報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「おーい!鬼之助!」

2014-04-24 21:49:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月下旬 時間不明 地獄界某所にある蓬莱山家 蓬莱山鬼之助]

「……せっかく手に入れた“獲物”やき、大事にせなアカンっちゅう掟は知っとるよね?」
「へ、へへ……そりゃもう……」
 広くて大きな日本屋敷。
 その一室の畳の上に正座して畏まるキノの姿があった。
 卓を挟んで向かい合わせに座るのは、艶やかな着物姿の美しい女性。
 キノと同じく赤銅色の肌をしており、赤鬼であると分かるが、キノの黒髪に対して女性の方は銀髪である。
 険しい顔をしてキノを叱責しているのは、蓬莱山家の長姉、美鬼(みき)であった。
 キノと違って、西日本訛りの口調である。
「相手……栗原江蓮ちゃんは今時貴重なAクラスや。もしかすると、蓬莱山家の名誉にも関わってくるかも分からんのやで?」
「は、はい……」
「で、何なん?この“苦情申し立て書”は?え!?」
 バン!と1枚の書類を出し、テーブルを強く叩く美鬼。
 ビクッと体を震わせるキノ。
 苦情申し立て書は“獲物”……例えばこの場合、江蓮がキノの態度があまりにも悪いので何とかしてくれという苦情をキノの実家、蓬莱山家に提出する書類のことである。
 群れ単位で活動する妖狐族にはこんなものは無いが、家族単位で活動する鬼族にはあり、苦情申し立て書を受け取った家族は速やかに対応しなければならない。
「そ、それは……その……どこで見つけたのでしょうか……?」
「アンタの部屋の机の裏!部屋を掃除してたら見つけたんよ。アンタまさか、隠してたん?」
「い、いえ、そのような事実は……一切ございません……。事実無根です……」
「内容は主に、アンタに毎日セクハラされて困っとると。アンタもええ歳やき、女の子に興味を持つのは分かるけどね、苦情が出るって何なん?怒らんから、正直に言うてみい?」
「え、えと……それは、その……。早いとこ契りを交わしたいのに、江蓮のヤツ、ガードが固くて……。それで、その気にさせようとオッパイ触ったり、ケツ触ったりしたくらいですが……」
「人のせいにしなさんな!」
 バンッ!(←思いっきりテーブルを叩く音)
「オーマイガッ!……今、怒らないって言った……」
「全く!アンタは何かあったら、すぐに人のせいにして!その態度がアカンのよ!アンタはもっとウチやオカン、オトンの言う事よく聞いて……」
「?」
 その時、キノは説教に夢中になってる姉の背後、襖の隙間から弟や妹が様子を伺っているのに気づいた。
 弟は人間で言えば高校生、妹は中学生くらいになる。
 その妹、魔鬼(まき)がジェスチャーで何か聞いて来た。
(キノ兄ィ、そこでテレビ見たいんだけど、まだ説教終わりそうにない?)
 さすが血の通った兄弟。キノはすぐに分かって、サインを送り返した。
(そんなことより、この様子じゃ、まだ気づいてねぇみてーだ。アレ、姉貴に見つかる前に隠しといてくれ。停職食らう前に溜め込んだ、あの忌まわしき始末書の数々!)
(そんなの知らないし!だいたい、全部キノ兄ぃが悪いんじゃん)
(そんなこと言ってると、今よりもっと恐ろしいモノを見ることになるぞ?オカン達よりもっと怖い姉貴の“アルマゲドン”ってヤツをさ!)
 キノは頭の上に両手の指を立てて、鬼の仕草をした。

 が!

「アンタ、ウチが説教しとるっちゅーに何しとんの?」
 美鬼にバレた!
「あっ!?えっ、えー……これは……これはその……。そう!牛っすよ!牛!モーモーモーのモーモーモー!」
「でやぁーっ!」
 蓬莱山家に長姉の怒声と鈍い音が響き渡った。
 美鬼は傍らに置いていたコブ付きの金棒を取り、力任せに大きな弟を引っ叩いて折檻した。

(こりゃダメだ……)
(一時退散ってことで……)
 魔鬼と弟の鬼郎丸は抜き足差し足忍び足で、その場を離れようとした。が、
「ん?そこに魔鬼達おんの?」
 鋭い長姉に気付かれてしまった。
(ヤバっ!)
 バビューンと一目散に逃げるは次兄の鬼郎丸。
(キロ兄ぃ、速っ!)
「そう言えば魔鬼、アンタもこの前の学力テスト、大して良う無かったんな?おるんなら、こっち来ィ」
 魔鬼も慌てて逃げ出した。
「こらっ!アンタ達、どこ行くん!?アンタ達も兄さんに何か言ったって!!」
 長姉の美鬼が慌てて下の弟達を追い掛ける。
「……!?」
 その時、キノは背後の障子が少し開いているのに気づいた。
 開けると、すぐ外の世界が広がっている。
 腐臭漂う風の流れに乗って、亡者達の苦悶の声が僅かに聞こえてくる。
「……よし!」
 キノは意を決したかのように、屋敷の外への脱出を試みた。

 が!

 ガシッ!(後ろからキノが羽交い絞めにされる)

「なに逃げようとしてんの、アンタわ!?まだ話は終わってないよ!」
「す、すいません!もう終電がーっ!」
「アホ言いなさんな!冥界鉄道に初電も終電も無いよっ!」
「いや、JR山手線です!」
「アンタの“獲物”は埼玉在住でしょうが!山手線がどこに出てくる言うんよ!?」
 ズルズルと引きずられるキノ。

 バンッ!(障子が乱暴に閉められる音)

[1時間後]

 正座して平伏すキノの姿があった。
「これからはちゃんと良識ある行動取るんよ?分かった!?」
「……はい。存分に承知しました……」
「せっかくのAクラスの“獲物”やき、ちゃんと大事にするんよ?」
「……ということは、今の自分は『獲物を大事にしていない認定』なのでしょうか?」
 しかし、美鬼はそれには答えず、スッと立ち上がった。
「分かったら、今日1日は家で反省しとき。じゃあウチ、アンタの部屋の整理をしてくるから」
「え?」
「アンタが1日でも早う復職かなって、大手振って家に帰れるのを待ち侘びとるんよ、これでも……」
 その時、既に長姉からは鬼のような形相が消えていた。

「ふう……」
 長姉の姿が無くなったことを確認した魔鬼と死郎丸は、ようやく居間に入ることができた。
「終わったの、キノ兄ぃ?」
「おう。終わった終わった。こんなの、神妙な顔して頭下げときゃ台風は過ぎるってもんだ」
「全然反省してないだろ、兄貴?」
 弟が呆れた顔をしていた。
「そんなことより、始末書隠しといてくれたか?」
「一応ね」
「へへっ、サンキュー」
「何でいつもオレ達が兄貴のとばっちりと尻拭いさせられんだよ?」
「ああ、そうだな。確かにいつもお前らには迷惑掛けっ放しだったな。よーし、じゃあ今度人間界に連れて行って、マック奢ってやる」
「マジ!?」
「おうよ。そうと決まったら、明日から人間界に行く準備しとかないとな」
「で、お姉ちゃん、どこに行ったの?」
「何か、オレの部屋の掃除してくれるってさ」
「!」
「ああ見えて、姉ちゃんも、忙しくていつも家にいない父さんや母さんの代わりをしてくれてるんだから、兄貴ももっと気ィ使ってやんなよ」
「おっ?お前も言うようになったな?」
「いや、でも……」 
「ん?どうした魔鬼?蒼い顔して?オレ達、赤鬼なんだから、蒼くなってどうするよ?」
「魔鬼、そういえば兄貴の始末書、どこに隠したんだ?」
「キノ兄ぃの部屋の……」
「ん?」
「あ?」
「押入れの……中……!」

 台風は突然やってくる!

「くぉらーっ!鬼之助ーっ!何なんこの始末書の山はーっ!!」
「ひぃぃぃっ!」
「きゃあーっ!」
「ひえええっ!!」
 突然の落雷に、下の鬼族の兄弟達は鬼と化した長姉の襲来に逃げ惑うだけだった。
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本日の雑感

2014-04-24 00:20:57 | 日記
 本来ならオバマ大統領来日でもネタにした記事でも書くところだが、今日は個人的なことを書かせて頂こうと思う。
「ネットde折伏」を展開している武闘派の人達は、相互リンクを行って、アクセス数の向上並びに情報の共有を図っているようである。
 私も先代のブログでは、よくそうさせて頂いたものだ。
 あの“あっつぁの顕正会体験記”のリンク集にも、連ならせて頂いたこともある。
 しかし、このブログでは先代のスタンスを大幅に変更し、破折や法論はしない主義を取らせて頂いている。
 作者(管理者)自身がそこまで追い着いていない為である。
 また、正しい信仰を行ずるに当たり、その感動をお伝えできないでいる。

 これでは、武闘派と肩を並べられるものではない。
 なので、気になったブロガーさんの記事にコメントをさせて頂くことはあっても、相互リンクのお願いはしていない。
 独自路線を行くのみである。
 私の現在の紹介者もブロガーであったが、学会員に荒らされ、休止状態となっている。
「多忙で更新ができない」
 と言っていたが、私から見れば学会員に潰されたようなものだ。
 顕正会員バーズさんのブログにコメントされておられる、別の顕正会員の仰っておられたオチである。
 紹介者は元学会員であるが、私は何度もここで申し上げている通り、学会畑を歩いたことがない。
 なので、如何に宗門信徒であろうと、基本的には学会員は相手にしない。というか、できない。
 少なくとも、沖浦さんの発言に納得しているようではダメだな。

(でも、沖浦さんは六老僧全員を認めているが、試しに他の学会員に聞いてみたら、ちゃんと『御相伝は日興上人以外にあり得ない』と言ってたなぁ……)

 まあ、とにかく私は私のスタンスで続けて行くのみだ。

 日記のネタが切れたら、自作の小説で繋ぐところも変わらずにね。

 功徳の紹介よりも、罰の紹介をすることもありますが、まあブラック・ジョークでも見てるとでも思ってください。
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私の執筆活動について。 2

2014-04-22 19:28:59 | 日記
 ここ最近、“ユタと愉快な仲間たち”ばかり紹介しているが、こちらの方がネタがあるだけであって、けして“アンドロイドマスター”が終了したわけではない。
 大石寺登山の前後には、信心関連のネタが出てくるだけだ。
 だいぶ前にも述べたかと思うが、稲生ユウタ達が所属している末寺に関して、何か特定のモデルになるような寺院は無い。
 作者の所属寺院も参考にはしているが、今までご訪問させて頂いた末寺を全てミックスさせた、言わば“ベタな日蓮正宗寺院の法則”にしているだけである。
 一応述べておくが、日蓮正宗に東京の布教区は2つある。つまり、東京第1布教区と東京第2布教区である。
 したがって、稲生ユウタ達が所属している正証寺の東京第3布教区は存在しない。寺院名と共に、架空の布教区である。
 これから弘通が進んで、本当に第3布教区が新設されたらどうしようかと今更いらぬ心配をしてみたり。
 設定は他に、「東京23区のどこかに移置している」「都心の賑やかな場所というよりは、比較的閑静な場所に建立されている」「信徒数、数百名の中規模寺院である」「御住職の他に副住職や所化さんがいる」「支部登山する度にケンショーレンジャーとよく遭遇する」などがある。
 ポテンヒットさんからの借り物キャラである特盛クンとエリちゃんは、大石寺塔中坊の所属という設定にさせて頂いた。
 まあ、モデルは作者の前の所属先である。
 その為か、稲生達が登山する度にこの2人もよく登場している。

 “となりの沖田くん”みたいに真面目な内容は書けないが(私自身が真面目な信心をしていないため)、法を下げないように気をつけます。

 さて、ここしばらくメインを張っていた栗原江蓮だが、こちらも借り物キャラであるため、原作者の許可は頂いているものの、なかなかイジりにくいキャラとなっている。
 原作では江蓮は18禁キャラで、既にキノに処女を奪い取られていることを紹介しておこう。
 つまり、当作品に登場している方はパラレルと見ていいわけだ。
 逆に向こうさんに、うちのユタや威吹を貸し出している。何でBL扱いにするかなぁ……。
 え?奪い取られてるってどういうことだって?
 あまり詳しく紹介すると、このブログ自体が18禁ネタバレになる恐れがあるので言えないが、レイプまがいの方法でヤったんだとよ。
 向こうに少し合わせる必要があるので、こっちとしても、やっぱそういう話の流れになるのかな。

 マリアの魔道師になった経緯、こちらを主眼にしておくことで江蓮の処女喪失の経緯について茶を濁す
 何故、3大悪女の銀メダルを受賞することになったのか。
 魔道師になる前、彼女の犯した罪とは?
 生粋の人間だった頃、何が起きたのか。
 まだ考え中。ネタが固まり次第、執筆します。

 特盛クンとエリちゃんは顕正会員からの付き合いだからいいようなものの、藤谷を含め、宗内カップリングの描写が無いのは作者の体験と考えによる。
 まあ、それ以上書くと武闘派からそろそろ突っ込まれるのでやめておこう。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「大化山 正証寺の人々」

2014-04-22 16:26:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月下旬の午前中 東京都某区 日蓮正宗第3布教区 正証寺 藤谷春人&稲生ユウタ]

「おはようございます。よろしかったらリーフレット、どうぞ。……ありがとうございまーす」
 藤谷は三門前の公道に立ち、道行く通行人達にリーフレットを配っていた。
「おはようございます。班長、珍しいですね?班長自らリーフレット配布なんて……」
「おう、稲生君。いい時に来なすった。キミも手伝いたまえ」
「いいですけど、リーフレット配布って初めてやるなぁ……」
「なぁに、簡単簡単。道行く人に渡せばいい。スマイルでな」
「リーフレットって、あれですよね?御山とかで、1枚10円で売ってるヤツ」
「そう。それをこの俺が束で購入して、配布してるんだ。これも折伏の為の地ならしだよ」
「地ならしねぇ……」
「仏種。つまり、種まきだな。ただ単に種を蒔けばいいってもんじゃない。ちゃんと、畑は耕さないとな。その耕作が、正にリーフレット配布なのだ」
「なるほど……」
「しかし、ただ単に渡そうとするだけでは、なかなか受け取ってもらえない。そこで、俺はこうした」
 藤谷はリーフレットにポケットティッシュを付属させ、それを透明のビニールに包んで配布していた。
「何か、マンションの広告みたいですね。マンションの広告も、それと一緒にティッシュを包んで配ってますよね」
「まあ、うちの藤谷組のグループ会社……藤谷不動産も似たようなことをしてるからな、つまりそれをヒントにした」
「とにかく、受け取ってもらわないことには話になりませんもんね。えーと……」
 ユタは段ボール箱の中に入っているリーフレットを取り出した。
「あっ!?」
 そこでユタ、あることに気付く。
「班長!ティッシュにも広告付いてるじゃないですか!藤谷組の!」
「シッ!バカ!声がでけぇ!」
「こういうのは“慧妙”か“大白法”に載せてくださいよ」
「何故だか知らんが、今は広告載せてくれねぇんだよ」
「ええっ?」
「大日蓮出版くらいしか今、載ってねぇだろ?」
「確かに……。昔は清観光のツアーバスの広告もあったのにねぇ……」
「だからここで、広告配っちまうんだ」
「いや、ダメでしょ!」
 後で講頭にばれて大目玉食らったそうな……。

[また別の日 同じく正証寺 栗原江蓮&稲生ユウタ]

「はー……」
 江蓮は御経の時間の後も、本堂にいたまま溜め息をついていた。
「どうしたの、栗原さん?」
「ここ最近、キノの迫り方が激しくて……」
「え?」
「『ヤらせろー』とか『処女オレにくれー』とか、毎日だよ……」
「っ!相変わらずだな、アイツ」
 ユタは苦笑した。
「でも、その度に上手くあしらって、それ以上は手出ししてこないんでしょ?」
「まあね」
「僕の所の威吹もそうだけど、肝心の“獲物”に嫌われて、盟約を切られたんじゃ元も子も無いからね」
「稲生さんとこはいいよなぁ……」
「ん?」
「男同士ってこともあって、『食わせろー』とかは無いんでしょ?」
「まあ、盟約は僕が寿命で死んでから、だからね。だから、気が気でないんだよ」
「何が?」
「僕がマリアさんと付き合うこと。僕が魔道師になったら寿命が無制限になるから、いつまで経っても威吹との盟約が満了にならない」
「ああ」
 そういうわけなので、
「取りあえず祈念の内容は、『キノを何とかしてください』だよ。全く」
「お姉さんが来て、連れ戻してくれるのがオチだろうね」
「それくらいか……」
「盟約自体はもう有効だもの。しょうがない。栗原さん、別にキノが嫌いってわけじゃないんでしょ?」
「まあ、そうだけど……。多分、男嫌いの『川井ひとみ』とノーマルの『栗原江蓮』で葛藤してるんだと思う」
「鬼族もそれじゃカタ無しだね。まあ、このくらいで大聖人様のお手を煩わせないようにしないと」
「ん?」
「あれだけキノがモーション掛けてるんだから、栗原さんもある程度の所で肚決めないと」
「折伏の肚決める方がよっぽと楽だよ」
「確かに……」
 2人は本堂を出て、三門の外に出た。
 外では威吹とカンジがいるだけだった。
「あれ?キノは?」
「今しがた、キノの姉を名乗る大きな美人さんが来て、連れ去って行きましたが……」
 カンジはポーカーフェイスを崩さずに答えた。
「栗原さんの御祈念、見事に届いたね」
「効果てき面……」

[また別の日 同じお寺 稲生ユウタ]

「いや、だから、あの班長、何考えて……」
 参詣に来たユタは、無料配布しているリーフレットの棚に藤谷組の広告が入っているのに気づいた。
「バレたらまた講頭さんに怒られるよ」
 ユタは藤谷が無断配布している広告を取り出した。
「あの……すいません」
 その時、ユタに声を掛ける者がいた。
「あっ、申し訳ないです!すぐに片付けますので!後でこれ仕掛けた班長には、しっかり僕から……」
「いえ、違うんです……」
 ユタに声を掛けて来たのは見た目、40代くらいの女性。
 何だか随分と痩せこけている。
「ここに……母がいると思うんですが……」
「あ、えーと……お名前は……」
 ユタが困惑気味でいると、
「夏美!」
 奥から、
「あっ、婦人部長」
 婦人部長が出て来た。
「どうしたの?そんな状態で、お寺に来て……!」
「お母さん……私も参詣したい……。信心も……真面目にやる……。いいかな……?」
「もちろんよ!」
 婦人部長は、しっかりと抱きしめた。
(僕は部外者かな……?)
 ユタはそーっと外に出た。

「全く。日が暮れちまうよ」
 藤谷は三門横でタバコを吹かしながら、本堂を見た。
「藤谷さん!所定の場所以外は禁煙ですよ!」
「うおっ、地区長!」
 藤谷は慌ててタバコを消した。
「あっ、稲生君」
「班長、何か今、中で……」
「何だ。感動の場面、最後まで見てなかったのか」
「えっ?」
「婦人部長の娘さん、まだ20代後半なんだけど、10代の頃から自堕落な生活をしていたらしいんだ」
「えっ、20代だったの!?」
「稲生君よりはずっと年上だが……。アラフォーのオバハンに見えただろ?」
「えっ、ええ……」
「どうにかやっと、信心再開のメドが立ったようだ」
「班長が連れて来たんですか?」
「まあ、そんなところだ」
「ああいうことってあるんですねぇ……。顕正会じゃ無かったのに……」
「正しい信心をしているからこそだよ。ん?ところで、その手に持ってるのは何だ?」
「ああ、そうそう。ダメですよ、班長。勝手に藤谷組の広告、無料配布の棚に入れちゃ。また講頭さんに怒られますよ?」
「バカ!それ、今度の懇親会のお知らせだ!」
「ええっ!?」
 ユタはパンフレットを見た。表は藤谷組の広告だが、裏は確かに正証寺がオリジナルでやってる懇親会のお知らせだった。
「ええーっ!?」
「有志の自由参加だから、紙の節約の為に裏紙使っただけだっ!お前、勝手に処分したのか?」
「え、えー……。すいませーん!」
 脱兎の如く逃げるユタ。
「待てや、こらーっ!」
「ひえーっ!」

 本堂内では……。
「御住職様、何だか外がうるさいようなので、そろそろ注意しますか?」
「なぁに、元気があっていいではないですか。では越ヶ谷さん、娘さん……夏美さんの御勧誡を今から行いますので」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「せっかくだから、外の元気なお2人さんにも参加して頂きましょう。呼んできてもらえますか?」
「はい」

 きっとどこかの末寺で、こういったドラマが今日も行われていることであろう。
 藤谷とユタの掛け合いは除いて。
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当作品三大悪女&“ユタと愉快な仲間たち” ショート・ショート

2014-04-22 10:14:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 当作品三大悪女について考えてみた。

 1、栗原江蓮(川井ひとみ):

 30余年前、百合関係だったグループの仲間である東郷幸子が彼氏を作ったため、嫉妬して後輩らに命じてリンチ。
 目つきが気に食わないという理由でとどめを刺し、学校の敷地内に死体を遺棄する。
 栗原江蓮として転生の後は深く懺悔しているものの、取りあえず傷害致死と死体遺棄ってことで悪女認定。

 2、シンディ:

 マッドサイエンティスト、ウィリアム・フォレスト(通称、ドクター・ウィリー)に製作された女性型アンドロイド(ガイノイド)。
 製作者の命令のままにテロ活動や殺戮行為を繰り返し、感情レイヤー(ロボットに喜怒哀楽の感情を持たせる装置)が搭載されてからも、快楽殺人を繰り返した。
 ついには製作者まで笑いながら刺殺し、文句無しの悪女認定。

 3、マリアンナ・ベルゼ・スカーレット:

 え?マジ?……さいです。長野県の広大な森の中にある洋館でひっそり暮らしているのだが、迷い込んだ人間を魔術の実験台にするということで……というのは表向き。
 実はまだ本編では触れられていない、魔道師になる前、まだ生粋の人間だった頃のが川井ひとみ以上、シンディ以下……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただいまぁ!」
 ユタはルンルン気分で、マリアとのデートから帰って来た。
「お帰り。魔道師に何かされなかったか?」
「全然」
「……そのようですね」
 カンジはユタの姿を見て頷いた。
「ん?魔道師は連れてこなかったのか?」
「もう帰っちゃった。残念」
「キノだったら、帰らせる前にホテルにでも連れ込むのでしょうが、稲生さんはそういうキャラではないですね」
「いや、ハハハ……」
「カンジ」
「失礼しました」
 威吹にたしなめられたカンジ。
「でもまた会ってもらうことになったよ」
「それはそれは……」
 ユタは2階の自室に向かった。
「全く。ユタにも困ったものだ」
 威吹は座椅子に腰掛けて、溜め息をついた。
「まあ、ご本人の気持ちですからね」
「よりによって、人間ではない女を選ぶとは……」
「元・人間ではありますがね。それより先生、あの魔道師……マリアンナ師のことですが……」
「何だ?」
「少し違和感がありましてね」
「何が?」
「あいつは魔道師になるに当たって、“笑い”の感情が封印されたとのことです」
「らしいな。おっ、そうだそうだ。その割には顔が笑ったりしている。……まあ、微笑とか冷笑くらいだが」
「あと失笑もですね。作った笑顔はできても、心から笑えないということでしょう」
「それがどうかしたか?オレは魔道師のことは知らんが、何かしら感情が欠けるのが条件なんだろう?」
「それが先生、どうも違うようなのです」
「違う?」
 カンジはプラスチック製のカバンの中から、別の書類を取り出した。
「何だ何だ?幽霊騒ぎの報告書とはまた違うのが出て来たな?」
「ええ。実はオレも西洋妖怪については、色々と調べてまして……。今後、オレ達の前に立ちはだかる恐れが無いとは限りませんので」
「まあ、そうだな。で、魔道師の何を調べたんだ?」
「魔道師になるに当たって、『全てを失い、全てを手に入れる』というのがあいつらの掟だそうです」
「全てを失うとは何だ?」
「オレ達と同じ、永遠の命のことですよ。『全てを失い、全てを手に入れる』というのは、言わば時間のことです。寿命が無制限なので、オレ達も含めて時間の概念を必要としない。そういうことです」
「なるほど。改めて言われると、却って首を傾げるものだが、何となく分かった。で、それがマリアの『笑いの感情が無くなった』と、どう関係があるんだ?」
「魔道師になるに当たって、そんなのは条件でも何でも無い。オレの予想ですが、『何かの理由で、あえて封印している』と思われます」
「何かの理由でねぇ……」
「その証拠に師匠であるイリーナ師は、よく笑っています」
「そうだな。……お前も笑っていいんだぞ?そんな仏頂面してないで」
 威吹は相変わらずポーカーフェイスのカンジに言った。
「はあ……」
「お前も笑いを封印してるのか?」
「いえ。これは天然です。しかし、マリア師は間違いなくその感情が封印されています。作り笑顔自体も、やたら不自然ですので」
「ふーん……。まあ、これ以上はオレ達も関係無いよ。ユタの恋愛事情に首を突っ込むとどうなるかは、お前も知ってるだろう?」
「ええ。オレ達も永遠の命はありますが、あくまで寿命が無制限というだけですので、殺されれば死にますからね」
「なのに魔道師は殺されても死なない。不気味な連中だ。だからあの屋敷での騒ぎは変だと思ったんだ」
「ええ」
 
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