報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 後日談

2014-04-20 21:20:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月中旬 さいたま市西区 青葉園 栗原江蓮&蓬莱山鬼之助]

「当時のスケバンメンバー、マスコミに嗅ぎ付けられて大変な目に遭ってるみたいだぜ?確かにもう30年以上前のことだから時効は時効だがな」
 キノは皮肉を込めて言った。
「うるさい。川井ひとみはもう死んでる。栗原江蓮が出て行ったところで、『あんた誰?』に決まってるだろうが」
 先を歩く江蓮はそう言った。
「それで葬式にも出なかったか。まあ、そういう理由じゃ当たり前か」
 キノは肩を竦めた。
「あった。ここだ」
 墓の場所を知ってるのは、威吹の諜報によるものだった。
 妖狐は諜報活動にも長けてるからである。
「お前も手伝え」
「へーへー」
 江蓮は真新しくてまだ汚れの無い墓石だったが、それを丹念に洗った。
「地獄界の獄卒が、人間界で墓石を掃除する姿はお笑いネタだぜ」
「黙ってやれ」
 墓を掃除した後は供え物や花を添え、線香を焚いた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 その後は数珠を取り出して、題目を唱え始める。
(はー、また姉ちゃんから呼び出しかよ……)
 後ろに下がったキノは、自分のケータイを出して、姉からのメールを確認した。
(この果てしないアルマゲドンは、いつまで続くんだろうか……)
「ごめんなさい……」
(……言えりゃとっくに終了、アルマゲドンってか……。ん!?)
 江蓮がすすり泣く声が聞こえて来た。
「ごめんなさい……」
 江蓮は墓石にすり寄って泣き出した。
(……オレも素直に謝ってみるか……)

 しかし、江蓮は東郷幸子の為に塔婆供養はしても、林田や稲見らに対する供養は一切しなかったという。

[同日同時刻 東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 会議室 藤谷春人&藤谷秋彦]

「春人、こんなデタラメな体験発表があるか!」
 秋彦は息子の春人に叱責した。
「いや、嘘じゃねぇよ!ガチだよ!」
「バカか!『幽霊と格闘しました』なんて、顕正会員の体験発表でも無いだろ!」
「いや、マジだっつの!」
「こんなの“大白法”に載せられんな」
「分かった!じゃあ、江蓮ちゃんに幽体離脱してもらおう!これで信じてもらえるはずだ!」
「ふざけるな!仏法はそんな教えじゃない!もうちょっとマシな体験発表書けんのか!俺は帰る!」
「いやオヤジ、ちょっと待ってくれよ!」

[同日同時刻 東京都23区内某所 ユタの通う大学 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

「ふーん……。ここが、稲生……ユウタの通う大学か?」
「はい、そうです。あそこが研究棟で、あそこが……」
 ユタは鼻の下を伸ばして、訪ねて来たマリアに大学内を見学させていた。
「あっ、そういえば、私があげたコ、役に立ったみたいだな?」
「ええ、おかげさまで。ありがとうございました」
「いや、お役に立てて何より」
「マリアさんには色々お世話になりましたし、今後とも何卒ひとつ……」

[同日同時刻 さいたま市中央区 ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]

「今年も桜散っちゃったな……」
「今年は呑気に花見をするどころではありませんでしたね」
「オレが里に行ってる間、かたじけなかったな」
「いいえ。これも先生の為です」
「幽霊なんて400年生きてきて、実は初めて見たよ。まあ、オレの場合はほとんど封印されてたんだけどな」
「オレもいい経験になりましたよ。それで、いかがなものでしょうか?」
「ああ。実に素晴らしい……素晴らしすぎるよ。この報告書の量!あと何頁読めばいいんだ?」
「えー……っと、それで約半分ですね」
「お前なぁ……!確かに詳細を書き残して報告してくれるその気概は褒めよう。俺も手に取るように、あの幽霊騒ぎのことが分かったし。だけど、もう少し簡潔に書けぬものか?」
「はあ……努力します」
「読み終える前に、ユタ達が帰ってきてしまうよ」
「稲生さんも、せめて鬼之助並みに肉食系であれば、一気にマリア師との距離が縮まるのですが……」
「いい!ユタはあれでいいんだ!お前、余計な入れ知恵するなよ?分かったら、返事!」
「は、ハイ」

 こうして各人、それぞれの日常に戻って行った。
                                 終
コメント (4)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 7

2014-04-20 19:44:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[30余年前 旧・大宮市内某所 川井ひとみ]

「……幸子にヤキ入れな」
「ひとみ……?」
「ひとみ先輩!?」
「とっととしな!掟違反だ!やれっ!」
「お……オーッス!!」

 6人くらいいた川井ひとみがリーダーを務めるスケバングループ。
 その中で1人、グループ内での取り決めを破ったメンバーがいた。
 リーダーの川井に誰1人逆らえず、4人のメンバーは掟違反の1人をリンチした。
 罪状は恋愛禁止違反。男に現を抜かした廉であった。
 しかもそれを発見したのは、リーダーたるひとみ自身。

「何だよ、その目は!?」
 ある程度殴る蹴るなどの暴行を加えた後で、ひとみ自身が幸子という名のメンバーをブン殴った。
 目つきが気に入らないという理由で……。
 それで……。

「ちょっ……!ひとみ先輩、幸子が息してません!」
「……ウソだろ?フカシてんじゃねーよ!」
「本当です!」
「ど、どうすんの、ひとみ?」
「このままじゃ……パクられちまうよ!」
「落ち着け!オメーラ!」
「先輩……!?」
「埋めちまおうぜ。死体が発見されなきゃ、殺人事件にはなんねぇ……」
「どっか山奥に……」
「いや、東京湾だろ」
「コンクリート詰めにしちまう……?」
「バカだな、オメーラ。そんな“ベタな死体遺棄の法則”にしてどうすんよ?ガッコに埋めちまおう」
「ええっ!?」
「学校!?」
「おうよ。『灯台下暗し』ってヤツだ。身近過ぎて、逆にわかんねーよ」
「さ、さすがひとみ先輩」
「分かったら、とっとと埋めに行くぞ!道具用意しろ!」
「オーッス!」

[現在。私立帝慶学院女子高 体育館裏 栗原江蓮(川井ひとみ)]

「幸子……!?」
「覚えててくれましたか。それとも、今思い出しましたか?」
「私も……死んだから……。でも、忘れるはずがない……」
「ええ。私が死んだ後、気持ちを晴らす為にバイクでかっ飛ばして、同じく死なれたそうですね」
「私は……」
「先輩。まずは体に戻ってください。早く戻らないと、腐りますよ?」
 魂の抜けた肉体は死体と同じだ。
「うっ……」
 川井ひとみは栗原江蓮の体に戻った。以降、栗原江蓮と呼ぶ。
 江蓮はヨロヨロと立ち上がった。
「ずっと……この世を彷徨ってたのか……?」
「私の死体が発見されたそうです。それがきっかけなのか分かりませんが、埋められた場所を動くことができました」
「……全部私が悪いわけでも、お前が悪いとも言わない。半分ずつ……半分は私が悪いし、もう半分はお前が悪い」

「ここは男らしく、『全部俺が悪い』って言えばいいのに……」
 藤谷はそう言った。
「女だっつの!」
 キノは藤谷を睨みつけた。
「だけど江蓮のヤツ、秘密全部暴露する気か?」
「まさか栗原さんが殺人犯だったなんて……」
 ユタは驚愕していた。
「人聞きの悪いこと言うな!殺意は無かったんだから、傷害致死だ!」
 キノがユタに文句を言った。
「いずれにせよ、死体遺棄も入れて犯罪者であることには変わりないな」
 カンジが淡々と言い放った。
「やったのは川井ひとみで、江蓮はカンケー無ぇからな?てか、そもそも時効だ!」
「でも、恋愛禁止の掟違反というだけで殺すなんて……」
「あー、そうだな……」
「何を隠している?洗いざらい吐いちまったらどうだい?」
 と、藤谷。
「いや、それは江蓮の為にも言えない」

 のだが、

「幸子が好きだったんだよ!それなのに男に目ェ向けやがって!」
 江蓮自身が暴露してしまった。

「ええーっ!?」
「言っちまったか……。言っておくが、江蓮はノーマルだからな?」
 キノは右手で頭を押さえた。
「レズビアン!?」
「いや、百合だろ?」
「華の女子校……女の園……萌ゆる……」
 ユタ達面々が勝手な想像をする中で、キノだけが冷静に、
「いや、川井ひとみの中学は公立の共学だって」

「何か、外野の男共がうるさいね?」
「気にしないでおこう。のうのうの生き返った私は、報いを受けなければならないな」
 江蓮は幸子の前に正座した。
「許してくれとは言わない。でも、謝らせてくれ。信じてくれないだろうが、殺すつもりは無かった。だけど、私は何もしない。気の済むまで、ヤキ入れてくれ」
 土下座をして言う江蓮に、それまで微笑を浮かべていた幸子の笑顔がスッと消えた。
 そして、
「そう?じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうか」
 一気に霊力を開放し、邪悪な笑みへと変わる。

「まずい!」
「江蓮、逃げろ!」
 ユタ達の叫びに気づいた幸子が、ギンとユタ達に眼光を放つ。
「うっ!?」
「か、体が……!」
「め、メデューサ!?」
 全員、体の動きが封じられた。
 ユタや藤谷はもちろんのこと、妖狐のカンジや、獄卒のキノですら封じられるほどの力だ。
「栗原さん!」
 しかし、四肢などは封じられたものの、目、鼻、口などは動く。
「ぐっ……!」
 江蓮は首を絞められ、持ち上げられた。
「報いを受けてもらいます。ひとみ先輩」
「ひと思いに……やれ……」
「くぉらっ!東郷(幸子の名字)!てめぇ、分かってんのか!悪霊化したら、無間地獄の中でもっと重い処分だぞ!」
 キノが幸子に向かって叫ぶが、全く聞く様子が無い。
「先輩。覚えていますか?私がヤキ入れられてる間、私は『やめて』とか『助けて』とかは1度も言いませんでした」
(ああ……そう言えば……。だからこの報いに対しても、私は……何も抵抗してはいけない……何も……)
 背後からの男達の叫び声も小さくなり、頭の中が真っ白になっていく。
(悪かったな、栗原江蓮。せっかくもらった体、大事に使えなかった。詫びは地獄界できっちり入れさせてもらう……)

「わっ!ととと……!」
「うおっ、と!?な、何だぁ!?」
「急に体が……」
「動いた!?」
 勢い余って、つんのめったり、転倒する人間2人。
 しかし、妖怪2人は素早い動きで江蓮に駆け寄った。
「江蓮!」
 駆けつけると、江蓮はその場に倒れた。
「貴様ぁっ!!」
 キノは刀を振り上げると、幸子に振り下ろした。
「貴様は無間地獄、其参珀拾伍“永夜抄”送りだ!!」
「う……ゲホッゲホッ!……ゲホッ!」
「!? 栗原殿!?生きておられ……!?」
 カンジは江蓮に駆け寄った。
「鬼之助、栗原殿は生きてる!」
「何だって!?」
「一体、何だってんだ!?」
「稲生さん、取り急ぎ、病院へ!首を死ぬ直前まで絞められたのは事実です!」
「そ、それなら、こんな事もあろうかと……!」

 ユタは学校まで乗って来たワンボックスカー(藤谷の車の代車)に戻ると、フランス人形を持ってきた。
「ユタ!お前、お人形さん遊びしてる場合じゃねーぞ?」
「違うよ!マリアさんの魔法に、回復魔法があったはずだ。お願い!栗原さんの傷を治して!」
 ユタはフランス人形を抱きかかえると、江蓮に向けた。
 フランス人形がカタカタと動き出すと、両目がピカッと光り、江蓮の体を照らす。
「う……。何か……痛みが無くなった……」
 江蓮は喉元に手を当てて言った。
「やった!さすがマリアさん!」
 ユタは大喜び。
「あの魔道師、こんなこともできるのか……」
 キノは呆れたような顔をした。

[翌日05:00.さいたま市内の県道 ユタ、カンジ、藤谷、江蓮、キノ]

「もう朝じゃんよ。ったく、夜間工事でも無ェのに……」
「班長、大丈夫ですか?僕、運転代わりましょうか?」
「いや、いいよ。稲生君、免許取ってからペーパーだろ?」
「まあ……」
「こう見えても夜間工事の後で、よく車を走らせてるから大丈夫」
「はあ……」
「なあ、キノ」
 江蓮はキノに声を掛けた。
「ん?」
「お願いがある。幸子を許してくれ。あいつは私を殺さなかったし、半分は私の責任だから……」
「ダメだ。未遂罪も未遂罪で、しっかり断罪される。“永夜抄”送りは免れねぇさ」
「何だい?その“永夜抄”って?東方Project?
 ユタが聞いた。
「永遠に闇の中を彷徨うだけの地獄だ。闇も闇。全くの光は無く、音も無い」
「そんな所に閉じ込めるなんて……!本当は私が閉じ込められるべきだったのに……!」
「そんなことはさせねぇ。お前はオレのもんだ。その栗原江蓮の体で、オレの女になってもらう」
 すると、江蓮は自分のケータイを出した。
「そんなこと言ってますが、どうしますか?お姉さん?
「は!?」
{「くぉらーっ!鬼之助ッ!アンタ、何の権限があってそんな勝手なマネしてんの!?いいから、今日中に家に帰らないとヒドい目に遭うよ!?」}
「ひええっ!か、か、カンベンしてくださいぃぃぃぃっ!!」
「こ、こえー……!今のがキノの姉ちゃん?」
 藤谷もハンドルを握りながら手に汗も握った。
{「江蓮ちゃん、バカは私に任せて、困ったことがあったら、何でも言ってね?」}
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
(本当に鬼のようなお姉さんだけど、栗原さんには優しい……)

 江蓮は鬼之助の姉との交渉により、東郷幸子に関しては遺体を墓に埋葬後、日蓮正宗の塔婆供養をすれば、蓬莱山家が後は取り計らうという約束を取り付けることができたという。
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