[5月17日09:10.天候:晴 東京都台東区上野 JR御徒町駅→都営地下鉄上野御徒町駅]
〔おかちまち〜、御徒町〜。ご乗車、ありがとうございます〕
稲生と威吹を乗せた京浜東北線電車が御徒町駅に到着する。
そこから降りて来た乗客達に混じって、威吹と稲生も降りた。
稲生:「あとは都営大江戸線に乗り換えるだけだ」
威吹:「来た道を戻るといった感じだね。だが、それがいい」
威吹が含むような答えをしたのは、来た道ではなく、別の道を通ったが為に痛い目を見た人間の末路をいくつも知っているからだ。
怪談話や民話にも似たような話があり、威吹も江戸時代はそんな末路を辿らせる側の妖怪だったからだろう。
中には稲生のように分かっている人間を惑わせて別の道を通らせ、罠に掛ける悪質な妖怪もいた。
だが、威吹はそれを笑えない。
自分が正にそういう存在だったからだ。
もちろん今はそんなことはしないが。
稲生:「都営大江戸線。威吹のような者にはピッタリじゃないか?」
威吹:「この町がまだ『江戸』と呼ばれていた頃から生きていた、という意味ではね。ボクは青梅街道沿いにいただけで、あまり江戸の町には行ってないよ」
威吹が人喰い妖狐として暗躍していた場所は、青梅街道の今で言う柳沢辺り。
青梅街道に沿って進む西武新宿線の西武柳沢とか、東伏見辺りだ。
今、その東伏見には伏見稲荷の分祀が建立されているが、威吹の時代にはまだ無かった。
多分、威吹が妖狐だからそこに建ったわけではなく、ただの偶然であろうが、稲生としては何らかの因縁を感じてしまう。
威吹:「それに、別に江戸の町だけ走っているわけではないし」
隣接する上野御徒町駅に移動し、そこに掲げられている大江戸線の路線図を威吹は指さした。
そりゃそうだろう。
終点の光が丘駅なんて、威吹は存在すら知らなかったのだから。
威吹:「まだこっちの方が江戸の町だ」
乗り換え案内に出ている東京メトロ銀座線のオレンジ色の線を指さす。
浅草を出発して終点が渋谷。
渋谷は江戸の町から外れているが、まあだいたい確かに通ってはいるだろう。
稲生:「だろうね」
階段や通路を歩く度に威吹の草履のカッカッという足音が響く。
その爪先には透明のカバーが付いていて、これは以前、威吹が稲生に連れられて大石寺まで行った時、そこの御僧侶が履いていた草履を見てとても気に入ったものである。
その為、稲生は休憩坊の御住職にわざわざ購入先を尋ねて、威吹も手に入れたという感じである。
尚、江戸時代は草鞋を履いていた。
草鞋は遠出の旅をする時に使用するものであるが、ここ最近は特にこの世界では履いていない。
何故ならこの世界では交通手段が発達している為、徒歩で遠出をすることが無いからだ。
威吹:「この世界でSuicaを使うのは今日で最後かな?」
改札口にSuicaを当てながら威吹が言う。
稲生:「そんなこと言わないで、また来なよ。今度はキミの家族を連れてさ」
威吹:「さくらはこの世界を見たら仰天するよ。坂吹も最初はこの世界で修行させようとしたらしいんだけど、ダメだったらしいね」
稲生:「そんなに?」
威吹:「魔界高速電鉄の電車だけで驚くくらいだから。新幹線なんて見たら、そりゃもう【お察しください】」
稲生:「坂吹君は?」
威吹:「東京駅に連れて行こうものなら、絶対に抜刀するだろう」
稲生:「南端村駅は長閑だからねぇ……」
地下深いホームかと思いきや、実はそこまででもない。
改札口からコンコースに入ってホームまでまた階段を下りるのだが、そんなに深くまで下りるわけではない。
〔まもなく2番線に、両国、大門経由、光が丘行き電車が到着します。ドアから離れてお待ちください〕
ホームまで下りると、接近放送が鳴り響いた。
稲生:「こっちの地下鉄は平和なもんだよ。魔界の地下鉄じゃ、路線や駅によっては、普通にエンカウントするからね」
威吹:「えんかうんと?……ああ、『敵に遭遇する』という意味か。王都もけして治安が良いとは限らないからね。その中でも南端村は良好だ」
稲生:「むしろ城外に出た方が治安がいいかもね」
威吹:「それは言えてる」
電車が轟音を立ててホームに進入してきた。
尚、威吹の住む南端村は城壁の外側に形成された村である。
〔上野御徒町、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです〕
ここで降りる乗客は多い。
稲生達は電車に乗り込んだ。
明らかにJRの電車よりは車両が小さい。
短い発車メロディが鳴って、先に車両側のドアから動き、その後でホームドアが動く。
このパターンは関東の鉄道では当たり前だ。
関西では逆にホームドア側から閉まるとのことだが、まだ実際には見たことが無い。
威吹:「ボクを見送ってくれた後、何か予定はあるのかい?」
稲生:「マリアさん達次第だね」
電車が走り出してから威吹がそう聞いてきた。
稲生:「今、マリアさんの同期の先輩が同じホテルに泊まってるから」
威吹:「そうか」
〔次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Shin-Okachimachi(E10).Please change here for the Tukuba Express line.〕
威吹:「ユタは魔道士になってしまったし、ボクも魔界で家庭持ちだ。キミと最初に会った頃は、全く予想もしなかったな」
稲生:「だから面白いんじゃないか?」
威吹:「そうか。最近はそれを見出した者が出始めている」
稲生:「ん?」
威吹は何故か後ろの車両に続く連結器のドアを見てそう言った。
[同日10:16.天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]
〔まもなく森下、森下。桜鍋の“みの家”へお越しの方は、こちらでお降りください〕
威吹:「桜鍋か。ここ最近、食ってなかったなぁ」
稲生:「今度来た時、御馳走するよ」
威吹:「それはかたじけない」
電車がホームに滑り込む。
稲生:「向こうには桜鍋は無いの?」
威吹:「あるけど、魔界の馬肉は食う気がしない」
稲生:「そうなの?」
〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕
電車を降りてから尚も話を続ける。
威吹:「2足歩行の馬の妖怪の肉など、食べたいと思うかい?(馬頭鬼とか)」
稲生:「普通の4足歩行の動物の馬のことを言ってるんだよ」
このコンビ、実は威吹の方がボケで稲生の方がツッコミである。
〔おかちまち〜、御徒町〜。ご乗車、ありがとうございます〕
稲生と威吹を乗せた京浜東北線電車が御徒町駅に到着する。
そこから降りて来た乗客達に混じって、威吹と稲生も降りた。
稲生:「あとは都営大江戸線に乗り換えるだけだ」
威吹:「来た道を戻るといった感じだね。だが、それがいい」
威吹が含むような答えをしたのは、来た道ではなく、別の道を通ったが為に痛い目を見た人間の末路をいくつも知っているからだ。
怪談話や民話にも似たような話があり、威吹も江戸時代はそんな末路を辿らせる側の妖怪だったからだろう。
中には稲生のように分かっている人間を惑わせて別の道を通らせ、罠に掛ける悪質な妖怪もいた。
だが、威吹はそれを笑えない。
自分が正にそういう存在だったからだ。
もちろん今はそんなことはしないが。
稲生:「都営大江戸線。威吹のような者にはピッタリじゃないか?」
威吹:「この町がまだ『江戸』と呼ばれていた頃から生きていた、という意味ではね。ボクは青梅街道沿いにいただけで、あまり江戸の町には行ってないよ」
威吹が人喰い妖狐として暗躍していた場所は、青梅街道の今で言う柳沢辺り。
青梅街道に沿って進む西武新宿線の西武柳沢とか、東伏見辺りだ。
今、その東伏見には伏見稲荷の分祀が建立されているが、威吹の時代にはまだ無かった。
多分、威吹が妖狐だからそこに建ったわけではなく、ただの偶然であろうが、稲生としては何らかの因縁を感じてしまう。
威吹:「それに、別に江戸の町だけ走っているわけではないし」
隣接する上野御徒町駅に移動し、そこに掲げられている大江戸線の路線図を威吹は指さした。
そりゃそうだろう。
終点の光が丘駅なんて、威吹は存在すら知らなかったのだから。
威吹:「まだこっちの方が江戸の町だ」
乗り換え案内に出ている東京メトロ銀座線のオレンジ色の線を指さす。
浅草を出発して終点が渋谷。
渋谷は江戸の町から外れているが、まあだいたい確かに通ってはいるだろう。
稲生:「だろうね」
階段や通路を歩く度に威吹の草履のカッカッという足音が響く。
その爪先には透明のカバーが付いていて、これは以前、威吹が稲生に連れられて大石寺まで行った時、そこの御僧侶が履いていた草履を見てとても気に入ったものである。
その為、稲生は休憩坊の御住職にわざわざ購入先を尋ねて、威吹も手に入れたという感じである。
尚、江戸時代は草鞋を履いていた。
草鞋は遠出の旅をする時に使用するものであるが、ここ最近は特にこの世界では履いていない。
何故ならこの世界では交通手段が発達している為、徒歩で遠出をすることが無いからだ。
威吹:「この世界でSuicaを使うのは今日で最後かな?」
改札口にSuicaを当てながら威吹が言う。
稲生:「そんなこと言わないで、また来なよ。今度はキミの家族を連れてさ」
威吹:「さくらはこの世界を見たら仰天するよ。坂吹も最初はこの世界で修行させようとしたらしいんだけど、ダメだったらしいね」
稲生:「そんなに?」
威吹:「魔界高速電鉄の電車だけで驚くくらいだから。新幹線なんて見たら、そりゃもう【お察しください】」
稲生:「坂吹君は?」
威吹:「東京駅に連れて行こうものなら、絶対に抜刀するだろう」
稲生:「南端村駅は長閑だからねぇ……」
地下深いホームかと思いきや、実はそこまででもない。
改札口からコンコースに入ってホームまでまた階段を下りるのだが、そんなに深くまで下りるわけではない。
〔まもなく2番線に、両国、大門経由、光が丘行き電車が到着します。ドアから離れてお待ちください〕
ホームまで下りると、接近放送が鳴り響いた。
稲生:「こっちの地下鉄は平和なもんだよ。魔界の地下鉄じゃ、路線や駅によっては、普通にエンカウントするからね」
威吹:「えんかうんと?……ああ、『敵に遭遇する』という意味か。王都もけして治安が良いとは限らないからね。その中でも南端村は良好だ」
稲生:「むしろ城外に出た方が治安がいいかもね」
威吹:「それは言えてる」
電車が轟音を立ててホームに進入してきた。
尚、威吹の住む南端村は城壁の外側に形成された村である。
〔上野御徒町、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです〕
ここで降りる乗客は多い。
稲生達は電車に乗り込んだ。
明らかにJRの電車よりは車両が小さい。
短い発車メロディが鳴って、先に車両側のドアから動き、その後でホームドアが動く。
このパターンは関東の鉄道では当たり前だ。
関西では逆にホームドア側から閉まるとのことだが、まだ実際には見たことが無い。
威吹:「ボクを見送ってくれた後、何か予定はあるのかい?」
稲生:「マリアさん達次第だね」
電車が走り出してから威吹がそう聞いてきた。
稲生:「今、マリアさんの同期の先輩が同じホテルに泊まってるから」
威吹:「そうか」
〔次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Shin-Okachimachi(E10).Please change here for the Tukuba Express line.〕
威吹:「ユタは魔道士になってしまったし、ボクも魔界で家庭持ちだ。キミと最初に会った頃は、全く予想もしなかったな」
稲生:「だから面白いんじゃないか?」
威吹:「そうか。最近はそれを見出した者が出始めている」
稲生:「ん?」
威吹は何故か後ろの車両に続く連結器のドアを見てそう言った。
[同日10:16.天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]
〔まもなく森下、森下。桜鍋の“みの家”へお越しの方は、こちらでお降りください〕
威吹:「桜鍋か。ここ最近、食ってなかったなぁ」
稲生:「今度来た時、御馳走するよ」
威吹:「それはかたじけない」
電車がホームに滑り込む。
稲生:「向こうには桜鍋は無いの?」
威吹:「あるけど、魔界の馬肉は食う気がしない」
稲生:「そうなの?」
〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕
電車を降りてから尚も話を続ける。
威吹:「2足歩行の馬の妖怪の肉など、食べたいと思うかい?(馬頭鬼とか)」
稲生:「普通の4足歩行の動物の馬のことを言ってるんだよ」
このコンビ、実は威吹の方がボケで稲生の方がツッコミである。
多分、都営バスよりも広告料は高いと思われます。
また、威吹が含むような言い方をして後ろの車両の方を見たのは、稲生達が乗っていたのは先頭車。
最後尾の車両には、この2人と同様の人間と妖怪の2人連れがいることに気づいたからです。
威吹が警戒しなかったのは、どちらにも邪気を感じなかった為。
今のこの2人と同じ関係を築いている者達が他にもいるということを知っており、たまたま同じ電車に乗っていただけだと認識したのでした。
夜勤明けで家で寝ていたら電話が掛かって来たが、私はスルー。
今は起きているので今掛かってきたら電話には出るが、恐らく法論はお断わりするだろう。
私は傍観勢。
法論はガチ勢にやらせておけばいい。