栗原江連。埼玉県さいたま市大宮区在住。現在、高校2年生。あと1ヶ月で17歳になる。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。
本来、その体を使用している栗原江蓮の魂は存在しない。心臓発作により、死亡してしまった。
その直後、抜け殻となった遺体に憑依する形で使用することとなったのは、今から30余年前、乗り回していたバイクの事故により死亡した不良少女、いわゆる“スケバン”だった川井ひとみ。
本来は未だ地獄界を彷徨わなければならぬところ、一目惚れした獄卒の蓬莱山鬼之助の手引きにより、たった30余年で地獄界から這い上がってしまった。
本来許されぬ行為。鬼之助は獄卒の職を無期限停職処分(でも懲戒免職ではない)となり、一族の恥さらしとして実家からも勘当同然となったが、却って混乱するなどの理由で、川井ひとみが栗原江蓮の体を使用することは咎められなかった。
栗原江蓮は体も気も弱く、それ故、今の私立帝慶学院女子高に入学してからイジメの被害者となっていたが、川井ひとみが使用するようになってから、人格も健康状態もその他スペックもガラリと変わったことで、今では昔取った杵柄とやらで、一グループのリーダー格にまでなっている。
事情をやっと理解できるようになった川井ひとみは、今は栗原江蓮として生きることを決めている。
「心の中で……私は本当はマジメにやりたいという気持ちがあったんだろうな」
と、述懐している。
[4月某日 さいたま市西区治水橋の真ん中辺り 藤谷春人&???]
「本当に、こんな所に栗原さんはいるのか?おい?」
「……黙って行けって言ってんだろ」
「ちっ。どうやら、とんでもないことに首を突っ込んじまったらしい。俺はもう平和な日常に戻れぬかもしれん!」
↑サスペンス映画の見過ぎ。
「妖狐に鬼に雪女に幽霊かよ。何つー縁だ!」
藤谷のベンツの助手席に座るのは、1人の少女。
しかし、どことなく様子が違う。
「幽霊がタバコ吸うな!てかお前まだ高校生だろ!?」
「うっせーんだよ。黙って早くひとみ先輩を助けるんだよ……」
「ちっ。何か変だと思ってたが、お前、栗原……もとい、川井ひとみのスケバン仲間か?」
「フン……」
(おかしいな。あいつら、全員死んだワケじゃないだろ?生きてりゃ40後半のオバハンだろうに……)
藤谷は首を傾げた。
「いた!ひとみ先輩!」
「なに!?」
「返せ!あたしの体!」
栗原江蓮……もとい、川井ひとみは乗っ取られた栗原江蓮の体に追いついた。
「頂き物の体だ!殺させやしないよ!」
川井ひとみは栗原江蓮の体に体当たりした。
だが、乗っ取っている者の方が霊力が強いのか、ビクともしない。
「栗原さん!」
戦闘場所に藤谷が横付けした。
と、同時に、川井ひとみの仲間だという幽霊が車をすり抜けて、栗原江蓮の体の後ろから引き剥がすように乗っ取っている幽霊を引き離した。
「早くしろ!」
仲間は呆気に取られている川井ひとみをドンッと押すと、栗原江蓮の体に戻した。
「邪魔しやがって!許さない!!」
「テメェこそ、ガキの分際でしゃしゃってんじゃねぇよ!」
栗原江蓮の体から抜け出た者は、帝慶学院の制服を着た女子生徒の幽霊。
もう1人、藤谷が連れて来た方はセーラー服でスカートが袴のように長く、頭をパーマにしていた。
いがみ合いながら、2人の幽霊は消えた。
「あ?何だかんだ言って、地獄界に戻ったのか?」
藤谷は目を丸くした。
「うう……」
江蓮がうめき声を上げた。
「おい、大丈夫か?何だって、こんなことに……」
「ちくしょう……油断した……」
[同日午後 JR大宮駅 稲生ユウタ&威波莞爾]
「そうですか。栗原さん、元に戻りましたか」
ユタは電車を降りてから藤谷に電話して、結果を聞いていた。
それを聞いてホッとする。
{「何か、話がややこしいことになりそうだ。そろそろ俺達は手を引いた方が良さそうだぜ?」}
「良さそうだぜって、お寺の仲間がピンチなのに放っておくわけには……」
{「通常はそうなんだが、幽霊同士のケンカを目の当たりにしてみろ。嫌でも逃げ出したくなるぜ」}
「幽霊同士のケンカって?栗原さんと……」
{「違う違う。生前スケバンだった川井ひとみの仲間だったってヤツと、栗原さんの体を乗っ取っていた幽霊だ」}
「……何かよくわかりません」
{「だろぉ?さすがの一流建設業も、力及ばずってところだ。あとはキノ辺りに任せて、逃亡してだな……」}
「当の栗原さんは?」
{「今は家で休んでる。明日、始業式らしいからな。春休み終了までにこの事件を解決するっていう目標、達成できなかったようだな」}
「そうですか……」
{「稲生君は?大学はもっと春休み長いのか?」}
「僕も来週からです」
{「いいよなぁ、学生は。俺もドカッと休みが欲しいぜ」}
「取ればいいじゃないですか」
{「会社役員ってのはねぇ、色々忙しいんだよ。営業とか、会議とか、組合の相手とか……」}
「はあ……」
{「そういえば威吹君は?せっかく稲生君が『異議あり!』って逆転裁判やって無罪放免にしたのに、まだ余罪があるのか?」}
「余罪じゃないですよ。今後の身の振り方とかね……」
[翌日昼頃 私立帝慶学院女子高 藤谷春人]
(仲間の別の作品だと、この時点で稲見真梨香というイジメ加害者のリーダーが、生き残ったメンバーを連れて江蓮に近寄って来る。江蓮が『変な宗教』をやっているという噂を聞いて、それで幽霊をお祓いしろというもの。
江蓮は苦笑いするだけだったが、江蓮と一緒にいるメンバーは何を今更という感じでくって掛かる。自分達は早めにイジメていた江蓮に謝って許してもらい、今ではすっかり仲間であるが、稲見達は全く謝らず、反省しないどころか、今度の別の生徒をターゲットにイジメを始めた。その生徒が自殺し、それが幽霊となって復讐をしているという噂が広がっている。教室ではそんなやり取りがあったことは知らずに……)
藤谷は現場監督や数人の作業員を連れて、新体育館の建設現場にいた。
「それじゃ、基礎工事は青木工務店さんにお願いするってことでいいのかな?」
藤谷は現場監督に言った。
「はい。既に材料の搬入は済んでますし、午後からすぐに基礎工事を始めます」
現場監督はそう答えた。
「まさか、どこぞの中学校みたいに穴掘ったらまた死体が出てくるなんてことはないと思うが、一応緊張してやってくれ。一応な」
「はい」
そこへ藤谷の携帯電話が鳴る。
「おっと。親父……もとい、社長からだ」
藤谷は電話を取ると、校舎の陰の方に歩いていった。
「はい、もしもし?」
父親の名前は藤谷秋彦。藤谷組の代表取締役社長にして、日蓮正宗・正証寺の仙台地区長でもある。
「……あっ、こっちは順調っスよぉ!まあちょっとしたゴタゴタはあるけど、仕事自体は完璧!本当に、仏法の功徳は凄いっスね!正に福運が雨のように上から降り注いでるって感じ!……そう!今正に上から……」
……ゴッ!
「!!!」
{「!? もしもし?どうした、春人?おい、自称専務!話の続きを……!もしもし?もしもーし!?」}
藤谷の前に落ちて来たのは、1人の女子生徒だった。
頭から地面に激突した為、頭が割れ、脳が飛び出ている。
うつ伏せになっているため、その表情が分からないのが却って良かったかもしれない。
即死なのは間違いなかった。
「くそっ!林田!貴様、やり過ぎだ!!」
「!?」
2階の窓から屋上に向かって叫ぶ江蓮の姿があり、その上……屋上付近に浮遊するのは……快楽殺人者のような笑みを浮かべて満足そうに見下ろす……あの幽霊の少女の姿だった。川井ひとみの仲間の方ではない。栗原江蓮の体を乗っ取っていた方だ。
江蓮に林田と呼ばれた少女は歪んだ笑みを浮かべたまま、スッと煙のように消えた。
「こりゃ本当に、平和な日常ってワケにはいかねーってこと……か」
藤谷はただ黙って肉塊と化した少女……稲見真梨香の死体を見下ろすしかなかった。
こういう時、どういうわけだか冷静にいられた自分が滑稽で仕方が無かったと、後で藤谷は述懐している。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。
本来、その体を使用している栗原江蓮の魂は存在しない。心臓発作により、死亡してしまった。
その直後、抜け殻となった遺体に憑依する形で使用することとなったのは、今から30余年前、乗り回していたバイクの事故により死亡した不良少女、いわゆる“スケバン”だった川井ひとみ。
本来は未だ地獄界を彷徨わなければならぬところ、一目惚れした獄卒の蓬莱山鬼之助の手引きにより、たった30余年で地獄界から這い上がってしまった。
本来許されぬ行為。鬼之助は獄卒の職を無期限停職処分(でも懲戒免職ではない)となり、一族の恥さらしとして実家からも勘当同然となったが、却って混乱するなどの理由で、川井ひとみが栗原江蓮の体を使用することは咎められなかった。
栗原江蓮は体も気も弱く、それ故、今の私立帝慶学院女子高に入学してからイジメの被害者となっていたが、川井ひとみが使用するようになってから、人格も健康状態もその他スペックもガラリと変わったことで、今では昔取った杵柄とやらで、一グループのリーダー格にまでなっている。
事情をやっと理解できるようになった川井ひとみは、今は栗原江蓮として生きることを決めている。
「心の中で……私は本当はマジメにやりたいという気持ちがあったんだろうな」
と、述懐している。
[4月某日 さいたま市西区治水橋の真ん中辺り 藤谷春人&???]
「本当に、こんな所に栗原さんはいるのか?おい?」
「……黙って行けって言ってんだろ」
「ちっ。どうやら、とんでもないことに首を突っ込んじまったらしい。俺はもう平和な日常に戻れぬかもしれん!」
↑サスペンス映画の見過ぎ。
「妖狐に鬼に雪女に幽霊かよ。何つー縁だ!」
藤谷のベンツの助手席に座るのは、1人の少女。
しかし、どことなく様子が違う。
「幽霊がタバコ吸うな!てかお前まだ高校生だろ!?」
「うっせーんだよ。黙って早くひとみ先輩を助けるんだよ……」
「ちっ。何か変だと思ってたが、お前、栗原……もとい、川井ひとみのスケバン仲間か?」
「フン……」
(おかしいな。あいつら、全員死んだワケじゃないだろ?生きてりゃ40後半のオバハンだろうに……)
藤谷は首を傾げた。
「いた!ひとみ先輩!」
「なに!?」
「返せ!あたしの体!」
栗原江蓮……もとい、川井ひとみは乗っ取られた栗原江蓮の体に追いついた。
「頂き物の体だ!殺させやしないよ!」
川井ひとみは栗原江蓮の体に体当たりした。
だが、乗っ取っている者の方が霊力が強いのか、ビクともしない。
「栗原さん!」
戦闘場所に藤谷が横付けした。
と、同時に、川井ひとみの仲間だという幽霊が車をすり抜けて、栗原江蓮の体の後ろから引き剥がすように乗っ取っている幽霊を引き離した。
「早くしろ!」
仲間は呆気に取られている川井ひとみをドンッと押すと、栗原江蓮の体に戻した。
「邪魔しやがって!許さない!!」
「テメェこそ、ガキの分際でしゃしゃってんじゃねぇよ!」
栗原江蓮の体から抜け出た者は、帝慶学院の制服を着た女子生徒の幽霊。
もう1人、藤谷が連れて来た方はセーラー服でスカートが袴のように長く、頭をパーマにしていた。
いがみ合いながら、2人の幽霊は消えた。
「あ?何だかんだ言って、地獄界に戻ったのか?」
藤谷は目を丸くした。
「うう……」
江蓮がうめき声を上げた。
「おい、大丈夫か?何だって、こんなことに……」
「ちくしょう……油断した……」
[同日午後 JR大宮駅 稲生ユウタ&威波莞爾]
「そうですか。栗原さん、元に戻りましたか」
ユタは電車を降りてから藤谷に電話して、結果を聞いていた。
それを聞いてホッとする。
{「何か、話がややこしいことになりそうだ。そろそろ俺達は手を引いた方が良さそうだぜ?」}
「良さそうだぜって、お寺の仲間がピンチなのに放っておくわけには……」
{「通常はそうなんだが、幽霊同士のケンカを目の当たりにしてみろ。嫌でも逃げ出したくなるぜ」}
「幽霊同士のケンカって?栗原さんと……」
{「違う違う。生前スケバンだった川井ひとみの仲間だったってヤツと、栗原さんの体を乗っ取っていた幽霊だ」}
「……何かよくわかりません」
{「だろぉ?さすがの一流建設業も、力及ばずってところだ。あとはキノ辺りに任せて、逃亡してだな……」}
「当の栗原さんは?」
{「今は家で休んでる。明日、始業式らしいからな。春休み終了までにこの事件を解決するっていう目標、達成できなかったようだな」}
「そうですか……」
{「稲生君は?大学はもっと春休み長いのか?」}
「僕も来週からです」
{「いいよなぁ、学生は。俺もドカッと休みが欲しいぜ」}
「取ればいいじゃないですか」
{「会社役員ってのはねぇ、色々忙しいんだよ。営業とか、会議とか、組合の相手とか……」}
「はあ……」
{「そういえば威吹君は?せっかく稲生君が『異議あり!』って逆転裁判やって無罪放免にしたのに、まだ余罪があるのか?」}
「余罪じゃないですよ。今後の身の振り方とかね……」
[翌日昼頃 私立帝慶学院女子高 藤谷春人]
(仲間の別の作品だと、この時点で稲見真梨香というイジメ加害者のリーダーが、生き残ったメンバーを連れて江蓮に近寄って来る。江蓮が『変な宗教』をやっているという噂を聞いて、それで幽霊をお祓いしろというもの。
江蓮は苦笑いするだけだったが、江蓮と一緒にいるメンバーは何を今更という感じでくって掛かる。自分達は早めにイジメていた江蓮に謝って許してもらい、今ではすっかり仲間であるが、稲見達は全く謝らず、反省しないどころか、今度の別の生徒をターゲットにイジメを始めた。その生徒が自殺し、それが幽霊となって復讐をしているという噂が広がっている。教室ではそんなやり取りがあったことは知らずに……)
藤谷は現場監督や数人の作業員を連れて、新体育館の建設現場にいた。
「それじゃ、基礎工事は青木工務店さんにお願いするってことでいいのかな?」
藤谷は現場監督に言った。
「はい。既に材料の搬入は済んでますし、午後からすぐに基礎工事を始めます」
現場監督はそう答えた。
「まさか、どこぞの中学校みたいに穴掘ったらまた死体が出てくるなんてことはないと思うが、一応緊張してやってくれ。一応な」
「はい」
そこへ藤谷の携帯電話が鳴る。
「おっと。親父……もとい、社長からだ」
藤谷は電話を取ると、校舎の陰の方に歩いていった。
「はい、もしもし?」
父親の名前は藤谷秋彦。藤谷組の代表取締役社長にして、日蓮正宗・正証寺の仙台地区長でもある。
「……あっ、こっちは順調っスよぉ!まあちょっとしたゴタゴタはあるけど、仕事自体は完璧!本当に、仏法の功徳は凄いっスね!正に福運が雨のように上から降り注いでるって感じ!……そう!今正に上から……」
……ゴッ!
「!!!」
{「!? もしもし?どうした、春人?おい、自称専務!話の続きを……!もしもし?もしもーし!?」}
藤谷の前に落ちて来たのは、1人の女子生徒だった。
頭から地面に激突した為、頭が割れ、脳が飛び出ている。
うつ伏せになっているため、その表情が分からないのが却って良かったかもしれない。
即死なのは間違いなかった。
「くそっ!林田!貴様、やり過ぎだ!!」
「!?」
2階の窓から屋上に向かって叫ぶ江蓮の姿があり、その上……屋上付近に浮遊するのは……快楽殺人者のような笑みを浮かべて満足そうに見下ろす……あの幽霊の少女の姿だった。川井ひとみの仲間の方ではない。栗原江蓮の体を乗っ取っていた方だ。
江蓮に林田と呼ばれた少女は歪んだ笑みを浮かべたまま、スッと煙のように消えた。
「こりゃ本当に、平和な日常ってワケにはいかねーってこと……か」
藤谷はただ黙って肉塊と化した少女……稲見真梨香の死体を見下ろすしかなかった。
こういう時、どういうわけだか冷静にいられた自分が滑稽で仕方が無かったと、後で藤谷は述懐している。