報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

原案紹介 13 

2013-10-16 15:50:39 | 日記
(物語は威吹の視点で進む)

 ユタは鉄道マニアらしく、ホームに入線してきた電車の写真を撮っていた。ボクはそんな彼の“活動”を横目に、4人座れる向かい合わせの座席を確保した。ユタは、こういう席を好むからだ。もっとも現段階で乗客は少なく、相席を求められることは無さそうだ。
 それにしても、魔界という名の幻想郷とはよく言ったものだ。いや、幻想郷という名の魔界か。妖狐の里でも噂される“冥界鉄道公社”。今、死んだ者は三途の川を渡るのに、鉄道で向かう。それに裏技を使えば、生きている者でも乗車可能である。その裏技を、あのマリアという魔女は教えてくれた。
「ただいまー」
「いい写真撮れた?」
「まあね」
 発車時刻間際になって、ユタが戻って来た。すぐにボクと向かい合わせに座る。
 そして、古めかしいが、しかしボク達が魔界へ行く時に乗ったものよりは新しい電車は定刻に発車した。

 乗車駅から1時間ほどは乗っただろうか。流れる車窓にも飽きたユタが、鞄の中を漁った。そこから取り出したのは、ユタが『折伏理論書』と呼ぶ本だった。
「ユタ、顕正会を……あっ!」
「ん?なに?」
「……何でもない」
 ユタが朝、勤行をやっていた理由が分かった。ユタがそもそも顕正会を辞めた理由。それはユタの好きな女が死んだから。しかし今、ユタの記憶からはそれが完全に抹消され、新たに刷り込まれた記憶は顕正会と全く関係無いのだから、辞める理由も無いのだ。
「今月の誓願、まだ達成してないんだよなぁ……。いつもギリギリで、ほんと申し訳無いよ」
「あ、ああ……」
「威吹、また妖術で対象者を引っ張ってきてくれないか?」
「あ、うん。そうだね。手を打っておくよ」
「頼むよ」
 これは不正ではないのか。自分の利益の為なら不正も正に変えるのも厭わないのが、妖狐であるけれども、何かここ最近、ボクは気にするようになった。
 変わったのは仏法とやらをやっているユタではなく、ボクの方なのかもしれない。
「正攻法でやっても、誓願達成できないんだ。それじゃ先生に申し訳ない。威吹も昔は人喰い妖狐だったみたいだけど、こうして間接的にでも協力していれば、妖怪でも成仏できるよ」
 ユタは得意気に言った。……正攻法でやって達成できない数字を課す方がおかしいんじゃないのか?
「正攻法でやっても達成できない数字を課す方がおかしいんじゃないかい?」
「!?」
「!」
 そこへ、ボク達に話し掛ける男がいた。ボク達より大柄の男で、一見強面である。ボクの心の中の指摘をそのまま口にした男は、人間に間違い無いが……。
「もしかして、顕正会員?」
「そうですけど?」
「いやあ、こんな田舎の電車で顕正会員に会えるとはねぇ……」
「オジさん、誰?」
「あっ、私はね、こういう者ですよ」
 30代と思しき男は、ユタに名刺を差し出した。ボクも、それを覗き込んでみる。
『日蓮正宗○○山××寺支部法華講 男子部南関東地区東京班班長 藤谷春人』
 と、書かれていた。
「ほ、法華講員!?」
「折伏の対象者を探してるんだって?じゃあ、私がその対象者になろう」
「結構です!法華講員と話すことはありません!」
「まあ、そう言いなさんな。悪いことは言わないから。てか、キミ達は折伏の対象者を選ぶのかい?それは浅井会長の言う『大聖人様御在世の頃の信心』の精神に反すると思うけど?」
「僕、そんなこと言ってませんけど?」
 ユタは不快な顔をした。この男がユタの敵になるというのなら、排除しなくてはならないな。ボクが前に出ようとすると、電車が駅に到着した。
「ま、とにかく、まずは御挨拶だ。私も駅弁一人旅の途中でね、電話待ってるよ」
 そう言って、藤谷と名乗る男は降りていった。
「……何だアイツ」
 ユタは不快そうな顔をして、座席に座り直した。
「まあ、ユタ。機嫌直して」
 その1年後、ユタがあの男の紹介で法華講に行くことになるとは、この時はまだ想像もしていなかった。

 それから更に1時間経って、電車はユタの目的地に着いた。
「何だろうね。この町、来たことあるような気がする」
「そ、そう?」
 ユタの言葉にボクはびっくりした。
「まあ、どこにでもある田舎町の風景だもんね」
「いや……。確かそこに、花屋さんがあって、向こうにはケーキ屋さんがあったはずだ」
「ギクッ……!」
 おいおい!あの死生樹の葉、ちゃんと効いてるんだろうな!?
「何だろう?デジャヴ……?」
「ど、どうだろうね?」
 ユタは駅前ロータリーのバス停に向かった。
「奥ノ森行き……1日2本のバス……」
「ゆ、夢でも見たんじゃない?」
「このバス、乗ってみたいな」
「で、でも、時間がだいぶ……」
「これくらい平気で待たなきゃ、“乗り鉄”失格だよ」
 電車ならまだしも、バスだぞ……。
「ユタ、やめようよ。帰れなくなっちゃうよ」
 するとユタは、ボクの目を覗き込んだ。妖怪の目を覗き込むのは、やめた方がいい。特にボクのように妖術を使う妖怪だと、目を合わせると妖術を掛けられる恐れがある。
 ユタはそれを知っているはずなのに、ボクの目を覗き込んだ。だけど、ボクは妖術を掛けることはできなかった。掛けてはいけないと、心の中に警鐘が鳴った。
「威吹にしては、弱気な発言だね。キミは江戸時代、どこへでも歩いて移動したんでしょ?」
「そりゃそうだけど、ほら、まだ雪が積もってるし……」
「威吹がいてくれれば大丈夫だと思ったんだけど……」
「う、うん。まあ……」
「いつものキミなら、『大丈夫。その時はボクがおぶって戻るから』って言ってくれると思ったんだけどね」
「ボクはいいけど、ほら、山の天気は変わりやすいから。吹雪いてきたりしたら大変だ」
「キミ、前に『雪女も雪男も、妖狐のボクには恐れるに足らず』と言ってなかったかい?」
「ボクはいいけど、誰かを守りながらの戦いは結構大変だからね」
「行きのバスは14時16分か。先にお昼を食べよう」
「ユタ!」
「それとも……。あっ、あの踏切!絶好の撮影ポイントだなー!」
 一体、ユタはどうしたのだろう?本来のユタだって、“乗り鉄”は観光なんかしないって言ってたのに……。

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