詩の現場

小林万利子/Arim 「詩のブログ」 詩をいつも目の前に
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ペルセポネの夏

2009-11-04 | My詩集から
 いまはいない彫刻家の ギリシャ神話につ
いて かんがえていると  足音をひきずる男
が一日に四回 五回と 部屋をたずねてくる
ようになった  ハーケンを右手にもち  一つ
一つの岩間にうちつけて 海岸線を 星座の
ように見わたす  この地上まであがってくる
ことが どれほど 骨のおれる仕事であるか
を  とはずがたりにしゃべりだす
 英雄ペルセウスのように 西へ 東へ 南
のはてへ 死者のむらにたちより 骨をつぎ
たし 毒蛇をのみこみ 歩きつかれる道のり
こそは  くもが糸をはきつづけるよりも  人
間が眠れぬ夜をかさねるよりも 実に たい
へん偉大である そのうえ 岩は 底なし岩
で ハーケンを 沈みこむ寸前にひきあげて
つぎの岩にうつさなければならない この緊
張の連続は プロメテウスの苦痛よりも  イ
エス・キリストの受難よりも  はるかに尊く
感謝されるに値する
 あいている片方の手には バーベルをもち
上下運動をくりかえしては  たえまなく腕の
筋肉を強化して  咳きこみながら 古いアル
ファベットの変形語を  ならべかえる
 ところで、ビールを一杯、もらえないだろ
 うか。
 私の見知らぬ記憶の分子は 体内をあわた
だしくかけだし  森の老婆が通りぬけるよう
に 声帯を奇妙な音色にふるわす
 あいにくだね。
 ここには、おいてないんだよ。
 深夜 アフロディーテの出現を夢みつつ
白く泡立つコップの底を  手のなかにつつみ
こんでいると そのたびに  私の耳のあたり
には  竹の子の頭のような花が咲きだして
窓ガラスにうつってはきえていく


詩集「月がまるみをおびる地点まで」より


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