[4月29日09:10.天候:晴 JR渋谷駅前]
ハチ公口付近に1台のハイエースが停車する。
運転手:「はい、着きました。ありがとうございました」
スライドドアが開くと、乗車していた宿泊客が降り始めた。
車はホテルがやっている『お送りサービス』だった。
稲生:「ありがとうございました」
イリーナ:「Спасибо.」
マリア:「Thanks.」
1番後ろに乗っていた稲生達が最後に降りる。
稲生:「自動通訳(魔法)、よく切れますね」
イリーナ:「フリーWi-Fiが飛び交ってると切れやすいね」
マリア:「見も蓋も無いこと言わないでくださいよ」
稲生:「ま、とにかく電車に乗りましょう」
稲生達は休日で賑わう渋谷駅の中に入った。
稲生:「本当にタクシーじゃなくていいんですか?」
イリーナ:「ええ。日本の鉄道は安全だしね」
マリア:(タクシーで行こうとすると何か障害がある予知でもしたか?)
稲生:「先ほどお渡ししたキップで、そのまま改札口を通れます」
イリーナ:「了解」
新宿から特急に乗り換えるが、乗車券は新宿ではなく、東京都区内になっている為。
白馬までだと軽く片道200キロ以上となるので、乗車券はそうなる(200キロ以下だと東京山手線内となる)。
〔まもなく1番線に、新宿、池袋方面行きが到着します。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
渋谷駅はホームが曲がっていて見通しが悪い為、ホームに駅員が2人立っている。
やってきた電車は主力のE231系500番台(つまり、新型じゃない方)で、電子警笛を鳴らしながらやってきた。
〔しぶや、渋谷。ご乗車、ありがとうございます〕
〔「電車とホームの間が広く空いている所があります。足元にご注意ください」〕
多くの乗客が降りてくる。
因みに渋谷駅には、まだホームドアが無い。
稲生:「久しぶりに渋谷駅から乗るなぁ……」
稲生は運転室の後ろの窓に陣取った。
発車メロディ(曲名:小川のせせらぎ)が鳴り響く。
〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
ホームが曲がっている為、稲生達が乗り込んだ先頭車は最後尾にいる車掌からは見えない。
そこで、ホームの前方に立っている駅員と後方に立っている駅員が連携して客扱い監視をしている。
そして、ドアが閉まる。
運転室内からは、運転士がハンドルをガチャガチャと手前に引く音が聞こえて来た。
稲生:「ユウタ、どのくらいで着く?」
マリア:「ものの5〜6分程度です」
稲生:「そうなのか」
電車が走り出してから、そんなやり取りがあった。
〔この電車は山手線外回り、新宿、池袋方面行きです。次は原宿、原宿。お出口は、右側です。地下鉄千代田線と地下鉄副都心線は、お乗り換えです〕
稲生:「あの、マリアさん……」
マリア:「なに?」
稲生:「そのブレザーですが……」
マリア:「師匠に何か言われた?」
マリアはチラッと後ろを見た。
イリーナは座席に座っている。
稲生:「マリアさんのブレザー、勝手に一晩預かってて、すいませんでした」
マリア:「いや、いいよ。酔っ払って脱ぎ捨てた私が悪い」
マリアのブレザーは緑色と言っても、今乗っている山手線のラインカラーであるウグイス色(車体色名。正式名称としては「国鉄黄緑6号」というので、「黄緑色」と呼んでも良いことになる)ではなく、埼京線の緑色(国鉄緑15号)に近い。
他に実際、黄緑色に近いものやエメラルドグリーン(国鉄青緑1号)、更にはJR東日本のコーポレートカラーに近い緑(いわゆる、モスグリーン)のものも持っている。
これはマリアが表向き好きな色が緑色だからというのもあるのだが、実際は契約悪魔であるベルフェゴールのシンボルカラーが緑だからである。
ベルフェゴールから多大な魔力を受けている為、その証としてシンボルカラーを服飾の一部として使用しているだけに過ぎない。
その為、イリーナも契約悪魔がレヴィアタンなのだが、こちらはピンク色がシンボルである為、今着ているドレスコートがピンク色なのはその為である(実際は鴇色や桃色としてのピンク色ではなく、レッドパープルに近い)。
エレーナもマモンと契約したが、マモンは青色である為、それまでは魔女らしい黒い服を着ていたのだが、青い服を用意している。
で、稲生が内々定している“色欲の悪魔”だが、こちらは紫色らしい。
稲生:「やっぱりマリアさんには緑色が似合います」
マリア:「ベルフェゴールが寂しがるもんでね。別に、嫌いな色ってわけじゃないんだけど」
その為、夏はさすがに暑いのでブレザーは着ないが、代わりに薄緑色のブラウスを着るなどして対応している。
稲生:「僕は紫かぁ……」
稲生は東京メトロ半蔵門線のラインカラーを思い出した。
稲生:「僕には似合いそうに無いなぁ……」
マリア:「別に、パープル一辺倒でなくてもいい。大昔はだいぶこだわっていた悪魔達だけども、今はそこまで拘らないみたい」
稲生:「そうなんですか」
マリア:「よく見たら師匠の服、マゼンタだぞ。どちらかというと紫系の」
稲生:「ありゃ?」
マリア:「確か、ユウタが持っているスーツで、紺色のヤツがあるだろう?」
稲生:「1着ありますね」
マリア:「黒に近い紫色……何て言うのか知らないけど、そういう色のスーツでも買って着ればいいんだよ」
稲生:「なるほど」
稲生はポンと手を叩いた。
後ろではあまり納得してなさそうな某色欲の悪魔がいたが、マリアが冷たい視線を送った。
マリア:「他に契約してくれる魔道師もいないんだから、それくらい妥協しろ」
と言った。
[同日10:04.天候:晴 JR新宿駅→特急“あずさ”55号8号車内]
隣のホームから定期列車の“スーパーあずさ”11号が発車していく。
稲生達が乗っている臨時列車はその後追いをしていくわけだが、先発列車と比べて停車駅が多いので、ダイヤ通りであるなら追い付くことはない。
稲生:「新宿駅で少し時間があるからということで、少しエキナカを回ったわけですが……」
稲生はグリーン席上の網棚に荷物を置いた。
稲生:「最後の最後で『爆買い』しましたね」
マリア:「何かきっかけが無いと、なかなか家の外に出ないからね。買い物は人形やユウタが行ってくれるからいいんだけど……」
稲生:「村の中心部へ向かうバスが1日3本しか無い状態ですからねぇ……」
それも、屋敷の最寄りバス停が、明らかに稲生くらいしか利用しないような所だ。
網棚に乗せた荷物は、購入した日用品が入っているバッグだった。
〔「お待たせ致しました。10時4分発、中央本線特急“あずさ”55号、白馬行き、まもなく発車致します」〕
ホームから発車メロディが微かに聞こえてくる。
タイトルは“see you again”という、正に長距離列車に相応しい曲名なのだが。
列車は新型車両のVVVFインバータの音を響かせて発車した。
前に座るイリーナはリクライニングを倒して、早速寝入っている。
稲生:「何だか大変な旅行でした」
マリア:「大師匠様が、よくゾーイの幻影から逃れられたと驚かれていたみたいだな」
稲生:「まあ、脱出ゲームは既に何度もやって……」
マリア:「は?」
稲生:「あ、いや、何でも無いです」
マリアの屋敷において、自室として与えられた稲生の部屋に、テレビゲームが設置されていることはあまり大っぴらにしたくない稲生だった。
マリア:「ま、師匠も寝てるし、帰りは何事も無く着けるだろう」
稲生:「そうですね」
臨時列車はそろそろ暑くなってくる日差しを背に、まずは北、それからすぐに西へと進路を取った。
ハチ公口付近に1台のハイエースが停車する。
運転手:「はい、着きました。ありがとうございました」
スライドドアが開くと、乗車していた宿泊客が降り始めた。
車はホテルがやっている『お送りサービス』だった。
稲生:「ありがとうございました」
イリーナ:「Спасибо.」
マリア:「Thanks.」
1番後ろに乗っていた稲生達が最後に降りる。
稲生:「自動通訳(魔法)、よく切れますね」
イリーナ:「フリーWi-Fiが飛び交ってると切れやすいね」
マリア:「見も蓋も無いこと言わないでくださいよ」
稲生:「ま、とにかく電車に乗りましょう」
稲生達は休日で賑わう渋谷駅の中に入った。
稲生:「本当にタクシーじゃなくていいんですか?」
イリーナ:「ええ。日本の鉄道は安全だしね」
マリア:(タクシーで行こうとすると何か障害がある予知でもしたか?)
稲生:「先ほどお渡ししたキップで、そのまま改札口を通れます」
イリーナ:「了解」
新宿から特急に乗り換えるが、乗車券は新宿ではなく、東京都区内になっている為。
白馬までだと軽く片道200キロ以上となるので、乗車券はそうなる(200キロ以下だと東京山手線内となる)。
〔まもなく1番線に、新宿、池袋方面行きが到着します。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
渋谷駅はホームが曲がっていて見通しが悪い為、ホームに駅員が2人立っている。
やってきた電車は主力のE231系500番台(つまり、新型じゃない方)で、電子警笛を鳴らしながらやってきた。
〔しぶや、渋谷。ご乗車、ありがとうございます〕
〔「電車とホームの間が広く空いている所があります。足元にご注意ください」〕
多くの乗客が降りてくる。
因みに渋谷駅には、まだホームドアが無い。
稲生:「久しぶりに渋谷駅から乗るなぁ……」
稲生は運転室の後ろの窓に陣取った。
発車メロディ(曲名:小川のせせらぎ)が鳴り響く。
〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
ホームが曲がっている為、稲生達が乗り込んだ先頭車は最後尾にいる車掌からは見えない。
そこで、ホームの前方に立っている駅員と後方に立っている駅員が連携して客扱い監視をしている。
そして、ドアが閉まる。
運転室内からは、運転士がハンドルをガチャガチャと手前に引く音が聞こえて来た。
稲生:「ユウタ、どのくらいで着く?」
マリア:「ものの5〜6分程度です」
稲生:「そうなのか」
電車が走り出してから、そんなやり取りがあった。
〔この電車は山手線外回り、新宿、池袋方面行きです。次は原宿、原宿。お出口は、右側です。地下鉄千代田線と地下鉄副都心線は、お乗り換えです〕
稲生:「あの、マリアさん……」
マリア:「なに?」
稲生:「そのブレザーですが……」
マリア:「師匠に何か言われた?」
マリアはチラッと後ろを見た。
イリーナは座席に座っている。
稲生:「マリアさんのブレザー、勝手に一晩預かってて、すいませんでした」
マリア:「いや、いいよ。酔っ払って脱ぎ捨てた私が悪い」
マリアのブレザーは緑色と言っても、今乗っている山手線のラインカラーであるウグイス色(車体色名。正式名称としては「国鉄黄緑6号」というので、「黄緑色」と呼んでも良いことになる)ではなく、埼京線の緑色(国鉄緑15号)に近い。
他に実際、黄緑色に近いものやエメラルドグリーン(国鉄青緑1号)、更にはJR東日本のコーポレートカラーに近い緑(いわゆる、モスグリーン)のものも持っている。
これはマリアが表向き好きな色が緑色だからというのもあるのだが、実際は契約悪魔であるベルフェゴールのシンボルカラーが緑だからである。
ベルフェゴールから多大な魔力を受けている為、その証としてシンボルカラーを服飾の一部として使用しているだけに過ぎない。
その為、イリーナも契約悪魔がレヴィアタンなのだが、こちらはピンク色がシンボルである為、今着ているドレスコートがピンク色なのはその為である(実際は鴇色や桃色としてのピンク色ではなく、レッドパープルに近い)。
エレーナもマモンと契約したが、マモンは青色である為、それまでは魔女らしい黒い服を着ていたのだが、青い服を用意している。
で、稲生が内々定している“色欲の悪魔”だが、こちらは紫色らしい。
稲生:「やっぱりマリアさんには緑色が似合います」
マリア:「ベルフェゴールが寂しがるもんでね。別に、嫌いな色ってわけじゃないんだけど」
その為、夏はさすがに暑いのでブレザーは着ないが、代わりに薄緑色のブラウスを着るなどして対応している。
稲生:「僕は紫かぁ……」
稲生は東京メトロ半蔵門線のラインカラーを思い出した。
稲生:「僕には似合いそうに無いなぁ……」
マリア:「別に、パープル一辺倒でなくてもいい。大昔はだいぶこだわっていた悪魔達だけども、今はそこまで拘らないみたい」
稲生:「そうなんですか」
マリア:「よく見たら師匠の服、マゼンタだぞ。どちらかというと紫系の」
稲生:「ありゃ?」
マリア:「確か、ユウタが持っているスーツで、紺色のヤツがあるだろう?」
稲生:「1着ありますね」
マリア:「黒に近い紫色……何て言うのか知らないけど、そういう色のスーツでも買って着ればいいんだよ」
稲生:「なるほど」
稲生はポンと手を叩いた。
後ろではあまり納得してなさそうな某色欲の悪魔がいたが、マリアが冷たい視線を送った。
マリア:「他に契約してくれる魔道師もいないんだから、それくらい妥協しろ」
と言った。
[同日10:04.天候:晴 JR新宿駅→特急“あずさ”55号8号車内]
隣のホームから定期列車の“スーパーあずさ”11号が発車していく。
稲生達が乗っている臨時列車はその後追いをしていくわけだが、先発列車と比べて停車駅が多いので、ダイヤ通りであるなら追い付くことはない。
稲生:「新宿駅で少し時間があるからということで、少しエキナカを回ったわけですが……」
稲生はグリーン席上の網棚に荷物を置いた。
稲生:「最後の最後で『爆買い』しましたね」
マリア:「何かきっかけが無いと、なかなか家の外に出ないからね。買い物は人形やユウタが行ってくれるからいいんだけど……」
稲生:「村の中心部へ向かうバスが1日3本しか無い状態ですからねぇ……」
それも、屋敷の最寄りバス停が、明らかに稲生くらいしか利用しないような所だ。
網棚に乗せた荷物は、購入した日用品が入っているバッグだった。
〔「お待たせ致しました。10時4分発、中央本線特急“あずさ”55号、白馬行き、まもなく発車致します」〕
ホームから発車メロディが微かに聞こえてくる。
タイトルは“see you again”という、正に長距離列車に相応しい曲名なのだが。
列車は新型車両のVVVFインバータの音を響かせて発車した。
前に座るイリーナはリクライニングを倒して、早速寝入っている。
稲生:「何だか大変な旅行でした」
マリア:「大師匠様が、よくゾーイの幻影から逃れられたと驚かれていたみたいだな」
稲生:「まあ、脱出ゲームは既に何度もやって……」
マリア:「は?」
稲生:「あ、いや、何でも無いです」
マリアの屋敷において、自室として与えられた稲生の部屋に、テレビゲームが設置されていることはあまり大っぴらにしたくない稲生だった。
マリア:「ま、師匠も寝てるし、帰りは何事も無く着けるだろう」
稲生:「そうですね」
臨時列車はそろそろ暑くなってくる日差しを背に、まずは北、それからすぐに西へと進路を取った。
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