報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「八王子を発つ」

2021-09-27 19:48:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月29日07:00.天候:曇 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル1F・食堂]

 発砲事件から一夜明けて、私達は起床した。
 昨夜はあまり眠れない夜を過ごしてしまった。
 幸いホテルが襲撃されることはなく、無事に夜をやり過ごせた。
 4人で食堂に着くと、何となくホッとする。

 スタッフ:「おはようございます」
 愛原:「4名です」

 私はスタッフに朝食券4枚を渡した。

 スタッフ:「それでは、こちらへどうぞ」

 私達は4人用のテーブル席へ案内された。
 ホテルの宿泊者専用食堂のようで、他に先客はいない。
 テレビが設置されていて、それでNHKが点けられていた。
 当然ながら、昨夜の発砲事件が報道されている。
 このホテルの近くで中継も行われているようだ。

 高橋:「俺達、藤野に向かっていいんスかね?」
 愛原:「善場主任からは何も連絡は無いんだし、いいんじゃない?」

 逆に、ガッツリ厳しい出入管理がされている研修センターの方が安全のような気がした。

 高橋:「はあ……」

 和定食が運ばれてくる。
 焼き鮭が一切れに半熟卵、きんぴらごぼうの入った小鉢に漬物の小皿。
 それに御飯と味噌汁と焼きのりが付く。
 典型的な和定食だが、リサには物足りない量かもしれない。
 案の定、リサが真っ先にペロリと平らげてしまった。
 魚にあっては、骨1つ残さずだ。
 おひつに入った御飯を何杯もお代わりして食べる。
 見かねた女将さんらしき女性が、『どうせお米が余っているので』と、新たなおひつを持って来てくれた。
 逆に食欲が無いのが絵恋さん。
 リサを抱き枕代わりにしても眠れず、銃撃戦の恐怖が残っているからだ。
 リサはそんな絵恋さんの残した物も平らげてしまった。
 マグナムすらロクに効かないリサにとっては、ハンドガン程度の銃弾は小石が当たる程度のダメージなのだ。
 ハンドガンというのは、昨夜の銃撃戦、銃声的にハンドガンが使われたのではないかと思ったからだ。
 嫌だな。
 今や私も、銃声だけでどんな銃が使われたのか判断できるようになってしまった。
 そのハンドガン自体は、実は今、私も高橋も持っている。
 もちろん、ちゃんと当局からの許可済みだ。
 使用目的も、『生物兵器災害(所謂バイオハザード)に際し、暴徒等からの襲撃に対してのみ可』となっている。
 もちろんこの『暴徒等』というのは、ゾンビやクリーチャーも含まれている。

 愛原:「八王子発8時16分の電車に乗るから、食べたらすぐ出られるようにしておいて欲しい」

 と、私は3人に言った。

[同日08:14.天候:曇 同市内 JR八王子駅→中央線527M列車先頭車内]

 朝食後にホテルをチェックアウトした。
 改めてオーナーには、藤野からの帰りに寄るので、その時までに白井画廊の詳細を調べてもらうようにお願いした。
 途中、駅までの道は物々しい雰囲気に満ちていた。
 あちこちに警察の規制線が張られ、そこかしこに警察官が立っている。
 その隙間を縫うようにしてマスコミがいた。
 中には、テレビで見たことのあるリポーターもいたような気がした。
 因みに警察側は警察官が2人射殺され、3人が重軽傷。
 警察側はテロリストを2人射殺したという内容である。
 生きて逮捕したテロリストはおらず、結局テロリストは何人いたのか不明であるという。
 今は射殺した2人のテロリストの遺体を押収して、身元の特定を進めているとのことだ。

〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の列車は、8時16分発、普通、甲府行きです。この列車は3つドア、6両です。……〕

 駅前で銃撃戦が行われても、駅構内はいつもの通りだった。
 いつもの朝ラッシュで賑わっている。
 東京都心へ向かう上りホームが混雑していて、私達が電車を待っている下りホームはガラガラだった。

〔まもなく4番線に、普通、甲府行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は3つドア、6両です。……〕

 ホームに接近放送が流れる。
 電車はこの駅始発ではなく、隣の豊田駅始発である。
 そこには豊田車両センターがあり、そこに留置された車両が出区する関係である。
 しばらくすると、かつて高崎線等で使用された中距離電車211系がやってきた。
 JR東日本では数少なくなった国鉄型車両である。
 6両編成全ての車両がロングシート車であった。

〔はちおうじ~、八王子~。ご乗車、ありがとうございます。次は、西八王子に止まります〕

 

 緑色のモケットに張り替えられた座席に座る。
 3ドア車のロングシートなので、本当に長い座席である。

〔「8時16分発、普通列車の甲府行きです。終点、甲府までの各駅に停車致します。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 一応、電車に乗る前、私は善場主任に確認のメールを送ってみた。
 主任の返事は、『安全が確保できるようなら、向かってください』とのことである。
 つまり、特に危険性が無ければ向かって良いということだ。
 実際、今のところは何も危険は発生していない。
 なので、向かわなくてはならないということだ。
 車内では終始無言であった。
 しばらくして、ホームから陽気な発車メロディが聞こえて来た。
 八王子駅オリジナル“夕焼け小焼け”である。
 朝っぱらからそういう発車メロディが流れるのはどうかと思うが、これは“夕焼け小焼け”の作者が八王子市出身だからとのこと。
 今は運行されていないが、地元のバス会社ではボンネットバス“夕焼け小焼け号”があったほどだ。

〔「8時16分発、普通列車の甲府行き、まもなく発車致します」〕
〔4番線の、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 国鉄型ならではの、エアーの抜ける音がしてドアが閉まる。
 そして、インバータ制御ではないモーター音が響いて来た。

〔「お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございます。この電車は中央線、普通列車の甲府行きです。終点、甲府までの各駅に止まります。次は西八王子、西八王子です。……」〕

 自動放送は無く、車掌が肉声放送を行う。

 絵恋:「電車に乗ってしまえば、安全ですか?」

 絵恋さんが不安そうに私に聞いて来た。

 愛原:「……ああ、そうだな」

 私はそう答えた。
 本当はまだ安全・安心ではない。
 私もヘタに窓から顔を出して撃たれてもつまらないので、昨夜は窓から顔を出すことはなかった。
 しかし一応、カーテンの隙間から様子は見てみた。
 もちろん部屋の照明は消したままだ。
 点けると、外からそこの部屋の住人が起きているのだと分かってしまう。
 テロリストの1人は、相手が警察官(私が見たのは私服警察官)相手に怯む事無く銃を発砲していた姿だった。
 つまり、警察を恐れないテロリストなら、この電車内で銃撃事件を起こす事など容易いだろうと思う。
 幸か不幸か、この電車の座席は全てロングシートである。
 クロスシートと違って死角は少ない。
 しかしその反面、隠れる場所も少ないということになる。
 中距離電車ということもあって、先頭車と最後尾車にはトイレが付いているが、そこくらいだろう。
 今のところこの車両に怪しい人物はいないが、しかしだからといって油断できないのが実情だ。
 他の2人はいいが、絵恋さんには余計な不安を与えたくないので、あえてウソを言ってしまった。
 高橋もリサも私のウソには気づいているようだが、空気を読んだのか、特にツッコミを入れて来ることはなかった。

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