報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「何回目かの研修センター」

2022-06-13 20:23:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月29日17:30.天候:曇 神奈川県相模原市緑区 国家公務員特別研修センター]

 藤野駅からタクシー2台に分乗して、まずは国家公務員特別研修センターに向かう。
 普段、正門の鉄扉は固く閉じられている。
 正門の前で降ろしてもらい、私は横の通用口のインターホンを鳴らした。

 愛原:「こんばんは。東京の愛原他4名です」

 この名乗り方が曲者。
 日本語の表現の中でも、特に外国人泣かせ。
 何しろ、日本人でも完全に理解している者は案外多くない。
 いや、『他○名』の場合、自分を除いた残りの人数を指し、『以下○名』の場合は自分を含めた総数のことであるというところまでは簡単だ。
 難しいのは、どのように使い分けるのか。
 それは代表者がどのような立場であるかによって違う。
 英語で言うなら、代表者がボスに当たる人物の場合は『(ボス)他○名』と称し、『リーダー』に当たる人物の場合は『(リーダー)以下○名』と称す。
 ボスというのは、上から笛吹いて指示だけ出す人物のことだ。
 そして、リーダーというのは先導者という意味でもあり、先頭を切って引率する者を言う。
 よく、『斬り込み隊長』とか言うが、リーダーのことだ。
 ここでは一応、私は『ボス』らしいので、『他○名』と言うのが正しいわけである。

 守衛A:「どうぞ。お入りください」

 ドアノブの方からカチッという音がした。
 電子ロックが解除された音だ。
 警備本部から私達のことを監視カメラで確認し、そこから遠隔で解除操作をしたのだろう。
 相手は国家公務員とはいえ、民間で似たような仕事をしたことのある私は、警備本部でどのようなやり取りが行われたのか、手に取るように分かった。

 愛原:「失礼します」

 ドアノブに手をやると、案の定鉄扉は簡単に開いた。
 中に入ると、警備本部から守衛達がにこやかな表情で出て来た。
 もう何人かは既に知っている顔だ。

 守衛A:「やあ、ようこそ。いらっしゃい、愛原さん」
 愛原:「今日もお世話になります」
 守衛B:「手荷物検査を実施します!」

 守衛のAさんはベテランといった感じだが、Bさんは高橋と大して歳の変わらぬ年恰好だ。
 初めて見る顔なので、今年度に配属されたばかりなのだろう。
 ビシッと敬礼して言った。

 高橋:「やっぱりアレっスか?ケツの穴も見せなきゃダメっスか?」
 守衛B:「は?」
 愛原&守衛A:「刑務所じゃないよ!」

 もっとも、守衛さん達の制服は、どことなく刑務官のそれに似てなくもない。
 こういった公務員の制服は野暮ったいイメージがあったが、今では公務員の方がスマートで、民間の警備会社の方が野暮ったいように見える。
 一部の警備会社ではスマートなデザインに変わっている所もあるが、作者の警備会社はまだまだだ

 高橋:「BOWはケツの穴も見せやがれ!」(←タバコを吸えなくてイライラしている)
 愛原:「すいません。東京駅からずっと禁煙だったもので、イライラしてるんです」
 守衛A:「ああ、そうですか。それなら、そこで一服していいですよ」
 高橋:「マジっスか!?」

 私は初めて知ったが、どうやら警備本部(守衛所)の建物の裏手に、職員専用の喫煙所があるらしい。

 愛原:「いいんですか?」
 守衛A:「ええ。どうせ今日は祝日で、他に職員もいませんから」
 高橋:「あざーっス!」

 高橋はタバコとライターを手に、ルンルン気分で喫煙所に向かった。

 守衛C:「こちらに御記入をお願いします」
 愛原:「はい」

 入構手続きをしなくてはならない。
 手荷物検査はその一環である。
 B氏が私達の鞄の中を見ている。

 守衛A:「女の子のポーチの中とかは見なくていいよ」
 守衛B:「はっ!」
 守衛A:「金属探知機だけ使って」
 守衛B:「了解しました!看守長!」
 高橋:「ぶっ!やっぱ刑務所じゃねーかよ!?」(←咥えたタバコを吹き飛ばす)
 守衛A:「まあ、階級は法務省さんのそれを真似ているだけですよ」
 守衛B:「ですが、看守長はその法務省から来られたとか……」
 守衛A:「いいから、早く金属探知機を使え!……すいませんね。まあ、確かに昔は刑務所で看守長やってたのは本当です」
 愛原:「あ、そうでしたか」

 元受刑者の高橋には、それだけで【お察しください】。

 守衛B:「看守長、検査が終了しました!異常ありません!」
 守衛A:「よし!」

 すると、この若い守衛も、階級は『看守』なのだろうか。
 因みに刑務官の事を『看守』と呼ぶのは、本来間違いである。
 かつて警察官のことを『巡査』と呼んでいたが、これもあくまで階級名である。
 まあ、収容者としては『看守さん』の方が呼びやすいので、それが今でも定着しているということか。

 守衛A:「記入終わりましたか?」
 愛原:「はい」
 守衛B:「それでは、ゲストカードをどうぞ」
 愛原:「ありがとうございます」

 私達はゲストカードを持って、本館へと向かった。

 愛原:「ん?」

 すると、空から雷鳴が聞こえて来た。

 愛原:「こりゃ本格的に降りそうだ。早いとこ中へ入ろう」

 本館の中に入り、こちらの受付でカードキーを受け取る。
 4人部屋が2つ確保されていた。
 ここでの料金体系は、部屋ごとの料金である。
 リサの再検査が目的なので、1部屋だけはデイライトさん持ちである。
 しかし、上野姉妹の面会については、これは自主的なものなので自腹である。
 なのでここでは、1部屋1泊分の料金と食事代を別に払うことになる。

 管理人:「夕食は……今から19時半までです。朝食は朝7時から9時までね。で、お風呂なんですけど……」

 今夜は私達だけしか利用者がいないらしい。
 本来なら大浴場と小浴場の2つがあって、人数に応じてどちらを女湯にするか男湯にするか振り分けるらしい。

 管理人:「人数も人数ですし、小浴場だけ稼働させて、交替で入って頂くという形でいいですか?」
 愛原:「いいですよ」

 小浴場というと、場所によっては家族風呂と大して変わらない広さであることもあるが、ここのセンターの場合は本当に大浴場をコンパクトにしただけの広さ。
 料金を払い、カードキーをもらって、部屋のあるフロアへと階段を上る。
 その最中、リサが……。

 リサ:「先生、お風呂は先生達が先に入って」
 愛原:「いいのか?」
 リサ:「うん。わたしは先生の残り湯に浸かりたい」
 愛原:「あのな、高橋もいるぞ。それに、風呂のお湯は確か循環式だから、ろ過されてるぞ?」

 ただ、私達が先に入った方が良い理由もある。
 それもリサが理由なのだが……。

 上野凛:「ここでは先生がボスなんですから、一番風呂に入ってください」

 と、体育会系の凛が言った。

 愛原:「そうか?悪いな」

 なるべく早く入ってあげるか。
 確か、ここの風呂は23時までだったか。
 ま、とにかく部屋に行って荷物を置くことにしよう。

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