報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 3

2014-04-16 19:43:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月初め午前中 さいたま市某区 私立帝慶学院女子高 藤谷春人]

「いやあ、今年度から新体育館の工事をお任せ頂き、大変な大功徳です」
 藤谷は何故か男子禁制の女子高の中を歩いていた。
 とはいえ、1人ではない。隣には年配の、恰幅のいい校長が一緒である。
「こちらこそ、よろしくお願いしますよ。藤谷組さんはここ何年もの間、アベノミクスの恩恵を受けずに、企業努力で業績を上げていらっしゃるということで、是非にと思った次第です」
「大変光栄です。早速明日から作業に当たらせて頂きます。まず先に、重機などの搬入からさせて頂きますので……」
「ええ。お任せします」
 その時、藤谷の目に1人の女子生徒の姿が目に入った。
「おっ、こんにちは!新体育館の建設、もうすぐ準大手ゼネコン入り且つそのうち大手ゼネコン入り間違い無しの藤谷組をどうぞよろしく。何なら、卒業後の就職先にどうぞ!」
「あの、藤谷専務?どなたに言っておるので?」
 校長が首を傾げた。藤谷の目線の先に目を凝らしながら、訝しげな顔をする。
「へ?」
「誰も見当たりませんが……?」
 次の瞬間、女子生徒の姿はいなくなっていた。
「……あれ?目の錯覚かな???」
 藤谷は首を傾げて、目を擦った。しかし、やはり誰もいなかった。
「す、すいません。目の錯覚だったようで」
「はあ……」
「まあ、とにかく、安全第一で作業させて頂きます」
「よろしくお願いします」
 藤谷は自分の車に乗り込むと、すぐに学校を後にした。
「いやいや、年度初めから早速そこそこ実入りのいい仕事が入ったのは、マジで功徳だわー。今年こそ、“大白法”で体験発表載っちゃうかなぁ、おい」
 その時、藤谷は見覚えのある顔が目に入って車を止めた。
「おーい、お二方」
「藤谷さん」
 それは栗原江蓮と蓬莱山鬼之助だった。
「学校ならまだ春休みだろ?」
「そういう藤谷さんは?うちの学校から来たみたいだけど……」
「ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれた。実はな……」
「女子生徒の体操着でもパクりに行ったのか?」
「アホか!新体育館の建設、うちが請け負ったんだよ。それで、今日は年度初めのご挨拶に、専務として校長先生にお会いしてたってところだ」
「ふーん……」
 藤谷は胸ポケットから何かを出そうとした。
「ちっ。タバコ切れた」
 とはいえ、ストックがダッシュボードの中にあるらしく、それを開けた。
「ん!?」
 中から現れたのは紺色の……スクール水着だった。
「藤谷さん……」
「藤谷、テメェ……」
「違う!これは、あの雪女の仕業だ!あいつ、ブラとパンティじゃなく、今度はスク水置いて行きやがった。その前はブルマーだったし!」
「お前にラブコール送ってる雪女ってな、こっちじゃ中高生じゃねぇのか?」
 キノは呆れた顔をした。
「30過ぎて、そんなのと付き合ったら犯罪だぜ?」
「だから困ってんだよ、こっちは!」
「ていうかさ、藤谷さん……」
 江蓮は目を丸くしていた。
「後ろに誰乗せてるの……?」
「は?」
 藤谷は反射的にルームミラーを見た。

 そこにいたのは……。

 青白い顔をした……悲しげな……それでいて、恨めしそうな顔をしている女子高生の……。

「うわっ!出たっ!」
 振り向くと、既にそこには誰もいなかった。
 藤谷は車から飛び降りた。
「オメェ、取り憑かれたな」
「な、何いっ!?」
「校長だけでなく、幽霊に挨拶でもしたんじゃねーのか?」
「え?……あ!もしかして……」
 藤谷は校庭での出来事を思い出した。
「あれ……幽霊だったのか……って、何でこんな真昼間に!?」
「幽霊が夜だけってのは大間違いだぜ?元は生きてる人間だ。中には夜が怖いってんで、昼しか出たがらねぇ意識体もいるくらいだ」
「おぉおい、助けてくれよ!?」
「でもキノ、藤谷さんがここまでフツーに車を走らせられたってことは、本当は取り憑かれてないんじゃない?」
 と、江蓮。
「最近の意識体も、動きが変化してるみてーだからな。もしかしたら、霊力C級の藤谷には取り憑く価値も無かったか?ま、それだったら、良かったな?」
「何か、気に障る言い方しやがるな……」
 藤谷はようやく、買い置きしていたタバコに火を点けることができた。
「学校行くのか?」
「いい。やっぱり幽霊はいるみたいだからね、それだけ確認できれば今のところOKでいいよ」
「じゃあ、家まで送るぞ。乗ってけ」
「おっ、ありがたい」
 キノと江蓮はリアシートに乗り込んだ。

 走り出した車。

 その様子を電柱の陰で見据える1人の少女。

「栗原……江蓮……イジメの……リーダー………」

[同日11:40.東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生ユウタ]

「今身から仏身に至るまで……【中略】……保ち奉るや否や?」
「保ち奉るべし!南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」
 ユタは御経の時間に参加していた。
 大抵その時間は、新願者の御受誡や御勧誡が行われることがある。
「おめでとうございます」
 紹介者やその周囲の信徒達が、新願者に祝福の言葉を掛けている。
(僕もあんな感じだったなぁ……)
 ユタは自分が御受誡した時のことを思い出し、最後に御本尊に御挨拶をするべく、御題目三唱した。

 と、その時、

 ブチッ!と音がして、ユタの数珠が切れた。
「え……?」
 珠が畳の上に転がる。
「ああっと!」
 急いでそれを拾った。
「どうしました?」
 そこへ1人の僧侶が声を掛けてくる。
「あっ、副住職様!いや……何か、数珠が突然切れて……」
「さようですか」
「おっかしいなぁ……。御山で買ったばかりなのに……」
 因みに御受誡の時はさすがに顕正会の数珠を使うわけにはいかないので、藤谷の予備を借りた。
「形あるものは、いずれ壊れるもの。これも、御仏智です」
「御仏智……ですか」
 ユタはそれでも、何か胸騒ぎを感じずにはいられなかった。
(あの幽霊騒ぎ……。後で、連絡してみよう)
コメント (6)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「春休み終わり」 2

2014-04-16 15:35:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月1日朝 さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]

『春休み最後の惨事!』『女子高生2人、電車にはねられ死亡』『何故?違う場所で同じ学校の生徒が?』
「おはようさん」
 ユタが起きて来た。
「あ、おはよう」
「おはようございます」
 新聞を眉を潜めて読んでいた威吹は目を放して、ユタを見た。
 台所にいたカンジもユタを見る。
「なに?昨夜のこと?」
「ああ」
「急いで朝刊の記事を差し替えたようですね。全国紙だとそうはいかないでしょうが、地方紙だからできることでしょう」
 カンジが言った。
「あれ?ユタはまだ春休みだよね?」
「うん。でも、今日はうちの大学の入学式だから」
「? 通っているのに、入学式に出る???」
 威吹は首を傾げた。
 そこへカンジが、
「きっと、入学式の運営を手伝うボランティア……奉仕活動でしょう。今年は稲生さんに白羽の矢が立った。……ですよね?」
「まあ、そんななところかな」
 口調は柔らかだったが、相変わらずのポーカーフェイスを向けられたユタは少しびっくりする。
(少しはこの気弱な所を直さないとな……)
「大学へ行くんだったら、ボク達は治外法権だな」
「ですね」

[同日06:30.JR北与野駅 稲生ユウタ]

〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、6時31分発、りんかい線直通、各駅停車、新木場行きです〕

(マジかよ……)
 スーツ姿のユタは顔をしかめた。
 昨夜、人身事故が発生した現場に佇む1人の女子高生。
 栗原江蓮と同じ制服を着ているが、顔には生気が無い。
 それもそのはず。彼女は今朝の朝刊に掲載された写真に載っていた。
(アウトだろ……。仏法的に)
 しかも、こっち見てるし。明らかにユタの霊力に気付いている。
 何かの本で見たが、ここで気づいてやると、憑依してくる恐れがあるという。
 つまり、冷たいことだが、あしらうかスルーするのがベストらしい。
(もしかして、大宮公園駅にもいるんじゃないのか?)
 キノは何をしているのだろう?
 恐らく死んだ彼女達は、日蓮正宗信徒ではないだろう。
 で、あるなら可哀想だが、地獄界に堕ちているはず。
 本来、意識体(幽霊)としてこんな所に佇むはずはないのだ。

〔まもなく1番線に、各駅停車、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 昨夜乗った電車と同じ新型車両がやってくる。
(参ったなぁ……)
 ユタは電車に乗り込んだ。
 平日のこの時間、既に空いている席は無く、ユタはホームに向かうようにして吊り革に掴まった。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 発車メロディもそこそこに、ドアが閉まって電車が走り出した。
(やっぱり気づいてるなぁ……)
 悲しげな顔でユタを見つめる少女の姿があった。
(う……。もしかして、ずっとこのままいる気か……)

〔次は与野本町、与野本町。お出口は、右側です〕
〔The next station is Yono-Honmachi.The doors on the right side will open.〕

[同日夕方 JRさいたま新都心駅 稲生ユウタ]

〔さいたま新都心〜、さいたま新都心〜。ご乗車、ありがとうございます〕

「あれ?ユタ、珍しいね。大学からだと、埼京線だけなのに……」
「埼京線はほぼ平常運行ですが……」
 電車を降りて改札口を出ると、威吹とカンジが迎えに来ていた。
「ああ、いや、その……。たまには、京浜東北線に乗ってみたくて……」
「ふーん……」
「稲生さん。肩と声が震えてますよ。どうかしましたか?」
 カンジがポーカーフェイスのまま聞いてくる。
 ユタが答えに窮していると、威吹の方から口を開いた。
「実は昼間、キノから連絡があったんだ」
「キノから?」
「ええ。『地縛霊の出没に注意』だそうです。何でも、強い思念を持った意識体に話し掛けると取り憑かれるので注意とのことですが、そうそう意識体なんてお目に掛かれるものではないですからね。まあ、C級程度の人間でしたら、一生目にすることはないでしょう。稲生さんくらいのS級になればもしかして、と思いまして」
 1つ喋り出すと、実はカンジの方がセリフが多いという……。
「そうなの……。実は……」

[同日夕方 JR北与野駅前 ユタ、威吹、カンジ、キノ、江蓮]

「意識体ってのはな、幽霊のようで幽霊じゃねぇんだよ」
 と、キノは言う。
「モノホンの魂は、ちゃんと地獄界で預かってるよ」
「じゃあ、何なの?」
 ユタが聞いた。
「だから、強い残留思念の集合体といったところかな。魂の残像というか……。ただ厄介なことに、知らないヤツが不用意に接触すると、大変なことになるんだな」
「どんな風に?」
「ホームにいた女は電車に轢かれたわけだろ?取り憑かれると、そいつも電車に飛び込むことになるぜ」
「ええっ!?」
「まあ、安心しな。ユタのタレこみのおかげで、上にいたヤツは処理しといたから」
 キノは高架にあるホームを指さした。
「ユタのタレこみが無くても、これくらいは想定できんのか?」
 威吹は文句を言った。
「電車に轢かれて死んだヤツが、必ず意識体を残すわけじゃねぇんだよ。そしたら、いちいち人身事故が起こるたんびにオレらが大変だろうが」
「もしかして、大宮公園駅も?」
 ユタの質問に江蓮が答えた。
「そっちは大丈夫だった。だから、北与野駅に意識体が出るなんて思わなくて……。悪かったな」
「いや……。一体、何が起こってるんだい?」
「ユタ、首を突っ込むのはダメだ。ボク達は早く帰ろう」
「その方がいいですよ、稲生さん」
「簡単に話すよ」
 と、江蓮。
「昨年、うちの学校でイジメを苦に自殺したヤツがいた。そいつがどういうわけだか、1年越しに幽霊になって戻ってきて、復讐を始めた。簡単に言えば、そういうこと」
「確かに話としては簡単だけど……。キノの取り締まりで簡単にできるんじゃ?」
「それが、世の中そんなに甘くないってところだな。ま、こっちにはこっちの事情があるんだが……。まあ、とにかく、タレこみに関しては礼を言うぜ。また意識体見つけたら、オレに教えてくれ。マックくらい、後でおごるぞ」
「ど、どうも……」

[同日夕方 JR北与野駅→ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]

「何だろうね。悪霊を捕まえることくらい、キノなら簡単そうなのに。地獄界の獄卒なんだからさ」
「多分、栗原さんのことが引っ掛かるんだろうね」
 と、威吹。
「栗原さんが?」
「栗原さんは特殊な事情で蘇った“亡者”だ。悪霊を厳しく取り締まること自体は簡単なんだろうが、それだと栗原さんを特別扱いできなくなってしまう。それはキノにとっても難しいところなんだろう」
「ああ、なるほど。それでさっき、栗原さんをチラッと見たのか」
 カンジも続ける。
「確かに栗原女史は30年以上前、不良グループのリーダーだった者が正体です。本来ならまだ地獄界を彷徨っているはずですが、鬼之助が禁断の恋に陥り、たまたま死んだばかりの栗原江蓮の肉体に融合させたわけですからね。つまり厳密に言えば、あの栗原女史も“幽霊”……というかゾンビなわけです。いくら悪霊だからといって、それを鬼之助自ら厳しく取り締まれば、栗原女史にも厳しい態度が求められることでしょう」
「ということはユタ、栗原さんの体を使っている人の魂を再び地獄界に戻して、再び栗原さんを殺さなければならなくなるってことだよ。だからキノは手をこまねいているんだろうね」
「ふーん……。そういうことかぁ……」
 ユタは何となく納得した。
「30年以上前の不良グループのリーダー……。つまり、当時“スケバン”と呼ばれてた者達ですね。イジメどころか、相当ヒドいことをしてきたでしょうね」
 カンジが言った。
「それがイジメを苦に自殺した悪霊と関わっているわけです。実に、皮肉なものですね」
「そういうこと……」
「はははっ(笑) 当時の川井ひとみ時代はそうだったかもしれないけど、今の栗原さんはそんなことするコじゃないよ。昔取った杵柄というヤツで、リーダーシップは発揮してるみたいだけどね」
「あの……ユタ……」
 威吹が気分が悪そうな顔をした。
「どうしたの?」
「今、さっき……」
「ん?」
「『そういうこと……』って、誰が言った?」
「えっ?威吹じゃないの?」
「違うよ。ボクは一瞬、ユタだと思ったけど、違うよね?」
「違うよ」
「オレは喋ってましたから」
 3人とも沈黙してしまった。
「早く帰ろう。何か、寒くなって来た」
「う、うん……」
「帰ったらすぐ、温かくなるものでも作りますよ」
「頼む」
 家路に急ぐ3人。

 その後ろ……電柱の陰に隠れて、3人を見据える者がいた。
 江蓮と同じ学校の制服を着ているが、全体的にボヤけている。
 目つきは氷のように冷たかった。
「栗原……江連……。イジメの……リーダー……」
 そして、ボウッと煙のように消えた。
 
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