報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「静岡出張」 2

2023-12-29 16:23:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月9日11時12分 天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR(東海)東京駅→東海道新幹線721A列車14号車内]

 

〔ピン♪ポン♪パン♪ポーン♪ まもなく17番線に、“ひかり”642号が入線致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この後、11時27分発、“こだま”721号、名古屋行きとなります。車内の整備が終わるまで、お待ちください〕

 高橋がホームの喫煙所で、煙草を吸い溜めしている間、私は乗車口で列車を待っていた。
 今回はリサがいない為、特に先頭車や最後尾という乗車車両指定は無い。
 なので今回は、あえて中間車に乗ることにした。

〔「17番線、お下がりください。“ひかり”642号が入ります。折り返しは11時27分発、“こだま”721号、名古屋行きです。到着後、車内整備・清掃の為、お客様のすぐの御乗車はできません。しばらくの間、ホームでお待ちください」〕

 N700Aと呼ばれる車両が入線してきた。
 フルカラーLEDの表示器には、赤地に白抜きで“ひかり”と書かれている。
 東海道新幹線ではどの種別の列車でも、車両は共通運用となっている。
 だから、この車両も“のぞみ”としての運用に就くことも当たり前にあるわけだ。

〔とうきょう、東京です。とうきょう、東京です。ご乗車、ありがとうございました。……〕

 ホームドア(JR東海では可動式安全柵と言う)が開く時、“乙女の祈り”のメロディが流れる。
 ドアが開くと、そこから大量の乗客達が吐き出された。
 “のぞみ”より空いているとはいえ、これも優等列車。
 利用客は多い。
 表示が“ひかり”から、青地に白抜きの“こだま”の表示に変わる。
 乗客達が降りると、JR東海関連会社の清掃員達が「ヨシ!」と指さし確認して、車内に入って行った。
 それにしても、東海道新幹線ホームはJR東日本新幹線のホームよりもやかましいような気がする。
 それは列車本数がずば抜けて多い上、全ての列車がフル編成の16両というのも去ることながら……。

〔「6号車付近のお客様!まだご乗車になれません!ホームでお待ちください!ホームでお待ちください!まだご乗車になれません!」〕

 ずば抜けて新幹線利用に不慣れな外国人旅行客も多いからだろう。

 外国人「For Kyoto?」
 愛原「No.That train.」

 迷ったら、並んでいる先客に聞くというのも1つの手という法則通りだな。
 私も聞かれた。
 私が乗ろうとしている列車が京都まで行くか白人観光客に聞かれたので、違うと否定した上、隣の16番線を指さした。
 16番線から発車するのは“のぞみ”29号、博多行きであり、こちらは余裕で京都に停車する。

 愛原「ふーむ……」

 私よりもずば抜けて背の高い白人のカップルだったが、女性の方が、留学生のレイチェルと同様、金髪をポニーテールにした髪型をしていた。
 最近は見かけないが、特にリサと絡むことは無いのだろうか?

[同日11時27分 天候:晴 JR東海道新幹線721A列車14号車内]

〔「お待たせ致しました。11時27分発、“こだま”721号、名古屋行き、まもなく発車致します」〕

 私と高橋は列車に乗り込み、進行方向右側の2人席に座っていた。
 暖房がよく効いているので、コートは脱いで畳み、網棚の上に置いている。
 そして、早めの昼食を取る為、駅弁に箸を付けていた。
 私は“深川めし”である。
 JR東日本側にも同じ名前の駅弁があるが、内容が多少異なる。

 
(JR東海パッセンジャーズが出している“深川めし”)

 ただ、私の記憶が定かなら、こちらの内容の駅弁、かつてはJR東日本側で出されていたような気がするのだが……。
 箸を付けていると、ホームから発車メロディが聞こえて来た。
 JR東日本のホームだとベルだが、東海ではかつて“のぞみ”の車内チャイムで使用されていた発車メロディが流れる。

〔17番線、“こだま”721号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側まで、お下がりください〕
〔「17番線、お下がりください。“こだま”721号、名古屋行きが発車致しまーす。ITVよーし!……乗降……終了!ドアが閉まりまーす!ご注意ください!」〕

 在来線よりは落ち着いた感じのドアチャイムが微かに聞こえ、ドアが閉まる。
 そして、列車はスーッと走り出した。
 “のぞみ”や“ひかり”と比べ、“こだま”は空いていると言われているが、東京発車の時点では、実は大差無い。
 もちろん、1号車とか2号車とか、先頭車付近まで行けば空いているのかもしれない。
 だが、中間車など、階段付近の車両はそれなりの乗車率であった。

〔♪♪(車内チャイム“AMBITIOUS JAPAN!”♪♪。今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に停車致します。次は、品川です〕

 私は食べる前に駅弁の写真を撮り、それをリサのLINEに送信していた。
 肉が好きなリサにとって、魚系はそんなに魅力的ではないかなと思っていたが、休み時間になって、スマホが弄れるようになったのだろう。
 返信が来た。
 その内容は、『わたしも食べたーい!』であった。
 栗原家から入手した旅行券で東北方面へ行こうなんて言ったが、それとは別に温泉旅行券があるので、それはそれで……という気はする。
 あとはメールで善場主任に、予定の新幹線に乗ったという報告。
 その返信は、『未だに“青いアンブレラ”が沈黙しています。けして、油断されぬよう、どうかお気をつけて』というものだった。
 デイライトは“青いアンブレラ”を敵視しているようだが、どうも高野君がいるせいか、私は敵には見えない。
 サスペンスものでよくいる、敵か味方か分からないキャラクターや組織。
 私にとっては、正にそれであった。
 私達を都合良く利用しようとしているのは分かるが、それはデイライトも同じこと。
 ただ、デイライトはちゃんと報酬を払ってくれるからなぁ……。

 高橋「今のところは順調な滑り出しですね?」
 愛原「今のところはな」
 高橋「……何かありますかね?」
 愛原「東北新幹線とかと違って、事件発生率がそれより高い東海道新幹線だ。まずは、そういうのに注意しろ」
 高橋「わ、分かりました。それじゃあ、煙草は控えといた方がいいっスね」
 愛原「……オマエ、さっきホームで吸ってなかったか?」

 高橋のヘビースモーカーぶりには困ったものだ。
 ……と、パールもか。
 ただ、パールは電子タバコに切り替えたみたいだからなぁ……って、そういう問題ではないか。
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“私立探偵 愛原学” 「静岡出張」

2023-12-27 20:34:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月8日18時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 リサ「えっ!?先生達、明日からいないの!?」
 愛原「民宿さのやに行ってくる。公一伯父さんが逃亡したらしくてな、その調査だ」

 私達は夕食を取っていた。
 夕食はパールがトンカツとカキフライを揚げた。

 リサ「わたしも行きたーい」
 愛原「連れて行きたいのは山々だけど、まだド平日だからな。オマエは学校があるし……」

 はは……この辺、私も覚えがあるな。
 学校を休めぬが故の悔しさは、私も覚えがある。
 巷では、そんな悔しさを経験した人がお偉いさんになってくれたのだろう。
 そんな学生にも有給休暇を、なんて声が出てたな。

 愛原「今度、学校が休みの時にでも連れてってあげるからさ」

 しかし、言っている自分の心は晴れなかった。
 私が、である。
 何があったかというと、あれは遡ること、30年くらい前のことである。
 まだ小学生だった頃の私にも、当然夏休みはあった。
 で、首都圏や他の地方に在住する従兄弟達が遊びに来るのが楽しみだった。
 しかし、これは親達を恨むべきだろう。
 仙台市の小中学校の夏休みは基本、8月25日まで。
 東京などでは8月31日までだろう?
 市内の遊園地とか、県内の水族館とか行く日取りを、8月25日以降に指定してきたんだな。
 もう、お分かりだろう。
 父親に、『お前は学校があるだろう!』と言われ、従兄弟達が遊びに行くのに連れて行ってもらえなかったという悔しさがある。
 だから、リサの今の気持ちは凄く分かる。
 尚、『今度、学校が休みの時に一緒に行けばいいだろう!』と言われたが、結局その約束事が実行されることはなかった。
 だからこれを見ている子供達は大人の事情など気にせず、食い下がれ!
 あんな思い出作りのチャンス、2度と無いぞ!
 学校こそ、むしろいつでも行ける!
 皆勤賞なんか取ったところで、就活には何の意味も成さない!
 あのゆたぼんだって、結局は後になってちゃんと学校に行ってるではないか!!

 愛原「そうなんだよ……。何であの時、もっと食い下がらなかったのか……もっと駄々を捏ねなかったのか……俺のアホ……」
 高橋「せ、先生!?どうしました!?」
 愛原「ホントはな……学校なんていつでも行けるんだよ……特に義務教育なんかは……だから、1日、2日サボったところで、何がどうなるわけでもないんだよ……このゴリゴリ頭の固まった団塊世代共が……氷河期世代ナメんなよ……バカヤロウ……コンチクョウ……」
 リサ「先生!?ゴメン!わたしが悪かった!ワガママ言わないから正気に戻って!」
 高橋「バカ野郎!リサぁ、テメェのせいだぞ!!」
 パール「ちょっと、マサ!大声出さないで!……先生、それでしたら、リサさんを連れて行っても良いのでは?」
 愛原「高校はな……義務教育じゃないんだよ……」
 パール「し、失礼しました!」
 リサ「出席日数は足りてると思うけどね。で、でも、いいよ。わたしのせいで、先生が苦しむのはイヤだ」
 高橋「先生!今夜はガンガン飲みましょう!」
 パール「出張前にガンガン飲むとか……」
 高橋「うるせっ!もっと先生にビール持ってこい!」
 リサ「わたしの“鬼ころし”もあげようか?」
 愛原「それはオマエの暴走防止の為の薬だから、俺が飲んで切らすわけにはいかん」
 リサ「そ、そうだよね。何か、ゴメン……」
 愛原「いやいや。と、とにかく、学校のせいで除け者にされる気持ちは痛いほど分かる。俺はうちの毒親と違って、約束はちゃんと守るよ」
 リサ「うん、ありがとう」
 愛原「デイライトから旅行券は返してもらえるらしいからな」
 リサ「ホント!?」
 愛原「ほんとほんと」
 リサ「おー!」

 尚、私が除け者にされた理由は、親戚側に問題があったようだ。
 当時、まだ祖父母が生きていて、祖父母達からは親戚達に対するイメージが悪く、なるべくなら私を彼らと一緒に行動させないよう、圧を掛けていたという。
 約束事が守られなかったのも、祖父母達の方で断っていたかららしい。
 だからなのか、私が他の親戚の子の家に遊びに行く際は、祖父母達はこぞって私に交通費だの小遣いだのを奮発してくれた。
 とはいうものの、やはり大人の事情は子供には理解できないもので、やはりそこは一緒に遊ばせて欲しかったと思う所はある。
 大人の今になってからは、まあ、そういう事情かと理解はできるのだが……。

[2月9日11時00分 天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR(東海)東京駅→東海道新幹線ホーム]

 翌日になり、私と高橋はタクシーで東京駅に到着した。
 リサは元気よく学校に行ったし、パールには事務所で留守番してもらっている。

 高橋「また先生の御実家にお邪魔したいですね」
 愛原「俺の実家に行っても、何も無いぞ」
 高橋「いえいえ。まるで本当の実家に帰ってきたかのような安心感があるんです。多分それは、リサも同じだと思います」
 愛原「そうなのか?それじゃまあ、旅行券の使い道は仙台方面に絞ってみるか……」
 高橋「いいっスね!」
 愛原「取りあえず今日の所は、静岡方面だがな」
 高橋「今日は仕事だからしょうがないっス」

 私達は多くの人が行き交う東京駅にの中に入った。
 タクシーは日本橋口のロータリーに着けてくれて、ここから東海道新幹線へは日本橋口改札が最も近い。
 ただ、ここから入ってしまうと、駅弁が買えないのである。
 ホームに行けば売店があるのだろうが、コンコースで買いたい場合はオススメできない。
 JR東日本の新幹線ホームだと、ホームでもそれなりの種類の駅弁が売られているのだが、東海だとコンコース内に集約されている感がある。
 その為、私達は日本橋口改札は通り過ぎて、八重洲北口から入ることにした。
 ここから新富士駅までのキップは1枚に集約されているので、これを青い改札機に通す。
 JRが違う為、駅員の制服も東日本の物とは全く異なっている。

 愛原「11時27分発、“こだま”721号、名古屋行き。あれに乗るぞ」
 高橋「分かりました」
 愛原「その前に、少し早いが、駅弁を買って行こう。多分、向こうでは乗り換え乗り換えで、ゆっくり昼食を食べる暇が無いかもしれないからだ」
 高橋「了解です」

 私達はホームに上がる前に、コンコース内にある駅弁売り場に行って、駅弁を買うことにした。
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“私立探偵 愛原学” 「都内へ戻る」

2023-12-27 14:51:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月8日12時12分 天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→高崎線1869E列車5号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうごさいます。今度の6番線の列車は、12時13分発、上野東京ライン、東海道線直通、普通、小田原行きです。この列車は、10両です。グリーン車が付いております〕

 私と高橋はグリーン券と駅弁を買うと、ホームで列車を待った。
 グリーン券と駅弁は蛇足かもしれないが、仕事の中にこういう楽しみを入れるというのが私のやり方だ。
 この電車で行けば、13時にはデイライトの事務所に到着できるし、昼食も車内で取る事ができる。

〔まもなく6番線に、上野東京ライン、東海道線直通、普通、小田原行きが参ります。危ないですかすら、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。この列車は、10両です。グリーン車が付いております。……〕

 高橋「先生と、こうして2人旅気分を味わうのも、久しぶりっスね」
 愛原「まあ、そうだな」
 高橋「本来は、先生と不肖の弟子の俺の2人で仕事してたわけっスからね」
 愛原「ああ。霧生市を思い出すよ」

〔「6番線、ご注意ください。高崎線からの上野東京ライン、東海道本線直通、普通列車の小田原行き、短い10両編成で到着します。ホームの中ほどでお待ちください。終点、小田原までの各駅に停車致します」〕

 電車がやってくる。
 私達の前に、2階建てグリーン車が止まった。

〔おおみや、大宮。ご乗車、ありがとうございます。次は、さいたま新都心に、停車します〕

 平日の真っ昼間だからか、グリーン車は空いていたが、編成が短い為か、普通車はそこまで空いているわけではない。
 多分、ここからだと座れないだろう。
 その為、中距離電車の利用者の多くは、全列車15両編成化を望んでいるという。
 私達は階段を上がって、2階席に乗り込んだ。

 高橋「先生、ここはどうでしょう?」
 愛原「そうだな。ここにしよう」

 私はコートを脱いで、テーブル横のフックに掛けた。
 駅弁とお茶はテーブルを出して、そこに置く。
 停車時間1分だけということもあり、その頃には、ホームから発車メロディが鳴り響いている。

〔6番線の、上野東京ライン、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車を、ご利用ください〕

 ピンポーンピンポーンとドアチャイムが3回鳴って、ドアが閉まる。
 同じ型式でも、通勤電車のドアとロック機構が異なるのか、こちらの中距離電車では閉まり切る際にガチャンと派手な音を立てる。
 そして、電車がスーッと走り出した。
 その頃には、私も高橋も駅弁に箸を付けている。

〔この電車は高崎線、上野東京ライン、東海道線直通、普通電車、小田原行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次はさいたま新都心、さいたま新都心。お出口は、右側です〕

 愛原「この分だと、上野駅には40分頃に到着するな」
 高橋「そうなんスか?」
 愛原「リサはちょうど昼休み中だ」
 高橋「まさか、学校抜け出して見送りに来させるんスか?」
 愛原「まさか。学校の屋上からなら、上野駅が見えるんだ。それで十分さ」
 高橋「なるほど。俺達からは見えない所にあるわけですね」
 愛原「そういうこと」

 私は駅弁を食べ終わると、リサに今この電車に乗っていることをLINEで教えてあげた。
 さすがに授業中だったのか、すぐには既読と返信は来なかったが。

[同日12時50分 天候:晴 東京都港区新橋 JR新橋駅]

 グリーン車と言えば、グリーンアテンダントによる車内販売である。
 私は若くて綺麗な女性を期待していたのだが、残念ながら担当していたのは、高橋と大して歳の変わらぬ男性スタッフであった。
 それならそれで何も問題は発生しないわけだが、LGBTのBである高橋は何を気にしているのか、私が変な気を起こさぬよう、緊張した面持ちであった。
 念の為に言うが、私はノーマルであり、LGBTのどれにも属していない。
 だから、何も心配は無いはずなのだが。
 しかし、高橋曰く……。

 高橋「あいつからはゲイの臭いがしました。先生に変な気でも起こしやがったら、ボコすつもりでした」

 とのこと。

 愛原「い、いや、それはそれで俺の方が断ればいいんだから!暴力沙汰はダメだよ!」

 と、釘を刺しておいた。
 LGBT同士が仲が良いとは限らない。
 また、上野駅付近ではリサが学校の屋上から手を振ってくれたらしいが、あいにくと電車側からは東京中央学園が見えなかったので、残念だった。

 愛原「さあ、着いた。降りよう」
 高橋「はい」

〔しんばし~、新橋~。ご乗車、ありがとうございます。次は、品川に、停車します〕

 私と高橋は、ここで電車を降りた。
 棒線駅ということもあり、すぐに発車メロディがホームに鳴り響く。
 そして電車は、ドアを閉めて、すぐに発車して行った。
 駅弁や飲み物の空き容器は、デッキのゴミ箱に捨てておいた。

 愛原「それじゃ、トイレ休憩でも挟んで、デイライトさんの所に行こうかね」
 高橋「はい!」

[同日13時00分 天候:晴 同地区内 NPO法人デイライト東京事務所]

 

 愛原「……というわけでありまして、明日にでも民宿さのやに足を運ぶ所存です」
 善場「かしこまりました。御足労ありがとうございます。どうか、お気をつけて」
 愛原「ありがとうございます。……因みに、何か新しい情報はありましたか?」
 善場「今のところはまだです。栗原蓮華も、まだ警察やBSAAの捜索で発見されておりません」
 愛原「そうですか。“青いアンブレラ”はどうですか?」
 善場「こちらもまだですね。高野芽衣子こと、エイダ・ウォン・コピーもまた発見されておりません」
 愛原「そうですか。さすがは、高野君です」
 善場「……こちらとしては、警戒対象の人物ですので、あまり持ち上げないで頂きたいのですが」
 愛原「あっ、申し訳ありません!」
 善場「まあ、いいでしょう。それで明日、現地に向かわれるのですね?」
 愛原「はい。善場主任としては、今すぐに現地に向かって欲しいと思っておられる事は、推察しております。ただ……」
 善場「もちろん、承知しておりますよ。幸か不幸か、現地の民宿は所長の御親族が経営されております。怪しまれぬように潜入する為には、宿泊客になることが1番無難だということも理解できます」
 愛原「伯母……女将の伯母が言うには、明日でないと予約を受け付けないそうで……」
 善場「致し方ありませんね。こちらは民間探偵業者たる愛原さんに委託している身ですし、捜査令状も無いのに、強制的に屋内を捜索なんてできませんから」
 愛原「はい。仰る通りです」
 善場「どうか無理はなさらず、安全第一で業務遂行をお願いします」
 愛原「かしこまりました」

 この後、私達は再びJR新橋駅に向かった。
 あとはもう帰るだけなので、また乗り換え無しの都営バスで、ゆっくり楽に帰っても良いのだが、今回は電車で帰ることにした。
 そもそも新橋駅に行ったのは、明日乗る新幹線のキップを買う為だ。
 別に自由席で良いのだから当日でも良いのだが、少しでも時間に余裕を持たせる為だ。
 新橋駅に新幹線は止まらないが、もちろんキップ売り場に設置されている指定席券売機で事前購入が可能である。
 先に東海道新幹線のキップを2人分購入すると、私達は山手線のホームに向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家を探索。そして……」

2023-12-25 20:35:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月8日11時20分 天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合某所・斉藤家]

 私達は薄暗い斉藤家を探索した。
 雨戸も閉め切っている為、家の中は真昼間だというのに、とても暗い。
 すぐに新庄さんが、玄関にあるブレーカーを入れてくれた。
 それで、廊下の照明が点灯する。
 新庄さんがメイドを連れて、時折掃除に来るらしいが、それでも家の中は空気が淀んでいるように見えた。

 愛原「このエレベーターだな」

 私の記憶は確かだったようで、迷わずにエレベーターの前まで行くことができた。
 しかし、エレベーターの電源は落とされている。
 すぐに鍵を取り出して、ボタンの横の鍵穴に差してみた。
 すると、ちゃんと鍵は入ったし、回すとエレベーターの電源が入った。

 愛原「よし。恐らくこの鍵で大丈夫だ。一応念の為、エレベーターにも乗ってみよう。新庄さん、いいですか?」
 新庄「どうぞ」

 エレベーターは3人乗りという、ベタなホームエレベーターの法則通りだった。
 大体のホームエレベーターの定員は、2人か3人である。
 事務所兼住居のうちの建物のエレベーターは4名定員だが、ホームエレベーターの規格ではなく、一般的なエレベーターの規格で、最も小さいサイズである。
 地下室に行くのにも鍵が必要で、私は同じ鍵を使用して、地下階にも行ける設定にしてみた。
 それで実際に地下室に行ってみたり、最上階の4階に行ってみたりした。

 愛原「うん。どうやら、この鍵で間違い無さそうだ」
 高橋「それじゃ、あの民宿のエレベーターも……」
 愛原「これと同じメーカーであるのなら、この鍵で操作できるはずだ」
 高橋「おおっ!」

 私達は再び1階に戻ると、ドアが閉まったのを確認し、外側からまた鍵で電源を落とした。

 新庄「どうでしたか?」
 愛原「この鍵で間違い無いようです。ありがとうございます。この鍵、お借りします」
 新庄「御嬢様の御命令ですから、どうぞご随意に。使用が終わりましたら、御嬢様に御返却願います」
 愛原「分かりました」
 新庄「これから、どうなさいますか?」
 愛原「取りあえず、大宮駅まで乗せて頂いて宜しいですか?」
 新庄「かしこまりました」

 私達はガレージに行くと、再び新庄さんのタクシーに乗り込んだ。

 新庄「ここからですと、大宮駅は西口の方が近いですが……」
 愛原「ええ。西口でお願いします」
 新庄「かしこまりました」

 新庄さんはタクシーを出すと、一旦、家の前の市道にタクシーを止めた。

 新庄「少々お待ちください」

 新庄さんはそう言って、ガレージのシャッターを閉めた。
 そして、ガレージを閉めると、また車に戻って来た。

 新庄「お待たせしました」
 愛原「いえいえ」

 新庄さんはタクシーの料金メーターを作動させると、再び車を走らせた。

 高橋「ていうかあのシャッター、電動じゃなかったか?」
 新庄「今はブレーカーを落としてございますので、今は手動なんですよ」
 高橋「そういうことか……」
 愛原「ちょっと電話させてください」

 私は自分のスマホを取り出した。
 タクシーは狭い一方通行の道を進んでいる。
 一通である為、どうしても少し遠回りしないといけない。
 私が掛けた先は、善場主任。

 善場「はい、善場です」
 愛原「あっ、善場主任、お疲れさまです。愛原です」

 私は斉藤家での事を報告した。

 愛原「……というわけで、エレベーターの鍵は現地でも使用可能と思われます」
 善場「承知致しました。では改めて依頼させて頂きますので、まずは当事務所まで御足労願っても宜しいでしょうか?」
 愛原「分かりました。では、午後イチで伺います」

 私はそう言って電話を切った。

 愛原「昼飯食ったら、デイライトさんの所に行くぞ」
 高橋「わ、分かりました」

 それから私は、民宿さのやに電話した。

 愛原「あ、もしもし。伯母さん?学ですけど……。実は早速、約束を実行したくて……。ほら、近いうち泊まりに行くって約束。でさ、直近で部屋が空いているのっていつ?」
 伯母「週末以外は空いてるね。1部屋?2部屋?」
 愛原「週末以外か。ということは、今日なんかも空いてるの?」
 伯母「空いてるけど、今からだと食事の準備やら何やら間に合わないから、もっと後にしてくれる?」
 愛原「分かったよ。じゃあ、明日」
 伯母「明日ね。明日の1部屋なら空いてるわよ。何名様なの?」
 愛原「2人。俺と俺の助手」

 平日だとリサは学校があるし、パールは事務所で留守番しててもらう必要がある。
 なので、私と高橋の2人で十分だと思った。

 伯母「大人2名様ね。それにしても、急な話だね」
 愛原「まあ、目的は公一伯父さんなんだけどね」
 伯母「あのヤドロク、全く帰って来ないのよ。それとも、学が来るタイミングで来るのかしらね」
 愛原「それはそれで逆に楽でいいね」
 伯母「まあ、警察に追われてる身だから、わざわざ捕まりには来ないか」
 愛原「警察来るの?」
 伯母「最近、よく駐在さんが巡回連絡をこまめにしてくるようになったのよ。それだけじゃなくて、前の通りをパトカーがよく走るようになったの」

 かなり警戒されてるな……。
 こりゃ伯父さんも、のこのこ帰ってこれないか。

[同日11時50分 天候:晴 さいたま市大宮区錦町 JR大宮駅]

 タクシーは大宮駅西口のタクシー乗り場に到着した。

 新庄「はい、着きました」
 愛原「お世話さまです。また、領収証お願いします」
 新庄「かしこまりました」
 愛原「どうもお世話になりました」
 新庄「いえいえ。御嬢様がお元気で何よりです。それと……」

 新庄さんは高橋をチラッと見た。

 新庄「パールも元気でやっているようですな」
 高橋「おかげさんで」

 私は料金を払い、お釣りの数百円については……。

 愛原「家を案内してくれた御礼です。取っといてください」
 新庄「あ、こりゃどうも恐れ入ります!」
 愛原「また機会がありましたら、宜しくお願いします」
 新庄「こちらこそ、またお待ちしてございます」

 私達はタクシーを払うと、2階のコンコースに上がるエスカレーターに乗った。

 愛原「新庄さん、元気で良かったな」
 新庄「パールにも伝えておきますよ」
 愛原「そうしてやってくれ。それじゃまあ、飯食って上野東京ラインにでも乗るか」

 2階に上がると、私達は手持ちのSuicaで改札口を通過した。
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“私立探偵 愛原学” 「新庄運転手と再会」

2023-12-25 14:51:16 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月8日10時50分 天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区天沼町 自治医科大学付属埼玉医療センター・タクシー乗り場]

 新庄さんのタクシーを見つけたはいいものの、タッチの差で逃してしまった。
 私はダッシュで後を追った。
 もしかしたら県道の交差点で、赤信号で止まってくれるかもしれないと思ったからだ。
 しかし、タクシーは医療センターの敷地外に出ることはなかった。
 タクシー乗り場には、タクシーが1台しか付け待ちできない。
 そこでタクシーが出ない限り、後から来た空車は、タクシープールで待機しなくてはならないのだ。
 別のタクシーがまだ付け待ちをしているということもあり、新庄さんのタクシーは待機場の中に入って行った。
 そして、その先頭スペースで止まる。

 高橋「先生、大丈夫ですか!?」

 ようやくバスを降りた高橋が走ってきた。

 愛原「だ、大丈夫だ」
 高橋「たく、あのお婆ちゃん!」
 愛原「まあまあ。病院発着の路線バスあるあるだ。それより、新庄さんだ!」

 私達は再びバス停の方へと向かった。
 タクシープールの先頭部分は、ちょうどバス停の辺りにあるからだ。

 愛原「んっ!?」

 と、そこへ付け待ちしていた別のタクシーが、乗客を乗せて出発して行った。
 そして、新庄さんのタクシーが空車表示を掲げてやってきた。

 愛原「こ、これだ!」

 私達が乗客だと思っているようで、すぐにセダンタイプのタクシーのドアを開ける。

 新庄「はい、どうぞー!」
 愛原「お願いします!」

 私と高橋はリアシートに乗り込んだ。
 そして、新庄さんはドアを閉める。

 新庄「どちらまで行かれますかー?」
 愛原「さいたま市中央区上落合○丁目△-□までお願いします」

 私が斉藤家の住所を言った。

 新庄「上落合ですね。かしこまりました。えー、○丁目△-□……。!?」

 新庄さんは聞き覚えのある住所と番地を言われたので、バッとルームミラーで私達を見た。

 新庄「えっ!?えっ、えっ!?」

 そして、今度は直接後ろを振り向いて私達を見る。

 愛原「やあ、どうも、新庄さん。お久しぶりです」
 高橋「どもっス」
 新庄「ややや!これはこれは!愛原さん!どうも、しばらくでございます!」
 愛原「いや、本当に」
 新庄「どうしてここへ!?」
 愛原「それは追々話しますので、まずは今の住所、つまり斉藤家まで行ってもらえますか?もちろん、料金は払います」
 新庄「か、かしこまりました!」

 新庄さんは料金メーターを作動させると、タクシーを走らせた。
 すぐにセンターの敷地外に出て、まずは県道との交差点の赤信号で止まる。

 愛原「実はお願いがありまして、家の中に入らせて欲しいんです。家の鍵を持っているのは新庄さんだと、絵恋さんから聞きましてね」
 新庄「御嬢様が……。はい、確かに私は鍵を預からせて頂いております。旦那様からは、ハウスキーパーとしての御役目も賜ってございますので」
 愛原「やっぱりですか。で、家の中を見せて頂くことは?」
 新庄「それは何故ですか?」
 愛原「家の中にエレベーターがありますでしょう?メーカーが三菱日立ホームエレベーターの」
 新庄「あ、はい。ございますが……」
 愛原「その鍵、絵恋さんが持っていたんですよ」
 新庄「お嬢様でしたか……。いえ、実はエレベーターの鍵、何本かメーカーさんから頂いてはいたんですが、どうも1本足りないような気がしていたんです。それがどうかしましたか?」
 愛原「絵恋さんは何の気無しにその鍵を持っていたようだったので、本当にエレベーターの鍵かどうか分からないそうです。ただ、エレベーターの中に落ちていたというだけで」
 新庄「こ、これは私としたことが……。もしかしたら、紛失したのは私の方だったのかもしれません。それを御嬢様がお預かりされていたということだったのですね」
 愛原「その経緯はちょっとよく分からないんですが……。ただ、本当にこの鍵でエレベーターが作動するか、それを確認したいんですよ」
 新庄「わざわざ旦那様の御宅で、ですか?」
 愛原「他に同じエレベーターを導入している所に、なかなか心当たりが無くて……」
 新庄「まあ、愛原さんの頼みですし、なるべくならお応えしたいところですが……」
 愛原「私の頼みというだけでは難しいですか?」
 新庄「申し訳ございません。愛原さんを疑っているわけではないのですが……」

 信号が青になり、車が走り出す。
 来た道を引き返すように、まずは大宮駅の方に向かって走る。
 そして、また途中の赤信号に引っ掛かった。

 愛原「それなら、これはどうです?」

 私は鞄の中から、絵恋の手紙を取り出した。
 それを新庄さんに渡す。
 これで信じてくれなかったら、あのブルマを出すしかないが……。

 新庄「確かにこれは御嬢様の字です。うーむ……。分かりました。御嬢様の御命令とあらば、承りましょう」
 高橋「いいのか?証拠ならもっとあるぞ」

 と、高橋が余計なことを言う。

 新庄「結構です。逆に、今の高橋さんの言葉で確信が更に持てました。御嬢様のお手紙以外にも証拠がおありということは、けして愛原さんの仰ることが嘘ではないと……」
 愛原「もちろんです。新庄さんにウソを付く為に、わざわざ東京から来たりしませんよ」
 新庄「それもそうですね。それでは、御嬢様の御宅へ向かわせて頂きます」
 愛原「よろしくお願いします」

[同日11時10分 天候:晴 さいたま市中央区上落合某所]

 医療センターからだいたい15分ちょっとで、タクシーは閑静な住宅街へやってきた。
 マンションも建っているが、一軒家も多く建っている。
 建売住宅とかはともかく、それ以外の一軒家については庭付き・車庫付きであった。
 そして、中には豪邸とも言える大きな家も散見される。
 さいたま市の中では、高級住宅街とも言える場所であった。
 そんな豪邸の中に、斉藤家も含まれているというわけだ。
 但し、斉藤家の場合、敷地面積そのものは狭いが故に、縦に広く作らなくてはならなかった。
 地上4階建ての屋上付き、そして地下室付きであった。
 当然階段の上り下りは大変なので、ホームエレベーターが設置されている。
 高級住宅街にしては、道は1車線分だけと狭いので、タクシーが路駐できない。
 そこで新庄さんは、ガレージのシャッターを開け、その中にタクシーを入れた。

 愛原「一旦、料金払いますね」
 新庄「かしこまりました」
 愛原「領収証をお願いします」

 私はまず、ここまでの料金を支払った。
 その為、タクシーはここで『空車』表示となる。

 新庄「それでは、中をご案内させて頂きます」

 新庄さんはガレージ奥のドアを、持っていた鍵で開けた。
 私の記憶では玄関前の廊下に出るはずであり、玄関とは反対方向に歩いて行くと、突き当りにエレベーターがあるはずである。
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