masumiノート

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請負人 越後屋 №14

2010年05月12日 | 作り話
事務員の女性が父親の介護のため退職したのを機に明子が手伝うことになったとかで、
それ以降、父親の勝が現れるまでの時間を、お茶を出してくれる明子と、正志と三人で過ごした。

正志の父親は婚姻届を出す予定日の一週間前に交通事故で亡くなったそうだ。
その後で妊娠が分かり、当時二十歳だった明子は周囲に中絶を勧められたが、最後には両親が味方になってくれたので生むことが出来たのだと話してくれた。

又、勝がネクタイを締めた人間を信用しないのは、以前山林の杉の木を銀行マンに騙し取られたことがあるせいだとも教えてくれた。

「いつもお待たせしてごめんなさいね。途中でその場を離れられない作業をしているから・・、勘弁してやってください」と頭を下げる明子に、石崎は好感以上のものを感じていた。

作業の合間にわざわざ時間を作ってくれていた事を知って、石崎の勝に対する見方も変わった。

そのうちに正志にも懐かれ、キャッチボールの相手をしてやるようにもなった。

そんなある日、いつものように炭で汚れた顔を手拭いで拭いながら現れた勝が唐突に話し始めた。

「石崎君、・・・昨夜も明子と話をしたんだが、これからの日本は車社会になるんだろう?この村では車を持ちそうな家は少ないが、全国的に見ても新しい道路がどんどん作られているし、あんたのように車で移動して仕事をする人間が増えるんだって明子が言うんだ。だからGSは村の人間だけを相手にする商売じゃないんだって・・・
あんたの提案を前向きに考えてみるよ」

これを機に益々頻繁に大木家に訪れるようになり、明子と正志とも親しくなっていった。
勝から「飯、食っていけ」と言われて、夕飯をご馳走になることも度々だった。

食事をしていると、勝が酒を飲みながら愚痴ともつかぬ口調で話し始めた。
「なぁ、石崎君よ、何か知らんが最近、隣村の村長がこの辺りの田畑を買い占めているんだよ。ワシは自分の村の村長さんは好きだが、隣村の村長は虫が好かん。自分の土地なら絶対にあの村長には売らないんだが、他人様の土地に口出しは出来んよ・・・しかし何の為にこんな田舎の土地を欲しがるんだろうな」

それから数ヵ月後、土地開発と道路拡張計画が公に発表された。

GSの開業と明子との交際は同時進行のように進み、GSが無事開業して勝夫妻らが仕事になれた頃、明子にプロポーズした。

大木家の面々は当初、「こんな子持ちで学の無い娘に石崎さんみたいなエリートは勿体無い。石崎さんにはもっと良い所のお嬢さんがお似合いだ」と尻込みしていたが、最後には祝福してくれた。
正志の事は養子縁組して石崎姓に変えるつもりで居たのだが、「大木家の跡取りが居なくなってしまう」とそれだけは譲ってくれなかった。
結果、正志が義務教育を終えるまでは入籍をせず、事実婚という形を取ることにしたのだ。

大木家はそれで良かったのだが、問題は石崎家、特に両親だった。
「若い」ということもそうだが、「子持ち女と」という事で、最後まで賛成はしてもらえず、勘当同然で家を出ることになり、縁故入社だった社内でもエリートコースからは外されたのだ。

流石に解雇されることは無く、今まで一社員として真面目に働いてきたつもりだ。

ついこの間までは、社内的な仕事をする部署にいたのだが、日の丸石油との合併で突然専務という肩書きを与えられて、まだ戸惑っている状態なのだ。

つづく


※この物語はmasumiさんの被害妄想に基づくフィクションです(^^;
実在の人物及び団体とは一切関係ございません。

尚、加筆修正及びキャラの変更等もあるやも知れませぬことをお断り申しておきまする(^^;