自分探詩(じぶんさがし)& 山陰柴犬かれんとの日々
しとしとと降る雨の中
用事があって街まで出かける。
古い洋館の前で
わたしを呼び止めたのは
甘く優しい香り。
傘をかしげて見上げると
蜜柑色の小さな花。
門柱の側に佇む満開の金木犀。
懐かしい友に出会ったように
しばしその香りを楽しむ。
秋の大切な楽しみを思い出す。
金木犀〈モクセイ科〉
copyright Maoko Nakamura
台風が過ぎ
風と和解をした桜の木が
秋の調べを奏でている。
小刻みに葉を揺らし
時折
ゆっくり枝をしならせ・・・。
そのたびに葉で光が踊る。
台風が過ぎ
風と和解をした桜の木が
秋の調べを奏でている。
こんなにも互いに愛し合えるのだと。
ダンギク〈クマツヅラ科〉
copyright Maoko Nakamura
大山の南壁を日本海へと下る。
ながらかな山がいくつも重なり
夕暮れの中に
幻想的な風景が広がっていた。
たまたまいつもと違う道を下り
たまたまこの風景に巡り合う。
けれど・・・
たとえ目に触れなくとも
いつもここにある。
こんなふうに愛は
いつもそこにあるのだ。
山のように・・・。
重なり合う山々のいちばん海側
島根半島の山の端で
夕陽が最後の灯りをともしていた。
たまたまこの時間にここを通り
たまたまこの風景に巡り合う。
けれど・・・
たとえ気づかなくとも
いつも営まれている。
こんなふうに愛は
たえまなく営まれているのだ。
太陽のように・・・。
彼岸花〈ヒガンバナ科〉
copyright Maoko Nakamura
ピアノから紡ぎ出される音が
ホワイエを美しい音の色で満たした。
秋の木洩れ日のような
包み込むような優しい音色。
ピアノの屋根に映し出された指が
ままごと遊びをしているかのように
楽しそうに跳ねていた。
今宵、見る夢は
月の光あふれるススキの野辺か
鐘の音響く異国の町か。
一夜が明けて
無性に旅に出たくなる。
夢の中で響いていたのは
きっとカンパネラ(鐘)に違いない。
*山城裕子さんのコンサートにて
フレグラントオールドローズ〈バラ科〉
copyright Maoko Nakamura
新米を炊いて食べた。
黙って食べる家族から
「おいしい」という
無言の声が聞こえてきた。
農業は
地域を活性化させ
健康を育み
環境を保全し
食糧を他国に武器にさせない役割も果たす。
稲作は数千年の昔からそれらを培い
私たちのDNAを育んできた。
あらゆる汚染から
水田を大地を守らなければならない。
それが命を守ることだから。
食べ終わった家族が
満足そうに席を立ち
また新しい1週間が始まる。
窓の外には里まで降りてきたススキの穂。
ヒヨドリバナ〈キク科〉
copyright Maoko Nakamura
天上に広がる青い空。
思い出そう
この空が宇宙に
つながっていることを。
どこまでもどこまでも・・・。
世界でいちばん大きな窓を開けて
さあ、1日が始まる。
天上に広がる星の空。
思い出そう
この空が宇宙に
つながっていることを。
どこまでもどこまでも・・・。
世界でいちばん大きな窓を開けて
さあ、あなたが始まる。
思い出そう、雨の日も。
思い出そう、闇の夜も。
この空が宇宙に
つながっていることを。
どこまでもどこまでも・・・。
開けよう、今日も
世界でいちばん大きな窓を。
蒜山ハーブガーデン「ハービル」より
copyright Maoko Nakamura
昼の長さと
夜の長さが
同じで
暑くもなく
寒くもなく・・・。
中庸のとき。
心もまたかくあれ。
バラ〈バラ科〉
copyright Maoko Nakamura
山の裾野と
その上に架かった雲を
暁が地の底から輝かせ
灰の空を青く塗り替えていく。
爪先のような三日月は
白い紙になって
青い宇宙に溶けていく。
けれどそれはまだ顔を出さない。
待ちわびたトンビが
円を描きながら様子をうかがう。
虫たちがフィナーレとして迎えようと
演奏にいそしむ。
いよいよ。
雲間から光が束になってあふれ出し
それが顔を出す。
すべすべとした赤い燃える火の玉が。
そしてグイグイと空を昇り
川面に金色の道を作る。
此岸から彼岸へと続く道のごとく
ゆらゆらと揺れながらも
ゆるぎない美しい道を・・・。
バラ〈バラ科) 日野川河口の夜明け
copyright Maoko Nakamura
我が家の台所は
味噌汁を作らなくなって夏となり
味噌汁を作るようになって夏が終わる。
味噌汁が体に良いとわかっていても
夏は暑くて受け付けない。
そこで味噌は炒め物やタレに使う。
けれどある日、味噌汁が食べたくなる。
豆腐の味噌汁を作った。
パジャマは長袖に変わり
夏掛けも毛布になり
秋の花も咲き
あらあら
もうすっかり秋になっていた。
ダリア〈キク科〉
copyright Maoko Nakamura
視界の中から「青」という色が消えた。
灰色の雲が海に垂れこみ
海は白波でのみ、その存在を主張する。
ここは空ではないのだと。
山にも雲が垂れこみ
その存在を消してしまった。
山は辛抱づく沈黙を守っている。
雨が白い煙のようになって
あらゆるものを叩きながら走り抜けていく。
草木を、電信柱を、窓を・・・。
それを加勢するように
風が、海が低くうなっている。
川土手を一人のランナーが駆けている。
エキナセア〈キク科〉
copyright Maoko Nakamura
つるべ落としの日は沈み
田舎の家の
大人ばかりの静かな夕げ。
ならば
われらの出番とばかりに
庭で鈴虫や松虫が
得意の曲を奏でてくれる。
リーンリーンリーン・・・
チンチロリン・・・。
リィリィ・・・、ジィジィ・・・
コオロギも。
「ああ、賑やかだね」と
静かな夕げを楽しむ。
ダンギク〈クマツヅラ科〉
copyright Maoko Nakamura
夏から初秋にかけて見られる
「トンボーイ」。
たいがい連れだって自転車で現れ
町を縫うように駆け回る。
スイスイスイスイ・・・トンボのように。
真っ黒な顔にキラキラ光る目。
ハンドルを握りしめる黒い羽のような腕
細い機敏そうな体。
「来た」と思った瞬間に
あらゆるものを巧みにかわして
もう遠くへ行っている。
トンボーイは夏の風物詩。
けれど一部地域では絶滅をしてしまい
今では絶滅危惧種として
『レッドデータブック』ものになっている。
トンボーイは豊かな自然と
住みよい町がなければ現れない。
ハゼラン/三時草〈ユリ科〉
copyright Maoko Nakamura
雨上がりの朝。
雲と海が一つになり
地球が呼吸を
やめてしまったかのように
風はぴたりとやみ
木も草も息をひそめている。
鳥は止まり木で
遠慮がちに辺りをうかがう。
蝶だけが
特権を与えられたもののように
ゆうゆうと羽をはばたかせて天地を横切る。
けれど決して音を立てず。
川土手を散歩する父子が
白い空に溶け込んでいく。
自転車の少年が
白い海に溶け込んでいく。
まだ夢の続きを見ているような
秋の日曜の朝。
雨上がりの白い朝。
遠い夢の続きを見ているような・・・。
秋明菊〈キンポウゲ科〉
copyright Maoko Nakamura
「あなたと出会っていなければ
私は今頃、どうしていたのだろう」
とあなたは言う。
「あなたと出会っていなければ
私こそ、どうしていたのだろう」
と私は思う。
気がつけば
10年の月日が流れ
振り返れば
花が咲いていた。
とりどりの思い出の花が・・・。
あなたと出会っていなければ
庭のガーベラの花もまた
咲いていないに違いない。
ガーベラを植えたのは
あなたがいちばん好きな花だから・・・。
ガーベラ〈キク科〉
copyright Maoko Nakamura
わたしはだれ?
流れる雲に問うてみる。
雲は教えてくれたけど
雲の言葉がわからない。
わたしはだれ?
行き交う風に問うてみる。
風は教えてくれたけど
風の言葉がわからない。
わたしはだれ?
佇む木に問うてみる。
木は教えてくれたけど
木の言葉がわからない。
仕方がないので
自分自身に問うてみる。
わたしはだれ?
言葉はちゃんとわかるのに
わたしはなんにも教えてくれない。
ヤブラン〈ユリ科〉
copyright Maoko Nakamura