報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 4

2014-04-18 19:58:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 栗原江連。埼玉県さいたま市大宮区在住。現在、高校2年生。あと1ヶ月で17歳になる。
 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。
 本来、その体を使用している栗原江蓮の魂は存在しない。心臓発作により、死亡してしまった。
 その直後、抜け殻となった遺体に憑依する形で使用することとなったのは、今から30余年前、乗り回していたバイクの事故により死亡した不良少女、いわゆる“スケバン”だった川井ひとみ。
 本来は未だ地獄界を彷徨わなければならぬところ、一目惚れした獄卒の蓬莱山鬼之助の手引きにより、たった30余年で地獄界から這い上がってしまった。
 本来許されぬ行為。鬼之助は獄卒の職を無期限停職処分(でも懲戒免職ではない)となり、一族の恥さらしとして実家からも勘当同然となったが、却って混乱するなどの理由で、川井ひとみが栗原江蓮の体を使用することは咎められなかった。
 栗原江蓮は体も気も弱く、それ故、今の私立帝慶学院女子高に入学してからイジメの被害者となっていたが、川井ひとみが使用するようになってから、人格も健康状態もその他スペックもガラリと変わったことで、今では昔取った杵柄とやらで、一グループのリーダー格にまでなっている。
 事情をやっと理解できるようになった川井ひとみは、今は栗原江蓮として生きることを決めている。

「心の中で……私は本当はマジメにやりたいという気持ちがあったんだろうな」
 と、述懐している。

[4月某日 さいたま市西区治水橋の真ん中辺り 藤谷春人&???]

「本当に、こんな所に栗原さんはいるのか?おい?」
「……黙って行けって言ってんだろ」
「ちっ。どうやら、とんでもないことに首を突っ込んじまったらしい。俺はもう平和な日常に戻れぬかもしれん!」
 ↑サスペンス映画の見過ぎ。
「妖狐に鬼に雪女に幽霊かよ。何つー縁だ!」
 藤谷のベンツの助手席に座るのは、1人の少女。
 しかし、どことなく様子が違う。
「幽霊がタバコ吸うな!てかお前まだ高校生だろ!?」
「うっせーんだよ。黙って早くひとみ先輩を助けるんだよ……」
「ちっ。何か変だと思ってたが、お前、栗原……もとい、川井ひとみのスケバン仲間か?」
「フン……」
(おかしいな。あいつら、全員死んだワケじゃないだろ?生きてりゃ40後半のオバハンだろうに……)
 藤谷は首を傾げた。
「いた!ひとみ先輩!」
「なに!?」

「返せ!あたしの体!」
 栗原江蓮……もとい、川井ひとみは乗っ取られた栗原江蓮の体に追いついた。
「頂き物の体だ!殺させやしないよ!」
 川井ひとみは栗原江蓮の体に体当たりした。
 だが、乗っ取っている者の方が霊力が強いのか、ビクともしない。
「栗原さん!」
 戦闘場所に藤谷が横付けした。
 と、同時に、川井ひとみの仲間だという幽霊が車をすり抜けて、栗原江蓮の体の後ろから引き剥がすように乗っ取っている幽霊を引き離した。
「早くしろ!」
 仲間は呆気に取られている川井ひとみをドンッと押すと、栗原江蓮の体に戻した。
「邪魔しやがって!許さない!!」
「テメェこそ、ガキの分際でしゃしゃってんじゃねぇよ!」
 栗原江蓮の体から抜け出た者は、帝慶学院の制服を着た女子生徒の幽霊。
 もう1人、藤谷が連れて来た方はセーラー服でスカートが袴のように長く、頭をパーマにしていた。
 いがみ合いながら、2人の幽霊は消えた。
「あ?何だかんだ言って、地獄界に戻ったのか?」
 藤谷は目を丸くした。
「うう……」
 江蓮がうめき声を上げた。
「おい、大丈夫か?何だって、こんなことに……」
「ちくしょう……油断した……」

[同日午後 JR大宮駅 稲生ユウタ&威波莞爾]

「そうですか。栗原さん、元に戻りましたか」
 ユタは電車を降りてから藤谷に電話して、結果を聞いていた。
 それを聞いてホッとする。
{「何か、話がややこしいことになりそうだ。そろそろ俺達は手を引いた方が良さそうだぜ?」}
「良さそうだぜって、お寺の仲間がピンチなのに放っておくわけには……」
{「通常はそうなんだが、幽霊同士のケンカを目の当たりにしてみろ。嫌でも逃げ出したくなるぜ」}
「幽霊同士のケンカって?栗原さんと……」
{「違う違う。生前スケバンだった川井ひとみの仲間だったってヤツと、栗原さんの体を乗っ取っていた幽霊だ」}
「……何かよくわかりません」
{「だろぉ?さすがの一流建設業も、力及ばずってところだ。あとはキノ辺りに任せて、逃亡してだな……」}
「当の栗原さんは?」
{「今は家で休んでる。明日、始業式らしいからな。春休み終了までにこの事件を解決するっていう目標、達成できなかったようだな」}
「そうですか……」
{「稲生君は?大学はもっと春休み長いのか?」}
「僕も来週からです」
{「いいよなぁ、学生は。俺もドカッと休みが欲しいぜ」}
「取ればいいじゃないですか」
{「会社役員ってのはねぇ、色々忙しいんだよ。営業とか、会議とか、組合の相手とか……」}
「はあ……」
{「そういえば威吹君は?せっかく稲生君が『異議あり!』って逆転裁判やって無罪放免にしたのに、まだ余罪があるのか?」}
「余罪じゃないですよ。今後の身の振り方とかね……」

[翌日昼頃 私立帝慶学院女子高 藤谷春人]

(仲間の別の作品だと、この時点で稲見真梨香というイジメ加害者のリーダーが、生き残ったメンバーを連れて江蓮に近寄って来る。江蓮が『変な宗教』をやっているという噂を聞いて、それで幽霊をお祓いしろというもの。
 江蓮は苦笑いするだけだったが、江蓮と一緒にいるメンバーは何を今更という感じでくって掛かる。自分達は早めにイジメていた江蓮に謝って許してもらい、今ではすっかり仲間であるが、稲見達は全く謝らず、反省しないどころか、今度の別の生徒をターゲットにイジメを始めた。その生徒が自殺し、それが幽霊となって復讐をしているという噂が広がっている。教室ではそんなやり取りがあったことは知らずに……)

 藤谷は現場監督や数人の作業員を連れて、新体育館の建設現場にいた。
「それじゃ、基礎工事は青木工務店さんにお願いするってことでいいのかな?」
 藤谷は現場監督に言った。
「はい。既に材料の搬入は済んでますし、午後からすぐに基礎工事を始めます」
 現場監督はそう答えた。
「まさか、どこぞの中学校みたいに穴掘ったらまた死体が出てくるなんてことはないと思うが、一応緊張してやってくれ。一応な」
「はい」
 そこへ藤谷の携帯電話が鳴る。
「おっと。親父……もとい、社長からだ」
 藤谷は電話を取ると、校舎の陰の方に歩いていった。
「はい、もしもし?」
 父親の名前は藤谷秋彦。藤谷組の代表取締役社長にして、日蓮正宗・正証寺の仙台地区長でもある。
「……あっ、こっちは順調っスよぉ!まあちょっとしたゴタゴタはあるけど、仕事自体は完璧!本当に、仏法の功徳は凄いっスね!正に福運が雨のように上から降り注いでるって感じ!……そう!今正に上から……」

 ……ゴッ!

「!!!」
{「!? もしもし?どうした、春人?おい、自称専務!話の続きを……!もしもし?もしもーし!?」}
 藤谷の前に落ちて来たのは、1人の女子生徒だった。
 頭から地面に激突した為、頭が割れ、脳が飛び出ている。
 うつ伏せになっているため、その表情が分からないのが却って良かったかもしれない。
 即死なのは間違いなかった。
「くそっ!林田!貴様、やり過ぎだ!!」
「!?」
 2階の窓から屋上に向かって叫ぶ江蓮の姿があり、その上……屋上付近に浮遊するのは……快楽殺人者のような笑みを浮かべて満足そうに見下ろす……あの幽霊の少女の姿だった。川井ひとみの仲間の方ではない。栗原江蓮の体を乗っ取っていた方だ。
 江蓮に林田と呼ばれた少女は歪んだ笑みを浮かべたまま、スッと煙のように消えた。
「こりゃ本当に、平和な日常ってワケにはいかねーってこと……か」
 藤谷はただ黙って肉塊と化した少女……稲見真梨香の死体を見下ろすしかなかった。
 こういう時、どういうわけだか冷静にいられた自分が滑稽で仕方が無かったと、後で藤谷は述懐している。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 3.5

2014-04-18 02:21:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月某日 東京23区内某所 稲生ユウタ&威波莞爾]

 所属寺院から出たユタは、カンジを伴って帰宅の途に就いた。
 まずは最寄りの駅を目指すこととなる。
「それにしても珍しいことがあるもんだ。カンジ君とペアになるの、2月の羽田空港以来じゃない?」
「そうですね。いくら先生の禁が解かれたとはいえ、色々と調整が必要なので、時々は里に出向く必要があるのです」
「なるほど」
「まあ、稲生さんの口添えもあることですし、ちょっとしたヒアリング程度で終わるものかと……」
「だといいけど」
「その間はオレが稲生さんを全力で護衛致します」
「よろしくね。何か、変な幽霊騒ぎもあるし、さっきお寺で数珠が突然切れちゃってさぁ……」
「は?」
「副住職様は御仏智だって仰ってたけど……」
「それって、何か不吉な事象の前触れということでは?」
「う……やっぱりそうかな?」
「幽霊のことについて、僧侶の見解は?」
「あ……。聞くの忘れた」
「まあ、いいでしょう。ここだけの話、栗原江蓮女史も、言わば肉体を持った幽霊ですからね」
「なるほど。本当はまだ地獄界にいるはずなんだもんな」
「蓬莱山が中途半端なことをしたおかげで、実は肉体と魂の繋がりが弱くなっているんです。お気づきになりましたか?」
「いや、全然知らない」
「多分、稲生さんならできるんじゃないですか」
「何が?どうやって?」
「オレも教科書で見ただけですが、まず、後ろから両肩を掴みます」
「ふんふん……」
「そして、いかにも背負っているものを引き剥がすような感じでやると、魂は肉体と離れてしまうと……」
「強制幽体離脱?そんな簡単にできるものなのかい?」
「多分、稲生さんならできると思います。1度、お試しください」
「いやあ……キノにブッ飛ばされそうだし、誰得って感じ」
 ユタは苦笑を浮かべた。
「キノもきっと知っているのでしょう。栗原女史の、そういった秘密を……」
「そりゃ、張本人だもの……。あ、そうだ。もう1度、電話してみよう。さっき電話した時、出なかったんだ」
 ユタはもう1度、藤谷に電話した。
{「ただいま、電話に出る事ができません。……」}
「仕事中かな……?しょうがない。栗原さんに掛けるか」
 ユタは今度は江蓮に掛けた。
 すると今度は電話に……。
「あ、もしもし。稲生ですけど、栗は……誰だ、キミは!?」
「!?」
 ユタの驚愕の反応と声に、ポーカーフェイスのカンジは一瞬目を見開いた。
{「……全員殺すまで……終わらない……」}
「も、もしもし!?もしもーし!」
 ユタは顔を真っ青にしていた。
「凄い霊気でした。電話の向こうに幽霊が?」
 カンジはまたポーカーフェイスに戻って、冷静になる。
「栗原さん……やられちゃっ……た?」
「は?」
「い、急いで戻ろう!何か、大変なことになったみたい!」
「行きましょう。先生がお留守の間に解決できるといいのですが……」

[同日同時刻 さいたま市某区 某市立中学校 藤谷春人]

「いやあ、いきなりのことでビックリしましたよ。ハイ」
 何故かマスコミが殺到している中学校。
 そこで、何故かインタビューを受けている藤谷。
「ちょうどあそこにクラブ棟を建設することになって、まずは基礎を作る為に穴を掘っていたんですが、そしたら出て来ちゃったんです。いやはや、まさか本当にこんなことがあるなんて……」
 どうやら藤谷は、藤谷組の別の工事現場の巡察に来ただけのようだが、一体何があったのだろうか。
 別のテレビ局の女性リポーターが何か喋っている。
「……はい、こちらさいたま市○×区にあります△△中学校です。こちらでは新たにクラブ棟の建設が行われていまして、基礎を作る為に穴を掘る作業をしていたところ、遺体が発見されました。遺体はこの学校の旧制服を着用した白骨化したもので、今から約30年以上前の198×年に行方不明となった山田留美さんと見られています。警察では遺体の身元と死因を……」

 インタビューの終わった藤谷は、手持ちの携帯電話を取り出した。
「おっ、稲生君から電話があったのか」
 掛け直してみた。が、留守電になっている。
「電車にでも乗ってるのか?しょうがないな。じゃあ、栗原さんに……」
 藤谷は江蓮に掛けてみた。
「あ、もしもし?藤谷だけど……。あ?誰だオマエ!?」
{「……だから、栗原江蓮だって!」}
「ウソつけ!栗原さんは、もっと透き通る声だぞ!そんなドスの効いた不良の声じゃねぇ!」
{「悪かったな!あたしゃ、川井ひとみだよ!ホラ、栗原江蓮の体使ってる!」}
「だから何だってんだ!ふざけるな!」
{「フザケてないよ!何か別の幽霊に、栗原江蓮の体を乗っ取られて……!このままだと、江蓮が殺されちゃうよ!あのコ、関係無いのに!」}
「つったってお前、今どこに……あ!?」
 その時、藤谷の肩に冷たい物が乗せられた。
 急に不快感が襲って来た藤谷は、バッと振り向く。
「うわぁ!?」
 そこにいたのは……。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 3

2014-04-16 19:43:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月初め午前中 さいたま市某区 私立帝慶学院女子高 藤谷春人]

「いやあ、今年度から新体育館の工事をお任せ頂き、大変な大功徳です」
 藤谷は何故か男子禁制の女子高の中を歩いていた。
 とはいえ、1人ではない。隣には年配の、恰幅のいい校長が一緒である。
「こちらこそ、よろしくお願いしますよ。藤谷組さんはここ何年もの間、アベノミクスの恩恵を受けずに、企業努力で業績を上げていらっしゃるということで、是非にと思った次第です」
「大変光栄です。早速明日から作業に当たらせて頂きます。まず先に、重機などの搬入からさせて頂きますので……」
「ええ。お任せします」
 その時、藤谷の目に1人の女子生徒の姿が目に入った。
「おっ、こんにちは!新体育館の建設、もうすぐ準大手ゼネコン入り且つそのうち大手ゼネコン入り間違い無しの藤谷組をどうぞよろしく。何なら、卒業後の就職先にどうぞ!」
「あの、藤谷専務?どなたに言っておるので?」
 校長が首を傾げた。藤谷の目線の先に目を凝らしながら、訝しげな顔をする。
「へ?」
「誰も見当たりませんが……?」
 次の瞬間、女子生徒の姿はいなくなっていた。
「……あれ?目の錯覚かな???」
 藤谷は首を傾げて、目を擦った。しかし、やはり誰もいなかった。
「す、すいません。目の錯覚だったようで」
「はあ……」
「まあ、とにかく、安全第一で作業させて頂きます」
「よろしくお願いします」
 藤谷は自分の車に乗り込むと、すぐに学校を後にした。
「いやいや、年度初めから早速そこそこ実入りのいい仕事が入ったのは、マジで功徳だわー。今年こそ、“大白法”で体験発表載っちゃうかなぁ、おい」
 その時、藤谷は見覚えのある顔が目に入って車を止めた。
「おーい、お二方」
「藤谷さん」
 それは栗原江蓮と蓬莱山鬼之助だった。
「学校ならまだ春休みだろ?」
「そういう藤谷さんは?うちの学校から来たみたいだけど……」
「ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれた。実はな……」
「女子生徒の体操着でもパクりに行ったのか?」
「アホか!新体育館の建設、うちが請け負ったんだよ。それで、今日は年度初めのご挨拶に、専務として校長先生にお会いしてたってところだ」
「ふーん……」
 藤谷は胸ポケットから何かを出そうとした。
「ちっ。タバコ切れた」
 とはいえ、ストックがダッシュボードの中にあるらしく、それを開けた。
「ん!?」
 中から現れたのは紺色の……スクール水着だった。
「藤谷さん……」
「藤谷、テメェ……」
「違う!これは、あの雪女の仕業だ!あいつ、ブラとパンティじゃなく、今度はスク水置いて行きやがった。その前はブルマーだったし!」
「お前にラブコール送ってる雪女ってな、こっちじゃ中高生じゃねぇのか?」
 キノは呆れた顔をした。
「30過ぎて、そんなのと付き合ったら犯罪だぜ?」
「だから困ってんだよ、こっちは!」
「ていうかさ、藤谷さん……」
 江蓮は目を丸くしていた。
「後ろに誰乗せてるの……?」
「は?」
 藤谷は反射的にルームミラーを見た。

 そこにいたのは……。

 青白い顔をした……悲しげな……それでいて、恨めしそうな顔をしている女子高生の……。

「うわっ!出たっ!」
 振り向くと、既にそこには誰もいなかった。
 藤谷は車から飛び降りた。
「オメェ、取り憑かれたな」
「な、何いっ!?」
「校長だけでなく、幽霊に挨拶でもしたんじゃねーのか?」
「え?……あ!もしかして……」
 藤谷は校庭での出来事を思い出した。
「あれ……幽霊だったのか……って、何でこんな真昼間に!?」
「幽霊が夜だけってのは大間違いだぜ?元は生きてる人間だ。中には夜が怖いってんで、昼しか出たがらねぇ意識体もいるくらいだ」
「おぉおい、助けてくれよ!?」
「でもキノ、藤谷さんがここまでフツーに車を走らせられたってことは、本当は取り憑かれてないんじゃない?」
 と、江蓮。
「最近の意識体も、動きが変化してるみてーだからな。もしかしたら、霊力C級の藤谷には取り憑く価値も無かったか?ま、それだったら、良かったな?」
「何か、気に障る言い方しやがるな……」
 藤谷はようやく、買い置きしていたタバコに火を点けることができた。
「学校行くのか?」
「いい。やっぱり幽霊はいるみたいだからね、それだけ確認できれば今のところOKでいいよ」
「じゃあ、家まで送るぞ。乗ってけ」
「おっ、ありがたい」
 キノと江蓮はリアシートに乗り込んだ。

 走り出した車。

 その様子を電柱の陰で見据える1人の少女。

「栗原……江蓮……イジメの……リーダー………」

[同日11:40.東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生ユウタ]

「今身から仏身に至るまで……【中略】……保ち奉るや否や?」
「保ち奉るべし!南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」
 ユタは御経の時間に参加していた。
 大抵その時間は、新願者の御受誡や御勧誡が行われることがある。
「おめでとうございます」
 紹介者やその周囲の信徒達が、新願者に祝福の言葉を掛けている。
(僕もあんな感じだったなぁ……)
 ユタは自分が御受誡した時のことを思い出し、最後に御本尊に御挨拶をするべく、御題目三唱した。

 と、その時、

 ブチッ!と音がして、ユタの数珠が切れた。
「え……?」
 珠が畳の上に転がる。
「ああっと!」
 急いでそれを拾った。
「どうしました?」
 そこへ1人の僧侶が声を掛けてくる。
「あっ、副住職様!いや……何か、数珠が突然切れて……」
「さようですか」
「おっかしいなぁ……。御山で買ったばかりなのに……」
 因みに御受誡の時はさすがに顕正会の数珠を使うわけにはいかないので、藤谷の予備を借りた。
「形あるものは、いずれ壊れるもの。これも、御仏智です」
「御仏智……ですか」
 ユタはそれでも、何か胸騒ぎを感じずにはいられなかった。
(あの幽霊騒ぎ……。後で、連絡してみよう)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 2

2014-04-16 15:35:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月1日朝 さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]

『春休み最後の惨事!』『女子高生2人、電車にはねられ死亡』『何故?違う場所で同じ学校の生徒が?』
「おはようさん」
 ユタが起きて来た。
「あ、おはよう」
「おはようございます」
 新聞を眉を潜めて読んでいた威吹は目を放して、ユタを見た。
 台所にいたカンジもユタを見る。
「なに?昨夜のこと?」
「ああ」
「急いで朝刊の記事を差し替えたようですね。全国紙だとそうはいかないでしょうが、地方紙だからできることでしょう」
 カンジが言った。
「あれ?ユタはまだ春休みだよね?」
「うん。でも、今日はうちの大学の入学式だから」
「? 通っているのに、入学式に出る???」
 威吹は首を傾げた。
 そこへカンジが、
「きっと、入学式の運営を手伝うボランティア……奉仕活動でしょう。今年は稲生さんに白羽の矢が立った。……ですよね?」
「まあ、そんななところかな」
 口調は柔らかだったが、相変わらずのポーカーフェイスを向けられたユタは少しびっくりする。
(少しはこの気弱な所を直さないとな……)
「大学へ行くんだったら、ボク達は治外法権だな」
「ですね」

[同日06:30.JR北与野駅 稲生ユウタ]

〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、6時31分発、りんかい線直通、各駅停車、新木場行きです〕

(マジかよ……)
 スーツ姿のユタは顔をしかめた。
 昨夜、人身事故が発生した現場に佇む1人の女子高生。
 栗原江蓮と同じ制服を着ているが、顔には生気が無い。
 それもそのはず。彼女は今朝の朝刊に掲載された写真に載っていた。
(アウトだろ……。仏法的に)
 しかも、こっち見てるし。明らかにユタの霊力に気付いている。
 何かの本で見たが、ここで気づいてやると、憑依してくる恐れがあるという。
 つまり、冷たいことだが、あしらうかスルーするのがベストらしい。
(もしかして、大宮公園駅にもいるんじゃないのか?)
 キノは何をしているのだろう?
 恐らく死んだ彼女達は、日蓮正宗信徒ではないだろう。
 で、あるなら可哀想だが、地獄界に堕ちているはず。
 本来、意識体(幽霊)としてこんな所に佇むはずはないのだ。

〔まもなく1番線に、各駅停車、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 昨夜乗った電車と同じ新型車両がやってくる。
(参ったなぁ……)
 ユタは電車に乗り込んだ。
 平日のこの時間、既に空いている席は無く、ユタはホームに向かうようにして吊り革に掴まった。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 発車メロディもそこそこに、ドアが閉まって電車が走り出した。
(やっぱり気づいてるなぁ……)
 悲しげな顔でユタを見つめる少女の姿があった。
(う……。もしかして、ずっとこのままいる気か……)

〔次は与野本町、与野本町。お出口は、右側です〕
〔The next station is Yono-Honmachi.The doors on the right side will open.〕

[同日夕方 JRさいたま新都心駅 稲生ユウタ]

〔さいたま新都心〜、さいたま新都心〜。ご乗車、ありがとうございます〕

「あれ?ユタ、珍しいね。大学からだと、埼京線だけなのに……」
「埼京線はほぼ平常運行ですが……」
 電車を降りて改札口を出ると、威吹とカンジが迎えに来ていた。
「ああ、いや、その……。たまには、京浜東北線に乗ってみたくて……」
「ふーん……」
「稲生さん。肩と声が震えてますよ。どうかしましたか?」
 カンジがポーカーフェイスのまま聞いてくる。
 ユタが答えに窮していると、威吹の方から口を開いた。
「実は昼間、キノから連絡があったんだ」
「キノから?」
「ええ。『地縛霊の出没に注意』だそうです。何でも、強い思念を持った意識体に話し掛けると取り憑かれるので注意とのことですが、そうそう意識体なんてお目に掛かれるものではないですからね。まあ、C級程度の人間でしたら、一生目にすることはないでしょう。稲生さんくらいのS級になればもしかして、と思いまして」
 1つ喋り出すと、実はカンジの方がセリフが多いという……。
「そうなの……。実は……」

[同日夕方 JR北与野駅前 ユタ、威吹、カンジ、キノ、江蓮]

「意識体ってのはな、幽霊のようで幽霊じゃねぇんだよ」
 と、キノは言う。
「モノホンの魂は、ちゃんと地獄界で預かってるよ」
「じゃあ、何なの?」
 ユタが聞いた。
「だから、強い残留思念の集合体といったところかな。魂の残像というか……。ただ厄介なことに、知らないヤツが不用意に接触すると、大変なことになるんだな」
「どんな風に?」
「ホームにいた女は電車に轢かれたわけだろ?取り憑かれると、そいつも電車に飛び込むことになるぜ」
「ええっ!?」
「まあ、安心しな。ユタのタレこみのおかげで、上にいたヤツは処理しといたから」
 キノは高架にあるホームを指さした。
「ユタのタレこみが無くても、これくらいは想定できんのか?」
 威吹は文句を言った。
「電車に轢かれて死んだヤツが、必ず意識体を残すわけじゃねぇんだよ。そしたら、いちいち人身事故が起こるたんびにオレらが大変だろうが」
「もしかして、大宮公園駅も?」
 ユタの質問に江蓮が答えた。
「そっちは大丈夫だった。だから、北与野駅に意識体が出るなんて思わなくて……。悪かったな」
「いや……。一体、何が起こってるんだい?」
「ユタ、首を突っ込むのはダメだ。ボク達は早く帰ろう」
「その方がいいですよ、稲生さん」
「簡単に話すよ」
 と、江蓮。
「昨年、うちの学校でイジメを苦に自殺したヤツがいた。そいつがどういうわけだか、1年越しに幽霊になって戻ってきて、復讐を始めた。簡単に言えば、そういうこと」
「確かに話としては簡単だけど……。キノの取り締まりで簡単にできるんじゃ?」
「それが、世の中そんなに甘くないってところだな。ま、こっちにはこっちの事情があるんだが……。まあ、とにかく、タレこみに関しては礼を言うぜ。また意識体見つけたら、オレに教えてくれ。マックくらい、後でおごるぞ」
「ど、どうも……」

[同日夕方 JR北与野駅→ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]

「何だろうね。悪霊を捕まえることくらい、キノなら簡単そうなのに。地獄界の獄卒なんだからさ」
「多分、栗原さんのことが引っ掛かるんだろうね」
 と、威吹。
「栗原さんが?」
「栗原さんは特殊な事情で蘇った“亡者”だ。悪霊を厳しく取り締まること自体は簡単なんだろうが、それだと栗原さんを特別扱いできなくなってしまう。それはキノにとっても難しいところなんだろう」
「ああ、なるほど。それでさっき、栗原さんをチラッと見たのか」
 カンジも続ける。
「確かに栗原女史は30年以上前、不良グループのリーダーだった者が正体です。本来ならまだ地獄界を彷徨っているはずですが、鬼之助が禁断の恋に陥り、たまたま死んだばかりの栗原江蓮の肉体に融合させたわけですからね。つまり厳密に言えば、あの栗原女史も“幽霊”……というかゾンビなわけです。いくら悪霊だからといって、それを鬼之助自ら厳しく取り締まれば、栗原女史にも厳しい態度が求められることでしょう」
「ということはユタ、栗原さんの体を使っている人の魂を再び地獄界に戻して、再び栗原さんを殺さなければならなくなるってことだよ。だからキノは手をこまねいているんだろうね」
「ふーん……。そういうことかぁ……」
 ユタは何となく納得した。
「30年以上前の不良グループのリーダー……。つまり、当時“スケバン”と呼ばれてた者達ですね。イジメどころか、相当ヒドいことをしてきたでしょうね」
 カンジが言った。
「それがイジメを苦に自殺した悪霊と関わっているわけです。実に、皮肉なものですね」
「そういうこと……」
「はははっ(笑) 当時の川井ひとみ時代はそうだったかもしれないけど、今の栗原さんはそんなことするコじゃないよ。昔取った杵柄というヤツで、リーダーシップは発揮してるみたいだけどね」
「あの……ユタ……」
 威吹が気分が悪そうな顔をした。
「どうしたの?」
「今、さっき……」
「ん?」
「『そういうこと……』って、誰が言った?」
「えっ?威吹じゃないの?」
「違うよ。ボクは一瞬、ユタだと思ったけど、違うよね?」
「違うよ」
「オレは喋ってましたから」
 3人とも沈黙してしまった。
「早く帰ろう。何か、寒くなって来た」
「う、うん……」
「帰ったらすぐ、温かくなるものでも作りますよ」
「頼む」
 家路に急ぐ3人。

 その後ろ……電柱の陰に隠れて、3人を見据える者がいた。
 江蓮と同じ学校の制服を着ているが、全体的にボヤけている。
 目つきは氷のように冷たかった。
「栗原……江連……。イジメの……リーダー……」
 そして、ボウッと煙のように消えた。
 
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」

2014-04-15 22:24:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月末夜 JR埼京線各駅停車E233系10号車内 稲生ユウタ&威吹邪甲]

「これでやっと帰れるよ……」
「全く。威吹、お疲れさん」
「いやいや……」
 新宿から埼京線に乗り換えたユタと威吹。
 威吹は緑色の座席に腰掛けていた。
「カンジ君が北与野駅まで迎えに来てくれるみたいだね」
「おっ、そうか。あいつも律儀だな」
「『弟子として当然です』って言うだろうね」
 ユタはニッと笑った。
「ちょうどいい。荷物もデカいし、少し持ってもらうか……」
「まさかマリアさんが、自作の人形をくれるなんてねぇ……」
 奇しくも近くには、ミッキーマウスのぬいぐるみが入っているであろうペーパーバッグを持った家族連れがいた。

 ポロロロン♪ポロロロン♪

「ん?」
 ドアの上からチャイムが聞こえて来た。
「運行情報だね。えー、東武野田線、運転見合わせだって」
「ほお」
「ふーん……大宮公園駅で人身事故ね。こりゃまたとんでもない駅で事故ったなぁ……」
「とんでもないって?」
 威吹が金色の瞳をユタに向けた。
「顕正会の本部会館があるじゃないか」
「ああ」
「ま、顕正会員が飛び込んだわけじゃないだろうけどね」

 ピピピピピピピピ!

「防護無線!?」

〔急停車します。ご注意ください。お立ちのお客様は、お近くの吊革、手すりにお掴まりください〕

 車掌が乗務している乗務員室から、目覚まし時計のタイマーのようなアラームが聞こえた。
「何が起きたんだい?」
 威吹は訝し気だった。
「近くで事故があったみたいだ」
「あれのこと?」
 威吹はドアの上のモニタを指さした。
 そこでは東武野田線運転見合わせの情報を流している。
「いや、鉄道会社が違うから、それは無いよ」

〔「お客様にお知らせ致します。先ほど北与野駅で人身事故が発生しました。只今、負傷者の救助作業を行っているとの情報が入っております。……」〕

「ええーっ!?」
「北与野駅だぁ?」
 その時、ユタのケータイに着信があった。
「も、もしもし?」
 相手はカンジだった。
{「電車に乗車中、申し訳ありません」}
「本当はマナー違反だけど、緊急だからね。でも、手短に頼むよ。一体、何があったの?」
{「どうも、オレ達の知らない所で何か事が起きてるようです」}
「だから何が?」
{「女子高生が電車に轢かれました」}
「そ、そうなの?」
{「東武野田線でも同じ事故が起きたんですが、どちらも同じ学校の生徒です」}
「ふ、ふーん……」
 大変なことだが、まあ、まだ有り得ない話ではない。
{「しかもその学校、栗原江蓮女史の所です」}
「そうなんだ……」
 まだ大丈夫。まだ、有り得なくはない話だ。
 しかし次の瞬間、威吹がユタのケータイを引っ手繰った。
「カンジ!いい加減、結論を言え!結局、最後に何があった!?」
{「北与野駅で事故を起こした電車の先頭車に、栗原氏とキノがいます」}
「はいーっ!?」

 やっと運転再開した時には、もうそろそろ日付も変わろうかという頃だった。
「栗原さん、大丈夫?」
「キノ、何があった?」
 江蓮は駅のベンチに座って、うなだれていた。
 ユタが江蓮に駆け寄り、威吹はキノに問い詰めるように聞いた。
 キノは大げさに肩を竦めて答えた。
「どうもこうも無ェよ。江蓮の学校でトラブルがあったって聞いて、新学期が始まる前に解決しようって動いたんだが、このザマだ。一気に2人に死にやがった。ワケわかんねーよ」
 忌々しそうな感じで答えたキノ。
 無論威吹に対してではなく、この事態に対してだ。
「栗原さん、これは一体……」
「先生、稲生さん。ここは引いた方がよろしいかと」
 カンジが言う。
「どういうことだ?」
 キノも言う。
「ああ。さすがにこの問題はオレ達のことだからな。逆に首突っ込まれると、却って面倒になる。ムシがいいかもしれねーが、どうしようも無くなったら手伝ってくれ」
「ムシがいいな」
「だからそう言ってんだろ」
「確かに栗原さんの学校で何かがあったんだろう。確かに、ボク達は関係無いかもしれない。栗原さん、それは妖怪のしわざなの?」
「いや、妖気は感じなかった」
 江蓮の代わりにキノが答えた。
「お前、女子校に行ったのか?」
「鬼族のエリートをナメんじゃねぇぞ?」
「何がだ。堕ちた……フガガッ!?」
 威吹が何かを言おうとしたのをユタが口を塞いだ。
「威吹、今はケンカはやめとけ!」
「妖気が無いってことは幽霊かな?」
 幽霊は妖気ではなく、霊気である。
「分かんない……。私も何が起きてるのか……。でも……でも……誰も死んで欲しくなかったのに……!」
 そう言って、泣き出す江蓮。
「おい、エレン泣かすんじゃねぇよ、ユタ!」
 キノが抗議した。
「ご、ゴメン……」
「こら!ユタは悪くないだろ!」
 威吹は言い返した。
「とにかく、先生。オレ達は引いた方がいいですって。さすがに相手が幽霊だと、分が悪い」
 カンジは相変わらずポーカーフェイスだったが、額には汗が浮かんでいた。
「確かにな……」
 威吹もフムと頷いた。
「えっ、何が?」
 ユタだけが意味が分からない。
「ユタ、仏教では幽霊はどんな立場?」
 威吹が聞いてくる。
「ど、どんなって……。えー……」
 ユタは答えに窮した。
「そんなの御書で見たことがない……」
「それもそのはずです。仏教では、幽霊の存在を認めていないはずです」
 カンジが言った。
「そう、なのか……」
「それが悪さしている。オレ達も幽霊には手は出せません。そして、仏教徒たる稲生さんでも対応できない。オレ達ができることは、何も無いはずです。……蓬莱山鬼之助以外は」
「おう、そうだぜ」
 キノは自信満々に頷いた。
「こちとら地獄界の獄卒だからな、亡者の扱いには長けている」
「何がだ。2人も死人出したくせによ」
 威吹は毒づいた。
「死んだのは亡者じゃなくて、生きてる人間だぜ?それはオレは知らん」
「まあ、せいぜい頑張んな」
「失礼」
 威吹とカンジはユタを引っ張って、ユタの家に向かった。
「あ、あの、もし良かったら、塔婆供養でも……」
「いいから、ユタ!余計なことはしない!」
 
コメント (1)
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