報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

霧雨けむる大石ヶ原

2014-04-21 22:48:52 | 日記
 今月も添書登山を敢行した。
 罪障消滅で雨だったが、途中から雨足が強くなり、仏罰じゃないかと首を捻ったほどだ。
 今回も経費節減の折、JRバス関東“やきそばエクスプレス”1号で向かった。
 乗り換え無しで行ける便利さが素晴らしい。

 
(JRバス関東“やきそばエクスプレス”号。富士急静岡バスと違い、便名を大々的に表示していない。尚、写真は別の日に撮影したもの)

 平日のせいなのか、大石寺まで乗り通す乗客(つまり、登山者)は年配者ばかりだ。
 ただ、これにも1つ罠があって、終点の第2ターミナルから新・登山事務所までは徒歩10分くらい掛かるから気をつけてくれ。
 まだ、新富士からの登山バスで、総坊前で降りた方が断然近いというのは【禁則事項です】。
 カンベンしてくれよ、とっつぁーん!(←誰だよ!)

 バスが多少でも遅延して到着して御覧なさい。それから登山事務所まで行って、内拝券の交付を受けるだろう?
 そこまではいいのだが、受付の御僧侶から、
「11時20分から布教講演がありますので、ご参加ください」
 と言われる。
 で、今日は場所どこっスか?この前みたいに裏塔中はカンベンだよ。
 こんな雨ん中……。
 【とある表塔中】坊ね。ハイハイ……。

「すいません、豚汁定食1つ!」
「はい、ありがとうございます。……あれ?お客さん、布教講演は?」
「え?なに?それ、お勧めメニューなの?」
「いえ……」
 不良信徒、HNユタこと、PN雲羽百三参上!
 うむ。朝食が八重洲地下街のコーヒーショップだったもんで、あんまり食べていなかったのだ。
 それでも大食漢には物足りない量かもしれないが、私には完食してちょうどいい量だ。
 さすがは私のイチオシの店、“なかみせ”である。
 え?布教講演の内容?坂井久美子さんかセロリさん辺りにでも聞いてくれ〜。

 信じられないかもしれないが、こんな信心不良の莫迦信徒も登山してたりするんですよ。
 だから肩肘張らず、顕正会活動や学会活動に疑問がある方は、どうぞお近くの寺院を訪ねておくんなまし。
 しっかしまあ、アレだ。
 週末に登山することは殆ど無いが、平日ってやたら外人信徒が多くね?
 辺りから中国語ばっかり聞こえてきて、ほんと……。
 ただでさえ日中関係悪化してんのに、随分と度胸のある……え?違うの?……台湾?ああ、台湾ね。
 確かに日台関係は良好で、例えば金沢方面にはドッと台湾からの観光客が押し寄せているというニュースを見た。
 大石寺は観光地ではないが、同じようなものなのだろう。
 逆にシタ朝鮮からの信徒はゼロ。いっえーい♪文句なら、反日活動してる同胞達に言ってくれ。
 いかに日蓮正宗信徒と言えども、反日国からは個人的にカンベンだな〜。

 たまに日本語聞こえてくるなと思ったら、まあ年配者ばっかだ。
 もしかして海外(特にアジア)弘通はそれなりに進んでいるが、国内の弘通は頭打ちか?
 もし国内も進んでいるのなら、平日登山者(日本人)が年寄りばっかってことは無いだろ?
 宗内全体から見れば信徒数は増加しているのだろう。
 しかし国籍ごとに内訳してみたら、日本人信徒の増加率、意外と低かったりして。
 だけど宗内全体では増加している。
 平成27年の誓願、外人信徒で達成させるというオチかもしれない。
 いや、それでもいいんだろうけど、何かなぁ……顕正会にいたせいか、日本の広宣流布が先だろ?って気がしてしょうがないのだが……。
 顕正会でもモンゴル人会員が体験発表したりしているが、あくまでメインは日本の広宣流布であって、海外弘通はついでという感じがする。
 もう1度……今度の支部登山は週末に行われるから、休みを取って参加してみよう。
 あくまで、日本人より外人の方が御開扉参加者が多いという現象は平日限定であるという確信を持ちたい。

 ああ、そうそう。
 バスを降りた時、アジア系信徒に片言の日本語で登山事務所の場所を聞かれた。
 一応向こうから見れば、私はちゃんと日本人に見えるらしい。これだけがホッとした時かな。

 六壺の勤行に参加した後は、タクシーでバスの営業所に向かった。
 どうせタクシー乗り場にタクシーがいないだろうと思いきや、2台も客待ちしていたので、すぐに乗れた。
 運転手の話だと、今日は不景気で、5時間も客待ちしていたという。
 あれ?御開扉の後、すぐ帰る信徒達が来なかった?
 ……来なかったの?
「今日って、ガラガラでした?」
 と、聞かれたので、
「いや、平日の割にはそこそこいたよ」
 と、答えてすぐ、
「外人8割w日本人2割ww」
「ああ、そうですか。まあ、外国人さんはタクシー使いませんからね」
 その通り。あの台湾人達も、恐らくは台湾の布教所辺りからの支部登山だったのだろう。
 昨日は好景気で、1日だけで10万円もの売り上げを出したとのこと。
 その反動で、私が午後初の客か……。

 東名高速、首都高速は往復ともに渋滞ゼロだった。
 安全かつほぼ定時に行き返りできたのだから、けして本門戒壇の大御本尊は、私を拒絶されているわけではないということか。
 うーん……まだ掴めないな。
 夏期講習会は行けないだろうから、また来月添書で行くか……。
 
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 後日談

2014-04-20 21:20:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月中旬 さいたま市西区 青葉園 栗原江蓮&蓬莱山鬼之助]

「当時のスケバンメンバー、マスコミに嗅ぎ付けられて大変な目に遭ってるみたいだぜ?確かにもう30年以上前のことだから時効は時効だがな」
 キノは皮肉を込めて言った。
「うるさい。川井ひとみはもう死んでる。栗原江蓮が出て行ったところで、『あんた誰?』に決まってるだろうが」
 先を歩く江蓮はそう言った。
「それで葬式にも出なかったか。まあ、そういう理由じゃ当たり前か」
 キノは肩を竦めた。
「あった。ここだ」
 墓の場所を知ってるのは、威吹の諜報によるものだった。
 妖狐は諜報活動にも長けてるからである。
「お前も手伝え」
「へーへー」
 江蓮は真新しくてまだ汚れの無い墓石だったが、それを丹念に洗った。
「地獄界の獄卒が、人間界で墓石を掃除する姿はお笑いネタだぜ」
「黙ってやれ」
 墓を掃除した後は供え物や花を添え、線香を焚いた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 その後は数珠を取り出して、題目を唱え始める。
(はー、また姉ちゃんから呼び出しかよ……)
 後ろに下がったキノは、自分のケータイを出して、姉からのメールを確認した。
(この果てしないアルマゲドンは、いつまで続くんだろうか……)
「ごめんなさい……」
(……言えりゃとっくに終了、アルマゲドンってか……。ん!?)
 江蓮がすすり泣く声が聞こえて来た。
「ごめんなさい……」
 江蓮は墓石にすり寄って泣き出した。
(……オレも素直に謝ってみるか……)

 しかし、江蓮は東郷幸子の為に塔婆供養はしても、林田や稲見らに対する供養は一切しなかったという。

[同日同時刻 東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 会議室 藤谷春人&藤谷秋彦]

「春人、こんなデタラメな体験発表があるか!」
 秋彦は息子の春人に叱責した。
「いや、嘘じゃねぇよ!ガチだよ!」
「バカか!『幽霊と格闘しました』なんて、顕正会員の体験発表でも無いだろ!」
「いや、マジだっつの!」
「こんなの“大白法”に載せられんな」
「分かった!じゃあ、江蓮ちゃんに幽体離脱してもらおう!これで信じてもらえるはずだ!」
「ふざけるな!仏法はそんな教えじゃない!もうちょっとマシな体験発表書けんのか!俺は帰る!」
「いやオヤジ、ちょっと待ってくれよ!」

[同日同時刻 東京都23区内某所 ユタの通う大学 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

「ふーん……。ここが、稲生……ユウタの通う大学か?」
「はい、そうです。あそこが研究棟で、あそこが……」
 ユタは鼻の下を伸ばして、訪ねて来たマリアに大学内を見学させていた。
「あっ、そういえば、私があげたコ、役に立ったみたいだな?」
「ええ、おかげさまで。ありがとうございました」
「いや、お役に立てて何より」
「マリアさんには色々お世話になりましたし、今後とも何卒ひとつ……」

[同日同時刻 さいたま市中央区 ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]

「今年も桜散っちゃったな……」
「今年は呑気に花見をするどころではありませんでしたね」
「オレが里に行ってる間、かたじけなかったな」
「いいえ。これも先生の為です」
「幽霊なんて400年生きてきて、実は初めて見たよ。まあ、オレの場合はほとんど封印されてたんだけどな」
「オレもいい経験になりましたよ。それで、いかがなものでしょうか?」
「ああ。実に素晴らしい……素晴らしすぎるよ。この報告書の量!あと何頁読めばいいんだ?」
「えー……っと、それで約半分ですね」
「お前なぁ……!確かに詳細を書き残して報告してくれるその気概は褒めよう。俺も手に取るように、あの幽霊騒ぎのことが分かったし。だけど、もう少し簡潔に書けぬものか?」
「はあ……努力します」
「読み終える前に、ユタ達が帰ってきてしまうよ」
「稲生さんも、せめて鬼之助並みに肉食系であれば、一気にマリア師との距離が縮まるのですが……」
「いい!ユタはあれでいいんだ!お前、余計な入れ知恵するなよ?分かったら、返事!」
「は、ハイ」

 こうして各人、それぞれの日常に戻って行った。
                                 終
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 7

2014-04-20 19:44:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[30余年前 旧・大宮市内某所 川井ひとみ]

「……幸子にヤキ入れな」
「ひとみ……?」
「ひとみ先輩!?」
「とっととしな!掟違反だ!やれっ!」
「お……オーッス!!」

 6人くらいいた川井ひとみがリーダーを務めるスケバングループ。
 その中で1人、グループ内での取り決めを破ったメンバーがいた。
 リーダーの川井に誰1人逆らえず、4人のメンバーは掟違反の1人をリンチした。
 罪状は恋愛禁止違反。男に現を抜かした廉であった。
 しかもそれを発見したのは、リーダーたるひとみ自身。

「何だよ、その目は!?」
 ある程度殴る蹴るなどの暴行を加えた後で、ひとみ自身が幸子という名のメンバーをブン殴った。
 目つきが気に入らないという理由で……。
 それで……。

「ちょっ……!ひとみ先輩、幸子が息してません!」
「……ウソだろ?フカシてんじゃねーよ!」
「本当です!」
「ど、どうすんの、ひとみ?」
「このままじゃ……パクられちまうよ!」
「落ち着け!オメーラ!」
「先輩……!?」
「埋めちまおうぜ。死体が発見されなきゃ、殺人事件にはなんねぇ……」
「どっか山奥に……」
「いや、東京湾だろ」
「コンクリート詰めにしちまう……?」
「バカだな、オメーラ。そんな“ベタな死体遺棄の法則”にしてどうすんよ?ガッコに埋めちまおう」
「ええっ!?」
「学校!?」
「おうよ。『灯台下暗し』ってヤツだ。身近過ぎて、逆にわかんねーよ」
「さ、さすがひとみ先輩」
「分かったら、とっとと埋めに行くぞ!道具用意しろ!」
「オーッス!」

[現在。私立帝慶学院女子高 体育館裏 栗原江蓮(川井ひとみ)]

「幸子……!?」
「覚えててくれましたか。それとも、今思い出しましたか?」
「私も……死んだから……。でも、忘れるはずがない……」
「ええ。私が死んだ後、気持ちを晴らす為にバイクでかっ飛ばして、同じく死なれたそうですね」
「私は……」
「先輩。まずは体に戻ってください。早く戻らないと、腐りますよ?」
 魂の抜けた肉体は死体と同じだ。
「うっ……」
 川井ひとみは栗原江蓮の体に戻った。以降、栗原江蓮と呼ぶ。
 江蓮はヨロヨロと立ち上がった。
「ずっと……この世を彷徨ってたのか……?」
「私の死体が発見されたそうです。それがきっかけなのか分かりませんが、埋められた場所を動くことができました」
「……全部私が悪いわけでも、お前が悪いとも言わない。半分ずつ……半分は私が悪いし、もう半分はお前が悪い」

「ここは男らしく、『全部俺が悪い』って言えばいいのに……」
 藤谷はそう言った。
「女だっつの!」
 キノは藤谷を睨みつけた。
「だけど江蓮のヤツ、秘密全部暴露する気か?」
「まさか栗原さんが殺人犯だったなんて……」
 ユタは驚愕していた。
「人聞きの悪いこと言うな!殺意は無かったんだから、傷害致死だ!」
 キノがユタに文句を言った。
「いずれにせよ、死体遺棄も入れて犯罪者であることには変わりないな」
 カンジが淡々と言い放った。
「やったのは川井ひとみで、江蓮はカンケー無ぇからな?てか、そもそも時効だ!」
「でも、恋愛禁止の掟違反というだけで殺すなんて……」
「あー、そうだな……」
「何を隠している?洗いざらい吐いちまったらどうだい?」
 と、藤谷。
「いや、それは江蓮の為にも言えない」

 のだが、

「幸子が好きだったんだよ!それなのに男に目ェ向けやがって!」
 江蓮自身が暴露してしまった。

「ええーっ!?」
「言っちまったか……。言っておくが、江蓮はノーマルだからな?」
 キノは右手で頭を押さえた。
「レズビアン!?」
「いや、百合だろ?」
「華の女子校……女の園……萌ゆる……」
 ユタ達面々が勝手な想像をする中で、キノだけが冷静に、
「いや、川井ひとみの中学は公立の共学だって」

「何か、外野の男共がうるさいね?」
「気にしないでおこう。のうのうの生き返った私は、報いを受けなければならないな」
 江蓮は幸子の前に正座した。
「許してくれとは言わない。でも、謝らせてくれ。信じてくれないだろうが、殺すつもりは無かった。だけど、私は何もしない。気の済むまで、ヤキ入れてくれ」
 土下座をして言う江蓮に、それまで微笑を浮かべていた幸子の笑顔がスッと消えた。
 そして、
「そう?じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうか」
 一気に霊力を開放し、邪悪な笑みへと変わる。

「まずい!」
「江蓮、逃げろ!」
 ユタ達の叫びに気づいた幸子が、ギンとユタ達に眼光を放つ。
「うっ!?」
「か、体が……!」
「め、メデューサ!?」
 全員、体の動きが封じられた。
 ユタや藤谷はもちろんのこと、妖狐のカンジや、獄卒のキノですら封じられるほどの力だ。
「栗原さん!」
 しかし、四肢などは封じられたものの、目、鼻、口などは動く。
「ぐっ……!」
 江蓮は首を絞められ、持ち上げられた。
「報いを受けてもらいます。ひとみ先輩」
「ひと思いに……やれ……」
「くぉらっ!東郷(幸子の名字)!てめぇ、分かってんのか!悪霊化したら、無間地獄の中でもっと重い処分だぞ!」
 キノが幸子に向かって叫ぶが、全く聞く様子が無い。
「先輩。覚えていますか?私がヤキ入れられてる間、私は『やめて』とか『助けて』とかは1度も言いませんでした」
(ああ……そう言えば……。だからこの報いに対しても、私は……何も抵抗してはいけない……何も……)
 背後からの男達の叫び声も小さくなり、頭の中が真っ白になっていく。
(悪かったな、栗原江蓮。せっかくもらった体、大事に使えなかった。詫びは地獄界できっちり入れさせてもらう……)

「わっ!ととと……!」
「うおっ、と!?な、何だぁ!?」
「急に体が……」
「動いた!?」
 勢い余って、つんのめったり、転倒する人間2人。
 しかし、妖怪2人は素早い動きで江蓮に駆け寄った。
「江蓮!」
 駆けつけると、江蓮はその場に倒れた。
「貴様ぁっ!!」
 キノは刀を振り上げると、幸子に振り下ろした。
「貴様は無間地獄、其参珀拾伍“永夜抄”送りだ!!」
「う……ゲホッゲホッ!……ゲホッ!」
「!? 栗原殿!?生きておられ……!?」
 カンジは江蓮に駆け寄った。
「鬼之助、栗原殿は生きてる!」
「何だって!?」
「一体、何だってんだ!?」
「稲生さん、取り急ぎ、病院へ!首を死ぬ直前まで絞められたのは事実です!」
「そ、それなら、こんな事もあろうかと……!」

 ユタは学校まで乗って来たワンボックスカー(藤谷の車の代車)に戻ると、フランス人形を持ってきた。
「ユタ!お前、お人形さん遊びしてる場合じゃねーぞ?」
「違うよ!マリアさんの魔法に、回復魔法があったはずだ。お願い!栗原さんの傷を治して!」
 ユタはフランス人形を抱きかかえると、江蓮に向けた。
 フランス人形がカタカタと動き出すと、両目がピカッと光り、江蓮の体を照らす。
「う……。何か……痛みが無くなった……」
 江蓮は喉元に手を当てて言った。
「やった!さすがマリアさん!」
 ユタは大喜び。
「あの魔道師、こんなこともできるのか……」
 キノは呆れたような顔をした。

[翌日05:00.さいたま市内の県道 ユタ、カンジ、藤谷、江蓮、キノ]

「もう朝じゃんよ。ったく、夜間工事でも無ェのに……」
「班長、大丈夫ですか?僕、運転代わりましょうか?」
「いや、いいよ。稲生君、免許取ってからペーパーだろ?」
「まあ……」
「こう見えても夜間工事の後で、よく車を走らせてるから大丈夫」
「はあ……」
「なあ、キノ」
 江蓮はキノに声を掛けた。
「ん?」
「お願いがある。幸子を許してくれ。あいつは私を殺さなかったし、半分は私の責任だから……」
「ダメだ。未遂罪も未遂罪で、しっかり断罪される。“永夜抄”送りは免れねぇさ」
「何だい?その“永夜抄”って?東方Project?
 ユタが聞いた。
「永遠に闇の中を彷徨うだけの地獄だ。闇も闇。全くの光は無く、音も無い」
「そんな所に閉じ込めるなんて……!本当は私が閉じ込められるべきだったのに……!」
「そんなことはさせねぇ。お前はオレのもんだ。その栗原江蓮の体で、オレの女になってもらう」
 すると、江蓮は自分のケータイを出した。
「そんなこと言ってますが、どうしますか?お姉さん?
「は!?」
{「くぉらーっ!鬼之助ッ!アンタ、何の権限があってそんな勝手なマネしてんの!?いいから、今日中に家に帰らないとヒドい目に遭うよ!?」}
「ひええっ!か、か、カンベンしてくださいぃぃぃぃっ!!」
「こ、こえー……!今のがキノの姉ちゃん?」
 藤谷もハンドルを握りながら手に汗も握った。
{「江蓮ちゃん、バカは私に任せて、困ったことがあったら、何でも言ってね?」}
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
(本当に鬼のようなお姉さんだけど、栗原さんには優しい……)

 江蓮は鬼之助の姉との交渉により、東郷幸子に関しては遺体を墓に埋葬後、日蓮正宗の塔婆供養をすれば、蓬莱山家が後は取り計らうという約束を取り付けることができたという。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 6

2014-04-19 19:32:05 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1年前の初秋 地獄界の入口 蓬莱山鬼之助]

「ったくよォ、何でエリートのオレが、こんな所でモギリやらされてんだよ?」
「モギリじゃない!れっきとした入獄審査だ。だいたい、本来ならお前は停職が解かれないままなんだぞ?」
 文句を垂れるキノに叱咤する別の獄卒。
「あー、分かってるよ。地獄界に来る罪人が増えてるままなんで、人手不足でオレをバイト扱いで復帰させようって魂胆だろ?ミエミエなんだよ」
「分かってるならちゃんとやれ。働き具合によっては、正式に復帰できるかもしれんぞ?」
「へいへい」
 そこへ列車の音が響いてくる。
「冥鉄が到着した。しっかりやれよ」
「分かったよ」
 冥界鉄道公社。この世とあの世を結ぶ鉄道。
 多くは旧国鉄などの旧型車両が使用される。
 列車の一部は魔界まで運転され、現地鉄道会社に乗り入れる。
 但し、人間界から魔界までの運転本数は意外にあるものの、魔界側では折り返し回送になることが多く、魔界側から運転される列車はほとんど無い。
 ユタと威吹はこの列車に乗って、魔界まで行ったとされる。

「浅井小衛。お前は仏法を破壊した罪が第一に出てるな。無間地獄だ」
 キノはドンと書類にハンコを押す。
「池田台作。お前も仏法破壊か。無間地獄。はい、次ィ!」
 今度は少女だった。
「えー、林田希美。……自殺か。自殺は罪が重いぜ。まあ、叫喚地獄ってとこか」
「あの……」
「あ?文句たれるな。とっとと行けっ」
「蓬莱山鬼之助さん……ですよね?」
「あ?何でオレの名前知ってんだ?」
「私……栗原江蓮さんと同じクラスです」
「……だからどうした?」
「無間地獄ってどんな所なんですか?」
「オシャカ様でも紹介できねーくらい、そりゃもう大変な所だよ。まあ、幽霊になって現世を永劫彷徨うってパターンなんかあるよな」
「それ!それにしてください!」
「は?お前、バカか。無間地獄は地獄界の最下層でよ、正に無限の時を過ごす最悪な場所だぞ?まだ有期の叫喚地獄の方がオススメだぜ?」
「私、幽霊になります!幽霊になって、復讐を……!」
「プッ!お前、何言って……。マンガの読み過ぎじゃねーのか?」

[現在の4月某日14:00.さいたま市大宮区 江蓮の家 蓬莱山鬼之助]

「……いや、まさかあんな騒ぎ起こすとは思わなかったわ〜。こりゃ、口が裂けても江蓮には言えねぇ……」
「聞こえたぞ、コラ」
「うおっ!?」
 いつの間にか背後にいて、キノの独り言を聞いていた江蓮だった。
「お前が林田を幽霊化させていたとは……」
「いや、オレじゃねぇ!無間地獄って所は、言わば何でもアリの世界なんだ。数あるパターンの中で、幽霊になるってのも確かにあるんだけどよ、まさかあいつが幽霊になって、しかも規則ブッチギリの悪霊化なんて、マジ想定外だったんだって!」
「ちゃんとケツ吹かないと、お姉さんにチクるぞ?」
「やめて!殺されます!!」
 キノの実家は大家族であるが、中でも長姉は両親よりも恐怖の対象である。
 前に江蓮も会ったことがある。
 どういうわけだか、江蓮には優しかったが……。
 その時、江連のスマホが鳴り出した。
「藤谷班長から?もしもし?」
{「あ、栗原さん。ちょっと今日、これから時間ある?稲生君が何か事件解決に向けて、作戦を立案したらしいんだけど……」}
「稲生さんが?」

[同日22:00.さいたま市某区 私立帝慶学院女子高 ユタ、カンジ、藤谷、江蓮、キノ]

「こんな夜中に“降霊会”やる必要あんの?」
 江蓮がジト目でユタを見た。
「これ以上の犠牲者が出る前に、カタを付けたいんだ」
 ユタは決意するように言った。
「そうしてもらいたいな。これ以上事件が続くと、仕事が進まねぇ」
 藤谷も同調する。
「降霊会といっても、何か特別なことをするわけではありません。恐らく栗原さんが学校に入ったところで、あの林田さんってコが襲ってくるでしょう。後は作戦通りにお願いします」
「分かった」
 江蓮は校庭に入った。
 入ったのは江蓮1人。その方が幽霊も襲ってきやすいというユタの想定であった。
 江蓮はスカートのポケットに手を入れた。
「無いって……」
 江蓮は自嘲気味に笑った。
 緊張するとそういった癖があるのだ。
 どうしてか?生前、川井ひとみだった頃、よくそこにタバコを入れていたからだ。
 江蓮はあまりブレザーのポケットにモノを入れないことで知られている。
 その理由は、川井ひとみだった頃はセーラー服だったからだ。
 それはブレザーと違って、上着に物を入れるスペースが無いからだと思っている。
「あっ……」
 校庭で林田と会うことは無かった。
 その代わり昇降口まで行くと、ガラスに大きく血文字で、
『体育館裏に来い』
 と書かれていた。
 明らかに、江蓮に向けて書かれたものだった。
「フフ……」
 江蓮は何故か生前のことを思い出して、笑みがこぼれた。
 生前もよく体育館裏に呼び出したり、呼び出されたりしたものだ。
 呼び出す理由は気弱な同級生や後輩を呼び出してカツアゲしたり、リンチしたり……。
 呼び出された理由は、別のグループからケンカの申し込みとかだったが、ほとんどが大抵返り討ちにしたものだ。
 もっとも、今はそんなことはないが。

「来てやったぞ。出てこい」
 江蓮は暗闇に包まれた体育館裏までやってきた。
 だいぶ老朽化しているのと震災の影響もあって、建て直しが決定している。
 闇の中に向かって言うと、ボウッと視線の先に現れた。
「今野も美樹も安田も皆殺した。あとは、栗原さん。あなただけ」
「そうか。これで稲見のグループ全員死亡か。で、どうなんだ?」
「何が?」
「お前をイジメてたヤツ、全員殺したんだろ?成仏できそう?」
 すると林田の顔が憤怒の形相になる。
「怖くないの?もうすぐ私に殺されるのに……」
「だから何だ?私だって1度死んでる。どんな勝算と正義があって、そんなこと言うんだか……」
 林田が先手を仕掛けてくる。
「今だ!」
 突然、江蓮の背後にあった投光器が作動して林田を照らす。
「うっ!?」
 新体育館の夜間工事のため、藤谷組が配置していたものだ。
 幽霊が昼間に活動できないのは半分本当で、半分デマだ。
 実際に幽霊だった江蓮の体験によるものだが、どうも光に対する抵抗が弱く、光が常人以上に眩しく感じるとのこと。
 バイクの事故で死んだ川井ひとみだったが、その理由は逆光が眩しくて右折してきた大型トラックに気づくのが遅れて、慌ててハンドルを切ったことによる転倒であった。
 そういったトラウマがあって、幽霊時代は昼に活動できないというハンデがあった。
 しかし林田は電車に飛び込んで自殺したものなので、そういったトラウマは無い。
 メンバーの半分以上を電車に飛び込ませて殺したところに、そのこだわりを感じる。
 しかし恐らく、ユタはライトにトラウマがあると考えた。
「電車は障害物を発見して急停車する時、警笛とフルブレーキの他に、ヘッドライトをハイビームにするんだよ。死ぬ直前までそれを見ていたんだから、幽霊化する際のトラウマになってるはずだ」
 投光器の後ろで、ユタがそう解説する。
「オレの情報だぜ。本当は獄卒が知り得た亡者の死因とその時の状況なんて、部外秘なのによ……」
「投光器だけ貸し出せばいいんだから、俺は楽だな……」

 江蓮は幽体離脱した。
 そして、
「でやぁーっ!」
 林田に向かって飛び掛かる。江蓮は光を背にしているため、トラウマの影響はあまり無い。
 しかし、魂の抜け殻となった体は死体である。
 長い時間、空けるわけにはいかない。
 だが、
「はっ!」
 林田が投光器に向かって手を振ると、
「うわっ!?」
 投光器のライトが全部割れて消えた。
 再び闇が包む。
「マジかよ!?」
「念は私の方が強い!」
 取っ組み合いのケンカになる2人の幽霊。
 林田の言う通り、江蓮の方が押されている。
「栗原さん!」
 ユタが行こうとするのをカンジが止める。
「危険です、稲生さん!」
「カンジ君!だけど……」
「よく見てください。獄卒のキノですら動けないんですよ?」
「そ、そうかっ!?」
 ユタはバッとキノを見た。
「えっ!?」
 そこには茫然自失のキノがいた。
「ど、どうしたの、キノ?」
「どうしよう……姉ちゃんに何て言おう……」
「ん?」
 キノの手にはケータイがあり、そこには姉からのメールで、
『事情聴取するから実家に戻れ』
 と、書かれていた。
「あー、もうっ!」
 ユタは再び体育館の方を見た。
「うわっ!?」
 江蓮は地面に倒れ、林田が馬乗りになっていた。
「栗原さん!?」
 ユタが駆け出そうとした時、
「!!!」
 林田の背後に何者かが現れ、何か長い物で林田の頭を殴り付けた。
「ガキがイキがってんじゃねーよ……!」
 その者は江蓮から林田を引き剥がすと、何度も林田を殴り付け、ついには消滅させてしまった。
「お久しぶりです。覚えていますか?ひとみ先輩」
「あ、アンタは……!?」
 江蓮……もとい、川井ひとみはその者を見て驚愕した。
 それは……。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 5

2014-04-19 14:56:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月上旬 11:00.東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生ユウタ&藤谷春人]

「いいんですか、班長?年度初めで仕事忙しいんでしょ?」
「やかましい!」
 ユタの言葉に苛立ちを隠せない藤谷。
「こう事件ばっかり続いちゃ仕事になんねぇ!」
「対策会議とか……」
「事件は会議室で起きてるんじゃねぇ!現場で起きてるんだ!」
「……どこかで聞いた言葉ですね」
「で、その現場が複数なんだから、どっかの刑事ドラマ以上だぞ?」
「確かに……。でも、どうするんですか?」
「塔婆供養して、あの幽霊のクソ女鎮めるさ。聞けばキリスト教式で埋葬されたってことだから、尚更地獄界にも行けねぇんだろ」
「栗原さんが言ってましたけど、地獄界にすら行けない……あれ(幽霊としてこの世を彷徨う状態)こそ無間地獄じゃないかって話ですよ?」
「無間地獄に堕ちるのは勝手にしろって感じだが、今生きてる人間を巻き添えにすんなってことだ!」
 藤谷は憤然とした様子で、本堂内に入った。

「どうしました、藤谷さん?稲生さんも」
 受付に座っている所化僧が藤谷の様子に目を丸くしながらも、応対した。
「今度の御経の時間に塔婆供養お願いしたいんすけど、御住職は?」
「御住職様なら本日、佐藤さんの御入仏式でお出かけになっておられます」
「午後も?」
「はい」
「くそっ、こんな時に……!」
「あ、でも、副住職様が代わりに本日は御経の導師をされますよ?」
 御経の時間は基本的に毎日ある。
「どなたの御供養ですか?」
「赤の他人なんですけど、今生きてる人間に迷惑掛けまくってるんで、ちょいと鎮めてやろうかと」
「は?」
「班長、どうせなら全員まとめて塔婆供養してみては?」
 横からユタが口を出す。
「いいや。イジメの加害者連中は自業自得だから、しばらく地獄界を彷徨ってもらう」
(顕正会じゃ絶対無いな、こんなこと……)
 ユタはそう思った。
 そもそも、顕正会は塔婆供養の習慣が無い。

 で、御経の時間が終わった。
「御焼香するの初めてですよ」
「そうなの?稲生君も、先祖供養とかすればいいのに……」
「でも今現在、信心してるの僕だけですし……」
「そんなの関係無いよ。対象は誰でもいい。回向したい人がいれば、それでも塔婆供養はできる」
「うーん……」
「俺なんかしょっちゅうだぜ?はっきり言って藤谷家も景気の悪い家系でさ、自分達の代だけが信心してるだけじゃダメだって分かったんだ。結局、先祖からの不景気な因縁を断ち切る為には、子孫の功徳を回向してやんなきゃダメだってことでさ、やってみたら、嘘みたいに仕事がウハウハだよ。そんな中、今はもっと景気の悪いヤツに邪魔されてるけどな」
「これで幽霊さん、成仏できたでしょうか?」
「さあなぁ……」
 藤谷は肩を竦めた。
「普通に信仰してたつもりが、今じゃ妖怪達に囲まれやがってる。妖狐に鬼に雪女に幽霊だ」
「今度はカラス天狗辺りですかね?」
 折しも三門の上にはカラスが2羽止まっていた。
「……カンベンしてくれよ」
「藤谷班長、これからどうされるんですか?」
「しょうがないから、現場見てくるよ。ったく、サツの規制線が解かれない限り、仕事ができやしねぇ」
「自殺ってことになったんですね?」
「表向き、自分から落ちたって話だからな」
「僕も現場に行けませんか?」
「場所は女子高だぞ?工事関係者の俺はともかく、無関係の稲生君はムリだろ。……まあ、学校の入口までなら大丈夫か」
「お願いします」

[同日13:00.さいたま市某区 私立帝慶学院女子高 ユタ&藤谷]

「凄い寒気がする……」
 ユタはブルッと震えた。
「なるほど。ガッコの入口の時点でそれか。さすがは稲生君だな。で、あそこが新体育館の建設現場だ」
 車の中から藤谷が校門越しに指さして説明する。
 あの辺には黄色いテープが貼られていた。無論、警察が貼った『立入禁止』のテープである。
「何か、異変を感じるかい?」
「そうですねぇ……」
 ユタは近視ではないが、それでも近視者が遠くを見る時にそうするように、目を細くしたりしている。
「はい、双眼鏡」
「ありがとうございます。……って、何で双眼鏡が都合良く!?」
「これも現場の視察の為だよ」
 藤谷はしたり顔で答えた。
「そういうもの……ですか?」
「そういうものだよ」
 したり顔を崩さず大きく頷く藤谷。
「あっ、そうだ。助手席だと外から見えちまう。リアシートに行って、スモークガラス越しに見てくれ」
「はいはい」
 ユタは助手席から降りて、リアシートに向かった。
 が、
「班長、ロック解除してください」
「え?開かない?」
「はい」
「あれ?おかしいな……」
 藤谷は運転席からロック解除の操作をしてるのだが……。
「中古車だからな、こういうとこにガタが来てんのか?」
 藤谷は舌打ちしてキーを抜くと、それで開けようと自分も降りた。

 と、その時、

「わあっ!?」
「!!!」
 突然、2トントラックがベンツに突っ込んできた。
「……はっ!?」
 ユタは頭上に霊気を感じた。
「邪魔はさせない……!」
 しかし、耳元で声がした。
「いくら霊能者でも……止められない……!」
「くっ……!」
「何だよ!塔婆供養効いてねーじゃん!?」
「どうやら、僕達が手を出せる段階を越えているようです」
 ユタは顔を蒼くした。
「どんな強い怨念がありゃこんなことできるんだ!?」

[同日15:00.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ&威波莞爾]

「稲生さん、ただいま戻りました」
「お帰り。って、久しぶりに見たなぁ、カンジ君の第2形態」
「そうですか?」
 人間の姿をしている第0形態では短髪だが、第2形態では狐耳が生え、髪も肩まで伸びている。
「稲生さんにも危険が迫っていると伺い、先生がお戻りになるまでは人間形態を控えます。この方がいつ何時、非常事態が発生しても、すぐに対応できます」
「僕はただ巻き込まれただけだからね。僕自身は学校に近づかなければ大丈夫だと思うよ。それにカンジ君、いきなり第2形態なんて……大丈夫なの?」
「はい。『第1形態の姿になると、オレとキャラがカブるから』との仰せです」
「それ、威吹の命令じゃないだろ?」
「それと稲生さん。情報を集めてきました」
「どんな?」
「はい。幽霊の正体などについてです」
「ほお。よく調べたね」
「事件は1年ほど前に遡ります。【以下略。概要について、最初は栗原江蓮がイジめられるようになったが、夏休み前に心臓病で入院。“栗原江蓮”はそのまま帰らぬ人となる。いくら川井ひとみが乗り移ったとはいえ、医学的に有り得ない事象のため、夏休み終了後も退院できず。その間、ターゲットは林田という別の女子生徒に移る。そうこうしているうちに“栗原江蓮”が復帰するも、先述のように再びターゲットになることはなく、むしろその分被害はエスカレート。ついに自殺してまう。ここまではユタは知っている。その後、イジメの内容について淡々と話す】……オレ的には加害者達が全員死亡したところを叩くのがベストかと」
「どうして?」
「悪霊というのは往々にして、自分の恨みが晴らせたら成仏できると勘違いしがちです。しかし、それは大いなる勘違いというもの。地獄界に舞い戻るか、或いは既に目標を失ったにも関わらず、この世を彷徨い続けることの絶望感を味わうかのいずれかです。その時点で霊力は大きく低下していると見るべき。何しろ、目標に向かって突き進む者のエネルギーは強い。しかし、それを達成した後、もしくは挫折した時、そのエネルギーの萎み方は見ていて哀れなものです。稲生さんのお力なら、簡単に叩けるでしょう」
「叩くのか……」
「悪霊に情けは必要ありません。もし稲生さんがお寺の仲間を助けたいとお考えなら、そうするべきです」
「何か……カンジ君は、威吹より的確なアドバイスをしてくれるね?」
「僭越で申し訳ない。オレは稲生さんより実年齢で歳1つ下なだけですし、人間界で生まれ育ったものです。だから、考えが人間的なのかもしれません」
 しかし、カンジはれっきとした純血の妖狐である。
 だからなのか、あまり人間の血肉を喰らうという気持ちが起こらないという。
 逆に妖狐らしくないと威吹が嘆いていたのを思い出した。
「全員死亡を待つってのも、後味悪いな」
「彼女らがしたことを思えば、自業自得ですが……」
「しかし、栗原さんが狙われたのはどういうことだ?栗原さんは関係無いだろう?」
「考えられることは2つです。1つはまず……同じ幽霊の臭いがしたこと」
「それだけで?」
「しかもその幽霊(川井ひとみ)は、イジメ加害者だった者です。同じように復讐の対象にされたのかもしれません」
「おいおい!……もう1つは?」
「これは今言った理由に、もし林田が気づかなかったとしたらの話です。本来は栗原江蓮がイジメ被害を受けていたおかげで自分がターゲットにならずに済んでいたのに、それが入院したせいで、或いは戻って来ても何故かターゲットを強制解除させたせいで、自分がターゲットにされてしまった。これに対する恨みかもしれません」
「何だそりゃ。僕だって中学まではイジメられてたけど、そこまでは考えなかったなぁ……」
「まあ、男女の考えの違いもあるのかもしれませんが……」
「うーん……」
「だから稲生さん、悪霊にはこのまま好きにやらせましょう。そしてその後で……」
「いや、それはダメだ」
「稲生さん?」
「いずれにせよ、栗原さんまで復讐の対象にされたのであれば、やっぱり今やめさせないと」
「しかし、それは危険です。寺で供養しても、何の効果も無かったそうじゃないですか」
「供養の仕方が悪かったのかもしれない。せめて、栗原さんだけでも助けないと。カンジ君、力を貸してくれ」
「力を貸すのは構いませんが、オレにできることがあるかどうか……」
「うん。あるよ」
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