報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤絵恋の迎え」

2022-09-24 20:56:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月25日07:32.天候:晴 東京都港区浜松町 東京モノレール浜松町駅→羽田空港線0705列車先頭車内]

 東京駅から私達は、山手線で浜松町駅に移動した。
 そして、そこから東京モノレールの浜松町駅に移動する。
 目的は、沖縄から上京する絵恋さんを迎えに行く為。
 本当は東京駅から羽田空港まで直通するリムジンバスに乗れれば良かったのだが、コロナ禍とはいえ、何故か全便運休ときた。
 仕方が無いので、浜松町経由のモノレールにすることにした由。
 朝食は羽田空港に着いてから食べるということにした。

 高橋:「帰りに大井競馬場に寄って行くんスか?」
 愛原:「寄らないし、帰りは別ルートだよ」
 高橋:「あ、そうっスか……」

 朝のラッシュで、混雑する浜松町駅。
 上りもそうだが、羽田空港方面の下りも混雑する。
 この路線には快速も運転されているが、朝のラッシュは通勤輸送が優先されるのか、各駅停車しか運転されていない。
 浜松町駅は始発駅なので、やろうと思えば着席はできる。
 先頭車の座席の配置は変わっていて、前半分がクロスシート。
 後ろ半分がロングシート主体という感じになっている。
 更に前半分の窓側は1人用の座席。
 中央部分が運転室の方を向いて、尚且つ一段高い位置に2人席が並ぶというものだった。
 これは跨座式モノレールならではの構造なのだろう。

〔「前の方に続いて、順序良くお乗りください」〕

 せっかくなので、そのクロスシート部分に座らせてもらう。
 中央部分の2人席に私と高橋が座り、進行方向左側の1人席にリサを座らせた。

 愛原:「それじゃ、海に行くからな?」
 高橋:「は?え?海って……」
 愛原:「何だぁ?海に行く電車じゃないか?」
 高橋:「海って、京浜運河とかっスよね!?江の島とかじゃないんスか!?」
 愛原:「誰が江の島に行くって言った?」
 高橋:「ええ~……」

〔「お待たせ致しました。7時32分発、各駅停車の羽田空港第2ターミナル行き、まもなく発車致します」〕

 この時間帯は4分間隔。
 すぐに折り返すので、慌ただしい。
 鉄のレールではなく、コンクリートの軌道をゴムタイヤで走るモノレールは、独特の加速音を立てながら発車した。

 リサ:「わぁ……!」

 モノレールの最高速度は80キロ。
 これは国内のモノレールとしては、高速である。
 運河の上を軽やかに走る様は、まるで空を飛んでいるかのようである。
 夜は夜景がきれいなことで有名であり、それは“ゆりかもめ”も同じだが、歴史は当然こちらの方が古い。
 実際に、夜は一部車両の照明を消して、夜景を楽しんでもらうというようなことも行っていたという。
 リサはその車窓に釘付け。

 愛原:「どうだ?リサは海を楽しんでいるぞ?」
 高橋:「先生、こっちの“海”も楽しみましょうよ?」

 高橋は右手でパチンコのハンドルを回す仕草をした。

 愛原:「う、うむ……そうだな……」
 高橋:「新台、またマリンちゃんの萌え度が上がりましたよ?」
 愛原:「そ、そうか。まあ、個人的にはどちらかというと、ワリンの方がいいのだが……」
 高橋:「ほおほお。先生、渋いですねぇ……」
 リサ:「先生……!?」

 リサは私の方を向いて、瞳を金色に光らせた。
 マスクをしていなければ、牙も剝いただろう。

 愛原:「ぱ、パチンコの話だって!なぁ!?」
 高橋:「そ、そうだ!せ、先生の御趣味に文句付けんじゃねーよ!」
 リサ:「ふーん……?」

 リサはジト目でジロジロ私を見ていた。

 愛原:「せ、せっかくのいい景色なんだから、楽しんでくれよ!」
 高橋:「その通りだ!」
 愛原:「……“海”で思い出したんだが、最近、サム見かけなくね?」
 高橋:「そういえば見ませんね!?」

 サム、ついにリストラか?

[同日07:54.天候:晴 東京都大田区羽田空港 羽田空港第1ターミナル駅→羽田空港第1ターミナル]

 モノレールは1つ手前の新整備場駅から、地下トンネルに入ってしまった。
 そして、下車駅の第1ターミナル駅も地下にある。
 聞いた話、斉藤絵恋さんは那覇空港を朝一に出る飛行機に乗ったという。
 航空会社はスカイマークとのことで、それなら羽田空港の第1ターミナルに到着するわけである。
 なので、下車駅もここ。

 愛原:「さあ、着いた」
 高橋:「あのレズガキ、いつ到着するんスか?」
 愛原:「スカイマークの時刻表だと、9時40分だそうだ」
 高橋:「まだ時間たっぷりありますね?」
 愛原:「ああ。リサも腹を空かせてるし、朝飯でも食って時間を潰そう」
 リサ:「おー!」

 私達はスカイマークのカウンターがある、北ウィング方面に向かった。
 因みにこの方面のコンコースに向かうと、模型広場と言って、東京モノレールの鉄道模型が展示されているコーナーがある。
 モノレールの鉄道模型というだけでも珍しいのに、それが実際に動く所が見れるのはここだけではないだろうか?(尚、現在は動かないようである)

 愛原:「うーむ……これはレアものだ」
 高橋:「はあ……」

 私が垂涎の思いで見ていると、リサが私の手を引っ張った。

 リサ:「ねー、先生、お腹空いた」
 愛原:「おっと、そうだった。早いとこ、ターミナルに行こう」
 高橋:「おいおい、空気読めよ、オメェ……」
 愛原:「まあ、いいから」

[同日09:40.天候:晴 羽田空港第1ターミナル到着ロビー]

 ターミナル内で朝食を済ませたり、色々と歩いてみたりする。

 リサ:「高等部の修学旅行は3年生の春なんだって」
 愛原:「そうなのか。すると、栗原さんは行ったんだな」
 リサ:「うん。北海道だって」
 愛原:「北海道かぁ……」
 リサ:「本当は、海外に行くコースもあるんだって。コロナ前はシンガポールとか、昔は韓国にも行ってたんだってさ」
 愛原:「ほおほお……」

 しかし、日韓関係の冷え込みに伴い、東京中央学園は早々に韓国行きを取りやめるという英断を下している。
 代わりに台湾を行き先に変えたようだ。
 とはいうものの、アジアから外に出ることは無いらしい。
 リサの言う通り、コロナ前だとマレーシアやシンガポールが海外組の主な行き先だったという。
 で、現在は海外コースは休止。
 国内のみ、行われているという。
 その国内も沖縄行きがあったが、感染者数の増大に伴い、北海道に行き先が変更されている。
 来年、リサの代ではどうなるのだろうか。
 ただ、もし仮に海外コースが復活したとしても、リサにはパスポートが発給されない。
 その為、どうしても国内限定になってしまう。
 当初は飛行機に乗っても大丈夫かどうか懸念されたが、八丈島からの帰りに搭乗してみて、国内線なら大丈夫ということになった。

 愛原:「でもリサは、国内しか行けないよ?」
 リサ:「分かってるよ。でも、先生も来てくれるんならどこでもいいよ」
 愛原:「何で俺も?」
 リサ:「だって先生、PTA会長じゃない」
 愛原:「会長代行だよ。実際、栗原さん達の修学旅行には付いて行ってないんだから」

 今年の3年生の修学旅行には、副会長が同行した。
 表向きは、私が中等部の代替修学旅行を引率したから、今度は副会長が、というもの。
 そうなると、今度は私が会長代行として……ということになるのか?

 愛原:「えー……」
 高橋:「あ、先生。そろそろ到着するみたいですよ?」

 高橋は到着案内の電光表示板を指さした。

 愛原:「あ、ああ、そうか」
 高橋:「飛行機、欠航すりゃ良かったのに」
 愛原:「まあまあ」
 高橋:「もしくは、『臨時に名古屋空港に着陸します』なんて……」
 愛原:「それでも、後で羽田空港に向かうものだよ」

 私は肩を竦めた。
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“私立探偵 愛原学” 「夏休みの始まり」

2022-09-24 15:43:12 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月25日06:09.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅→都営新宿線509T電車先頭車内]

〔まもなく1番線に、京王線直通、各駅停車、橋本行きが、10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください。京王線内、区間急行となります〕

 リサ達の夏休みが始まり、私と高橋、リサは菊川駅にいた。
 とはいえ、私達がこれから旅行に出かけるわけではない。
 半分は仕事、もう半分はボランティアのようなものだ。

 高橋:「ふわぁ~あ……。先生、何でこんな朝早いんスか……」
 愛原:「しょうがないだろ。上野姉妹の出発が、この時間帯なんだから……」
 リサ:「あいつら……!」

 10両編成の電車がやってくる。
 京王線直通ながら、やってきたのは都営の車両だった。

〔1番線の電車は、京王線直通、各駅停車、橋本行きです。きくかわ~、菊川~〕

 まだ女性専用車両が実施されていない時間帯だったが、平日の月曜日ということもあり、既にそれなりの乗客が乗っていた。
 乗り込むと、私は吊り革に掴まる。
 長身の高橋は、ドアの上の高い吊り革にも易々と掴まれた。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 電車は駆け込み乗車の対応で、再開閉した後、ようやく発車した。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 上野姉妹は銀座線で神田駅までやってくる。
 そこで合流し、東京駅まで行って、彼女らが帰省する新幹線に乗る所を見送るまでが仕事。
 何でこんな面倒なことをというのは、母親の上野利恵が仮釈放されたことで、彼女らへのBSAAからの警戒度が高まったからである。
 それまでは研究施設に収容していたことが、却って人質状態にできており、それで上野姉妹をコントロールしていた気になっていたのだろう。
 しかし、デイライトの判断で仮釈放になったことで、BSAAはコントロールの手段を失ったと見たことで、上野姉妹に矛先を向けたということだ。
 リサと違って半分は人間の血が流れており、ちゃんとした戸籍も持っている為に、手荒な監視ができないという制約がある。
 デイライトとしても、ちゃんと委託の探偵業者に監視を委託しているという主張をBSAAにしたいが為に、私達が動員されたわけだ。

 愛原:「上野姉妹が新幹線に乗って出発したら、そこで業務終了だよ」
 高橋:「何か、デイライトとBSAAのマウント取り合戦に巻き込まれたみたいで、嫌な感じっスね」
 愛原:「まあ、そう言うな。これで報酬が貰えるんだから、美味しいもんだ」
 高橋:「はあ……」

[同日06:16.天候:晴 東京都千代田区神田岩本町 都営地下鉄岩本町駅→千代田区鍛冶町 JR神田駅]

〔「まもなく岩本町、岩本町。お出口は、右側です」〕

 電車が岩本町駅の上り本線ホームに滑り込む。
 ダイヤ改正で急行電車の本数が大幅に減らされたことで、この駅の中線ホームは殆ど使用されなくなってしまったという。

〔1番線の電車は、京王線直通、各駅停車、橋本行きです。いわもとちょう~、岩本町~、秋葉原〕

 この駅で電車を降りる。
 オフィス街にも程近く、また、秋葉原駅と神田駅にも徒歩圏内ということもあり、降車客は多かった。
 が、それでも他の都営地下鉄と交差していない為か、急行停車駅ではない。
 リサは私服を着ていた。
 白いTシャツに黒いスカートを穿き、頭にはピンク色のキャップを被っている。
 これで角は隠せそうだが、長耳は隠せないだろう。
 とはいえ、こんな夏場に長袖のパーカーを羽織るのは違和感があるか。
 因みにTシャツのシルクスクリーンは、高橋の趣味。

 愛原:「段々、暑くなってくるねぇ……」
 高橋:「海にでも行きますか?」
 リサ:「おー!海、行きたーい!」
 愛原:「まあ……海には行くだろうな」

 私はニヤッと笑った。

 高橋:「マジっスか!?」
 愛原:「ああ」

 『海水浴』とは、一言も言っていないw

[同日07:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東北新幹線ホーム]

 神田駅で上野姉妹と合流した。
 そこで私は、上野姉妹に東京駅から那須塩原駅までの新幹線のキップ(自由席)を購入する。
 本来なら帰省は彼女らの意思である為、彼女ら、またはその保護者が出すべきなのだが、ここでも背後関係の軋轢が絡んでしまっている。
 もちろん、この新幹線代は私のポケットマネーではない。
 あくまで費用を立て替えるだけで、後はデイライトさんに領収書を出して請求することになる。
 デイライトとしては、彼女らの交通費の面倒を看ることで、引き続き監視を行っているということにしたいのだ。
 そういうことであるのなら、本来なら、私達がずっと彼女らに付いている必要があるのだろう。
 しかし、さすがにそれは無理がある。
 そうなると、今度はリサの監視ができなくなるし、そもそもリサを上野利恵の住まいへ連れて行ったりしたら……という問題も発生する。
 上野姉妹にはGPSを持たせ、定期的な連絡をさせるということで、折衷案としたとのこと。
 で、東京側では私達が見送ることで、その責任を果たしたことにする、と……。

 神田駅で那須塩原までのキップを購入すると、乗車券は『東京山手線内→那須塩原』という表記がされる。
 これは山手線の全駅、並びに山手線の内側のJR駅なら全てそこで乗り降りが可能というものだ。
 当然、神田駅も含まれる。
 上野姉妹には、まずその乗車券だけ自動改札機に入れてもらう。
 そして、私達は手持ちのICカードで改札口を通過した。
 で、朝ラッシュの始まる直前の山手線に乗り込み、それで東京駅に向かった。
 東京駅からは、新幹線乗り換え口で上野姉妹は乗車券と特急券を。
 私達はICカードと入場券を使う。
 そのからくりを説明すると、所定の字数を大幅に超えてしまうので、今回は省かせて頂く。

〔21番線から、“なすの”251号、那須塩原行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 上野姉妹は1号車の自由席に乗り込んだ。
 因みに朝飯の駅弁も、買ってあげた。
 これはまあ、サービスにするか。
 多分、これは請求できないだろう。

 愛原:「よし、じゃあ次に行くぞ」
 高橋:「はいはい」

 ここから先は、完全なるボランティアとなる。
 次の行き先は……次回に続く!
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“私立探偵 愛原学” 「愛原の家族からの情報」

2022-09-24 12:49:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月16日14:09.天候:晴 東京都千代田区神田岩本町 都営地下鉄岩本町駅→都営新宿線1350T電車最後尾車内]

〔まもなく4番線に、各駅停車、本八幡行きが、10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 中央線を神田駅で降りた私達は、神田駅周辺のラーメン屋で昼食を取った。
 リサのヤツ、丼からはみ出るほどの大きなチャーシューが目立つチャーシュー麺を注文しやがったが、おかげで少しは機嫌が直ったようだ。
 上野姉妹とはそこで別れ、彼女達は地下鉄銀座線の神田駅、私達は都営新宿線の岩本町駅に向かった。

 愛原:「とにかく、上野姉妹の母親のことは、デイライトさんに任せる。俺達は、もうノータッチ。これでいいな?」
 高橋:「納得はできませんが、先生の御命令は絶対ですから」
 リサ:「先生の命令は絶対……」

 10両編成の都営車両がやってくる。
 地下鉄の電車が巻き上げる風で、リサの脱色された髪が靡いた。

〔4番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。いわもとちょう~、岩本町~〕

 1番後ろの電車に乗り込む。
 都営新宿線はワンマン運転されておらず、乗務員室には車掌がいた。

〔4番線、ドアが閉まります〕

 短い発車メロディが鳴った後で、電車のドアとホームドアが閉まる。
 ホームドアが無かった頃は、ホームの後ろの方で電車を待っていると、電車入線時の強風がモロに当たって凄かったものだ。
 発車合図のブザーが聞こえてくると、ブレーキのエアーが抜ける音がして、電車が走り出す。

〔次は馬喰横山、馬喰横山。都営浅草線、JR総武快速線はお乗り換えです。お出口は、左側です〕

 愛原:「ん?」

 その時、私のスマホにLINEの着信があった。
 善場主任からかと思い、急いでスマホを取り出す。

 愛原:「ありゃ?」

 ところが、違った。
 実家の母親からだった。
 どうやら今度の夏、いつ帰省するかを知りたいらしい。
 それと……。

 母親:「公一伯父さんが、学に何か話があるみたいだから、顔を出して来たら?」

 とのことだ。
 日本アンブレラに、それが悪用されることを知りながら自作の薬品を譲り渡した廉で警察に逮捕され、検察庁に送検されたものの、そこでは起訴猶予処分となり、釈放されている。
 日本アンブレラが悪用することを知りながら譲り渡したことは、伯父さんは否定していたし、確たる証拠を掴めなかったというのが大きい。
 また、年齢的なものもある。

 愛原:(伯父さんは今、どこに住んでるの?)

 と、私は母親に質問した。
 小牛田の家は爆破して全壊した為、もうそこに住むことはできない。
 かといって、実家に引き取ったわけではないようだ。
 すると、母親は……。

 母親:「伯母さんの所」

 と、答えた。

 愛原:「え……?」

 私は首を傾げた。
 公一伯父さんは、だいぶ昔に伯母さんと離婚している。
 その伯母さんも実家に帰ってしまっているが、そこに転がり込んだということなのだろうか?
 だとしたら……。

 愛原:「長旅になりそうだ」
 高橋:「え?何スか?」
 愛原:「いや、何でもない」

[7月19日11:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 3連休明けの最初の平日、善場主任が私の事務所を訪ねて来た。
 上野利恵に関することで、現況と今後のことについての注意事項を申し伝えに来たようだ。
 まあ、予想通りだった。
 栃木の宗教法人天長会が身元引受人となっていて、今はそこでおとなしくしていること、今後はリサの気持ちもあるが、デイライトの監視下に置かれるので、手出しは無用ということだった。

 愛原:「もちろんです。リサにも、それは伝えてあります」
 善場:「御理解が早く、助かります」
 愛原:「それと、こちらからも気になることがあるのですが……」
 善場:「何でしょう?」
 愛原:「私の伯父……愛原公一のことなんですが……」
 善場:「検察で起訴猶予になりましたね。さすがに、ムリがありましたか……」
 愛原:「伯父さんの農薬が、直接バイオテロに繋がったわけじゃないですからね」

 農薬というか、化学肥料か。
 どんな枯れた苗でも、それを使えば立ちどころに元気になるという……。
 日本アンブレラはそれを高額で買い取り、自分とこの薬品と掛け合わせて、とんでもない薬を造ろうとした。
 恐らく、日本で言えばうちのリサ、外国で言えばエブリンを造れるものだったのだろう。
 手始めに、東京中央学園上野高校で自殺し、その後、“トイレの花子さん”として化けて出た女子生徒を、遺骨の状態から蘇生させるという暴挙に出た。
 白井伝三郎は、その蘇生した女子生徒の肉体を乗っ取り、どこかで生きているのだという。
 アンブレラの最終目的は、不老不死と死んだ人間の蘇生。

 善場:「その、愛原公一氏がどうかしましたか?」
 愛原:「私に話したいことがあるそうです。何でも、その話は日本アンブレラにもしなかった話だそうで……」
 善場:「宮城の住居跡の地下からは、BSAAが資料や薬剤などを押収していきました。それの事でしょうか?」
 愛原:「……かもしれません」
 善場:「あの中にも、日本アンブレラが明らかに悪用目的で公一氏に近づき、公一氏もそれを知りつつ、自作の化学肥料を譲り渡した証拠がありました。それで裁判に持って行けると思ったのですが、残念でした」

 警察は逮捕できても、伯父さんの薬品が直接バイオテロに使われたという証拠が無い以上、それ以上の罪には問えないというわけだ。
 結局分かったのは、伯父さんの薬がバイオテロに使われたのではなく、白井伝三郎の復活というか、まあ、逃亡に使われたというか……それくらいしか影響が無かったことだ。
 だからまあ、犯人の逃走を手助けした罪……になるのかどうかは不明だが、やっぱりそんな不確かな状態では、検察も裁判で有罪に持ち込める自信は無かったようだ。
 それで、起訴猶予と。

 愛原:「まあ、伯父さんも歳ですからねぇ……」

 とある上級国民のように、車で直接轢き殺しているのなら、是非とも刑務所へといったところだが、伯父さんの場合、違うからなぁ……。
 伯父さんの薬品が直接バイオテロに使われたわけでも、バイオテロの材料に使われたわけでもない。
 白井伝三郎の野望の肥やしになっただけ。
 そしてその本人は、自分自身の欲望に忠実であるが、それが直接殺戮に繋がっているわけではないと。
 これで伯父さんが知らなければ、伯父さん自身も研究成果を騙し取られて悪用された被害者ってことにできたのだが、知っていて渡したという証拠を掴まれてしまったからなぁ……。
 例え起訴猶予となっても前歴は付くし、逮捕歴も残るから、そういった社会的制裁でイーブンといったところだろうか。

 愛原:「リサの夏休みの時期、斉藤絵恋さんも上京してきますし、ちょうど帰省旅行がてら、伯父さんに会いに行って話を聞こうと思うんです」
 善場:「そんなに大勢で行って、大丈夫なのですか?」
 愛原:「大丈夫です。伯父さんが転がり込んでいる伯母さんの実家とは、民宿のことですから」
 善場:「それは何ともまあ、都合の良い……」

 雲羽:「それが、“ノベラーエクスプレス関東”ですw」
 多摩:「普段の生活が、そんなに都合が良くないからって、オマエ……」
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