報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「高橋の思い出」

2022-09-13 20:00:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月26日11:00.天候:晴 新潟県新潟市東区新松崎 スーパー銭湯極楽湯松崎店]

 私達はスーパー銭湯で汗を流していた。

 高橋:「それでは不肖、この高橋正義が、先生の御背中を流して差し上げ奉り候~也~ッ!」
 愛原:「だから、そのノリやめろっつってんだろ」

 私は苦笑いしつつも、高橋に背中を流してもらう。

 男性客:「高橋正義……?」
 愛原:「ん?」

 私の隣の洗い場にいた若い男が、高橋の名前を呟いたような気がした。
 そして、いそいそと脱衣場に向かって行った。

 愛原:「気のせいか……?」
 高橋:「何がっスか?」
 愛原:「いや……」

 高橋に背中を流してもらった後は、自分で体を洗う。
 それから、露天風呂に行くのは定番。

 高橋:「先生、洞窟風呂がありますよ」
 愛原:「ハハハ。入口がドラクエの洞窟みたいだな」
 高橋:「入ったらモンスターとエンカウントしますかね?」
 愛原:「したところで、オマエがいたら、ドラクエじゃなくて、バイオハザードだけどな」
 高橋:「さすがに風呂にまでマグナムは持ってきてませんよ。もっとも、下半身のマグn……」
 愛原:「それ以上言うなぁっ!」
 高橋:「あ、でも、先生のロケランには叶いません」
 愛原:「誰がロケランだ!」
 高橋:「先生のロケランなら、きっとリサも倒せますよ」
 愛原:「リサみたいなこと言うなァ……」

 だが、恐らく露天風呂の男湯と女湯は仕切り壁1つで隔たれているのだろう。
 何か、隣の女湯からキャーキャー女性の悲鳴が聞こえるような気がする。

 愛原:「な、なあ?何か、隣の女湯、騒がしくないか?」
 高橋:「ったく。女はすぐキャーキャー騒いでうるさいっスね」
 愛原:「まさか、痴漢でも出たんじゃ?」
 高橋:「いや、まさか……。仮にそうだとしても、心配無いですよ」
 愛原:「どうして?」
 高橋:「向こうにはリサがいるじゃないスか。痴漢の1人、2人出たところで、リサが軽~くあの世に送ってくれますよ」
 愛原:「撃退する分にはいいが、あの世にまで送る必要は無いと思うがな」

 風呂から出たところで、女湯が騒がしかった理由が明らかになる。

 愛原:「え、何だって!?洞窟風呂に入ってたら、騒がれた!?」
 リサ:「そーなの!失礼しちゃう!」

 基本的に男湯と女湯の構造は変わらない。
 男湯にある洞窟風呂が女湯にもあるのだが、そこに入ったリサがリラックスしていたら、第1形態に戻ってしまったらしく、そこへ後から入って来た別の女性客が、『化け物が出た!』と言って騒いだらしい。

 リサ:「ちょーっと角が生えて、耳が尖って、牙と爪が尖っただけじゃない!」
 高橋:「バカ!それを人間は『化け物』っつーんだ!」
 スタッフ:「困りますね。他のお客様を驚かせるのは……」
 愛原:「ど、どうもすいません……」

 ちょっと角が生えて、耳が尖って、牙と爪が長く伸びただけなら、まだ誤魔化せる。

 愛原:「マスクは処分しておきましたので……」
 スタッフ:「そういう物の持ち込みは困ります」
 愛原:「あ、はい。それはもう……」

 リサが鬼のマスクを持ち込んで、他の客を驚かせたということにしておいた。
 取りあえず今回は、厳重注意だけで済んだ。

 愛原:「気を取り直して、マッサージでも受けるか」
 リサ:「先生……!他の女にマッサージされるの?」

 リサ、ジト目で私を見る。
 せっかくまた第0形態(普段から変身している人間の姿)になったというのに、また牙を覗かせた。

 愛原:「いや、大丈夫だよ。ちゃんと男性スタッフにやってもら……はっ!?」
 高橋:「先生……!他の男にマッサージされる気ですか?俺という者がありながら……!」

 高橋もまたジト目で私を見てくる。

 愛原:「マジか……!」

 仕方が無いので、マッサージチェアを使うことにした。

 愛原:「機械なら文句無ェだろ、あぁッ!?文句は言わせねーからなっ、あぁッ!?」
 高橋:「は、はい……」
 リサ:「は、はい……」

 ついでに3人一緒に使う。

 愛原:「うー、そこそこ……!」
 高橋:「先生、後で俺がボディケアしてあげますからね!」
 リサ:「わたしは足ツボ!」
 愛原:「あー、そー。それは楽しみだ……」

 もうすぐマッサージチェアの使用時間も終わろうという時、バタバタと若い男達がやってきた。

 愛原:「な、何だ何だ!?」
 高橋:「チッ、いやがったのか……」

 男達は私達を取り囲むように整列すると……。

 ヤンキーA:「ボス!お久しぶりです!」
 ヤンキーB:「お久しぶりです!」

 明らかにガラの悪い、普通なら入館を断られるであろうタトゥを入れまくっている男達が現れた。
 ヤクザではなく、明らかに半グレである。

 ヤンキーC:「『下越の総長』の御帰りですね!」
 愛原:「お、おい、高橋。これはどういうことだ?オマエ、暴走族やめたんだよな?」
 高橋:「そうです」
 ヤンキーA:「おい、コラ、オッサン!ボスを呼び捨てかぁ、ゴルァッ!!」

 いきなり1人が私の胸倉を掴んで来た。
 駆け付けた男達の中では、1番体が大きい。
 鼻ピアスにチェーンを着けている。

 高橋:「てめェ、コラ!先生に何すんだぁっ!!」
 ヤンキーA:「ええっ!?」

 高橋、ヤンキーAを私から引き離すと、そいつに向かって腹パンチを食らわせた。

 ヤンキーA:「ごぶっ……!ぐ、ぐお……っ!」

 ヤンキーA、両目を見開いて、高橋にパンチされた腹を押さえながら、前のめりに倒れた。
 高橋は1発しかパンチをしていないのに、確実に仕留めるとは……。

 高橋:「ここにいる愛原先生は俺の恩人だ!ちょっとでも無礼なことをしやがった奴はブッ殺す!!」
 ヤンキーB:「は、はい!!」
 ヤンキーC:「承知しました!!」
 高橋:「先生、大丈夫ですか?お怪我は!?」
 愛原:「いや、大丈夫だ」
 高橋:「どうもすいませんでした!後でこのバカ、東港に沈めておきますんで!」
 愛原:「い、いや、いいよ。次から気をつけてくれれば……。そ、それより、早くここを出よう……」
 高橋:「ど、どうしてですか?」
 愛原:「今、スタッフが警察に通報してるとこ」
 高橋:「はぁーっ!?」

 もうこいつら連れて、温泉行くのやめようかな……。
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“私立探偵 愛原学” 「愛原の思い出」

2022-09-13 14:50:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月26日08:00.天候:晴 新潟県新潟市中央区 ホテル東横イン新潟駅前4Fロビー]

 私達はロビーに行き、そこの朝食会場に向かった。

 愛原:「よし。席も確保したし、取りに行くか」
 高橋:「うっス!」
 リサ:「うっス!」
 愛原:「リサ、あまり取り過ぎないように。タダ飯なんだからな」
 リサ:「えー……」
 高橋:「つっても、料金の中に入ってるんスよね?」
 愛原:「そうだけど、やっぱり取り過ぎはちょっと……と思うよ」
 高橋:「そりゃ残したらアウトでしょうけどね、コイツはガチで全部食いますからね」
 愛原:「ツッコミ所が分かりにくい分、尚更タチが悪いような気がする」

 ホテルの朝食はバイキング形式。
 昔の東横インの朝食はおにぎりと漬物、味噌汁くらいしか無かったが、今ではだいぶおかずの種類も増えている。
 周辺に似たようなサービスのホテルがいくつもあるので、それに対抗せざるを得ないようである。
 それでもやっぱりリサは、私達よりも多めに料理を盛った。
 まあ、あまり制限させて不機嫌にさせたら、それはそれで問題だ。
 因みに飲み物は、ドリンクバー。
 更には、朝刊無料サービスがあるので、それも持って来る。
 地元の地方紙である。
 一面記事トップで、昨夜のバイオハザード事件を報道していた。
 一面記事の写真は、新聞社のヘリコプターが上空から船を撮影した映像。
 船が火災を起こしている写真であり、船首甲板などを見ると、BSAAが船内に出入りしているのが写っていた。
 別の面を見ると、港湾に待機していた新聞社が地上から撮影した写真もあり……。

 愛原:「おっ、リサが写ってるぞ?」
 リサ:「ええっ!?」

 写真は一面記事と違って白黒であったが、『関係者により救出された乗客』というタイトルが付いていた。
 リサが船内から、ゾンビ化していない感染者を船から出した時に撮影したようだ。
 尚、Tウィルスの場合、ゾンビ化していなくても、感染者から感染させられることは多々ある。
 新型コロナウィルスで、無症状であっても、感染者から感染するのと同じだ。
 しかし、Tウィルスの場合、感染経路は狂犬病と同じである。
 感染者に噛み付かれたり、引っ掻かれたりしたら感染する。
 なのでリサの行為は、本来は危険極まりないものである。
 だが、体内に既にTウィルスとGウィルスを同居させているBOW(生物兵器)が、今さら他人から移されるわけがない。
 善場主任の言う通り、非感染者や感染無症状・初期症状者を運び出すのに、リサは打ってつけだったのである。
 尚、写真のリサはフードを深く被り、マスクもしていたので、素顔は殆ど分からないようになっている。

 リサ:「もっと可愛く撮って欲しかったなー……」
 愛原:「いや、そういう写真じゃないから」
 高橋:「結局、船内でバイオハザードが起こった理由、分かったんスかね?まあ、絶対ワザとばら撒いたんだと思いますけど……」
 愛原:「今、テレビで言ってるぞ?」

 私はロビーに設置されているテレビを指さした。

〔「……船はかつて、ロシア海軍が兵員輸送船として使用していたものを民間に払い下げたもので、関連について調べを進めています」〕

 兵員輸送船は、元々民間で運航されていた客船を徴用することがあったが、その逆もあったということか。
 軍艦なら、色々と船内に仕掛けとかできただろうなぁ……。

 高橋:「マジで怪しいっスね」
 愛原:「場合によっちゃ、モスクワ辺りにBSAAが突入することになるだろうよ。……あ、いや、もしかしたら“青いアンブレラ”かテラセイブか……」
 高橋:「それより先生、バスの方なんですが……」
 愛原:「どうだった?」
 高橋:「木工団地に行くバスは、1時間に1本です」
 愛原:「少ないな。まあ、工場団地に行くバスが、日曜日にバンバン運転されてるわけがないか……。で、時間は?」
 高橋:「9時22分と10時27分です」
 愛原:「それじゃ、9時22分発に乗るか。ここからだと、どのくらい掛かるんだ?」
 高橋:「およそ30分ほどです」
 愛原:「30分くらいか。で、Suicaは使えるんだったな?」
 高橋:「そうです」
 愛原:「分かった。ありがとう」
 高橋:「いえいえ……」
 リサ:「お兄ちゃん、照れてる」
 高橋:「うるせっ」

[同日10:00.天候:晴 新潟市東区木工新町]

 ホテルをチェックアウトした私達は、そのまま新潟駅前のバス乗り場に向かった。
 10番乗り場から、件のバスは出ている。
 地元のバス会社、新潟交通バスはシルバーの車体が特徴的だ。
 運送会社の新潟運輸も、似たような色合いである。
 これは、新潟県は豪雪地帯である為、冬は雪や融雪剤で車体が汚れやすい。
 そこで、車体の汚れが目立ちにくい塗装にしたのではないかと高橋は言った。
 言い得て妙である。
 そのバスに乗り込んで、30分以上。
 日曜日に郊外の工場団地に行く客は少なく、数えるほどの乗客しか乗らなかった。
 私達は1番後ろの席に座って、のんびり目的地を目指していた。

 高橋:「あれ?先生……」
 愛原:「どうした?」

 目的地のスーパー銭湯が、進行方向右手に見えてくる。

 高橋:「あれですか?極楽湯ですよ!?」
 愛原:「ええっ!?」

 私が20年ほど前、本社の研修で泊まり込んでいた時、たまに訪れていたスーパー銭湯。
 当時は極楽湯ではなかった。
 だが、私の記憶が正しければその地にあるはずのスーパー銭湯は、極楽湯であった。

 愛原:「本当だ……」
 高橋:「変わったんスかね?」
 愛原:「そうかも……」

 極楽湯の最寄りバス停である『松崎大橋』を過ぎる。

〔次は海老ヶ瀬木工団地、海老ヶ瀬木工団地……〕

 愛原:「ん?ここか?」
 リサ:「はい!」

 リサは降車ボタンを押した。

〔「はい、海老ヶ瀬木工団地、止まりまーす」〕

 そして、バスは大通りの上にあるバス停に停車した。

 愛原:「ここがバス停なのか?」

 しかし、景色自体は見覚えがある。
 その為、私達はここでバスを降りた。

 高橋:「この辺りが、先生が昔働いていた場所っスか?」
 愛原:「そう、のようだな……。昔は団地内にポツンとバス停が立っていて、そこが起点だったんだが、今は木工団地が起終点というわけではないんだな。しかも、微妙にバス停の名前が変わってるし」

 私の記憶が確かなら、『海老ヶ瀬』という文字は付いていなかったはずだ。

 高橋:「そうなんですか」

 バス通り沿道はだいぶ変わった。
 昔は自動車ディーラーだの、マンションだのは無かったと思う。
 ただ、道の構造自体が変わっているわけではないので、何とか記憶の糸を手繰り寄せられるくらいはできた。

 愛原:「一応、こっちだな」

 私はバス通りから道を1本入った。
 木工団地の中である。
 私が昔働いていた運送会社は、ここの工場団地で出来上がった製品を運ぶ仕事をしていた。
 果たして、今でもあるのかどうか……。

 愛原:「あー、やっぱり無いや」
 高橋:「無いですか?」

 私の記憶が確かなら、この辺りにあったであろう運送会社の本社に行ってみた。
 確かにそこに運送会社はあったのだが、名前が違った。
 運んでいる物の都合上、この運送会社も日曜日は休みのようで、全く人の出入りが無い。
 しかし、駐車されているトラックを見ても、見覚えのある塗装ではなかった。

 愛原:「どうやら潰れたらしい。何しろ、同族経営の中小企業だったからな」

 同族経営程度なら、作者の所属している警備会社同様そこそこの大企業でも見受けられるが、何しろ給料も安いブラック企業だったからな。
 リーマンショックとか、東日本大震災、現在進行形ではコロナ禍で経営が傾いたのかもしれない。

 高橋:「そうですか。でも、同じ場所に別の運送会社はあるんですね」
 愛原:「居抜きで入ったのかもしれないな」

 運送会社の名前は関東ではあまり聞かないが、高橋によると、新潟ではそこそこ名前の知られた会社であるという。
 私がいた会社よりも規模は大きそうだし、もしかしたら、資本を買い取られて吸収なんてことも有り得る。

 愛原:「ま、そういうことだ。暑いし、さっさと風呂入りに行こう」
 高橋:「はい、そうですね」
 リサ:「先生、トラック動かしてみて?」
 愛原:「勝手に動かせねーよ」
 リサ:「えー……」
 高橋:「…………」

 何故か高橋は、休業中の運送会社の方を見て訝し気な顔をしていた。

 愛原:「どうした、高橋?」
 高橋:「いえ、何でもありません」

 ……高橋は、『いや、この運送会社は昔からここにあったはずだが……』と、思ったという。
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