報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサのバイト」 2

2022-09-10 20:22:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日17:15.天候:曇 新潟県新潟市中央区 新潟港国際旅客ターミナル]

 ホテルの会議室で打ち合わせをした後、私達は車に乗って新潟西港へ向かった。
 車には善場主任だけでなく、主任の部下も乗っていて、運転手役を務めている。
 車は黒の高級ミニバン。
 新潟ナンバーで、しかもレンタカーではない。
 どうやら、デイライトは新潟にも事務所を持っていて、そこから拝借した車のようだ。

 愛原:「んん?」

 新潟西港の中央埠頭は、誰でも出入りできるわけではない。
 国際旅客ターミナルへ続く道の入口から先は、港湾道路に指定されており、一般車の進入は禁止となっている。
 私が首を傾げたのは、実は事前にグーグルマップのストリートビューで、その様子を確認していた。
 ストリートビューでは『一般車進入禁止』という看板が出ているだけだったのが、今は目の前にゲートが設置されていた。
 ただ、急ごしらえのゲートなのだろう。
 見た目は、飲酒検問のあれをもっと厳重にした感じ。
 2車線ある道路を、バリケードでわざと1車線に狭めている。
 ゲートの入口まで行くと、警察官が近づいて来た。
 運転手役の善場主任の部下は、運転席の窓を開けて……。

 運転手:「デイライトの者です」

 部下の人はダッシュボードに掲げた許可証と、自分の身分証を見せた。
 今気づいたのだが、デイライトの職員証は縦2つ折りの警察手帳に似ている。
 それを見る限り、やはりこの人達はどこかの国家公務員なのだろうと推察できる。
 で、さすがに私もそろそろ気づいている。
 多分、この人達、JCIAとか内閣調査室辺りから出向しているのではないかと。
 その中でも、特にバイオテロに特化した組織として、隠れ蓑のNPO法人デイライトが立ち上げられているのではないかと。

 警察官:「お疲れ様です」

 警察官は身分証を確認したり、提出された書類を確認した。
 かなり、厳重な警備だ。

 警察官:「デイライト関係者2名、他協力業者3名……」

 私達も身分証の提示を求められた。
 といっても、社員証などは無く、私と高橋は免許証。
 リサは学校の学生証を提示するしかなかった。
 そうして、ようやくゲートの中へと入れる。

 愛原:「なかなか、警戒が厳重ですね」
 善場:「普段使われていない国際線旅客ターミナルを急きょ使うことになりましたからね。昔、北朝鮮からの船が出入りしていた頃もゲートがあったんですよ」
 愛原:「へえ!」

 まあ、北朝鮮の船はしょうがないかな。
 ヘタすりゃ工作員輸送船だったもんな。
 で、今回はロシアからの船だが、ロシアもロシアで信用できない、と……。
 しばらく進むと、またゲートがある。
 しかし、そこは警察官や警備員がいただけで、スルーできた。
 恐らくそのゲートが、かつて北朝鮮の船が出入りしていた時に使われていたものなのだろう。

 愛原:「はー……」

 私が感嘆したのは、ターミナルの外も広く使われていたからだ。
 警察関係者の車が止まっているだけでなく、許可されたマスコミの車もあったし、恐らく帰国した乗客達を乗せる為のものと思われる観光バスも到着していた。
 そして、テントがいくつか建っていて、臨時の検疫所であるようだった。

 高橋:「まるでコロナ第一波の時、バイオハザードが起きた豪華客船の港みたいですね」
 愛原:「! そうか!あの光景だ!」

 ダイヤモンドプリンセス号が到着した港の光景に似ている。
 もちろん、バイオハザードといっても、蔓延したのは新型コロナウィルスであって、ゾンビウィルスではない。
 しかし、今回は……ヘタすると……いや、やめておこう。
 まだ、確信が持てない。

 善場:「では、打ち合わせの通りにお願いします」
 愛原:「分かりました」

 既に船は湾内に入っている。
 埠頭に接岸するのは、時間の問題だ。

 善場:「……えっ、何ですって!?」

 善場主任が現場の関係者に話し掛けた時だった。
 主任の顔色が変わった。

 愛原:「何かあったんですか?」
 善場:「どうやら、予定を変更しなければならなくなったようです」
 愛原:「と、言いますと?」
 善場:「既に症状が出ている乗客が散見されるとのことです」
 愛原:「は?はぁーっ!?」
 高橋:「もうゾンビになってんのか!?」
 善場:「それはまだ分かりません。もしかしたら、コロナの症状かもしれないのです。結局、ゾンビウィルスの初期症状は似ていますから」

 高熱が出るという症状だけじゃなかったか?
 あとは、全身が腐っていくので、強い痒みが発生したりする。
 『腕(胸)の腫れ物、掻き毟ったら、肉が腐り落ちた』という感染者が書いた日記のフレーズは有名だ。

 善場:「症状のある乗客は、船内の客室に隔離しているそうです」
 愛原:「主任、もしかして、ロシア側が飛行機じゃなくて、船にしたのは……」
 善場:「これが理由なのかもしれませんね。飛行機よりも船の方が隔離しやすいですから」
 高橋:「それじゃ、俺達の出番無いのか?」
 善場:「ちょっと待っててもらえますか?全員が症状があるわけではないそうなので、そういう乗客は降ろして検疫を受けさせるのかもしれません」
 愛原:「コロナウィルスもそうですが、ゾンビウィルスでも感染無症状という場合がありますからね」

 ただ、両者で違うのは、後者の場合、その理由はちゃんとした抗体を持っているからである。
 私がそうらしい。
 高橋は元感染者だったが、霧生市で手に入れた抗ウィルス剤、その後にワクチンを投与して事なき得ている。
 前者の場合は、ただ単に無症状なだけ。
 抗体があってウィルスを倒しているわけではない。
 船内の感染者が新型コロナウィルスのそれなのか、あるいはゾンビウィルスのそれなのかで対応が変わって来る。
 因みに、両方というのは考えられないらしい。
 ゾンビウィルスの方が強く、コロナウィルスをも食べてしまうらしい。
 なので、コロナ感染者がいれば、ゾンビウィルス感染者はいないということになる。

 愛原:「あっ、乗ってったな」

 船が着岸すると、防護服を着た関係者がぞろぞろと船内に入っていった。

 リサ:「ん?」

 その時、リサのスマホに着信があった。

 リサ:「ヨンヒからだ」
 善場:「!」
 リサ:「もしもし?どうした、ヨンヒ?……うん、いま新潟。これから、バイト。……うん、そうだけど……」

 段々リサの顔も強張ってきている。

 ヨンヒ:「これからロシアの船を韓国BSAAが拿捕するから、離れてて」
 リサ:「いや、ここ日本だよ!?」

 その時、船内から銃声が聞こえてきた。

 愛原:「!?」
 高橋:「せ、先生!?」
 愛原:「どうやら、ゾンビウィルスだったようだな……」

 更に上空からはヘリコプターの音。
 空がどんよりと曇っているせいでよく分からないが、恐らくBSAAのヘリだろう。
 船首甲板にあると思われるヘリポートに着陸したかと思うと、そこからBSAAの軍服を着た軍人達が突入していった。

 愛原:「……俺達の出番、無くね?」
 高橋:「……多分、無いっスね」
 愛原:「……帰ろっか?」
 高橋:「帰りますか」
 善場:「いや、ちょっと待ってください!まだ、出番はあります!」
 
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“私立探偵 愛原学” 「新潟に到着」

2022-09-10 15:45:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日14:47.天候:晴 新潟県新潟市中央区 JR新潟駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、新潟です。信越線、白新線、越後線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私達を乗せた新幹線は、順調に新潟市内を走行していた。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、新潟、新潟です。到着ホームは11番線。お出口は左右、両側が開きます。お乗り換えのご案内を致します。信越線上り、普通列車の長岡行きは、2番線から15時8分。越後線上り、普通列車の内野行きは、4番線から14時58分。白新線下り、特急“いなほ”7号、秋田行きは、5番線から14時57分です。進行方向右側、のりかえホームよりお降り頂き、ホーム西改札またはホーム東改札をご利用頂くと、すぐにお乗り換えでき、大変御便利です。……」〕

 新幹線ホームが両側にある駅は、新潟駅だけだそうだ。
 在来線に乗り換えない客は、左側の11番線ホームに降りることになる。

 愛原:「さ、降りるぞー」
 高橋:「ういっス」
 リサ:「ういっス」

 列車はグングンと速度を落として行く。
 私達は荷棚に乗せた荷物を下ろした。

〔「ご乗車ありがとうございました。新潟ぁ、新潟です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください」〕

 そして列車は、新潟駅・新幹線ホームに到着する。
 上越新幹線の終点駅ということもあり、通過線は無い。
 確かに、在来線ホーム側を見ると、特急列車が見えた。
 白新線を経由して、羽越本線を走る特急である。
 あの特急に乗り換えるのなら、確かに在来線側のホームから降りると良いだろう。
 もちろん、あの特急でなくても、その5番線ホームを介して他の在来線ホームに乗り換えることも可能。
 但し、直接改札外に出られるわけではないので、私達のように在来線に乗り換えない客は、素直に新幹線ホームに降りるべし。

 高橋:「で、先生、ここからどうするんスか?」
 愛原:「先にホテルにチェックインして、荷物を置いて来るようにってさ。あとは善場主任達が迎えに来るんだ」
 高橋:「マジですか」
 リサ:「ホテルはここから近いの?」
 愛原:「もう、すぐ駅前だよ」
 高橋:「そりゃ便利っスね」

 新幹線改札口を出た私達は、一旦ホテルへ向かった。

[同日15:00.天候:晴 同区内 ホテル東横イン新潟駅前]

 リサ:「おー!すっごいホテル!」

 一応、新潟駅の万代口には、そのランドマークの如く、高層ホテルが聳え立っている。

 高橋:「っつっても、東横インじゃ、たかが知れてるぜ?」
 愛原:「スマン、予算が……」
 高橋:「え、でも、交通費や宿泊費は姉ちゃんとこ持ちじゃ?」
 愛原:「そうなんだけと、立替払いだから」

 まずは私の事務所の経費で精算し、それから領収書を報告書と共にデイライトに提出して、報酬と一緒にもらう契約である。
 もちろん、デイライトを含めて、クライアントさんの方で先に手配してくれる場合もある。

 愛原:「まあ、東横インのカードなら持ってて、会員価格で泊まれるから」
 高橋:「はあ……」

 ただ、さすがに駅前のランドマークということもあり、その麓の商業施設と新潟駅が2階部分で繋がっている為、雨が降っても傘要らずで向かうことができる。

 愛原:「あー、もしもし。愛原です」

 私はホテルに向かいながら、善場主任に電話した。

 愛原:「今、新潟駅に着きました。これから予定通り、ホテルに向かっています」
 善場:「お疲れさまです。そしたらですね、まずはチェックインなさって、荷物を置いてください。15時半になりましたら、ホテルの会議室まで来てください」
 愛原:「ホテルの会議室ですか?」
 善場:「はい。そこで、事前の打ち合わせを行います」
 愛原:「分かりました」

 商業施設の2階に入ると、エスカレーターで4階に向かう。
 そこにホテルの入口がある。
 こういう導線、一部のシティホテルにはあるな。
 ロビーやフロントの雰囲気は、他の東横イン店舗と大差無い。
 私は自分の会員カードをフロントに提示した。

 愛原:「本日から大人3名で予約している愛原と申しますが……」
 フロント係:「はい、愛原様でございますね」

 私は宿泊者カードに記入した。

 フロント係:「御記入ありがとうございます。それでは喫煙のツインが1部屋と、シングルが1部屋になります」
 リサ:「え?」

 鍵を手に、エレベーターに向かう。
 また、ナイトウェアなどはロビーにあるので、それも一応持って行った。

 愛原:「結構、上の部屋だな。良かったな。眺めがいいぞ」

 エレベーターに乗って、上階に向かうが、リサは何故か不機嫌そうだった。

 愛原:「どうした、リサ?」
 リサ:「部屋、別なの?」
 愛原:「しょうがないだろ。このホテル、シングル、ダブル、ツインしか無いんだから」

 ホテルによっては、ツインであっても、エキストラベッドを置いてトリプルにすることもできるらしいが、このホテルではそれができない。

 愛原:「それに、仮にもJKのオマエと俺達が一緒の部屋ってのは……」
 リサ:「『家族』なんだからいいじゃない」
 愛原:「まあ、観光旅行とかだったらそれでもいいんだがな。今回は仕事だから」
 高橋:「おい、仕事でゼータク言ってんじゃねーよ」
 愛原:「はーい……」

 部屋は別だが、フロアは一緒。

 愛原:「15時半になったら、ロビー階に行くぞ。あそこには会議室があって、そこで善場主任と打ち合わせするから」
 高橋:「分かりました」
 リサ:「分かった」

 というわけで、まずは部屋に入る。
 比較的新しい店舗ではカードキーの所もあるが、このホテルはそうではない為か、普通の鍵だった。
 但し、オートロックではある。

 高橋:「先生、お茶をお入れします!」
 愛原:「ああ。ありがとう。オマエは煙草を吸うから、デスク側な。俺は窓側で」
 高橋:「了解っス!」

 ライティングデスクの上に、灰皿が置かれているので。
 高橋はステンレス製の小さなポットに水を入れ、湯沸かしサーバーでお湯を沸かした。
 これも店舗の新旧によっては、電気ケトルになっている場合もある。

 高橋:「船はいつごろ着くんスかね?」
 愛原:「夕方らしいな。昔、ウラジオストクと新潟の間には国際航路があって、それが今日だけ限定復活するという形らしい」
 高橋:「覚えてますよ。西港の中央埠頭から出てるんスよね」
 愛原:「お、さすがは地元民だな。佐渡汽船もそこから?」
 高橋:「いえ、佐渡汽船はまた別です。同じ西港ではあるんスけど……」
 愛原:「埠頭が別ってことか。まあ、空港も国内線と国際線じゃ別だから、当たり前か」

 厳密にはウラジオストク~新潟間の国際航路は休止という扱いであり、正式な廃止というわけではないらしい。
 新潟~元山の万景峰号もだ。
 私は高橋に入れてもらったお茶を飲みながら、善場主任にもらった資料を確認した。
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