
夕暮れには友人の実家の庭先で
家族や親族とおしゃべりをしながら
BBQを食べていた。
そして
森からのヒグラシの声を聞き
海からの心地よい風に吹かれ
星と月を眩く見え上げ
子どもたちの花火を楽しみ
デザートのアイスクリームを食べると
地元の温泉へと向かった。
かくして私は
突然、20年前の友人と再会した。
遠いご先祖様と出会うお盆は
20年のブランクなんて
きっとなんでもないものなのだ。
アメリカンブルー(エボルブルス)〈ヒルガオ科〉
copyright Maoko Nakamura
どの墓にも
女郎花やミソハギなどが飾られ
線香の香りが
夕闇の中を漂っていた。
老いも若きも手を合わせ
ご先祖様に
あるいは
逝った身内に思いを馳せる。
墓参りが終わって
義兄が車を取りに行く。
疲れやすくなった母は
墓の入り口にある
コンクリートの電信柱にもたれて待つ。
「せいくらべ」の歌を思い出して
「背を測るよ」と言うと
母は小さく丸くなった背を
しゃんと伸ばそうとする。
身体測定の時の小学生のように。
けれど今度は小さくなるばかり・・・。
20年前に逝った父は
そばで見ているのだろうか。
「みんな、年を取ったなあ」と思いながら・・・。
ノウゼンカズラ〈ノウゼンカズラ科〉
copyright Maoko Nakamura
竹は伸びた。どんどん伸びた。
雪の重みにうなだれ、春の風に揺られ
夏の光に焦がされ、秋の雨に打たれ・・・。
けれど
誇らしげに雪を跳ね返し、大風には支え合って
月の光に癒され、雨上がりの青空にときめきながら・・・。
ある日
竹はふと見下ろすと、あまりの高さにびっくりした。
かつて遊んでいた草たちは
大声で呼んでも聞こえないくらい遠くなり
かつて遥か見上げていた鳥たちは
すぐそばをかすめて行った。
急に恐ろしくなって周りを見ると
仲間たちはいつものようにそよいでいた。
ゆらん、ゆらん
メトロノームの振り子のように・・・。
思い起こせば、いつも仲間がそばにいた。
竹は安心して一緒にそよいだ。
ゆらん、ゆらん
宇宙のリズムを刻む
メトロノームの振り子のように・・・。
ゆらん、ゆらん、ゆらん、ゆらん・・・。
オクラ〈アオイ科〉
copyright Maoko Nakamura
窓から入り込んだ
ひんやりした空気に起こされる。
庭に水やりに行くと
「秋だよ」と囁く声がした。
見ると
千日紅と日々草の間で
秋明菊が小さな蕾をつけていた。
「ほんとに秋だね」。
まだしばらく
夏は熱を振り撒くに違いない。
バーゲンセールのように
ありったけの在庫を出してきて。
けれど秋明菊は
じきにビロードの花びらを広げるのだ。
秋の日差しによく似合う
シックな白と優しいピンクの・・・。
じきに・・・。
そしてまた季節はうつろう。
思ったよりもずっと早く・・・。
見上げると
赤トンボの群れが
忙しそうに飛び回っていた。
彼らだけが
それを知っているかのように・・・。
千日紅〈ヒユ科〉と日々草〈キョウチクトウ科〉
copyraight Maoko Nakamura
洗濯機の下に水が溜まっていた。
少しずつ水漏れしていたのだろう。
ずらしてみると
床が茶色く変色していた。
ガタガタと音もやたらと大きくなっていた。
新しい洗濯機を購入した。
新しいものは美しく輝かしい。
古くなった自分でさえ
新しいものを嬉しく思うのだから
古いものは追いやられて行くのだろう。
しかしだからこそ
古いものの価値を忘れるな。
遥かなる時が育んだ太古の森や
古から脈々と続く物語や
時だけが紡ぐことのできる味を。
懐かしい友や故郷や思い出を。
そして何人も追いやるな。
自らも含めて・・・。
世界を狭く貧しくさせないために。
バラ〈バラ科〉
copyright Maoko Nakamura