報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 5

2014-04-19 14:56:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月上旬 11:00.東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生ユウタ&藤谷春人]

「いいんですか、班長?年度初めで仕事忙しいんでしょ?」
「やかましい!」
 ユタの言葉に苛立ちを隠せない藤谷。
「こう事件ばっかり続いちゃ仕事になんねぇ!」
「対策会議とか……」
「事件は会議室で起きてるんじゃねぇ!現場で起きてるんだ!」
「……どこかで聞いた言葉ですね」
「で、その現場が複数なんだから、どっかの刑事ドラマ以上だぞ?」
「確かに……。でも、どうするんですか?」
「塔婆供養して、あの幽霊のクソ女鎮めるさ。聞けばキリスト教式で埋葬されたってことだから、尚更地獄界にも行けねぇんだろ」
「栗原さんが言ってましたけど、地獄界にすら行けない……あれ(幽霊としてこの世を彷徨う状態)こそ無間地獄じゃないかって話ですよ?」
「無間地獄に堕ちるのは勝手にしろって感じだが、今生きてる人間を巻き添えにすんなってことだ!」
 藤谷は憤然とした様子で、本堂内に入った。

「どうしました、藤谷さん?稲生さんも」
 受付に座っている所化僧が藤谷の様子に目を丸くしながらも、応対した。
「今度の御経の時間に塔婆供養お願いしたいんすけど、御住職は?」
「御住職様なら本日、佐藤さんの御入仏式でお出かけになっておられます」
「午後も?」
「はい」
「くそっ、こんな時に……!」
「あ、でも、副住職様が代わりに本日は御経の導師をされますよ?」
 御経の時間は基本的に毎日ある。
「どなたの御供養ですか?」
「赤の他人なんですけど、今生きてる人間に迷惑掛けまくってるんで、ちょいと鎮めてやろうかと」
「は?」
「班長、どうせなら全員まとめて塔婆供養してみては?」
 横からユタが口を出す。
「いいや。イジメの加害者連中は自業自得だから、しばらく地獄界を彷徨ってもらう」
(顕正会じゃ絶対無いな、こんなこと……)
 ユタはそう思った。
 そもそも、顕正会は塔婆供養の習慣が無い。

 で、御経の時間が終わった。
「御焼香するの初めてですよ」
「そうなの?稲生君も、先祖供養とかすればいいのに……」
「でも今現在、信心してるの僕だけですし……」
「そんなの関係無いよ。対象は誰でもいい。回向したい人がいれば、それでも塔婆供養はできる」
「うーん……」
「俺なんかしょっちゅうだぜ?はっきり言って藤谷家も景気の悪い家系でさ、自分達の代だけが信心してるだけじゃダメだって分かったんだ。結局、先祖からの不景気な因縁を断ち切る為には、子孫の功徳を回向してやんなきゃダメだってことでさ、やってみたら、嘘みたいに仕事がウハウハだよ。そんな中、今はもっと景気の悪いヤツに邪魔されてるけどな」
「これで幽霊さん、成仏できたでしょうか?」
「さあなぁ……」
 藤谷は肩を竦めた。
「普通に信仰してたつもりが、今じゃ妖怪達に囲まれやがってる。妖狐に鬼に雪女に幽霊だ」
「今度はカラス天狗辺りですかね?」
 折しも三門の上にはカラスが2羽止まっていた。
「……カンベンしてくれよ」
「藤谷班長、これからどうされるんですか?」
「しょうがないから、現場見てくるよ。ったく、サツの規制線が解かれない限り、仕事ができやしねぇ」
「自殺ってことになったんですね?」
「表向き、自分から落ちたって話だからな」
「僕も現場に行けませんか?」
「場所は女子高だぞ?工事関係者の俺はともかく、無関係の稲生君はムリだろ。……まあ、学校の入口までなら大丈夫か」
「お願いします」

[同日13:00.さいたま市某区 私立帝慶学院女子高 ユタ&藤谷]

「凄い寒気がする……」
 ユタはブルッと震えた。
「なるほど。ガッコの入口の時点でそれか。さすがは稲生君だな。で、あそこが新体育館の建設現場だ」
 車の中から藤谷が校門越しに指さして説明する。
 あの辺には黄色いテープが貼られていた。無論、警察が貼った『立入禁止』のテープである。
「何か、異変を感じるかい?」
「そうですねぇ……」
 ユタは近視ではないが、それでも近視者が遠くを見る時にそうするように、目を細くしたりしている。
「はい、双眼鏡」
「ありがとうございます。……って、何で双眼鏡が都合良く!?」
「これも現場の視察の為だよ」
 藤谷はしたり顔で答えた。
「そういうもの……ですか?」
「そういうものだよ」
 したり顔を崩さず大きく頷く藤谷。
「あっ、そうだ。助手席だと外から見えちまう。リアシートに行って、スモークガラス越しに見てくれ」
「はいはい」
 ユタは助手席から降りて、リアシートに向かった。
 が、
「班長、ロック解除してください」
「え?開かない?」
「はい」
「あれ?おかしいな……」
 藤谷は運転席からロック解除の操作をしてるのだが……。
「中古車だからな、こういうとこにガタが来てんのか?」
 藤谷は舌打ちしてキーを抜くと、それで開けようと自分も降りた。

 と、その時、

「わあっ!?」
「!!!」
 突然、2トントラックがベンツに突っ込んできた。
「……はっ!?」
 ユタは頭上に霊気を感じた。
「邪魔はさせない……!」
 しかし、耳元で声がした。
「いくら霊能者でも……止められない……!」
「くっ……!」
「何だよ!塔婆供養効いてねーじゃん!?」
「どうやら、僕達が手を出せる段階を越えているようです」
 ユタは顔を蒼くした。
「どんな強い怨念がありゃこんなことできるんだ!?」

[同日15:00.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ&威波莞爾]

「稲生さん、ただいま戻りました」
「お帰り。って、久しぶりに見たなぁ、カンジ君の第2形態」
「そうですか?」
 人間の姿をしている第0形態では短髪だが、第2形態では狐耳が生え、髪も肩まで伸びている。
「稲生さんにも危険が迫っていると伺い、先生がお戻りになるまでは人間形態を控えます。この方がいつ何時、非常事態が発生しても、すぐに対応できます」
「僕はただ巻き込まれただけだからね。僕自身は学校に近づかなければ大丈夫だと思うよ。それにカンジ君、いきなり第2形態なんて……大丈夫なの?」
「はい。『第1形態の姿になると、オレとキャラがカブるから』との仰せです」
「それ、威吹の命令じゃないだろ?」
「それと稲生さん。情報を集めてきました」
「どんな?」
「はい。幽霊の正体などについてです」
「ほお。よく調べたね」
「事件は1年ほど前に遡ります。【以下略。概要について、最初は栗原江蓮がイジめられるようになったが、夏休み前に心臓病で入院。“栗原江蓮”はそのまま帰らぬ人となる。いくら川井ひとみが乗り移ったとはいえ、医学的に有り得ない事象のため、夏休み終了後も退院できず。その間、ターゲットは林田という別の女子生徒に移る。そうこうしているうちに“栗原江蓮”が復帰するも、先述のように再びターゲットになることはなく、むしろその分被害はエスカレート。ついに自殺してまう。ここまではユタは知っている。その後、イジメの内容について淡々と話す】……オレ的には加害者達が全員死亡したところを叩くのがベストかと」
「どうして?」
「悪霊というのは往々にして、自分の恨みが晴らせたら成仏できると勘違いしがちです。しかし、それは大いなる勘違いというもの。地獄界に舞い戻るか、或いは既に目標を失ったにも関わらず、この世を彷徨い続けることの絶望感を味わうかのいずれかです。その時点で霊力は大きく低下していると見るべき。何しろ、目標に向かって突き進む者のエネルギーは強い。しかし、それを達成した後、もしくは挫折した時、そのエネルギーの萎み方は見ていて哀れなものです。稲生さんのお力なら、簡単に叩けるでしょう」
「叩くのか……」
「悪霊に情けは必要ありません。もし稲生さんがお寺の仲間を助けたいとお考えなら、そうするべきです」
「何か……カンジ君は、威吹より的確なアドバイスをしてくれるね?」
「僭越で申し訳ない。オレは稲生さんより実年齢で歳1つ下なだけですし、人間界で生まれ育ったものです。だから、考えが人間的なのかもしれません」
 しかし、カンジはれっきとした純血の妖狐である。
 だからなのか、あまり人間の血肉を喰らうという気持ちが起こらないという。
 逆に妖狐らしくないと威吹が嘆いていたのを思い出した。
「全員死亡を待つってのも、後味悪いな」
「彼女らがしたことを思えば、自業自得ですが……」
「しかし、栗原さんが狙われたのはどういうことだ?栗原さんは関係無いだろう?」
「考えられることは2つです。1つはまず……同じ幽霊の臭いがしたこと」
「それだけで?」
「しかもその幽霊(川井ひとみ)は、イジメ加害者だった者です。同じように復讐の対象にされたのかもしれません」
「おいおい!……もう1つは?」
「これは今言った理由に、もし林田が気づかなかったとしたらの話です。本来は栗原江蓮がイジメ被害を受けていたおかげで自分がターゲットにならずに済んでいたのに、それが入院したせいで、或いは戻って来ても何故かターゲットを強制解除させたせいで、自分がターゲットにされてしまった。これに対する恨みかもしれません」
「何だそりゃ。僕だって中学まではイジメられてたけど、そこまでは考えなかったなぁ……」
「まあ、男女の考えの違いもあるのかもしれませんが……」
「うーん……」
「だから稲生さん、悪霊にはこのまま好きにやらせましょう。そしてその後で……」
「いや、それはダメだ」
「稲生さん?」
「いずれにせよ、栗原さんまで復讐の対象にされたのであれば、やっぱり今やめさせないと」
「しかし、それは危険です。寺で供養しても、何の効果も無かったそうじゃないですか」
「供養の仕方が悪かったのかもしれない。せめて、栗原さんだけでも助けないと。カンジ君、力を貸してくれ」
「力を貸すのは構いませんが、オレにできることがあるかどうか……」
「うん。あるよ」

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