報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「リサに突き付けられた現実」

2023-09-26 20:18:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月16日13時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所2階]

 予定通り、昼食にはスーパーで売られていたアルミ容器入りのインスタントの鍋焼きうどんを食べた。
 そして、午後イチに善場はやってきた。
 部下と一緒かと思ったが、どうやら1人のようである。
 コートは着ていたが、その下はいつも通りの黒いスーツであった。

 善場「こんにちは。今日はお時間を取って頂き、ありがとうございます」
 愛原「いえいえ。主任こそ、こんな足元が悪い中、お疲れ様です」

 愛原は善場を迎え入れると、応接コーナーへと案内した。
 そして、高橋に温かいコーヒーを入れるように命じた。
 リサは相変わらず、学校のジャージ姿であった。
 着替えるのが面倒なだけである。
 除雪作業でズボンの足首部分が濡れたが、元々が乾きやすい素材で造られたジャージなので、たたでさえ暖房が効いて乾燥しやすい室内ではすぐ乾いた。
 リサはジャージのズボンだけ脱いで、下はブルマ姿になろうとしたが、さすがに事務所内ではズボンを穿いておくように愛原に言われた。
 愛原の命令は絶対なので聞いた。
 パールは、『ジャージのズボンを穿いても、ブルマのスジが浮かび上がり、それはそれで男の目を惹き付ける』と言ったので、尚更納得した。
 愛原は、慌てて否定したが。

 愛原「リサは同席させますか?離席させることもできますが?」
 善場「構いません。離席させたところで、ダクトの中に潜んで盗み聞きしようとするでしょう」
 リサ「そんなこと……!」
 善場「やろうと思えばできるのがBOWだからね」
 リサ「むー……!」
 善場「その割には、未だにダクトの中を対策しないBSAAなのです」
 愛原「こういう小さいビルならともかく、都心にあるような超高層ビルとかだとキリが無いですよ」
 善場「現実はそういうものです」

 善場は大きく頷いた。

 善場「それでは本題に移りましょう」
 高橋「コーヒーお持ちしたっス」
 愛原「ああ。そこに置いてくれ」
 リサ「わたしには!?お兄ちゃん、わたしには!?」
 高橋「オメーはコーヒー飲まねーだろうが。自分でジュースでも入れやがれ」
 愛原「さっき飲んでたじゃないか。全く飲まないわけじゃないよ。いいから高橋、入れてやれ」
 高橋「先生が仰るのなら……」
 リサ「さすが先生」

 リサは愛原の助けに感激し、隣に座る愛原の腕にしがみついた。

 善場「仲が宜しいですこと」
 リサ「夫婦だから!」
 愛原「いや、まだ結婚してないし」
 善場「実は、そのことなのです」
 愛原「えっ!?」
 リサ「ほお!?」
 善場「愛原所長は、『リサが人間に戻れたら結婚してやる』旨の発言をされましたね?」
 愛原「ええ、まあ。記憶にはあります」
 リサ「人間に戻れる方法、見つかったの!?」

 しかし、善場は無表情のままだ。
 善場は基本的にポーカーフェイスである。

 善場「もしも愛原所長がその発言を撤回されないのならば、リサは愛原所長と結婚することは不可能でしょう」
 愛原「ええっ!?」
 リサ「そ、それって……!」
 高橋「ほらよ、コーヒー。つまり、人間に戻れねぇってことか」
 善場「研究機関の研究により、リサを第2形態以降までの変化を完全に抑える手段は見つかりました。しかし、どうしても今の化学力では、リサを完全に人間に戻す方法が無いことが分かりました」
 愛原「……そうですか……」
 リサ「…………」

 リサは茫然とした。

 善場「私の場合、確かに表向き、人間に戻ったことにはなっています。しかし、まだ超人的な力を持っていることには変わりありません」
 高橋「霧生市で見せたな、ねーちゃん。明らかに体に突き刺さった鉄筋なのに、引き抜いたら、血が噴き出たが、すぐに止まった上に、みるみるうちに傷跡残さずに消えちまった。そこはリサと同じだ」
 善場「はい、そうです。こんなの、普通の人間ではありえません。しかし、Gウィルスが形を変えて遺伝子に深く食い込んでしまっている為に、今の化学力では、どうすることもできないのです。ましてやリサは、Gウィルスと共に何十年も生きて来ました。たった数年の私とは、そもそもキャリアが違うのです。これ以上の変化を防げるというだけでも、私は相当な進歩だと思っています」
 愛原「これ以上、人間に近い状態には戻せない。だけど、これ以上、化け物になることもない、と」
 善場「はい」
 愛原「寿命はどうなるんですか?“鬼滅の刃”だと、鬼は不老不死のようですが……」
 善場「これに関しても、まだ研究段階で何とも言えません。私と同じような状態にあるシェリー・バーキン氏は、既に40歳近い年齢となっていますが、未だに見た目は20代くらいだと言われております」
 愛原「マジか……」
 善場「Gウィルスの遺伝子のごく一部が体の中に入り込んでいるというだけで、そのような状態なのです。確かに私も、肌トラブルの経験は大卒後、全くありません」
 高橋「おいまさか、リサみてーに人を食いたいとかなんてことは……」
 善場「いえ、さすがにそれは無いですよ。それはバーキン氏も同じです」
 愛原「そうですか……。まあ、仕方が無いですね」

 リサはチラッと愛原を見た。

 愛原「せめて、食人衝動だけでも治せればいいのですが……。あとは見た目が鬼であったとしても、電撃とかは使えないようにするとか……」
 善場「未だに研究の段階とか言いようがありません。本来ならば、このことが分かった時点で、リサには研究機関に戻ってもらうのが正しい選択なのですが……」
 リサ「ヤダ!わたし、ここにいたい!」
 愛原「……と、本人たっての希望ですが?」
 善場「ええ、分かっております。ここで無理やり連れて行こうもなら、東京が霧生市のようになってしまいます。アメリカだと、ルイジアナ州のベイカー農場周辺ですね」
 愛原「エヴリンですか……」
 善場「エヴリンも、研究所に行きたくなくて暴れたのが始まりですから……」
 リサ「エヴリンは嫌いだけど、その気持ちは分かる」
 愛原「では、リサをこれ以上変化させない処置だけお願いします」
 善場「もちろん、準備は進めています。準備ができ次第、またお知らせ致します。そうですね……。リサの春休みに合わせる形になれば良いかと考えております」
 リサ「どっちみち、研究所には行かないといけないわけね」
 善場「まあ……。でも、強制連行だと、愛原所長には会えなくなるわけよ。春休みに素直に来てくれれば、愛原所長も一緒でいいのよ」
 愛原「リサを暴走させない為です。浜町でも藤野でも、どこにでも行きますよ」
 善場「ありがとうございます。詳細が分かりましたら、またお知らせ致します」

 善場そう言って、事務所を後にした。

 リサ「はー……。結局、人間に戻れないのか……」
 愛原「がっかりするなよ。今の技術では、の話だよ。今後、技術が進めば、また話が変わって来るかもしれんよ?」
 リサ「そうかな……」
 愛原「そうだよ。医学は常に進歩しているんだ。昔は不治の病とされた癌も、治るようになったんだからな」

 リサは第1形態の鬼の姿になった。

 リサ「ちょっと昼寝してくる。寝たら、全部夢かしれない」
 高橋「現実逃避かよw」
 愛原「ああ、うん。ゆっくり寝ておいで。あまり寝すぎて、夜寝られなくなるのには注意な?明日は学校あるだろうから」
 リサ「分かってるよ。夕飯までには起きるよ」
 愛原「そうしてくれ」

 リサはエレベーターに乗ると、自室のある4階へと向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「雪に閉ざされて」

2023-09-26 16:13:57 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月16日10時00分 天候:曇 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所2階]

 愛原「……あ、はい。そうでございますか。……いえ、何ぶんこの想定外の積雪ですし、今回ばかりは致し方無いかと思います。……はい。では、またの機会に……はい。よろしくお願い致します」

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を営んでいる。
 今日は昨夜から降り続いた雪が思わぬ積雪量を記録した。
 その為、今日来所予定だったクライアントから、依頼のキャンセルや相談の予約の延期などの連絡が相次いでしまった。
 本来なら電話受付業務はパールがやってくれるのだが、今この事務所内にいるのは私だけである。
 他の3人は今、外で除雪作業をやっていた。
 スコップはキャンプ用の折り畳みの物が2つあるだけだったが、パールが近所のスーパーで品薄だった雪掻きを1つ買って来た。
 それで3人総出で、除雪作業をしているわけである。
 リサは学校が休みになったので、それで除雪を手伝っていた。
 事務所内にあるテレビを点けると、情報番組では、首都圏ではあちこちで積雪による悪影響が出ていることを深刻そうに伝えていた。
 今日は1日、外に出られそうに無いな。
 私がそう思っていると、また1本の電話が掛かってきた。

 愛原「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます」
 善場「愛原所長、お疲れ様です。善場です」
 愛原「あっ、善場主任!いつもお世話になっております」
 善場「この形ですと、事務所の方は予定通り営業ということですね?」
 愛原「あ、はい。一応は……。ただ、本日来所予定のクライアントさんの殆どは、キャンセルになってしまいました」

 徒歩圏内に住んでいらっしゃるクライアントさんでさえ、この10cmの積雪では歩きにくい。
 雪国なら大した積雪ではないのだが、東京では雪国で言うところの1mの積雪くらいのレベルなのである。
 ましてや、殆どのクライアントさんが電車や車で来所されようとしている方々。
 都営新宿線などの地下鉄は何とか動いている状態だが、地上を走るJRなどはダイヤが乱れに乱れているらしい。
 遠距離から来られるクライアントさんはさすがにいないが、雪に弱い東海道新幹線は運転見合わせしているし、雪に強い東北新幹線なども遅れが発生しているようである。

 愛原「……そんなワケで、開店休業状態です。クライアントさんから依頼の調査も、この雪では出られないので……」
 善場「そうですか。ということは、今日はいつでも愛原所長にお会いできるということですね?」
 愛原「は?はあ、まあ、そうですが……」
 善場「これから、そちらにお伺いします」
 愛原「は?しかし、交通機関は乱れておりますが……」
 善場「さすがに車では参りません。地下鉄でしたら動いてますので、それで向かいます。午後からお伺いしてもよろしいですか?」
 愛原「それは構いませんが……」

 地下鉄とて平常運転ではない。
 私が懸念した通り、都営新宿線は笹塚から西の京王線との相互乗り入れを中止してしまった。
 他にも軒並み、相互乗り入れを中止している地下鉄線は数多ある。
 多くの鉄道会社と相互乗り入れをしている都営浅草線も、同じような状況のはずだ。
 もちろん、地下鉄線内はそれなりに運転されているだろうが。

 善場「お願いします。都営地下鉄は、線内でしたら運転されていますので、新橋の事務所からアクセス可能です」
 愛原「そうですね」

 新橋から都営浅草線で東日本橋。
 東日本橋駅から馬喰横山駅。
 この2つの駅は駅名こそ違うものの、隣接しており、地下道で繋がっている。
 つまり、雪に閉ざされた地上に出ずに、乗り換えが可能なわけである。
 乗り換え無しで行くのなら都営バスがあるが、やや時間が掛かる上に、地下鉄以上に今日はダイヤが乱れていることだろう。
 それなら、地下鉄で行くのが吉であると思われる。
 尚、全区間地下を走行する都営大江戸線のみ、大雪の影響などどこ吹く風で、通常ダイヤで運転しているという。
 ただ、他の路線から逃げて来た乗客達を受け入れたこともあり、混雑の激しさが増したことで、客扱い遅れは発生したようだが。

 愛原「具体的には、どんな話でしょう?」

 こんな混乱状態の中、わざわざ来るというのだから、さぞかし重要な話だと思われる。

 善場「リサのことですよ。本当なら、リサが学校に行っている間にお話しするべきだとは思うのですが」
 愛原「……何か、マズい話ですか?」
 善場「……朗報ではないですね。かといって、悲報というわけでも……。いや……どうでしょう。どちらかというと、悲報に近いかもしれませんね」

 何だか曖昧だ。
 少なくとも、朗報ではないと先にハッキリ言ったのだから、けして喜んで良い話ではないのだろう。

 愛原「リサに聞かせて大丈夫な話なんですか?」
 善場「本人のことですから、何も知らない状態にさせておくのも可愛そうだと思います。私がそうでしたから」
 愛原「んん?」
 善場「とにかく、午後にお時間の方、お願いします」
 愛原「わ、分かりました。お待ちしております」

 私は電話を切った。
 しばらくして、リサ達3人が事務所に戻って来た。

 高橋「戻りましたーっ!」
 リサ「だいたい終わったよ」
 愛原「あ、ああ、お疲れさん。外はどうだった?」

 言いながら、私も窓の外を見た。
 空が朝よりも明るくなっているような気がする。
 少なくとも、雪は降っていないようだ。
 天気予報では、午後から日が差してくるということだから、予報通りになるのかもしれない。

 高橋「案外、ガッツリ積もってましたね!まあ、一応、正面入口の雪はどかして、ガレージも、車1台分くらい通れる幅は確保しましたから」
 愛原「ああ、ありがとう。まあ、コーヒーでも飲んで、温まってよ」
 高橋「あざっす!」

 事務所にあるのは、ネスカフェバリスタ。
 1杯ずつ入れるタイプで、上のキッチンにもある。
 高橋とパールは厚手のジャンパーやコートを着込んでいたが、リサだけがジャージのままだった。
 学校の緑のジャージである。
 さすがに下はブルマ姿ではなく、ジャージのズボンを穿いていた。
 寒空の下、除雪を頑張ってくれた3人に私はコーヒーを入れた。

 高橋「ついでに三ツ目通りの方も見に行ったんスけど、ヤバいっスね」
 愛原「ヤバいか」
 高橋「新大橋通りの方もそうなんスけど、あっちこっちでスリップ事故ってたり、立ち往生したりして、もうカオスの状態です」
 愛原「そんなにか!じゃあ、物流とかも大変だな」
 パール「今日はスーパーもコンビニも、商品は品薄かもしれませんね」
 愛原「ホントになぁ……」
 リサ「え?じゃあ、お昼ご飯と夜ご飯はどうするの?明日の朝とか……」
 パール「お昼は先日スーパーで買って来た、アルミ容器の鍋焼きうどんにしようと思っています」
 リサ「おー、それはいい!温まりそう!」
 パール「夕飯は冷凍のハンバーグがありますので、それで何とかなりそうです」
 愛原「さすがだな。ありがたいね」
 パール「寮費のお支払いの為ですから、これくらい当然です」
 愛原「頼もしい。……それと、皆に1つ伝えておくことがある」
 高橋「今日は開店休業ってことっスね。暇つぶしなら、事務所の掃除でもやりますよ」
 愛原「その予定だったんだが、ちょっと変わった」
 高橋「え?と、言いますと……?」
 愛原「確かに、今日は殆どのクライアントから来所予約をキャンセルされた。しかし、逆に1件、来所予約が入った」
 高橋「えっ?こんなドカ雪の中っスか!?」
 愛原「そう。そして、その名も善場主任だ」
 高橋「善場のねーちゃん!?何で来るんスか!?新橋も、道路はカオスのはずですが!?」
 パール「ヘリコプターだったりして」
 リサ「高野のお姉ちゃんやレイチェルだったら、間違いないね」
 愛原「いや、普通に地下鉄で来るよ。地下鉄は動いてるからな」
 高橋「そ、そういえば……。しかし、それでも凄いっスね。どんな急用っスか?」
 愛原「詳しいことは、来られてから話すそうだ。だからまあ、善場主任の為に少しは掃除しておいた方がいいかもしれないな」
 高橋「分かりました。コーヒー飲んだら、ちょっと掃除します」
 愛原「中のことに関しては、俺も手伝うよ」

 先にリサのことをどれだけ話せば良いのか分からなかったので、今は黙ってておいた。
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