報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

原案紹介 13 

2013-10-16 15:50:39 | 日記
(物語は威吹の視点で進む)

 ユタは鉄道マニアらしく、ホームに入線してきた電車の写真を撮っていた。ボクはそんな彼の“活動”を横目に、4人座れる向かい合わせの座席を確保した。ユタは、こういう席を好むからだ。もっとも現段階で乗客は少なく、相席を求められることは無さそうだ。
 それにしても、魔界という名の幻想郷とはよく言ったものだ。いや、幻想郷という名の魔界か。妖狐の里でも噂される“冥界鉄道公社”。今、死んだ者は三途の川を渡るのに、鉄道で向かう。それに裏技を使えば、生きている者でも乗車可能である。その裏技を、あのマリアという魔女は教えてくれた。
「ただいまー」
「いい写真撮れた?」
「まあね」
 発車時刻間際になって、ユタが戻って来た。すぐにボクと向かい合わせに座る。
 そして、古めかしいが、しかしボク達が魔界へ行く時に乗ったものよりは新しい電車は定刻に発車した。

 乗車駅から1時間ほどは乗っただろうか。流れる車窓にも飽きたユタが、鞄の中を漁った。そこから取り出したのは、ユタが『折伏理論書』と呼ぶ本だった。
「ユタ、顕正会を……あっ!」
「ん?なに?」
「……何でもない」
 ユタが朝、勤行をやっていた理由が分かった。ユタがそもそも顕正会を辞めた理由。それはユタの好きな女が死んだから。しかし今、ユタの記憶からはそれが完全に抹消され、新たに刷り込まれた記憶は顕正会と全く関係無いのだから、辞める理由も無いのだ。
「今月の誓願、まだ達成してないんだよなぁ……。いつもギリギリで、ほんと申し訳無いよ」
「あ、ああ……」
「威吹、また妖術で対象者を引っ張ってきてくれないか?」
「あ、うん。そうだね。手を打っておくよ」
「頼むよ」
 これは不正ではないのか。自分の利益の為なら不正も正に変えるのも厭わないのが、妖狐であるけれども、何かここ最近、ボクは気にするようになった。
 変わったのは仏法とやらをやっているユタではなく、ボクの方なのかもしれない。
「正攻法でやっても、誓願達成できないんだ。それじゃ先生に申し訳ない。威吹も昔は人喰い妖狐だったみたいだけど、こうして間接的にでも協力していれば、妖怪でも成仏できるよ」
 ユタは得意気に言った。……正攻法でやって達成できない数字を課す方がおかしいんじゃないのか?
「正攻法でやっても達成できない数字を課す方がおかしいんじゃないかい?」
「!?」
「!」
 そこへ、ボク達に話し掛ける男がいた。ボク達より大柄の男で、一見強面である。ボクの心の中の指摘をそのまま口にした男は、人間に間違い無いが……。
「もしかして、顕正会員?」
「そうですけど?」
「いやあ、こんな田舎の電車で顕正会員に会えるとはねぇ……」
「オジさん、誰?」
「あっ、私はね、こういう者ですよ」
 30代と思しき男は、ユタに名刺を差し出した。ボクも、それを覗き込んでみる。
『日蓮正宗○○山××寺支部法華講 男子部南関東地区東京班班長 藤谷春人』
 と、書かれていた。
「ほ、法華講員!?」
「折伏の対象者を探してるんだって?じゃあ、私がその対象者になろう」
「結構です!法華講員と話すことはありません!」
「まあ、そう言いなさんな。悪いことは言わないから。てか、キミ達は折伏の対象者を選ぶのかい?それは浅井会長の言う『大聖人様御在世の頃の信心』の精神に反すると思うけど?」
「僕、そんなこと言ってませんけど?」
 ユタは不快な顔をした。この男がユタの敵になるというのなら、排除しなくてはならないな。ボクが前に出ようとすると、電車が駅に到着した。
「ま、とにかく、まずは御挨拶だ。私も駅弁一人旅の途中でね、電話待ってるよ」
 そう言って、藤谷と名乗る男は降りていった。
「……何だアイツ」
 ユタは不快そうな顔をして、座席に座り直した。
「まあ、ユタ。機嫌直して」
 その1年後、ユタがあの男の紹介で法華講に行くことになるとは、この時はまだ想像もしていなかった。

 それから更に1時間経って、電車はユタの目的地に着いた。
「何だろうね。この町、来たことあるような気がする」
「そ、そう?」
 ユタの言葉にボクはびっくりした。
「まあ、どこにでもある田舎町の風景だもんね」
「いや……。確かそこに、花屋さんがあって、向こうにはケーキ屋さんがあったはずだ」
「ギクッ……!」
 おいおい!あの死生樹の葉、ちゃんと効いてるんだろうな!?
「何だろう?デジャヴ……?」
「ど、どうだろうね?」
 ユタは駅前ロータリーのバス停に向かった。
「奥ノ森行き……1日2本のバス……」
「ゆ、夢でも見たんじゃない?」
「このバス、乗ってみたいな」
「で、でも、時間がだいぶ……」
「これくらい平気で待たなきゃ、“乗り鉄”失格だよ」
 電車ならまだしも、バスだぞ……。
「ユタ、やめようよ。帰れなくなっちゃうよ」
 するとユタは、ボクの目を覗き込んだ。妖怪の目を覗き込むのは、やめた方がいい。特にボクのように妖術を使う妖怪だと、目を合わせると妖術を掛けられる恐れがある。
 ユタはそれを知っているはずなのに、ボクの目を覗き込んだ。だけど、ボクは妖術を掛けることはできなかった。掛けてはいけないと、心の中に警鐘が鳴った。
「威吹にしては、弱気な発言だね。キミは江戸時代、どこへでも歩いて移動したんでしょ?」
「そりゃそうだけど、ほら、まだ雪が積もってるし……」
「威吹がいてくれれば大丈夫だと思ったんだけど……」
「う、うん。まあ……」
「いつものキミなら、『大丈夫。その時はボクがおぶって戻るから』って言ってくれると思ったんだけどね」
「ボクはいいけど、ほら、山の天気は変わりやすいから。吹雪いてきたりしたら大変だ」
「キミ、前に『雪女も雪男も、妖狐のボクには恐れるに足らず』と言ってなかったかい?」
「ボクはいいけど、誰かを守りながらの戦いは結構大変だからね」
「行きのバスは14時16分か。先にお昼を食べよう」
「ユタ!」
「それとも……。あっ、あの踏切!絶好の撮影ポイントだなー!」
 一体、ユタはどうしたのだろう?本来のユタだって、“乗り鉄”は観光なんかしないって言ってたのに……。
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原案紹介 12

2013-10-15 22:25:49 | 日記
[15:00.長野県内の都市にあるホテル 威吹邪甲]

 どうも、妖狐の威吹邪甲です。えー、何か大変なことになっちゃって……。あれから、3日が経ちました。順を追って説明しますと、ユタは宣言通り、死生樹の葉を煎じたものを飲みました。するとユタは激しい頭痛を訴えて、倒れ込んだんです。この魔女達にハメられたと思いました。ですが、マリアンナなる者は無表情で、その師匠のイリーナなる者は悠然とした表情で……まあ、想定内といった感じだったんですね。本当に、腹の立つ女達でした。肝心なことは説明しない。全く、困った連中です。
 ユタが意識を無くしたら、ようやく説明してくれましたよ。その後で、同じ信州にある大きな町のホテルに移動して、ユタはそこで休ませることにしました。
 イリーナが瞬間移動の魔術を使いまして、どうもこのホテルも奴の息が掛かっているようでして……。んでもって、
「この町なら電車1本で、東京方面に帰れるでしょう?」
 ということですが、意味が分かりません。
 しかもユタは昏睡していて、全く目を覚まさないのです。ボク的には病院に運んだ方が良かったんじゃないかって思いましたけどね。
 あー、もうっ!結局ボクは振り回されただけかよ!これがユタの為で、ユタにだけされたのならまだ我慢できます。だけど、得体の知れぬ魔女達に、ああもしてやられるとは……。
「うう……」
「!」
 その時、ユタが目を開けました。緊張の瞬間です。
「ユタ。どう?体の具合は?」
「威吹……。ここどこ?」
「ここは信濃の国……長野県○○市のホテルだよ。『卒業旅行に、乗り鉄で長野へ行こう』ってことで、ここまで来たはいいものの、ユタったら体の具合悪くして休んでたんだよ。もう、すっごい高熱でさ。大変だったよ」
 ボクはそう嘘を言いました。癪なことですが、イリーナ達からそういうことにしておけって言われたもので。
 ……そうなんです。つまり、ユタが魔女に会いに信州に来たという旅の目的すら『なかったこと』にしてしまおうという魂胆なんです。目的自体を、ユタの趣味である“乗り鉄”にすげ替えようというのですね。その途中で体調不良を起こして、まあ休んでいたと…半分無理のある理由です。
「そうかぁ……。ゴメンね。迷惑掛けて。もう大丈夫だよ」
 しかし、ユタはまるで偽の記憶が吹き込まれているかのように納得しました。いや、実際もしかしたら、本当にあの魔女はユタに偽の記憶を吹き込んだのかもしれません。
「まあ、ホテルは明日まで泊まるようにしてあるから。今日はゆっくり休もう」
「うん」
 もうお気づきでしょう。あの死生樹の葉の効果、『悲しみを無くす』というのは、そもそも悲しむこととなった原因である“大切な人”の存在の記憶を根底から消すというものだったんです。その通り、ユタはすっかり忘れ、偽の旅の目的とその経緯を信じ込んでいるようでした。
 人を騙すことすら厭わない妖狐であるボクが、何故かこの時はやるせない気持ちになったのを覚えています。ボクが立てた作戦ではないからでしょうか。それとも……。
「とんだ道草をしちゃったな。ここが○○市なら、次の路線は……」
「ユタ。帰らないの?○○駅からなら、電車1本で東京方面に帰れるよ?」
 ユタはケータイの日付を見ました。
「いや、まだ春休みはある。もう少し、遊んで行こう。体の具合は良くなったし。お金もまだある」
「…………」
「そうだな……。△△線で××駅まで行こう」
「えっ!?」
 ボクは驚きました。その路線で行く目的地は、あの魔女の屋敷がある森の最寄り駅だったのです。
「この路線も、首都圏じゃ乗れない車両が走ってるからね。このまま長野県を脱出してもいいんだけど……」
「そうしないの?」
「言ったろ?まだ時間があるって。鈍行乗り継ぎの“乗り鉄”なんだから、ゆっくり行こうよ」
「う、うん……」
 ボクは何故か嫌な予感がしました。しかし、彼の計画を差し止める権限も理由も無かったのです。
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原案紹介 11

2013-10-15 00:16:39 | 日記
 ユタはある夢を見て目が覚めた。それは、断片的な絵が現われては消える変な夢だったが、とにかくその主人公はマリアだった。キリスト教会で行われている葬式と思しき映像、墓の前で泣き崩れるマリア、その後で飛び降り自殺を図るも、地面に叩きつけられる直前に光に包まれ、一命を取り留めた映像。その後ろには、イリーナがいて……。
「……変な夢」
 そこで目が覚めた。ユタの異能の1つである。

 同じ頃、同じ屋敷の別の部屋では……。
「どうしたの?怖い顔して。マリア、低血圧だったっけ?」
 不機嫌そうな顔をして起き上がるマリアに、同室で寝ていたイリーナが話し掛けた。
「……あの男に、過去を覗かれた……!」
「あの男って?」
「私の師匠なら知ってるくせに」
「稲生君ね。魔道師の素質があっていいわね」
「男が魔道師なんて……」
「いやいや、おかしくないでしょ。だったら、“ハリー・ポッター”の立場、無いじゃんよ?」
「魔道師のくせに見てたのか……」
「映画も全部見たし、原作小説も全部揃えたわよ。新しい魔術のアイディア出しにいいね」
「さすがは師匠」
「ま、魔法学校みたいなものはちょっと無理だけど……」
「まだ起床時間まで先なので、もう1度寝る」
「はい、お休みー」
(師匠ぐらいの大魔道師になれば、睡眠だって強い魔術を使った時くらいしか必要無くなるだろうに……)

 翌朝……。
「おはよう!よく眠れた?」
 ユタと威吹が屋敷の食堂に向かうと、もう既にマリアとイリーナが席に着いていた。
「おはようございます。……イリーナさん、元気ですね」
 ユタは苦笑にも似た笑みを浮かべた。
「そう?いつもこんなもんよ」
「師匠は馬鹿に元気で、弟子は鬱か。面白いな」
 威吹は嫌味を言った。それほどまでに、マリアはユタ達の方も見ずにトーストを齧っていた。
「何かね、低血圧気味なのよ。気にしないで」
「そうですか。そうですよね」
「それで、どう?葉っぱを飲む気になった?」
「その前に1つ質問させてください」
「なに?」
「その死生樹の葉、マリアさんは飲んだ事あるんですか?」
「!」
 マリアはこめかみに努筋を浮かべた。
「そんなこと聞いて、どうするの?」
「夢を見たんです。マリアさんのことで」
「人の過去の記憶を勝手に……!」
 イリーナはそんな弟子の怒りを抑えた。
「あなた、何と言うか……魔力が付き過ぎてるわ。魔道師の修行なんてしてないわよね?威吹君の影響にしても、不自然だし……」
「ユタは生まれつき、霊力が強かったんだ。オレもそのおかげで、封印を解いてもらえたんだからな」
「修行と言えば、顕正会で仏法はやってましたよ」
「ああ、そのせいだ」
 イリーナは確信を持って言った。
「ヘタに変な修行をすると、魔力が贅肉のように付いちゃうからね。気を付けないとあなた、魔力が暴走して大変なことになるわよ?」
「ええっ!?で、でも、もう顕正会は辞めました」
「あ、そう?まあ、それならいいんだけど……」
「宗教をやると、霊力だか魔力だかが付くんですか?」
「一概に全部がそうとは言えないけどね。でも、ちゃんとした聖職者もいない新興宗教だと、変な力が付く傾向にあるみたいね」
「そうだったのか……」
「で、さっきのあなたの質問。マリアは飲んでないわよ」
「えっ?」
「確かにあなたが見た夢の通り、マリアもまた大切な人を失って悲しみに打ちひしがれたわ。だけど、大きな違いがあるの」
「大きな違い?」
「あなたは普通の人間で、マリアは魔道師だってこと」
「えっ?ちょっと仰ってる意味がよく分からないんですけど……」
「つまり、マリアが魔道師になる為には、逆に飲んじゃいけなかったのね」
「はあ……」
「あなたは魔道師になる気はある?」
「いえ。ちょっとそれは……」
「でしょ。じゃあ、飲んでも大丈夫」
「ユタ。無理しなくてもいいんだよ?」
 威吹が心配そうに言った。
「まず間違いなく、命の保証はするから。それと、普段の日常生活も大丈夫」
 イリーナは大きく頷いた。威吹はイリーナの言葉の真意を読み取ろうとした。が、できなかった。言葉の感じからして、嘘を言っているようには見えなかったが……。
「……飲みます。この為に、ここまで来たんです。飲ませてください」
 ユタは意を決したように答えた。
「あなた達、紅茶を入れてくれない?死生樹の葉っぱも、そこに混ぜてね」
 イリーナは給仕をしている人形達に命じた。
「紅茶?」
 ユタは目を見開いた。
「そのままで飲むより、紅茶に混ぜて飲んだ方が飲みやすいよ?」
「そういうもんですか」
 
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原案紹介 10 今日はここまで

2013-10-13 20:33:13 | 日記
(視点は再び三人称に戻す)

 応接室で待つユタと威吹。威吹はいつでも刀が抜けるように、妖刀を足の間に挟んで座っていた。
 時折外から、ピアノの音色が聞こえてくる。
「何だこの音楽は?」
「ここの人形の中に、ピアノを弾くのがいるみたいだな」
 訝しげな威吹に、ユタはそう答えた。
 そこへ、マリアが入って来た。右手には魔道書ではなく、バレーボールくらいの大きさの水晶球を持っていた。
「師匠も驚いていてな、今すぐこちらに飛んでくるそうだ」
「ホウキに跨って!?」
「黒い鳥に運んでもらうのか!?」
「……何だその、“ベタな魔法使いの法則”は」
 ユタと威吹の反応に、マリアは呆れた顔をした。
「何度も言うように、魔道師はホウキは使わん。とにかく、移動も全て魔術を使う」
「そ、そうなのか」
「まあ、元々この屋敷に来るつもりであったようだがな」
「へえ……」
「どんな人?」
「私から見れば『バァさん』だな」
「なるほど」
 ユタは大きく頷いた。
「弟子が若い魔女なら、その師匠は老婆なのがベタな法則だ」
「……だから魔女じゃないって」
 いい加減にしろと言わんばかりに、マリアが突っ込んできた。

 屋敷の中にある、大きなのっぽの古時計。これが4回鳴った。16時である。それに合わせるかのように、人形達が浮き足立つ。
「来た……!」
「えっ?」
 師匠の到来ということもあって、マリアが緊張する。威吹も気配を感じたのか、左手で刀を持った。
「言っておくが、我が師に刃物は効かぬぞ」
 マリアは嘲るように言った。
「ただの刃物じゃないさ」
「師匠を迎えに行く。そこで待っていろ」
 マリアは威吹の簡単な反論を無視すると、悠然と部屋から出ていった。

 そして……。
「待たせたな。我が師匠、イリーナ・レヴィア・ブリジッドだ」
 そこにいたのは、薄紫色のワンピースに紺色のフード付きのローブを羽織った、いかにも魔女といった出で立ちの女だった。フードを深く被っているので、顔までは分からない。
「稲生ユウタと申します。ただの人間です」
「妖狐の威吹邪甲だ」
 すると、女はパッとフードを取った。
「おめでとう!私が知る中で、3人目の合格者よ!」
「はい!?」
「!?」
 それは老婆ではなかった。確かにマリアより年上であろうが、それでも30歳には満たないであろう女だった。マリアが人形みたいな美人だとすれば、イリーナはエロ美しいというのか。
「ご紹介に預かったマリアの師匠、イリーナ・レヴィア・ブリジッドです。イリーナって呼んでくださーい」
「言っておくが、ここにいる中で師匠が年長者。だから、敬語。年上には、敬語」
 マリアが補足するように言った。
「オレだって、江戸に徳川の幕府が開府された頃の生まれだぞ!?」
「そうなの?あいにくと私、日本で言うなら、平清盛を知ってるから」
「た、平清盛の頃なの!?」
 ユタも信じられないという顔をした。
「現代でも通用するイケメンだったわねぇ……」
「1桁も2桁も違う……」
「だから、敬語。分かったな?」
「……あの、日蓮大聖人をご存知ですか?」
「聞いたことはあるね。その頃私、日本にいなかったから。ヨーロッパにいたのよ」
「そうでしたか」
「魔術の実験に失敗して、アジア方面に光の球飛ばしちゃったけど、被害が無くて良かったわ」
「……え?」
「師匠。それより、死生樹の葉」
「ああ、そうだったわね」
「お願いします!これをどうやって使えばいいんですか!?」
「簡単なことよ。この葉を煎じて飲めばいいの」
「誰が?」
「誰が誰を生き返らせたいの?」
「僕が僕の好きな人を……ですけど?」
「じゃあ、あなたが飲むのね」
「あの……仰ってる意味がよく……分からないのですが」
「そういうあなたも、死生樹のことがよく分かってないみたいね。マリア、ちゃんと説明してあげたの?」
「面倒だからしてない」
「ダメね。いくらミドルネームが“怠惰”の悪魔から取ったものとはいえ……。ポイントはちゃんと押さえなきゃって言ったでしょ」
「申し訳ない」
「一体、何で僕が飲まなきゃいけないんですか?」
「この死生樹の葉はね、大事な人を失って起きた悲しみを消す効果があるのよ。あなたをここまで突き動かしたのは、大切な人を失ったことによる悲しみね。これを消すには、大切な人を生き返らせる必要がある。そうでしょ?」
「ま、まあ……」
「その悲しみを消してくれるわけだから、まあ効果は期待できると思うけど……」
「ど、どういうことなんですか?この葉っぱで、死んだ人は生き返らないんですか!?」
「マリア」
「……説明していない」
「後でお説教ね。まあ、結論から言えばそうよ」
「そんなぁ……!」
 ユタはテーブルに突っ伏した。
「悲しみを消すというのは、具体的にどういうことなんだ?」
 威吹はユタの肩に手を置きながら、イリーナを見据えて聞いた。
「狐妖怪。年上には敬語」
「いいから。それは、飲んでからのお楽しみってことかしら」
「ふざけるな!」
 威吹はイリーナを睨みつけた。しかし、それを余裕の表情で受け止める。
「ふざけてなんていないわ。少なくとも、魔界に行って苦労した甲斐はあると思うよ?飲んでみて損は無いと思う。まあ、今日はもう街に行くバスは無いし、今夜一晩考えてみたら?保存状態はいいから、明日でもいいと思うよ。マリア、この2人、泊めてあげていいよね?」
「……師匠がそう仰るのなら」
「ついでに私もご厄介になるわ。ちょっとあなた最近、修行をサボり気味みたいだし。例え一人前になったといっても、それはあくまで基本だけ押さえられている状態で、まだまだ積み重ねは必要だって言ったはずよ」
「……はい、すいません」
「ユタ、行こう」
「…………」
 威吹はユタを促した。待ち構えていたかのように、ミク人形が2人を先導する。弟子に説教する師匠の言葉を背にしながら、客室に向かった。
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原案紹介 9

2013-10-13 19:33:28 | 日記
[13:00.長野県某所の森に建つ洋館 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

 私の名はマリアンナ・ベルゼ・スカーレット。長い名前なので、マリアと呼んでくれて構わない。師匠もそう呼んでくれている。ミドルネームはキリストの洗礼を受けたからではなく、魔道師が名乗るものなのだそうで、7つの大罪にまつわる悪魔から取っているのだそうだ。
 先日は面白い訪問者がやってきた。これから気の遠くなる時を過ごすことになる私だが、しばらくの間、記憶に残すことになるだろう。何しろ、私の弱点をいち早く見抜き、負かしたのだ。いくら師匠から一人前と認められたとて、どこかに驕りがあったとするならば自省しなくてはならない。例の弱点の克服は難しいだろうが、それを知られずに……または知られたとしても、それを防ぐことはできたはずだ。
 今朝も、また哀れな訪問者がやってきた。何故なら最近の訪問者にあっては、私の魔術向上の実験台になってもらっているからである。おかげさまで、今では一気に10体もの人形に戦隊を組ませることができるようになった。あくまでも、実験段階ではあるが。
 私の1日はただ魔道書を読み漁り、そして人形作り。魔道師とは、かくも退屈な存在であったか。まあ、師匠もそう言っていたが。因みに唯一緑色の髪で、何故か稲生某が『はつねみく』と呼んでいた人形、私は『ミカエラ』と名付けていたのだが、その名前も悪くないと思った。
 その『はつねみく』が、別の人形が弾くピアノの音色に合わせて歌う仕草をした。無論人形なので、歌はもちろんのこと、喋ることさえできない。だが、ぜんまいを回し、カタカタと音を立てながら、まるで声楽家のような身振り素振りで口をパクパクさせる姿は、いかにも歌っているようにしか見えない。こんな現象は、稲生某が訪問してからだ。奴が何かしたとは思えない。魔道師の素質はあるようだが、修行も積んでいない奴にそんな芸当ができるわけがない。
「分かった。分かったよ。もう少し私が力を付けたら、お前は歌えるようにしてやる。それで好きなだけ歌うがいいさ」
 私は“歌い終わって”、無表情で見つめる『はつねみく』にそう言った。

[15:00.同場所 マリア]

 いつものように人形作りも一段落して、窓際のソファでうたた寝していると護衛の人形が私を起こしてきた。幸い今日はアンジェラの夢を見ることもなく、目が覚めた。……アンジェラって誰かって?まあ……かつて私がまだ普通の人間だった頃に知り合った親友だ。今はこの世の者ではない。今はそんなことどうでもいい。それより、人形達が浮き足立っているのが分かった。どうやら、いつもとは違う訪問者がやってきたようだ。そういう時、さすがの私もエントランスに出向くようにしている。私は師匠からもらった紺色のローブを羽織ると、自室を出た。

[15:05.屋敷のエントランスホール マリア]

「あ、あなた達……!?」
 私は人形達が浮き足立った理由が分かったし、私もその訪問者達を前にして息を呑んだ。そこにいたのは、もう2週間前になるだろうか。その時訪ねて来た稲生某と狐妖怪に他ならなかったからだ。
 稲生某は右側の額に大きな絆創膏を貼り、左腕は骨折したのか、包帯を巻いて吊るしている。右足にも包帯を巻いていて、松葉杖を付いていた。狐妖怪の方は、さしたるケガもしていないようだが……。
「こんにちは。マリアさん。教わった通り、死生樹の葉を取ってきましたよ」
「は!?」
 私は耳を疑った。死生樹というのは魔界という名の幻想郷に自生しているもので、生身の人間は足を踏み入れることすら困難のはずだ。一体、どうやって?
「これでいいんですよね?」
 稲生某は標本ケースに入れた、大きな楓の葉のようなものを差し出した。それは確かに死生樹の葉に他ならなかった。
「……信じられない。人間と……妖怪の分際で……」
「信じようが信じまいが、事実は事実だよ。さあ、約束を守ってもらおうか」
 狐妖怪は私の前に1歩出た。すぐに人形が割って入ったが、私はそれを制した。
「ちょっと、待ってくれ」
「男に二言……って、女か。女でも、誇りある魔道師なら二言はやめろよ!」
 狐妖怪は私を睨みつけた。無論、二言を言うつもりはない。
「いや、まさか本当に持ってくるとは想定外だった。私の師匠を呼ぶから、中で待っててくれ」
「本当だな?」
「本当だ。約束は守る。証拠になるかどうかは分からんが、稲生氏。こっちに」
「は?」
「何をする気だ!?」
「心配ない」
 私は稲生氏の前に立つと、魔道書を開いて呪文を唱えた。そして、彼の前に右手をかざした。その手から、緑色に近い色の光が飛んで稲生氏を包む。その光が消えると……。
「あれ?痛みが消えた?」
「ケガを回復させた。架空の話の中にあるようだが、実際にある」
「うわっ、凄い凄い!」
 稲生某は包帯を取って喜んでいた。まあ、これくらいはサービスしてるやるさ。
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