報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

こんどの特急 台風 18号は ただいま 東海地方を 通過中 です

2013-09-16 11:01:48 | 日記
 “ボーカロイドマスター”より。前回の続き。

[17:30.同場所 鏡音レン]

 想定外のことが起きたみたいだ。確かに女子中学生の部屋に、同じ年頃とはいえ、男がいたらマズいだろう。
 そこでボクは、いい方法を思い出した。
「……もう大丈夫よ」
 由紀奈が合図を出してくれて、ボクはクロゼットから出た。
「えっ!?」
 由紀奈は驚いた。それもそのはず。クロゼットの中に隠れたのは男だったはずなのに、出てきたのは女だったから。
「どう?」
 ボクは笑みを浮かべた。
「たまにライブで、ボクと双子の姉のリンが入れ替わるなんてサプライズをやることがあるんだ。今回のライブでリンはいなかったけど、それでも入れ替わりをやってみようなんて話もあってさ、リンの服だけ持ってきたんだ。結局時間が無くて、できなかったけどね」
「へえ……」
「男女の違いはあっても双子だから顔は同じだし、まあ、設定年齢14歳じゃ、そんなに変わんないから。でね……」
 ボクは発声機能を調整した。
「こうやって、リンの声を出すこともできるよ」
 リンの声はボクの声より高い。当たり前だ。だけど普通の発声はともかく、これで歌うと歌唱機能に何か悪いらしく、故障したことがあった。原因が分かるまで、ボクがリンの声で歌うことは禁止されている。
「……というわけで、これで歌うことは無いけど。あくまで、ライブの最中のパフォーマンスの時だよね」
「ちょっと、由紀奈。誰かいるの?」
 マザー、カムバーック!
「あ……!」
「あ……!」
「あ……!」
 一瞬の沈黙。だけどボクは咄嗟にリンの声のままで言った。
「お邪魔してます。ボク……じゃなかった。わたし、由紀奈ちゃんの友達で、鏡音リンです」
 多分、リンならこう言うだろう。ボクは努めてにこやかに挨拶した。それが功を奏したのか、お母さんは少し安心したようだ。
「あ、そうなの。さっきここにいなかったらびっくりしちゃった」
「すいません。ちょっとそこにいたもので……」
 ボクはベランダを指差した。由紀奈が飛び降りて来た所だ。外から部屋に入るドアからは見えにくい。
「そうだったの。ゆっくりしていってね……って、言いたいところなんだけど、今日はこれから出かけないといけないの」
「あ、はい。一息ついたら、すぐ帰ります」
 どうにか取り繕えたようだ。良かったぁ、リンに変装してて。でなかったら、大騒ぎだったろう。
 お母さんが部屋から出て行くと、
「これから出かけるって、外食でもするの?」
 と、ボクは聞いた。
「ううん。御飯食べてから出かけるの」
「どこへ?まさか、塾とか?」
「……塾の方がよっぽどマシだよ」
「えっ?」
「御飯食べてく?」
「ゴメン。ボク、ロボットだから“食べる”ことができないんだ。バッテリーが充電できればOKだよ」

 ボクはリンの姿のまま、夕食の準備をしているお母さんに挨拶して、団地をあとにした。たけど、ボクはスムーズに帰ることはできなかった。
「鏡音レン」
「は、はい!?」
 怒気を孕んだその声は、エミリーだった。険しい顔をして、腕組みをしている。
「ここで・何をしている?予定帰宅時間を・大幅に・オーバーしている。また、コースも・無断で・変更している。更には・バッテリー切れの・アラームが・鳴りっぱなしだ」
「は、はい……。ごめんなさい……」
「ドクター南里は・お怒りだ」

[18:00.南里ロボット研究所 鏡音レン]

 ボクはエミリーに両脇を抱えられ、彼女自慢の超小型ジェットエンジンで、一気に研究所まで連れ帰られた。で、そんなボクを待っていたのは……。
「ぶあっかもーーーーん!!」
 南里博士のお説教だった。因みにこの時の怒声は研究所の外にまで聞こえたらしく、自治会費を取り立てに来た、博士の天敵であるところの自治会長の田村のお婆さんも日を改めたくらいだ。
 結局ボクは先にエミリーが断罪したボクの3つの罪について、延々と夜遅くまで説教を食らうハメになった。
 大学の講義の後で立ち寄った“なっちゃん”こと、赤月奈津子博士がツッコミを入れてくれなかったら、それこそ朝まで説教されていたかもしれない。
「南里先生。人間の子供じゃないんだから、説教したってしょうがないじゃないですか」
 なんて。
 博士が皆言いたいことを言ってくれたおかげで、そのなっちゃんやプロデューサーからはそんなにキツいことは言われなかったけど。

[翌日09:00.南里研究所 鏡音レン]

 ボクは昨日の行動について、メモリーを解析された。メモリーは着脱可能なので、それを外して新しいものを取り付ければいい。だから、解析中は何もできないわけじゃない。だけどボクは一応、研究所内謹慎処分を受けた。この前はウィルスに感染してしまったとはいえ、プロデューサーを刺したことで謹慎だし、ボーカロイドで2回も謹慎食らったの、ボクだけだな。
 研究所エントランスにあるアップライト・ピアノを弾いているのはエミリー。プロデューサー曰く、
「誰も知らないマイナーな曲しか弾かない」
 とのこと。頼めば持ち歌の伴奏をしてくれるので、それでボク達が歌うこともある。今日は結構アップテンポの曲を弾いている。ピアノの楽譜を置く台にはモニタがあり、タイトルを見ると、『人形裁判』とか書いてあった。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
 そこへプロデューサーが出勤してきた。
「昨日は大変だったな」
「いえ。ボクも、すいませんでした」
「俺も後で所長に怒られたよ。『ちゃんと帰り方の指示を出さんかい。人間じゃないんじゃぞ』なんて」
「はは……」
「自分がレンを人間の子供のように怒ってたくせにな。あはははは!」
「人の悪口を言う時は、もっと影でこそこそ言うもんじゃよ?」
「はい?ああっ!」
「解析が終わった。データのバックアップ作業をしておいてくれ」
「あ、はい。それで、どうでした?何かレンの行動に不審な所はありましたか?」
「自殺未遂の少女を救ったことは、素晴らしいことじゃと思う。これだけは褒め称えたい。それ以外わしは特段気にはならなかったんじゃが、平賀君が物凄く気にした場面があっての」
「えっ?」
 すると奥から深刻な顔をした平賀博士がやってきた。
「レン、ちょっと話がある」
「はい?」
「こっちに来てくれ」
 ボクは奥の研究室に連れて行かれた。その途中、後ろから、プロデューサーと南里博士との会話が聞こえてくる。
「一体、何ですか?」
「わしは気にならなかったんじゃが、とにかく平賀君が大きく反応するものが映り込んでいたそうじゃ。わしにも教えてくれんかった。変わった弟子じゃの」
(あんたが言うな!)
 ……恐らくプロデューサーは、心の中でそう突っ込んだことだろう。

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1 コメント

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手直し (ユタ)
2013-09-16 19:42:57
 改めて読み直してみたら、いくつか誤字と表現方法に誤りがあったので、少し手直しました。ボツネタなもんで、色々とイジってるとよくこんなことがあるという……ただの言い訳です。
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