[3月27日17:16.天候:晴 JR上野駅 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]
〔次は上野、上野。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、常磐線、地下鉄銀座線、地下鉄日比谷線と京成線はお乗り換えです〕
御徒町〜上野間は距離が短い為、日本語放送の後で英語放送が鳴るのだが、それが言い終わる前にもうホームに差し掛かってしまう。
ホームドアが山手線全駅に設置されたこともあって安全性は高まったのだが、電車が止まってからドアが開くまで、一呼吸二呼吸のブランクが発生するようになった。
地方で押しボタン式の半自動ドアを実施している線区があるが、それと長さは同じかもしれない。
〔うえの〜、上野〜。ご乗車、ありがとうございます〕
稲生達は電車を降りて、更に進行方向の階段を登った。
新宿の後で錦糸町に移動した2人。
マリアのお目当ては買い物だった。
見た目はごく普通のディスカウントショップ。
しかし、店の奥には魔法具を取り扱う売り場があって……。
まあ、マリアが買ったのは着替えの服などであったが。
稲生が買ったのは、魔法具売り場の所にアルカディア・タイムスあったのでそれ。
ダンテ一門の魔道師達はアルカディア王国でも名うての集団であり、何かあるとよく新聞記事になっていた。
それはイリーナが宮廷魔導師を務めたことがあり、今ではポーリンが宮廷魔導師を務めている。
これは日本で言うなら、宮内庁の長官のような地位である。
二期連続でダンテ一門からそのような高官を出したことで、更なる注目が集まっていた。
そんな時に、あの不祥事である。
「『ダンテ門流、内紛発生か?』『嫉妬に狂った魔道師達!』『幸せは誰のモノ?』……こりゃまたセンセーショナルだ。作者愛読の夕刊フジみたい」
「まあ、タブロイド判の時点でアレだけどね」
マリアも苦い顔をしていた。
被害者がマスコミの晒し者にされることは、人間界も魔界も変わらない。
「あ、ちょっと待ってください」
階段を上がって中距離電車のホームに向かうコンコースの途中で、稲生は家から電話が掛かって来たことに気づいた。
「?」
「家から電話です」
「ああ」
稲生は着信のあった自宅の電話に掛け直した。
その間、マリアはアルカディア・タイムス英語版を見ていた。
被害者の顔写真として、マリアが写っている。
その写真の写り具合がとても悪い。
今よりずっと顔色の悪かった時に撮った写真が使われていた。
(私……こんな顔してたんだ……)
目の周りを見ても、ほとんど生気が無い。
もっとも、加害者達として掲載されているクリスティーナ達も目つきは良くなかった。
(これじゃあ、確かにキリスト教会から魔女狩りに遭ってもおかしくはないな……)
「……うん、それじゃ」
マリアが自分達のことについて考えているうち、稲生は電話を切った。
「マリアさん、ちょっと大変なことになりました」
「なに?何かあった?」
「父さんがゴルフから早く帰ってきたので、今夜は外で食べようと言うんです」
「ああ、親子水入らずってヤツか。いいよ。私は留守番してる」
「あ、いや、そうじゃないんです。マリアさんも是非一緒にということです」
「そうなのか?いいの?」
「ええ。で、問題はその先なんです」
「ドレスでも着て行かなきゃいけない?」
「いえっ、そこまで硬いレストランじゃないんで。そうじゃなくて、場所がケンショー本部の近くなんです」
「はあ?」
[同日17:31.天候:晴 JR高崎線847M電車内 稲生&マリア]
低いホーム13番線に移動した稲生達。
低いホームというのは、中央改札口から入って正面にあるホームのことである。
高いホームが左手の階段やエスカレーターを上がった所にあるのに対し、フラットな場所にある為、『地平ホーム』と呼ばれることもある。
昔は長距離列車の発着場であったが、その長距離列車が軒並み廃止になって以降、上野始発・終着の中距離電車が主に使用している。
稲生達はその上野始発の高崎線普通列車に乗ったというわけだ。
長い15両編成の先頭車まで行くのは、稲生の趣味か。
マリアは文句を言わず、ちゃんとついてきたが。
〔「まもなく13番線から17時31分発、高崎線普通列車の前橋行き、まもなく発車致します」〕
ボックスシートもある先頭車だが、座ったのはドア横の2人席。
稲生的にはマリアと体が密着できる上、マリアもまたこうすることで、見知らぬ男が隣に座って来る心配も無い。
井沢八郎の“あゝ上野駅”をアレンジした発車メロディがホームに鳴り響く。
〔13番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔「前、オーライです。13番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕
ドアが閉まって、中距離電車はゆっくりと走り出した。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、前橋行きです。前5両は、途中の籠原止まりです。……次は、尾久です〕
アルカディア・タイムスによると、総師範のダンテ・アリギエーリは、このような不祥事に関わった者全員に厳正な処分を下し、今後綱紀粛正を図ると表明しているという。
『……処分については今月中に行うとしている』
で、記事は締められていた。
「私達は……師匠クラスともなると、世界を影から動かすことも行っている。魔界では政権の中枢にいたりすることもできるし、本当は適当なことはできないんだ」
「そうですよね。今はまだ信じられませんけど……」
「まだユウタは入門して日が浅いからね。そういう私も、頭でしか分かっていない」
「そうなんですか?」
「今のところ、まだ師匠のような境地に至れる自信が全く無い。確かに私は免許皆伝は受けた。受けたけども、やっぱりまだまだ分からないことだらけだ」
「マリアさんでさえねぇ……」
「だからなんだろうね。魔道師に悠久とも言える時間が与えられているのは……」
「はい」
「で、どうする?御両親は先にレストランで待ってるんだそうだね?」
「電車でアクセスしようとすると、大宮公園駅で降りた時点で顕正会員と遭遇する恐れがあります。まだ、総幹部会の時のアレが残ってるでしょうからねぇ……」
見つかったら、きっと襲って来るに違いない。
「私の魔法で、ケガぐらいさせておく?」
「い、いや、もう少し平和的に行きましょう。幸い、父さんが駅からタクシーに乗っていいと言っていたので、今日はお言葉に甘えようと思います」
「そうか」
電車が低いホームから地上へと這い上がり(と言っても、低いホームが地下にあるわけではない)、車内に夕日が差し込んで来た。
「E231系だとブラインドが無いから、少し眩しいですね」
一応、UVカットガラスにはなっているのだが。
「でも、きれいな夕日だと思う。森の中だと、あまり日が差さないからね」
「それでも、飯田線沿線や篠ノ井線沿線にあった頃よりはマシだと思いますよ」
「そうかな?」
「ええ。少なくとも朝日は差し込んでくるおかげで、朝の勤行はやりやすくなりました」
初座の勤行で東を向く為。
「それならまあいいけど」
電車は夕日の中を北に向かって進む。
〔次は上野、上野。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、常磐線、地下鉄銀座線、地下鉄日比谷線と京成線はお乗り換えです〕
御徒町〜上野間は距離が短い為、日本語放送の後で英語放送が鳴るのだが、それが言い終わる前にもうホームに差し掛かってしまう。
ホームドアが山手線全駅に設置されたこともあって安全性は高まったのだが、電車が止まってからドアが開くまで、一呼吸二呼吸のブランクが発生するようになった。
地方で押しボタン式の半自動ドアを実施している線区があるが、それと長さは同じかもしれない。
〔うえの〜、上野〜。ご乗車、ありがとうございます〕
稲生達は電車を降りて、更に進行方向の階段を登った。
新宿の後で錦糸町に移動した2人。
マリアのお目当ては買い物だった。
見た目はごく普通のディスカウントショップ。
しかし、店の奥には魔法具を取り扱う売り場があって……。
まあ、マリアが買ったのは着替えの服などであったが。
稲生が買ったのは、魔法具売り場の所にアルカディア・タイムスあったのでそれ。
ダンテ一門の魔道師達はアルカディア王国でも名うての集団であり、何かあるとよく新聞記事になっていた。
それはイリーナが宮廷魔導師を務めたことがあり、今ではポーリンが宮廷魔導師を務めている。
これは日本で言うなら、宮内庁の長官のような地位である。
二期連続でダンテ一門からそのような高官を出したことで、更なる注目が集まっていた。
そんな時に、あの不祥事である。
「『ダンテ門流、内紛発生か?』『嫉妬に狂った魔道師達!』『幸せは誰のモノ?』……こりゃまたセンセーショナルだ。
「まあ、タブロイド判の時点でアレだけどね」
マリアも苦い顔をしていた。
被害者がマスコミの晒し者にされることは、人間界も魔界も変わらない。
「あ、ちょっと待ってください」
階段を上がって中距離電車のホームに向かうコンコースの途中で、稲生は家から電話が掛かって来たことに気づいた。
「?」
「家から電話です」
「ああ」
稲生は着信のあった自宅の電話に掛け直した。
その間、マリアはアルカディア・タイムス英語版を見ていた。
被害者の顔写真として、マリアが写っている。
その写真の写り具合がとても悪い。
今よりずっと顔色の悪かった時に撮った写真が使われていた。
(私……こんな顔してたんだ……)
目の周りを見ても、ほとんど生気が無い。
もっとも、加害者達として掲載されているクリスティーナ達も目つきは良くなかった。
(これじゃあ、確かにキリスト教会から魔女狩りに遭ってもおかしくはないな……)
「……うん、それじゃ」
マリアが自分達のことについて考えているうち、稲生は電話を切った。
「マリアさん、ちょっと大変なことになりました」
「なに?何かあった?」
「父さんがゴルフから早く帰ってきたので、今夜は外で食べようと言うんです」
「ああ、親子水入らずってヤツか。いいよ。私は留守番してる」
「あ、いや、そうじゃないんです。マリアさんも是非一緒にということです」
「そうなのか?いいの?」
「ええ。で、問題はその先なんです」
「ドレスでも着て行かなきゃいけない?」
「いえっ、そこまで硬いレストランじゃないんで。そうじゃなくて、場所がケンショー本部の近くなんです」
「はあ?」
[同日17:31.天候:晴 JR高崎線847M電車内 稲生&マリア]
低いホーム13番線に移動した稲生達。
低いホームというのは、中央改札口から入って正面にあるホームのことである。
高いホームが左手の階段やエスカレーターを上がった所にあるのに対し、フラットな場所にある為、『地平ホーム』と呼ばれることもある。
昔は長距離列車の発着場であったが、その長距離列車が軒並み廃止になって以降、上野始発・終着の中距離電車が主に使用している。
稲生達はその上野始発の高崎線普通列車に乗ったというわけだ。
長い15両編成の先頭車まで行くのは、稲生の趣味か。
マリアは文句を言わず、ちゃんとついてきたが。
〔「まもなく13番線から17時31分発、高崎線普通列車の前橋行き、まもなく発車致します」〕
ボックスシートもある先頭車だが、座ったのはドア横の2人席。
稲生的にはマリアと体が密着できる上、マリアもまたこうすることで、見知らぬ男が隣に座って来る心配も無い。
井沢八郎の“あゝ上野駅”をアレンジした発車メロディがホームに鳴り響く。
〔13番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔「前、オーライです。13番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕
ドアが閉まって、中距離電車はゆっくりと走り出した。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、前橋行きです。前5両は、途中の籠原止まりです。……次は、尾久です〕
アルカディア・タイムスによると、総師範のダンテ・アリギエーリは、このような不祥事に関わった者全員に厳正な処分を下し、今後綱紀粛正を図ると表明しているという。
『……処分については今月中に行うとしている』
で、記事は締められていた。
「私達は……師匠クラスともなると、世界を影から動かすことも行っている。魔界では政権の中枢にいたりすることもできるし、本当は適当なことはできないんだ」
「そうですよね。今はまだ信じられませんけど……」
「まだユウタは入門して日が浅いからね。そういう私も、頭でしか分かっていない」
「そうなんですか?」
「今のところ、まだ師匠のような境地に至れる自信が全く無い。確かに私は免許皆伝は受けた。受けたけども、やっぱりまだまだ分からないことだらけだ」
「マリアさんでさえねぇ……」
「だからなんだろうね。魔道師に悠久とも言える時間が与えられているのは……」
「はい」
「で、どうする?御両親は先にレストランで待ってるんだそうだね?」
「電車でアクセスしようとすると、大宮公園駅で降りた時点で顕正会員と遭遇する恐れがあります。まだ、総幹部会の時のアレが残ってるでしょうからねぇ……」
見つかったら、きっと襲って来るに違いない。
「私の魔法で、ケガぐらいさせておく?」
「い、いや、もう少し平和的に行きましょう。幸い、父さんが駅からタクシーに乗っていいと言っていたので、今日はお言葉に甘えようと思います」
「そうか」
電車が低いホームから地上へと這い上がり(と言っても、低いホームが地下にあるわけではない)、車内に夕日が差し込んで来た。
「E231系だとブラインドが無いから、少し眩しいですね」
一応、UVカットガラスにはなっているのだが。
「でも、きれいな夕日だと思う。森の中だと、あまり日が差さないからね」
「それでも、飯田線沿線や篠ノ井線沿線にあった頃よりはマシだと思いますよ」
「そうかな?」
「ええ。少なくとも朝日は差し込んでくるおかげで、朝の勤行はやりやすくなりました」
初座の勤行で東を向く為。
「それならまあいいけど」
電車は夕日の中を北に向かって進む。
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