報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「ようやく帰途へ」

2020-04-02 16:06:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月8日17:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センター→中央自動車道]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ようやく私達は帰途に就くことができた。
 絵恋さんはあれから暴走することもなく、BOWに変化することもなく、今朝も投薬をしてから様子を見るなどしたが、特に異常が出ることもなかった。
 しかしリサのようにならなかったというだけで、体内には明らかにウィルスが遺伝子レベルで残っており、恐らくアメリカ合衆国政府エージェント、シェリー・バーキン氏のように、何らかの驚異的な能力を有している可能性は大とされた。

 善場:「延長期間も含めまして、御苦労さまでした。この報酬は後日、必要経費も含めましてお支払いしますので」
 愛原:「毎度どうも。それにしても、一時はどうなるかと思ったねぇ……」

 最悪、絵恋さんがBOW化してこのセンターが阿鼻叫喚の地獄になった可能性もあったわけだ。
 因みにリサの第2形態だか第3形態、つまり背中に翼が生えて飛べるというものだが、基本的にそこまでの変化は禁止された。
 あくまでも許されたのは、明らかに自らの意思で制御できることが確認できた第1形態までのみ。
 但し、非常時などはこの限りではない。

 守衛:「警備官、特に検査異常無しです!」

 比較的若い守衛が警備官と呼ばれた年配の守衛に敬礼する。
 やはりここの警備員達は警備会社から派遣された者ではなく、直接雇用された公務員なのである。
 で、ここを出る時にも手荷物検査やら身体検査やらがある。
 無断持ち出しを防止する為なのだとか。

 警備官:「以上で手続きは終了です。ご協力ありがとうございました。それでは、お気をつけてお帰り下さい」

 最後に誓約書を提出する。
 この施設のこと、この施設であったことは一切口外しないことを誓約したものだ。
 破った場合、法律により罰せられても文句は言えないという。
 監督省庁の他、国家公安委員会の名前まで出て来ていた。

 高橋:「早いとこ出ましょう。こんなムショみたいな所、俺は勘弁ですよ」
 愛原:「正式な手続きを経て『出所』したんだからいいじゃないか」
 高橋:「そういう問題じゃないっス」

 私達は車に乗り込んだ。
 運転席には高橋、助手席には高野君、リアシートには私とリサと絵恋さんだった。
 元々は商用バンとしての用途で設計された車のせいか、窓は比較的小さく、その開口部も小さい。
 その小さい窓を開けて、私は見送ってくれた善場主任や守衛達に挨拶した。
 重厚な正門が電動で重々しく左右に開き、ようやくそこで私達はシャバの人となった。

 愛原:「結局夕方になっちまったか……」
 高野:「途中で夕食でもして、帰りましょうか」
 愛原:「そうだな。昼飯はバタバタしてあまり食えなかったし、少し早いけどそうしよう。その方が空いてるだろうし」

 私はそこで咄嗟に中央高速のパーキングエリアを思い出した。
 あそこで食べた八王子ラーメンは美味かったし、リサ達が食べていたカツカレーとかも美味そうだった。

 愛原:「高橋君、石川パーキングに寄ってくれ。そこで飯にしよう」
 高橋:「了解です。先生」

 高橋は最寄りのインターである相模湖インターに向かって舵を切った。
 車のラジオからは、相変わらず新型コロナウィルスについての話で持ち切りだ。

 リサ:「私の血なんかで、そのウィルス倒せる?」
 愛原:「これから研究してからだから、まだ分からんよ。とにかく、いろいろな可能性にチャレンジする必要がある」

 もちろんリサの血はそのまま使えないだろう。
 というより、リサの体内に宿されている生物兵器ウィルスをコロナウィルスワクチンに転用できないかという目的でそもそも呼ばれたのだから。
 ヘタすりゃリサのウィルスでまた別のバイオハザードが起きてしまうわけだから、慎重に研究する必要があると素人の私でも分かる。

[同日17:25.天候:曇 東京都八王子市石川町 中央自動車道・石川パーキングエリア]

 東京都の高速自動車国道では唯一のパーキングエリアに到着する。
 首都高にもパーキングは存在するが、あれは高速自動車国道ではない。
 パーキングエリアながらそこそこの広さがあり、私達は楽に駐車場に止めることができた。

 高橋:「じゃ、取りあえずここで」

 高橋が車を止める。

 愛原:「おっ、お疲れさん。それじゃ、ここで飯にしよう」
 絵恋:「お腹空いたねー、リサさん」
 リサ:「うん」

 絵恋さんの何気ないセリフに私は一瞬びっくりした。
 これが普通の人間が言うのと、BOWが言うのとでは意味が大きく異なるからだ。
 幸い彼女は特にBOWの特徴を出していないので、人間として言ったのだろう。
 私がリサの後に車を降りると、リサがこっそり言った。

 リサ:「大丈夫。サイトーは人間だから」
 愛原:「そうか」

 建物の中に入ると、下り線同様、独立したレストランがあるわけではなく、フードコートがあった。
 で、こちらには吉野家がある。
 う、何かぶっちゃけ吉牛食べたくなってきた。
 あれを食べることで、今までの非日常から日常へ戻れるような気がしたのだ。

 高野:「先生は何にします?」
 愛原:「牛丼アタマの大盛り」
 高野:「ええっ!?」
 愛原:「吉牛を食べて日常に戻るのだ」
 高野:「別に、吉野家なら菊川にもありますが……」
 愛原:「いや、ここでいい」
 高橋:「あ、何だか俺もそうしたくなってきました」
 愛原:「だろ?だろ?」
 高橋:「俺が買って来ますよ」
 愛原:「頼む。牛丼アタマの大盛りと味噌汁で頼む」
 高橋:「了解っス」
 高野:「何だかね……。リサちゃん達はどうする?」
 リサ:「カツ丼!」
 絵恋:「ステーキ丼がいいです!」
 高野:「何で皆して丼物選ぶのよ?丼ウィルスでも蔓延した?」
 愛原:「かもしれんな」

 なワケねーだろw
 一貫して事務所のツッコミ役を高野君は務めてくれている。

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