報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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“私立探偵 愛原学” 「霧生市の探索」

2019-01-30 10:30:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月18日12:00.天候:晴 某県霧生市 霞台団地]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は政府エージェントの善場さんやBSAAに連れられて、あの霧生市までやってきた。
 私のように生きてあの町から脱出した者が、如何にしてあの町を逃げ回ったかの軌跡を調査したいのだという。
 今、私達は霞台団地までやってきた。
 この団地は霧生市のニュータウンとして造成された所であったが、ここもゾンビパラダイスと化していた。

 
(団地の入口で大事故を起こしたまま放置された路線バス。運転手がゾンビ化したか、或いはゾンビ化した乗客が運転手を襲ったか……)

 愛原:「高橋君、このバスに見覚えはあるかい?」
 高橋:「ええ。団地の入口で事故ってたバスですね」
 善場:「一応、ここも調査してみましょう」

 善場氏は乗っている装甲車を止めてもらうと、装甲車を降りた。
 私達も降りる。
 外は長閑な冬の日差しが差し込んでいる。
 とても今はゴーストタウンと化した町だとは、到底思えない。

 愛原:「そろそろお昼だな、高橋君」
 高橋:「そうですね。団地に入って、最初の交差点を左に曲がった先にラーメン屋がありましたよ」
 愛原:「アホ。あの時、あのラーメン屋は火事になってただろうが。だいいち、営業してるわけ無いっつの」
 高野:「むしろ、今営業してたらウケるね」

 福島第一原発の方は、立入制限が解除された所から徐々に復興しているようだが、ここは無理だな。

 善場:「そろそろ、昼食にしましょう。お弁当は用意してありますので……」
 愛原:「ありがとうございます」
 善場:「一応、安全の為に装甲車の中で食べてください」
 愛原:「そうですか。今はこんな長閑な雰囲気になっているのに、何だか勿体無いですなぁ……」
 高野:「ゾンビさえいなければ、いい所だったんでしょうけどね」
 愛原:「そうだな」

 だが!

 リサ:「そこ!何かいるよ!」

 リサが両目を金色に光らせてバスの床下を指さした。

 ゾンビA:「ウウウ……!」
 ゾンビB:「アァァ……!」
 愛原:「ええーっ!?」

 何と!バスの床下からゾンビが2体這い出て来た!
 あの事件からもう2〜3年は経ったというのに、まだ『生きている』ゾンビがいたとは!

 愛原:「高橋、下がれ!」
 高橋:「はいっ!」

 ゾンビ達はようやく立ち上がるのがやっとといった感じであったが、痩せこけて、腐った肉は殆ど付いておらず、骨と皮だけの状態であった。
 すぐに護衛に付いていたBSAA極東支部日本地区本部の隊員達が配置に付いて、手持ちのマシンガンやショットガンでゾンビを蜂の巣にしてくれた。

 BSAA隊長:「この辺りを探索して参ります!」

 BSAA隊長は善場氏にそう言うと、隊員数名を引き連れ、団地の方に走っていった。
 残った隊員は死んだゾンビの調査に当たっている。

 愛原:「ゾンビさえいなけりゃ、いい所なんだけどな!」
 高橋:「全くですね!」

 あとは自衛隊員が死体と化したゾンビを装甲車(もちろん私達が乗っているBSAAのではなく、自衛隊の)に収容した。
 もう1台、BSAA隊長らが乗っていた装甲車からは無線が聞こえて来ている。
 どうやら団地内には、まだ動けるゾンビが他にもいたらしい。
 市街地のように(ラーメン屋やガソリンスタンドなどを除いて)火災がそんなに発生しなかった場所なだけに、焼死したゾンビはいなかった。
 その為、BSAAの掃討作戦から漏れた(恐らく普通の死体と思われた)死体が今ゾンビ化しているのかもしれないというやり取りが聞こえて来た。
 さすがに完全に白骨化した者はゾンビ化しなかったようだが、少しでも脳味噌が残っている死体はゾンビ化するのだろう。

 愛原:「あの……善場さん」
 善場:「何でしょうか?」
 愛原:「とても弁当食ってる気分になれないんですけど……」
 善場:「そうですね。昼食の時間と場所は変えましょう。これならむしろ市街地の方が良かったかもしれません」

 しかしあそこは紛争の後といった感じで、雰囲気的には落ち着かない。
 ま、確かにゾンビは全くいなかったのだが。
 無線からは、他にもハンターやリッカーの死体が見つかったというのも聞こえて来た。
 ハンターはミイラ化しており、リッカーは白骨化していたという。
 これらもいずれは回収の対象となるだろう。
 どこかの研究所に運ばれるのかもしれないな。

 善場:「……はい。というわけでして……はい」

 善場氏は電話で上層部とやり取りをしているようだった。

 善場:「……はい、了解しました。申し訳ありません。……はい」

 そして、善場は電話を切る。

 善場:「愛原さん、申し訳ありません。上層部からの指示で、本日の調査は中止せよとのことです」
 愛原:「……だろうなぁ」
 高橋:「おいおい、クソ忙しい先生の貴重なヒマな時間を無駄に使わせやがったこの落とし前はどう付けてくれるつもりなんだ?あぁ?善場さんよ?」
 愛原:「高橋、日本語整理してから善場さんに文句言え」
 善場:「もちろん報酬は支払わせて頂きます。まさか、未だに『生存』しているゾンビがいたとは想定外でした」
 愛原:「2〜3年もの間、どうやって飲まず食わずで『生きて』いたのやら……」
 善場:「実は旧アンブレラ社の研究レポートには、似たようなことが書いてあるものがあったそうです。ただ、他の研究者からは一笑に付されていたらしいのですが……。どうやら、そのレポートは本当だったようです」

 温かい血肉を求めて彷徨い歩く、餓鬼道を地で行くゾンビが数年間も飲まず食わずで『生き』られるとは普通思わないだろう。
 恐らくそこが、昔ながらのゾンビ映画に出て来るゾンビとは違う所なのかもしれない。

 善場:「上層部としては既に安全が確認されている市街地のみを調査するものと思っていたようです。郊外部分につきましては、未だに安全宣言を出すわけには行かないことが判明しました。それだけでも、この調査は意義のあるものだったと私は思います」
 愛原:「できれば霧生電鉄の駅や大山寺境内も調査してみたかったですね」
 善場:「はい。それも追々お願いすることになるかと思いますので、その時はどうぞよろしくお願いします」

 私達はBSAAの隊員達の帰還を待って、それから装甲車に乗ると来た道を引き返した。

 善場:「明日はご旅行ですか?」
 愛原:「そうなんですよ。うちの事務所の慰安旅行でしてね。まあ、1泊2日の温泉旅行ですが……」

 ふと道路沿いの看板を見ると、『新日蓮宗大本山 大山寺』の他に、『霧生温泉』の看板もあった。
 バイオハザードさえ起こらなければ、いい町だっただろうに……。

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