[4月中旬 さいたま市西区 青葉園 栗原江蓮&蓬莱山鬼之助]
「当時のスケバンメンバー、マスコミに嗅ぎ付けられて大変な目に遭ってるみたいだぜ?確かにもう30年以上前のことだから時効は時効だがな」
キノは皮肉を込めて言った。
「うるさい。川井ひとみはもう死んでる。栗原江蓮が出て行ったところで、『あんた誰?』に決まってるだろうが」
先を歩く江蓮はそう言った。
「それで葬式にも出なかったか。まあ、そういう理由じゃ当たり前か」
キノは肩を竦めた。
「あった。ここだ」
墓の場所を知ってるのは、威吹の諜報によるものだった。
妖狐は諜報活動にも長けてるからである。
「お前も手伝え」
「へーへー」
江蓮は真新しくてまだ汚れの無い墓石だったが、それを丹念に洗った。
「地獄界の獄卒が、人間界で墓石を掃除する姿はお笑いネタだぜ」
「黙ってやれ」
墓を掃除した後は供え物や花を添え、線香を焚いた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
その後は数珠を取り出して、題目を唱え始める。
(はー、また姉ちゃんから呼び出しかよ……)
後ろに下がったキノは、自分のケータイを出して、姉からのメールを確認した。
(この果てしないアルマゲドンは、いつまで続くんだろうか……)
「ごめんなさい……」
(……言えりゃとっくに終了、アルマゲドンってか……。ん!?)
江蓮がすすり泣く声が聞こえて来た。
「ごめんなさい……」
江蓮は墓石にすり寄って泣き出した。
(……オレも素直に謝ってみるか……)
しかし、江蓮は東郷幸子の為に塔婆供養はしても、林田や稲見らに対する供養は一切しなかったという。
[同日同時刻 東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 会議室 藤谷春人&藤谷秋彦]
「春人、こんなデタラメな体験発表があるか!」
秋彦は息子の春人に叱責した。
「いや、嘘じゃねぇよ!ガチだよ!」
「バカか!『幽霊と格闘しました』なんて、顕正会員の体験発表でも無いだろ!」
「いや、マジだっつの!」
「こんなの“大白法”に載せられんな」
「分かった!じゃあ、江蓮ちゃんに幽体離脱してもらおう!これで信じてもらえるはずだ!」
「ふざけるな!仏法はそんな教えじゃない!もうちょっとマシな体験発表書けんのか!俺は帰る!」
「いやオヤジ、ちょっと待ってくれよ!」
[同日同時刻 東京都23区内某所 ユタの通う大学 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
「ふーん……。ここが、稲生……ユウタの通う大学か?」
「はい、そうです。あそこが研究棟で、あそこが……」
ユタは鼻の下を伸ばして、訪ねて来たマリアに大学内を見学させていた。
「あっ、そういえば、私があげたコ、役に立ったみたいだな?」
「ええ、おかげさまで。ありがとうございました」
「いや、お役に立てて何より」
「マリアさんには色々お世話になりましたし、今後とも何卒ひとつ……」
[同日同時刻 さいたま市中央区 ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]
「今年も桜散っちゃったな……」
「今年は呑気に花見をするどころではありませんでしたね」
「オレが里に行ってる間、かたじけなかったな」
「いいえ。これも先生の為です」
「幽霊なんて400年生きてきて、実は初めて見たよ。まあ、オレの場合はほとんど封印されてたんだけどな」
「オレもいい経験になりましたよ。それで、いかがなものでしょうか?」
「ああ。実に素晴らしい……素晴らしすぎるよ。この報告書の量!あと何頁読めばいいんだ?」
「えー……っと、それで約半分ですね」
「お前なぁ……!確かに詳細を書き残して報告してくれるその気概は褒めよう。俺も手に取るように、あの幽霊騒ぎのことが分かったし。だけど、もう少し簡潔に書けぬものか?」
「はあ……努力します」
「読み終える前に、ユタ達が帰ってきてしまうよ」
「稲生さんも、せめて鬼之助並みに肉食系であれば、一気にマリア師との距離が縮まるのですが……」
「いい!ユタはあれでいいんだ!お前、余計な入れ知恵するなよ?分かったら、返事!」
「は、ハイ」
こうして各人、それぞれの日常に戻って行った。
終
「当時のスケバンメンバー、マスコミに嗅ぎ付けられて大変な目に遭ってるみたいだぜ?確かにもう30年以上前のことだから時効は時効だがな」
キノは皮肉を込めて言った。
「うるさい。川井ひとみはもう死んでる。栗原江蓮が出て行ったところで、『あんた誰?』に決まってるだろうが」
先を歩く江蓮はそう言った。
「それで葬式にも出なかったか。まあ、そういう理由じゃ当たり前か」
キノは肩を竦めた。
「あった。ここだ」
墓の場所を知ってるのは、威吹の諜報によるものだった。
妖狐は諜報活動にも長けてるからである。
「お前も手伝え」
「へーへー」
江蓮は真新しくてまだ汚れの無い墓石だったが、それを丹念に洗った。
「地獄界の獄卒が、人間界で墓石を掃除する姿はお笑いネタだぜ」
「黙ってやれ」
墓を掃除した後は供え物や花を添え、線香を焚いた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
その後は数珠を取り出して、題目を唱え始める。
(はー、また姉ちゃんから呼び出しかよ……)
後ろに下がったキノは、自分のケータイを出して、姉からのメールを確認した。
(この果てしないアルマゲドンは、いつまで続くんだろうか……)
「ごめんなさい……」
(……言えりゃとっくに終了、アルマゲドンってか……。ん!?)
江蓮がすすり泣く声が聞こえて来た。
「ごめんなさい……」
江蓮は墓石にすり寄って泣き出した。
(……オレも素直に謝ってみるか……)
しかし、江蓮は東郷幸子の為に塔婆供養はしても、林田や稲見らに対する供養は一切しなかったという。
[同日同時刻 東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 会議室 藤谷春人&藤谷秋彦]
「春人、こんなデタラメな体験発表があるか!」
秋彦は息子の春人に叱責した。
「いや、嘘じゃねぇよ!ガチだよ!」
「バカか!『幽霊と格闘しました』なんて、顕正会員の体験発表でも無いだろ!」
「いや、マジだっつの!」
「こんなの“大白法”に載せられんな」
「分かった!じゃあ、江蓮ちゃんに幽体離脱してもらおう!これで信じてもらえるはずだ!」
「ふざけるな!仏法はそんな教えじゃない!もうちょっとマシな体験発表書けんのか!俺は帰る!」
「いやオヤジ、ちょっと待ってくれよ!」
[同日同時刻 東京都23区内某所 ユタの通う大学 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
「ふーん……。ここが、稲生……ユウタの通う大学か?」
「はい、そうです。あそこが研究棟で、あそこが……」
ユタは鼻の下を伸ばして、訪ねて来たマリアに大学内を見学させていた。
「あっ、そういえば、私があげたコ、役に立ったみたいだな?」
「ええ、おかげさまで。ありがとうございました」
「いや、お役に立てて何より」
「マリアさんには色々お世話になりましたし、今後とも何卒ひとつ……」
[同日同時刻 さいたま市中央区 ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]
「今年も桜散っちゃったな……」
「今年は呑気に花見をするどころではありませんでしたね」
「オレが里に行ってる間、かたじけなかったな」
「いいえ。これも先生の為です」
「幽霊なんて400年生きてきて、実は初めて見たよ。まあ、オレの場合はほとんど封印されてたんだけどな」
「オレもいい経験になりましたよ。それで、いかがなものでしょうか?」
「ああ。実に素晴らしい……素晴らしすぎるよ。この報告書の量!あと何頁読めばいいんだ?」
「えー……っと、それで約半分ですね」
「お前なぁ……!確かに詳細を書き残して報告してくれるその気概は褒めよう。俺も手に取るように、あの幽霊騒ぎのことが分かったし。だけど、もう少し簡潔に書けぬものか?」
「はあ……努力します」
「読み終える前に、ユタ達が帰ってきてしまうよ」
「稲生さんも、せめて鬼之助並みに肉食系であれば、一気にマリア師との距離が縮まるのですが……」
「いい!ユタはあれでいいんだ!お前、余計な入れ知恵するなよ?分かったら、返事!」
「は、ハイ」
こうして各人、それぞれの日常に戻って行った。
終