“新人魔王の奮闘記”より。
「日本では暑い暑い夏になっております。幸いにもこのアルカディアは常春の地方ですので、魔界とは思えぬほど穏やかな気候が1年中続いています。……何だか、むしろ人間界の方が魔界に思えてきた」
「総理!」
「……あ、いや、失礼」
春明は朝礼の挨拶をしていた。
「……では今日も1日、国民の為に頑張りましょう」
そう締める。
「いや、しかし本当にそう思うよな」
党本部を出て、馬車に乗り込む。
「何がです?」
「人間界じゃ、最高気温40度だぜ?あり得ないよな」
因みに、このアルカディア地方の年間平均気温は20度である。1月の最高気温が20度で、8月の最高気温も20度という意味。四季が無い。春だけの国だ。
「毎日が春なんて素晴らしいじゃないか」
「そうですね」
ベン大参事が大きく頷いた。
「桜の木なんか植えたら、1年中咲いてるだろ」
「はははっ、逆に風情が無いですね」
「それもそうだな」
王宮に帰る。
「お帰りなさいませ」
「おーう。ただいま」
セバスチャン参事が出迎える。
「何か変わったことあった?」
「はあ、それが……」
「ん?」
セバスチャンは両手に抱えるほどの段ボール箱を持って来て、床に置いた。
「何だこれは?」
「サイラス宛ての手紙です。封筒の外見からして、ラブレターかと」
「こ、こんなに?さすが優男だなぁ……」
春明は驚愕を通り越して、呆気に取られた。
「エルフ族は男女共に容姿端麗ゆえ……」
「だけどこれ、人間からだけじゃないだろ?確かにサイラスのファンは前からいたけど、何でまた急にこんなに?」
当のサイラスは今、妹と面会に行っている。サイラスは春明専属のSP。妹のリーフは女王ルーシーの専属メイドであるため、同じ王宮の仕事であっても、なかなか顔を合わせることはない。
「どうやらエルフ族の“恋の季節”らしいのです」
「あー、前に聞いたことあったなぁ……」
エルフ族は年に1度しか子作りができないという。完全に亜人を蔑んでいた民主党関係者はエルフ族を、
『人の姿によく似た動物』
とし、
『年に1回繁殖期が来るので、繁殖させないよう、雌エルフは定期的に隔離するように』
との通達を出していた。で、隔離してあとは【お察しください】。
「だからって、いきなりこの手紙の山は何だろう?」
「す、すまん!アベさん!」
そこへサイラスが戻って来た。別に見た目は、いつもと変わっていないが……。
「すぐに片付けるので」
「お前、何かしたわけじゃないよな?」
「してない。故意には」
「……故意には?」
「失礼します。先般の湘南海岸における水着ギャル観察の大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
「横田!お前、休暇取ってそんなとこ行ってたのか」
「私の分析によりますれば、サイラスには女を魅了するフェロモンが放たれているものと思われます」
「そうなのか」
「それは無味無臭であるため、同性たる我々には全く分からぬものであります」
「うん。その通りだな」
「年に1回の発情期……もとい、“恋の季節”の際に起こるエルフ族の風物詩であります」
「風物詩ねぇ……。でも横田、お前よくそんなこと知ってるな」
「総理。今だから白状しますが、私も元・民主党員でした。もっとも、軍にいたわけではありませんので、さらったエルフ女性を犯したりはしませんでしたが。実に惜しい」
「当たり前だ。てか、惜しいって何だ、惜しいって!」
「しかし、サイラスは前・村長の長男であります。その分、村の中でも1、2を争うモテ男でありましょう。今、村に帰れば引く手数多と思われます。実に羨ましい」
「おー、そうだなー。サイラス、良かったら帰省していいよ」
「いえ。俺はアベさんから、御役御免になるまで護衛を務めることに決めてる。アベさんの一生を見送ってから村に帰ってもいいんだ」
「さすがエルフ族は長命ですねぇ……」
「寿命が1桁も2桁も違うからな」
「あっ、そうか。もしかしてお前、さっきリーフに会いに行ったのは……」
「リーフはまだ体付きは成熟していないが、もう既に子を産む生殖能力はついてる。だから、注意を与えてきた」
その時、春明は一瞬横田の耳が大きくなり、眼鏡がキラーンと光ったのを見逃さなかった。
「リーフはどうする?村に帰して、誰かと結婚させるのか?」
「それはリーフの意思に任せたいし、陛下の意向次第でもあると思う」
「そうか。例え結婚したとしても、その後で産休やら育休やら必要だもんな」
「あ、あの……」
そこへセバスチャンが話し掛けた。
「なに?コーヒーならいいよ。これから謁見の間に行かなきゃいけないし」
「いえ……」
セバスチャンが答える前に、春明は気づいた。いつの間にか横田がいない!
「やっぱり、横田の奴!また何か企んでるな!」
「ええ。鼻息荒く、顔は気持ち悪いくらいにニヤついて出て行きました」
セバスチャンも呆れ顔だった。
「エルフのオレが気づかないとは……」
「それだけの奴なんだよ、あいつは!」
春明もまた急いで首相執務室を飛び出した。
「日本では暑い暑い夏になっております。幸いにもこのアルカディアは常春の地方ですので、魔界とは思えぬほど穏やかな気候が1年中続いています。……何だか、むしろ人間界の方が魔界に思えてきた」
「総理!」
「……あ、いや、失礼」
春明は朝礼の挨拶をしていた。
「……では今日も1日、国民の為に頑張りましょう」
そう締める。
「いや、しかし本当にそう思うよな」
党本部を出て、馬車に乗り込む。
「何がです?」
「人間界じゃ、最高気温40度だぜ?あり得ないよな」
因みに、このアルカディア地方の年間平均気温は20度である。1月の最高気温が20度で、8月の最高気温も20度という意味。四季が無い。春だけの国だ。
「毎日が春なんて素晴らしいじゃないか」
「そうですね」
ベン大参事が大きく頷いた。
「桜の木なんか植えたら、1年中咲いてるだろ」
「はははっ、逆に風情が無いですね」
「それもそうだな」
王宮に帰る。
「お帰りなさいませ」
「おーう。ただいま」
セバスチャン参事が出迎える。
「何か変わったことあった?」
「はあ、それが……」
「ん?」
セバスチャンは両手に抱えるほどの段ボール箱を持って来て、床に置いた。
「何だこれは?」
「サイラス宛ての手紙です。封筒の外見からして、ラブレターかと」
「こ、こんなに?さすが優男だなぁ……」
春明は驚愕を通り越して、呆気に取られた。
「エルフ族は男女共に容姿端麗ゆえ……」
「だけどこれ、人間からだけじゃないだろ?確かにサイラスのファンは前からいたけど、何でまた急にこんなに?」
当のサイラスは今、妹と面会に行っている。サイラスは春明専属のSP。妹のリーフは女王ルーシーの専属メイドであるため、同じ王宮の仕事であっても、なかなか顔を合わせることはない。
「どうやらエルフ族の“恋の季節”らしいのです」
「あー、前に聞いたことあったなぁ……」
エルフ族は年に1度しか子作りができないという。完全に亜人を蔑んでいた民主党関係者はエルフ族を、
『人の姿によく似た動物』
とし、
『年に1回繁殖期が来るので、繁殖させないよう、雌エルフは定期的に隔離するように』
との通達を出していた。で、隔離してあとは【お察しください】。
「だからって、いきなりこの手紙の山は何だろう?」
「す、すまん!アベさん!」
そこへサイラスが戻って来た。別に見た目は、いつもと変わっていないが……。
「すぐに片付けるので」
「お前、何かしたわけじゃないよな?」
「してない。故意には」
「……故意には?」
「失礼します。先般の湘南海岸における水着ギャル観察の大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
「横田!お前、休暇取ってそんなとこ行ってたのか」
「私の分析によりますれば、サイラスには女を魅了するフェロモンが放たれているものと思われます」
「そうなのか」
「それは無味無臭であるため、同性たる我々には全く分からぬものであります」
「うん。その通りだな」
「年に1回の発情期……もとい、“恋の季節”の際に起こるエルフ族の風物詩であります」
「風物詩ねぇ……。でも横田、お前よくそんなこと知ってるな」
「総理。今だから白状しますが、私も元・民主党員でした。もっとも、軍にいたわけではありませんので、さらったエルフ女性を犯したりはしませんでしたが。実に惜しい」
「当たり前だ。てか、惜しいって何だ、惜しいって!」
「しかし、サイラスは前・村長の長男であります。その分、村の中でも1、2を争うモテ男でありましょう。今、村に帰れば引く手数多と思われます。実に羨ましい」
「おー、そうだなー。サイラス、良かったら帰省していいよ」
「いえ。俺はアベさんから、御役御免になるまで護衛を務めることに決めてる。アベさんの一生を見送ってから村に帰ってもいいんだ」
「さすがエルフ族は長命ですねぇ……」
「寿命が1桁も2桁も違うからな」
「あっ、そうか。もしかしてお前、さっきリーフに会いに行ったのは……」
「リーフはまだ体付きは成熟していないが、もう既に子を産む生殖能力はついてる。だから、注意を与えてきた」
その時、春明は一瞬横田の耳が大きくなり、眼鏡がキラーンと光ったのを見逃さなかった。
「リーフはどうする?村に帰して、誰かと結婚させるのか?」
「それはリーフの意思に任せたいし、陛下の意向次第でもあると思う」
「そうか。例え結婚したとしても、その後で産休やら育休やら必要だもんな」
「あ、あの……」
そこへセバスチャンが話し掛けた。
「なに?コーヒーならいいよ。これから謁見の間に行かなきゃいけないし」
「いえ……」
セバスチャンが答える前に、春明は気づいた。いつの間にか横田がいない!
「やっぱり、横田の奴!また何か企んでるな!」
「ええ。鼻息荒く、顔は気持ち悪いくらいにニヤついて出て行きました」
セバスチャンも呆れ顔だった。
「エルフのオレが気づかないとは……」
「それだけの奴なんだよ、あいつは!」
春明もまた急いで首相執務室を飛び出した。