“顕正会版人間革命シリーズ”より、“妖狐 威吹”のボツネタ。
[11:00.日蓮正宗大石寺・登山事務所 稲生ユウタ]
「それでは、2000円の御開扉御供養をお願いします」
「はい」
体調の悪化した威吹は、取りあえずバスターミナルのベンチに座らせておいた。僕は所属寺院から発行してもらった添書を手に、先に登山事務所で御開扉参加の手続きを行った。
「それではお気をつけて」
「ありがとうございました」
僕は御僧侶から“ワッペン”を受け取ると、それを首からぶら下げた。
「稲生君、いいの?威吹君はどうするの?」
先に手続きを済ませていた班長の藤谷さんが聞いてきた。威吹を連れてきたはいいものの、大石寺の清浄な空気に『不浄な』狐妖怪の威吹は、すっかり体調を崩してしまっていた。
「境内から出すしか無いですねぇ……」
境内っても、今の敷地内のことでいいのか迷う。大石寺の境内の広さは、時代によって違うからなぁ……。
僕は登山事務所から、バスターミナルに出た。
「えーと、威吹は……」
さっきまでベンチに横になっていたのだが、いない。いるのは黒髪を腰まで伸ばした着物姿の……ん!?
「やあ、ユタ」
威吹はばつの悪そうな顔をして手を振った。
「どうしたんだい?その姿……」
日に当たるとキラキラ反射する銀髪は黒くなり、第1形態と称するエルフ耳(長く尖った耳。第2形態が、いわゆる狐耳)も、人間と同じく丸く短くなっていた。
「取りあえず妖力を落として人間並みにしたら、少し体調良くなった」
「妖力の調整で何とかなるものなのかい?」
「ちょっと危険だから、逆に境内にお邪魔させてもらうよ」
「ああ、桜でも見てきな。もうだいぶ散っちゃったけど」
「ユタ達はどうするの?」
「大講堂という所に行って、布教講演を聴いてくるんだ。地方末寺の御住職が、信徒に向かって講話をしてくれるんだよ」
「なるほど。説法か」
「説法、ねぇ……」
多分、他の宗派や一般の人からすれば、そうなるのだろうな。
[11:20.日蓮正宗大石寺・大講堂 稲生ユウタ]
「皆様、こんにちは。本日は全国各地からの御登山、真にご苦労様です。……」
その後、僕と藤谷班長は予定通り、大講堂に移って布教講演を拝聴していた。うん。顕正会浅井会長の話より、ずっとありがたい。やっぱり信徒が指導を拝するのは、御僧侶じゃなくっちゃな。30代前半の藤谷班長は、逐一、御住職のお話に対してメモを取っている。これくらいしないとダメなんだな、きっと。
[同時刻 日蓮正宗大石寺・三門前 威吹邪甲]
うん、知ってる、この風景。ボクが封印されてから数百年経っても、富士の山の位置は変わらない。ボクはユタに嘘を言ってしまった。実はボクは1度だけ、東海道を歩いたことがある。
江戸幕府開府直後はまだ政情が安定していなくて、ボクみたいな妖怪がゴロついていたものだ。だけど、妖怪退治屋みたいなものは存在していて、追われたボクは東海道を外れた。それが、確か駿河の国だったと思う。とにかく富士の山の方に向かった記憶があって、どこかの寺の境内に飛び込んだような気がする。それがどんな寺だったかまでは覚えていないが、どうも富士の山の位置からして、ここだったりして。
ここに来る途中、バスで本門寺という寺の前を通ったが、そこかもしれない。東海道を全区間歩いたわけではないという意味では、嘘はついていないんだけど……。
「ん?」
その時、自動車が急停車する音が背後から聞こえた。広く造られた国道。ボクが400年前にここを通った時、こんな固く舗装されて広くも無かった。何か、三門ってここだったっけ?なんて思うけど……。
白い荷台の荷車から飛び降りて来たのは、5人だった。何だか随分と派手な服を着て、面を被っている。これもこの寺の修験者の装束なのだろうか。1人は赤を基調としているし、他にも緑、青、黄色、桃色がいた。真言の寺なら紫色の袈裟懸けだから、あれも派手だと思うけどね。それと比べて法華の寺の坊主は地味だなと思う。
「天魔の戦士!ケンショー・レッド!」
「亡国の戦士!ケンショー・イエロー!」
「無間の戦士!ケンショー・ブルー!」
「国賊の戦士!ケンショー・グリーン!」
「外道の戦士!ケンショー・ピンク!」
「はあ!?」
い、いきなり何を始めるんだ、こいつら!?
「5人合わせて……ケンショー・レンジャーーーーーっ!!(×5)」
開いた口が塞がらない。こ、これも、法華の修験の1つなのか???
「見て御覧なさい。いかに謗法と化した寺とはいえ、大聖人様ましますこの地に、不浄な妖怪の気配がします!」
黄色の装束を着た修験者のような者が言った。それに緑の装束の者が続ける。
「私の分析によりますと、そこにいる着物に袴をはいた男が怪しいですね」
「ああっ!?妖怪の分際で人間に化けるたぁ、卑怯だぜっ!」
「大聖人様をも恐れぬ不届き者ね!」
しまった!こいつら修験者じゃなくて、ボクを狙ってやってきた妖怪退治屋だったか!ボクは急いで、三門の奥へ飛び込んだ!
「見て御覧なさい。妖怪が正に本門戒壇の大御本尊様を害さんと侵入しました。これ正に、亡国の予兆なのですね。金に執着の放蕩坊主では、あの妖怪を倒すことはできない。偏にこの大役、我々ケンショー・レンジャーが仰せ使うものであると確信しまするが、皆さんどうでしょう?」
背後から手を叩く音が聞こえる。奴ら、何か術を使おうとしている!?今のボクは人間同然だ。本当なら、境内から出て妖力を回復させるべきだと思うんだけど、何故かここはユタ達に助けを求めた方がいいと思ったんだ。……って、大講堂ってやら、どこだぁっ!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この時の大石寺は、まだ登山事務所とバスターミナルが一緒だった頃のものです。ま、御開扉の手続き風景くらいなら公開しても大丈夫だよね?さすがに御開扉の様子は“御内拝”と言って、御僧侶と手続きを済ませた信徒しか奉安堂内部に入れないこともあって、【お察しください】。
[11:00.日蓮正宗大石寺・登山事務所 稲生ユウタ]
「それでは、2000円の御開扉御供養をお願いします」
「はい」
体調の悪化した威吹は、取りあえずバスターミナルのベンチに座らせておいた。僕は所属寺院から発行してもらった添書を手に、先に登山事務所で御開扉参加の手続きを行った。
「それではお気をつけて」
「ありがとうございました」
僕は御僧侶から“ワッペン”を受け取ると、それを首からぶら下げた。
「稲生君、いいの?威吹君はどうするの?」
先に手続きを済ませていた班長の藤谷さんが聞いてきた。威吹を連れてきたはいいものの、大石寺の清浄な空気に『不浄な』狐妖怪の威吹は、すっかり体調を崩してしまっていた。
「境内から出すしか無いですねぇ……」
境内っても、今の敷地内のことでいいのか迷う。大石寺の境内の広さは、時代によって違うからなぁ……。
僕は登山事務所から、バスターミナルに出た。
「えーと、威吹は……」
さっきまでベンチに横になっていたのだが、いない。いるのは黒髪を腰まで伸ばした着物姿の……ん!?
「やあ、ユタ」
威吹はばつの悪そうな顔をして手を振った。
「どうしたんだい?その姿……」
日に当たるとキラキラ反射する銀髪は黒くなり、第1形態と称するエルフ耳(長く尖った耳。第2形態が、いわゆる狐耳)も、人間と同じく丸く短くなっていた。
「取りあえず妖力を落として人間並みにしたら、少し体調良くなった」
「妖力の調整で何とかなるものなのかい?」
「ちょっと危険だから、逆に境内にお邪魔させてもらうよ」
「ああ、桜でも見てきな。もうだいぶ散っちゃったけど」
「ユタ達はどうするの?」
「大講堂という所に行って、布教講演を聴いてくるんだ。地方末寺の御住職が、信徒に向かって講話をしてくれるんだよ」
「なるほど。説法か」
「説法、ねぇ……」
多分、他の宗派や一般の人からすれば、そうなるのだろうな。
[11:20.日蓮正宗大石寺・大講堂 稲生ユウタ]
「皆様、こんにちは。本日は全国各地からの御登山、真にご苦労様です。……」
その後、僕と藤谷班長は予定通り、大講堂に移って布教講演を拝聴していた。うん。顕正会浅井会長の話より、ずっとありがたい。やっぱり信徒が指導を拝するのは、御僧侶じゃなくっちゃな。30代前半の藤谷班長は、逐一、御住職のお話に対してメモを取っている。これくらいしないとダメなんだな、きっと。
[同時刻 日蓮正宗大石寺・三門前 威吹邪甲]
うん、知ってる、この風景。ボクが封印されてから数百年経っても、富士の山の位置は変わらない。ボクはユタに嘘を言ってしまった。実はボクは1度だけ、東海道を歩いたことがある。
江戸幕府開府直後はまだ政情が安定していなくて、ボクみたいな妖怪がゴロついていたものだ。だけど、妖怪退治屋みたいなものは存在していて、追われたボクは東海道を外れた。それが、確か駿河の国だったと思う。とにかく富士の山の方に向かった記憶があって、どこかの寺の境内に飛び込んだような気がする。それがどんな寺だったかまでは覚えていないが、どうも富士の山の位置からして、ここだったりして。
ここに来る途中、バスで本門寺という寺の前を通ったが、そこかもしれない。東海道を全区間歩いたわけではないという意味では、嘘はついていないんだけど……。
「ん?」
その時、自動車が急停車する音が背後から聞こえた。広く造られた国道。ボクが400年前にここを通った時、こんな固く舗装されて広くも無かった。何か、三門ってここだったっけ?なんて思うけど……。
白い荷台の荷車から飛び降りて来たのは、5人だった。何だか随分と派手な服を着て、面を被っている。これもこの寺の修験者の装束なのだろうか。1人は赤を基調としているし、他にも緑、青、黄色、桃色がいた。真言の寺なら紫色の袈裟懸けだから、あれも派手だと思うけどね。それと比べて法華の寺の坊主は地味だなと思う。
「天魔の戦士!ケンショー・レッド!」
「亡国の戦士!ケンショー・イエロー!」
「無間の戦士!ケンショー・ブルー!」
「国賊の戦士!ケンショー・グリーン!」
「外道の戦士!ケンショー・ピンク!」
「はあ!?」
い、いきなり何を始めるんだ、こいつら!?
「5人合わせて……ケンショー・レンジャーーーーーっ!!(×5)」
開いた口が塞がらない。こ、これも、法華の修験の1つなのか???
「見て御覧なさい。いかに謗法と化した寺とはいえ、大聖人様ましますこの地に、不浄な妖怪の気配がします!」
黄色の装束を着た修験者のような者が言った。それに緑の装束の者が続ける。
「私の分析によりますと、そこにいる着物に袴をはいた男が怪しいですね」
「ああっ!?妖怪の分際で人間に化けるたぁ、卑怯だぜっ!」
「大聖人様をも恐れぬ不届き者ね!」
しまった!こいつら修験者じゃなくて、ボクを狙ってやってきた妖怪退治屋だったか!ボクは急いで、三門の奥へ飛び込んだ!
「見て御覧なさい。妖怪が正に本門戒壇の大御本尊様を害さんと侵入しました。これ正に、亡国の予兆なのですね。金に執着の放蕩坊主では、あの妖怪を倒すことはできない。偏にこの大役、我々ケンショー・レンジャーが仰せ使うものであると確信しまするが、皆さんどうでしょう?」
背後から手を叩く音が聞こえる。奴ら、何か術を使おうとしている!?今のボクは人間同然だ。本当なら、境内から出て妖力を回復させるべきだと思うんだけど、何故かここはユタ達に助けを求めた方がいいと思ったんだ。……って、大講堂ってやら、どこだぁっ!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この時の大石寺は、まだ登山事務所とバスターミナルが一緒だった頃のものです。ま、御開扉の手続き風景くらいなら公開しても大丈夫だよね?さすがに御開扉の様子は“御内拝”と言って、御僧侶と手続きを済ませた信徒しか奉安堂内部に入れないこともあって、【お察しください】。